ジョットさんとビビリ君
そして最後に残されたのは、兄弟の中でも一番怖がりでいっつもびくびくプルプルしてる、ビビリの末っ子君とジョットさんだった。
ジョットさんは口数が少ない。見た目は筋骨隆々でとっても強そう。強面で強いオーラがバリバリ出てて、あたしだって最初はちょっと怖かった。
今もジョットさんは無言で末っ子君を見下ろしているだけで、声をかけるわけでもない。ジョットさんのクールな視線にさらされたビビリ君はプルプルがブルブルになり、若干色が白くなり始めている。
怖いのかな。……怖いんだろうなあ。
「……大丈夫、か?」
だいぶビビリ君の色が白くなったところで、ジョットさんが漸く声をかけた。ビックウっと体が大きく震えたビビリ君。
人間だったら泣くとか鼻水出るとかおもらししちゃうとか、何かしらの水分が体から出た事だろう。
だってなんかビビリ君、怖さのあまりか水分の調整がうまくいってないみたいで、さっきから体の下の土にじんわり水痕がついてるもの。ひとまわり小っちゃくなるくらい、水分出ちゃってるよね、あれ。
今までは兄弟たちと一緒にわちゃわちゃしてたから気が大きくなっていたんだろうけど、こうやって一匹一匹に離されると、人間の大きさとか、力の差とかを如実に感じちゃうのかも知れない。兄弟の中ではこの子が一番繊細なんだよね。
「俺が怖いなら……他のヤツに頼んでも、いい」
相変わらず微動だにせず、淡々と言葉を紡ぐジョットさん。いつもながら控えめな声で、あたしはもう威圧感とか感じないんだけどな。
「うーん……どうしよう、僕なら怖くないかい?」
アルマさんがそう言って、ビビリ君の前にしゃがみこんだ途端、ビビリ君は大量の水を吐き出してコロリ、と後ろに転がった。
「うわ!? そんなに怖かった!? ご、ごめん!」
真っ白になったビビリ君は、それでもヨロリと起き上がる。
「ものすごく怖がってる。動くと、よくない。……余計に、怖がらせる」
その言葉に、あたしはちょっと感動した。そっか、さっきからジョットさんがピクリとも動かなかったのって、ビビリ君をできるだけ怖がらせないようにって配慮だったんだ。
ジョットさんって無口だし、ぱっと見怖いけど、ほんと優しいんだよね。
どうやらその気遣いは、ビビリ君にも伝わったみたいだ。
ちょっとずつ、ちょっとずつ、にじりよるようにビビリ君はジョットさんの方に近寄っていく。
怖すぎて跳ねる事もままならないくせに、意外と頑張るなあ。
小首を傾げて「? 近寄って……来てる……っぽい?」と呟いているジョットさんは、相変わらず固まったみたいに動かない。
だけど、何か思いついたような顔をしたと思ったら、じんわり、じんわりと身体を動かし始めた。