だって……だって……
「うーん、でも本当に危険なんだよ。ゴブリン達の数は40とも50とも言われている。正直僕達でも手こずるだろうと思える数だ」
50匹もの、ゴブリン。それは完全に死ぬな。
「ここから先はヤツらのテリトリーに入るから、いつ襲われてもおかしくない。君は来ない方がいい」
そんな……!
「うわあ!?なんか白くなった!」
「目玉焼き!?」
なんかもうお仲間さん達が騒いでるけど、どうでもいい……。絶望しかない。
「ちょっとこれ大丈夫!?死んじゃわない!?」
「ヤベーぞ、なんか!」
あわあわと言い立てるお仲間さん達に詰め寄られ、さすがの魔術師さんも「困ったなあ」と眉を下げる。その本当に弱ったなあという顔を見て、あたしは自分を叱咤した。
そりゃあ悲しいけど。
一緒について行きたいけど。
でも、魔術師さんを困らせるつもりじゃなかった。
恩人を困らせる馬鹿がどこにいるのよ。元気が出なくても、そこは意地で体の弾力を取り戻すんだ、あたし!
頑張って頑張って体のハリを取り戻すと、漸く元の楕円形に近づいてきた。体色も元に戻ったのか、明らかに周囲からホッとした雰囲気を感じる。
良かった、困らせたいわけじゃないもの。だって、この人達がいなかったら今頃あたしは生きてない。剣士さんが助けてくれなかったらアシャムキャットのお腹の中だっただろうし、魔術師さんが薬草をくれなかったら、きっと野垂れ死にか他の魔物に殺られてた。
あと、焼いたお肉は美味しい事も知らなかったよね。
お世話に、なりました……。
皆さんの親切、けして忘れません。
人間のようにちょっとだけお辞儀して、あたしはすごすごと後退した。
何事も、引き際が肝心なのだ。
「ちょっと待って」
魔術師さんの声に、体がピタリと歩みを止める。
「分かった、分かったから、すっごく僕達と一緒にいたいのは何となく分かったから」
魔術師さんを見上げたら、おでこを押さえて心底困った顔をしている。一緒にいたいのは本当だけど、でも大丈夫、ちゃんとお家に帰るよ?
「諦めようと思ってくれたんだろうけど、諦められてないからね?」
困ったように魔術師さんが見下ろした先に、見覚えある若草色が。
何故だ。
体はちゃんと後ずさったのに、ゼリー部分が魔術師さんの足をしっかり掴んで長く伸びている。なんと、これが人間の言うところの「後ろ髪引かれる思い」というヤツだろうか。本当に今日のあたしの体はいう事きかないんだから……!
申し訳なくって、ぐいぐいと引っ張ったら漸く魔術師さんの足を手放して、伸びていたゼリー部分があたしの体に合流した。
本当に本当に、ご迷惑をおかけしました!!