初めての。
ぽよん、ぽよん、と機嫌よく跳ね続けて一体どれくらい経ったのか。
突然、だった。
「危ねえ!」
叫び声と共に、思いっきり突き飛ばされた。
勢いよくコロコロ転がりながら元居た場所を見てみたら、そこには目標を見失って不機嫌な声をあげるアシャムキャットの姿が。
あたしを狙って飛びかかってきたらしいアシャムキャットの牙から、あたしを突き飛ばす事で守ってくれたのはどうやらコーチだったみたい。
転がるあたしを追って、アシャムキャットが飛びかかってくる。
よほど喉が渇いているのか、アシャムキャットはあたしを執拗に狙っていた。
「スラ吉!戦え!」
そうだ、転がってる場合じゃない。
あんなにたくさん練習したんだもの、あたしだってきっと戦える。
あのチビちゃん達を守った時は、体を盾にしてただ死を覚悟しただけだった。でも、今のあたしなら違う筈。
丸いからほっとくとどこまでも転がろうとする体を気合で止めて、ジャンプした。
そしてあたしは、くるんと宙返りしてアシャムキャットに正面から向き合う。
体勢を低くし、いつでも飛びかかれる状態のアシャムキャットは、あの時とまったく同じ光景に見えた。
その瞬間。
どうして。
怖い。
頭が、真っ白になった。
アシャムキャットの脚が、地を蹴るのが見えるのに。
どうして。
体が動かないの。
「スラ」
目の前に迫った爪を寸前で止めてくれたのは、ジョットさん。
大きな背中が目の前に広がって、とてもとても頼もしかった。命を失わなかったという事実に急に大きな安堵感が襲ってきて、気持ちが飛びそうになったあたしだけど。
「スラ、大丈夫、勝てる」
背中しか見えないジョットさんが、ポツリとそう言った。
あたし……あたし、情けない。
あんなに鍛えて貰ったのに、何もしないで死ぬとこだった。しかも二回も。
それなのにジョットさんは、まだ期待してくれるっていうのか。
バカだあたし、ここでやらなきゃ女がすたるよ!
ジョットさんの背中を借りて、高く高くジャンプする。そしてアシャムキャットの真横に着地した。
おいで、アシャムキャット!
あたし、もう逃げない。正々堂々、戦おうじゃないの!
「ギニャア!」
二度も攻撃を阻止されて、一旦はジョットさんに狙いを定めたらしいアシャムキャットだったけど、あたしが目に入った途端に狙いを切り替えたのが分かる。
尻尾が緊張したように僅かに揺れた。
分かってる、あたしの隙を狙ってるんでしょう? でも、もう怖がったりしない。
さっきのわけが分からない恐怖心が抜けて、あたしはなぜかとても冷静になっていた。ジョットさんが勝てるって言うんだもの、きっと、勝てる。
ギラギラと光るアシャムキャットの瞳。それが一瞬だけ、不安そうに曇った。
今だ!
あたしは、渾身のパンチを撃ち込んだ。




