討伐隊の結成
そうしてあたし達はまた、ゴブリンの巣のすぐ近くまで来ている。
とはいっても討伐隊の規模感は、なんかもう5倍くらいに膨れ上がってるんだけど。
あの後簡単な朝食をとっただけですぐにその場を発ったアルマさん達は、脇目もふらずにギルドに戻り、あっという間に沢山の冒険者達を伴ってまたゴブリンの巣にとって返したんだ。
ギルドでゴブリンの数が尋常じゃないって報告をしたら、その場にいた冒険者全員で討伐に向かおうってことになったんだよね。
数が多いゴブリンは、増えるのも早い。ギルドのマスターって呼ばれてる人が「嫌な予感がする」って、その時集められる出来るだけの人数を派遣してくれたんだって。
アルマさん達よりももっと強い人達もいるから安心だって皆が笑ってたから、あたしも良かったなあって思ってたんだけど。
不思議な事にこの道中ではちっともゴブリンに合わなかったの。
もしかして、この前アルマさんがたっくさん倒したから、いなくなっちゃってたりするんじゃない?
あたしは呑気にそんな事を考えていた。
「……まずいな」
誰ともなく、そんな声が聞こえる。
どうしてか討伐隊の雰囲気はどんどん硬くなって、いつもは楽しそうに色々な話をしながら進んでいくアルマさんたちですら、もう一言も発しない。
ついに一度の遭遇もないままゴブリンの巣にたどり着いてしまった。
「どうする」
「入り口も狭い上に、見た感じ奥も高さがない」
「アルマの広範囲魔法で一掃されたんだよな」
「有利な巣の中に誘きよせて戦おうっていう策を練るだけの頭があるって事だよな」
「知能の高い個体が統括するゴブリンはやっかいだ」
「武装してたと言ったな」
ざわざわと、色んな人の声が聞こえる。さっきから周りの空気が重かったのって、そういう不安があったからなんだね。やっとあたしにも分かったよ。
「よし、あぶりだすか」
一番ランクが高いって男の人がそう言った瞬間、ゴブリンの巣穴が火を噴いた。
ひええ、なんなの!
アルマさんのより凄い勢いの火が巣穴の中で轟々と渦巻いてる!
「中に、連れ去られた人がいるかも」
武闘家が怒ったみたいな顔で言えば「多少の犠牲はしょうがないだろ、第一商隊からもそんな報告受けてねえし」って普通な顔で返すその人が、あたしはとてもとても怖かった。
なんだろう、すごく強い魔獣に遭遇したみたいな怖さ。
多分、凄く凄く強いんだと思うの。
それに、容赦がない。
この人にうっかり見つかったら、あたし、殺されちゃうんじゃないのかなあ。
怖くて怖くて、あたしはアルマさんの懐でピッタリと身を寄せて震えていた。