「分からない」のポーズ!
それからいくつかの質問を経て、私と魔術師さん達はそれなりに意思の疎通がはかれるようになってきた。「はい」と「いいえ」で答えられるような簡単な問答でも、回を重ねれば意外となんとかなるもんだ。
「いやぁ、それにしてもスライムに俺たちの言葉が分かるとはなー」
「そうよねぇ、あ、ねぇスライムちゃん、他のスライムも皆そうなの?」
剣士さんの感嘆したような言葉を受けて、シーフだという女の人があたしに問いかける。
さあ、どうなんだろう。
人が話してるのを初めて聞いた時からあたしは普通に意味が分かって、それが当然だったから、他の皆も当たり前に分かってると思ってた。だから仲間達も人間の言葉が分かるのかなんて尋ねてみた事すらないんだけど。
「何それ可愛い!もしかして分かんない、って意味?」
え?
あ……困って考えてる間に、ちょっと右に傾いじゃってた。深い意図はなかったけど、確かに答えに困る質問もあるわけだから、「分からない」のポーズもあった方がいいかもね。
そう考えて、今度は了承の意味で軽くジャンプ。
それをみたシーフさんは、頬を染めてすごいすごいと飛び上がる。こうもはしゃがれると、なんだかこっちまで嬉しくなっちゃうよね。
今まで人間ってただ野蛮で怖いものだと思ってたんだけど、案外可愛かったり優しかったりするものなのね。
「リーナ、その辺にした方がいい」
武闘家さんがちょっと気まずげにあたしとシーフさんの間に割って入る。なるほど、このシーフの女の人はリーナさんって言うんだね。
「あら、ごめん。うるさかった?」
「いや」
「違う違う、あんまり感情移入しすぎるなって言いたかったんだろ」
寡黙な武闘家さんに代わって、剣士さんが苦笑いしながら言葉を継いだ。
「明日にはゴブリンの巣に着いちまう。そいつを連れてくわけにも行かねえだろ。危険すぎるしな」
「そっ……か」
眉を下げ、シュンとした様子のリーナさん。あたしだってがっかりだよ。だって、よく分かんないけどなんか一緒に行きたいんだもん……。
「うわあ、見事にぺっちゃんこになったもんだね」
魔術師さんの声に、我に返る。
確かにあたしったら、割れた卵の中身みたいに平べったくなってしまっていた。一緒に行っちゃダメだって言われたのが悲しすぎて、ゼリー部分が弾力ゼロになっちゃってたみたい。
は……恥ずかしい。
「もしかして、一緒に行きたいの?」
マッハの速さでジャンプした。今日のあたしの体は、持ち主の許可なく動きすぎなんじゃないかな。特にこの魔術師さんがからむとどうもいけない。頭で考えるより先に体が動いちゃう。
ドキドキ、わくわく。
どうしてこうも、次の言葉を待っちゃうのかしら。