戦いの果てに
駆けて駆けて、どれくらい走ったのか分からない。
剣士さんのゴツい手で魔術師さんの懐に無理やり押し込まれたあたしは、振り落とされないように必死でしがみついていた。だって、剣士のヤツ本気で魔術師さんを肩に担ぐんだもの!あれ、いつ落ちたっておかしくなかったよ!?
漸く安心できる場所まで来たのか、揺れが少なくなってついに足が止まった時には、あたしだってすっかりクタクタになっていた。もう、体中の力を抜いてダランとなってしまいたい。
でもそんなわけにもいかない。
だって今、あたしと魔術師さんは絶賛お説教され中なのだ。
あたしはともかく、真っ青なままぐったり横になっている魔術師さんまでお説教するなんて、剣士、あんたは鬼か!
「バカ野郎、無理しすぎなんだよ。派手に魔力切れ起こしやがって」
「ごめん、でも……あの数だとそのうち疲れて剣も鈍るだろう?」
「そりゃそうだが」
「そこから火力注ぎ込んで僕が倒れても運んでもらうのも難しいし」
「運んでもらうの前提か!」
真っ青で起き上がる事も出来ない割に、魔術師さんの意識は結構しっかりしてるのが分かって、ちょっとほっとする。うん、取り敢えず大丈夫そう。
「ごめん、でもどれだけ数いるのか分からない状況だったし……ジリ貧になってからより、さっさと殲滅して退却すべきだと思ったんだ」
「まあ、そうだが」
確かに全力で戦わなきゃ危なかったかも知れない。体力を使い果たしてからの退却なんて、犠牲が出ないほうがおかしいもの。剣士も納得したのか、それ以上は何も言えず口ごもった。と思ったら。
「お前もだ、そこのスライム!」
ひええ、矛先がこっちに来た!
「危ねえから勝手に出て来るなって言ってあっただろう!」
そりゃそうだけど。
「ほんと、もう勝手に出てきちゃ駄目だよ」
ああ、魔術師さんにまで叱られてしまった。さすがにションボリする。すっかりへこんだあたしの弾力ゼロボディに、なぜかふわりと手のひらが降りてきた。
「でも、ありがとう。君が助けてくれなかったら、死んでたね」
弱々しく微笑む魔術師さん。まだ手も冷たいのに、なんて、なんて、優しいの!
「おー、飛んだな」
「なんだこの態度の違いは」
「素直よねえ」
なんか呆れられてるけど、かまうもんか!
この喜び、表現せずにはいられない。あたしは嬉しくって、お説教中だというのもすっかり忘れて何度も何度もジャンプした。
「まあいい。本当の説教はこれからだ」
そう言った途端、剣士から怖いオーラが溢れて来て、あたしは思わずジャンプを自粛した。
なんか、凄い怖い。
どうしたの剣士、今まで見た中で一番怖いよ?
おちゃらけた雰囲気なんか一切感じない、冷たい瞳で見つめる先には……さっき襲われていた冒険者達がいた。