武闘家のいうことには
「いやぁ跳んだなー、さすがに驚いたぞ」
呆れたみたいに剣士に言われたけど、嬉しいから別にいいや。ちょっと乱暴だけど、なんだかんだで剣士ってかなりいいヤツだと思うの。
「俺の発言であんなに喜んでくれたの、初めてかも」
わざとらしい腕で涙を拭いてるっぽい仕草も許してやろうってくらいには嬉しかったし。
「この際俺の懐にくるか!?……そうか嫌か、そこはダメかぁ」
「え、あの、話せてるんですか?スライムと?」
「あー、話せるわけじゃねぇんだけどな、意思疎通はできるんだ」
驚愕の表情を浮かべるヒヨッ子ちゃん達に、剣士が自慢気に説明する。
「合図を決めててな、『はい』ならジャンプ」
剣士の視線を感じて、取りあえずジャンプする。いちいち自慢気な顔しなくていいんだよ?剣士。
「で、『いいえ』は脱力」
仕方なく平べったくなってやった。
「な、賢いだろ!?」
「凄い、すごーい!!」
「はいはい、それくらいにして、ご飯できたわよ」
子供のように無邪気に喜ぶヒヨっ子ちゃん達をリーナさんが優しく促す。さっきまでの重い雰囲気はどこへやら、なんだか和やかにその夜は更けていった。
皆は心配しなくていいって言ったけどあたしはやっぱり心配で、皆が寝静まってからも魔術師さんの横でじっと寝顔を見つめたまま。
あたしは寝ようと思えば眠れるけど、別に寝ないと死んじゃうってわけでもないから、そこんとこは融通がきくし。もしゴブリンが寝込みを襲ってきたらと思うと、少しでも早く反応できるようにしておきたかったから。
いやまあ、あたしが起きてたところで、大した戦力じゃないんだけどね?
「寝ないのか?」
お月様がお空の真ん中を過ぎた頃。
珍しく、武闘家が話しかけてきてくれたのにはビックリした。火の番で起きてたらしい武闘家は、どうやらあたしがずっと魔術師さんの傍で寝ずの番をしているのが気にかかったみたい。
ひとつポヨンと軽く跳ねたら「無理はするなよ」といたわってくれる。あんまりしゃべらないけれど、なんだかんだでこの人も結構優しいんだと初めて分かった。
まだ他に気になる事でもあるのか、それからも武闘家はあたしから視線を外さない。なんだろう、あんまり見られて若干居心地が悪いんだけど。
「……スラ、強くなったか?」
え?
「なんとなく、気が増えた感じがする」
そう言って、まだもマジマジと見つめてくる。
強くなった……そうかな。
でも、もしかしたらそうかも知れない。
さっきから、跳んだ時にいつもより軽く跳んでも、高く跳べる気がするの。体も軽く感じるし、なんだか力が漲ってる気がするかも。
でも、ゴブリンを倒したって高揚感でそう感じてるだけかも知れないから。
少し考えたあと、あたしは体を右にすこし傾けた。
そう、答えは「分かんない」だ。
「そうか、明日アルマに聞いてみよう」
アルマ……アルマって、魔術師さん?
どうして魔術師さんに聞いてみようって事になるんだろう。
不思議に思ったけれど、武闘家さんはそれっきり黙ってしまって、あたしはとっても気になったまま、白み始めた空を見ていた。