どうしよう、あたし強くなったみたい!
翌朝早速、あたしは武闘家さんに摘ままれて、魔術師さん……アルマさんの元に運ばれた。
ぶらぶらと揺れる視界で若干見づらいけど、ああ良かった、アルマさんの顔色はすっかり元通りで笑顔もとっても爽やかだ。
それだけで今日がいい日に思えてくるから不思議よね。
「あれ、珍しいね二人一緒なんて。ていうか、その持ち方何とかならないの?」
「アルマ、スラが強くなってる気がする」
アルマさんのお言葉は完全スルーで、武闘家は自分の主張を宣った。いつもの事なのか、アルマさんも特に気にした様子もなく、今度はあたしをじっと見る。
眼鏡の奥の若草色の瞳があたしをじっと見つめていて……あらやだ、照れちゃう。
いやいや。
ちょっと、もう、見過ぎでしょ。
一人で勝手に照れ照れしていたら、アルマさんが「へえ」と声をあげた。
「ホントだ、能力値が上がってるね」
ええ!?何それ、どういう事!?
あたしは思わず、純粋にびっくりジャンプをかましてしまった。
「よく分かったね、ジョット」
「気が増えてる感じがしたから」
「凄いなあ、僕の鑑定眼より察知能力高いんじゃないのかな」
二人の会話から分かったのは、あたしの能力値が昨日に比べて結構アップしたって事実だった。それって昨日より高く跳べるし、昨日よりもっとプルプルしてるって事よね、きっと。
何かを溶かす能力だって上がってるのかも知れない。
もしかして移動速度も上がってたりするのかな!アルマさんみたいに魔法とか使えるようになっちゃってたらどうしよう!
うわあ、すごい!
あたし強くなったんだ!
嬉しい、嬉しい!
これまでずっと草原で草を食べるだけ、他の魔物を見かけたら即逃げる、というのが鉄則だったあたしにとって、自分が強くなるだなんて考えた事もなかった。
ああ、どうしよう、なんだかとっても嬉しい!
嬉しくって嬉しくって、ポヨポヨ、ポヨポヨ、軽〜いジャンプを繰り返す。人間だってきっと、こんなに嬉しい気持ちなら踊ったりスキップしたり、とにかく体が動いちゃうに違いない!
「言っとくけど、それでもまだまだゴブリンより弱いから。無理は禁物だからね?」
アルマさんのお言葉で、我にかえった。
そうか……そうだよねえ、いかんせんあたしはスライムの中でも最弱に位置するとっても普通のスライムだ。ちょっと強くはなったけど、それでもゴブリンと比べてもまだまだ弱いという悲しいお墨付きをいただいてしまった。
はあ……そう簡単には役に立てそうもない……切ない。
「やっぱりゴブリンを倒したからかな」
「肉、食ったから?」
あたしのがっかり感も知らずに、アルマさん達は既に別の話題に入ってしまったみたい。
いいんだ、地味に落ち込むから。