さあ、クエストです!
アルマさんの一声で、キッチンでオヤツを作っていたらしいリーナさんも、無言で地味にスクワットしていたジョットさんも、皆が部屋の中央にあるテーブルに集まった。
皆の顔をゆっくりと見回して、アルマさんがおもむろに口を開く。
「そろそろじっとしてるのも飽きた頃だろう?手頃なクエストを見つけてきた」
そう言ってアルマさんがテーブルに紙を置く。どうやらクエストとやらが書かれているらしいんだけど、さすがにあたしも字までは読めない。
ただその紙には見慣れない魔物の姿やよくわからない絵が書いてあって、皆はそれを見ながらあーでもないこーでもないと言い合っている。
ふんふん、なるほど。
その変な絵はチズって言うのね。
どうやら皆はその変な絵でこれから行くところのイメージが浮かんでるみたい、なんだかね、海に行くんだって!
海ってあれでしょう?
あの遠くに見えてる青いいっぱいの水でしょう!?
うわあ、あんな遠くまで行った事ないよ、あたし。すごいなあ、あの草原から出る事なんてないって思ってたのに、森に行って街に入って、次は海に行っちゃえるなんて。
ワクワクな気持ちが止められない、ついついプルプルプルプル動いちゃうよね。
皆も楽しみなのか、声がとっても弾んでる。
でも、海ってなにか特別なのかな。装備がどうだとか魔物がどうだとか、皆一生懸命話してるの。難しくってあたしにはよく分からないけど、色々買出ししてから旅に出ないといけないみたい。
「アルマ、クエストに行くなら買いたい物がある」
ジョットさんがポツリと呟いた。
「へえ、珍しいね。なんだい?」
「トゲのついたナックル。1000G」
「いいよ、どうせ買い出しに行くし一緒に買いに行こう。ついでに荷物持ってくれるかな」
コクリと頷くジョットさんは、満足したのか椅子にストンと腰掛けた。
「あー!なんだよ、俺のナイフは買ってくれなかったじゃねーか!」
「ジョットが自分から買いたいって言うの初めてだし、そんなに高くもないからね」
もう、あんまりアルマさんを困らせちゃダメだよ?コーチったら。
テーブルの上で軽く跳ねながら、まだもアルマさんにブツブツと文句を言うコーチを仕方ないなあって思いながら見ていたら、あたしの体の上にポン、と無骨な手の平が降ってきた。
ジョットさん? なあに、どうしたの?
「これでスラのパンチ、かなり威力が上がる」
えっ……まさか。
「やだジョットったら。珍しいと思ったら、ナックルってスラちゃん用なの?」
コクリと頷くジョットさん。
ジョットさん……! なんてなんて、いい人なんだ! むしろジョットさんをコーチって呼びたいくらいだよ!