美味しいねぇ、甘露の如くだ
あっ……。
うそ、あんなにおっきいジョッキが、みるみるカラになっていく。ゴッゴッゴッ……ってアルマさんの喉から音がして、まるで魔法みたいにお酒が消えていくんだけど。
並べられてたお酒があっという間に半分くらいカラになった時、アルマさんは初めて手を止めた。
「うん、味は落ちていないねぇ、森は正常みたいだ」
いつもよりか、ちょっとだけ声が甘い。でも、喉とか手もまだ全然色が変わらなくって、酔っ払ってるって感じじゃなさそう。知らなかった、アルマさんってお酒強いんだなぁ。
「美味しいねぇ、甘露の如くだ」
アルマさんがため息のようにそう口にした途端。
「エンジンがかかったぞ!」
誰かが叫んだ。
「ジョッキが空いたのからどんどん注いでいけ!」
「急げ!」
「間に合わなくなるぞ!」
「汲め汲め!」
アルマさんの周りの酔精たちが一層慌ただしく動き始めた。流れ作業みたいに次々と、泉から直でジョッキにお酒を汲んではアルマさんの前に並べていく。ものすごく息のあった協力っぷりだ。
なんで酔精の人たちって、こんなに一生懸命にお酒を飲ませようとするんだろうか。
そしてその並べられたお酒を、肌の色ひとつ変えずに飲み続けていけるアルマさんが地味に怖い。あんなに大量のお酒が消えていくだなんて、お腹の中どうなってるんだろう。
再びピッチをあげてぐいぐいとお酒をあおっていたアルマさんの横に、静かに誰かが腰をおろした。
「アルマ、ついに腹を決めたんだって?」
そう言って嬉しそうに笑うのは、アルマさんのお師匠様だった。こうして落ち着いて笑ってると、とっても頭が良さそうな感じなのになぁ。
「仕方ないでしょう、スピリタス様にあれだけ言われては」
「アルマが呑むって言ってくれたから、スピリタスったらとても喜んでるよ。いつになくご機嫌だ」
お師匠様の言葉に、アルマさんはなぜか苦笑する。
「ご機嫌なのは分かります。酒がどんどん甘く、濃くなっていく」
「アルマが来るのは久しぶりだからね、よほど嬉しいんだろう。スピリタスときたら森よりでかい図体のくせして寂しがり屋なんだ」
そういうものなの!?
そのスピリタスとかいう人がご機嫌だと、お酒の味が変わるって、そんなことあるの!?
うそ!? って思ったけど、どうやら本当のことみたい。だって、周りでは酔精たちが蕩けるような表情でお酒をあおっている。
「すげえ、また味があがったぞ!」
「チャールズが来ただけでも絶品だったってのに、なんて味だ」
「こりゃあそうそう呑めるモンじゃねえなあ」
「そーだ、樽に詰めてとっとくか?」
「そりゃあいい、熟成すれば神の酒になるだろう」
ついに保存の話までし始めた。泉の水も滝も、霧までもがお酒のこの森ですら、今この時のお酒は貴重品だってことなんだろう。スピリタスって人、すごいんだなぁ。




