こんなの初めて!
言いたくないけど確かに弱っちいあたしが、ゴブリンの巣になんてついて行くべきじゃない、そんな事わかりきっているというのに、あたしはそれでも迷っていた。
体の奥からよく分からない何かが、行きたいってさけんでるんだもの……。
聞き分けのない自分自身に困り果てていたら、焚き火の方から視線を感じた。見ればあの魔術師さんがあたしを見ながら、ひらひらと手首を上下に動かしている。
「おいで」
えっ……
あたしから近付けと言うのか。なんて難易度の高い。
迷うあたしに、魔術師さんはおいでおいでと手を振り続ける。なんという罪な人だ。ダメだと思うのに勝手に体がジワリジワリと前へ動いちゃうじゃないか。
「君、昼間のスライムでしょ?大丈夫だからこっちにおいで」
にっこりと笑われてしまえば、もうダメだった。
核がきゅうっと熱くなって、体が勝手にポヨン!ポヨン!と跳ね始めた。
「何あれ、可愛い!」
女の人が目を輝かせてあたしを見てる。見ないで!勝手に跳ねちゃうの!
「あはは可愛いなあ、ほら、おいで!美味しいものあげるよ」
もうダメだ……なんという邪気のない笑顔。もはや疑うのが申し訳ないような気になってしまう。あたしの心もきっちり負けを認めたけれど、体はもっと完全降伏だった。
人間が飼ってるペットのワンちゃんみたいに、魔術師さんまでまっしぐら。
ポヨーン!
ポヨーン!
ポヨーン!
ポヨーン!
と、おっきなストライドであっという間に彼の元まで走ってしまった。
「おお!えらいえらい。やっぱり言葉が分かってるのかな」
嬉しそうに笑った魔術師さんがまたもヨシヨシと撫でてくれて、ジュージューと音を立てて焼けている何かの肉の串焼きを「はい、どうぞ」と差し出した。
ま、マジですか……。
あたし、肉はちょっと……血生ぐさくって苦手って言うか。
いや、食べられるけど。何でも溶かして消化出来ちゃうんだけどね?
そこらの新鮮な草とかで充分なんですけど。
若干身が引けてしまったあたしに、魔術師さんは変わらずニコニコと串焼きを差し出している。
「遠慮しなくていいんだよ」
くう……もうあたしに落としてくれたら諦めもつくのに。どうやらあたしが自ら食べる事に意義があるらしい。仕方ない、あたしも由緒正しきスライム一族の末席に名を連ねる者。恩ある人の望みくらい叶えてやろうじゃないのさ!
意を決し、ふるふると串焼きに近付く。
なんでも溶かせるゼリー部が、串焼きに触れた途端だった。
お、おいしい……!!!
何これ!
ぜんぜん血生ぐさくない!
ええ!?
新食感、初めての味覚なんですけど!