酔精の森のヌシ
「アアアアア~~~~ルウウウウウ~~~~マアアアアア~~~~~」
またも地響きのような声が響いて、酔精の森がビリビリと震えた。
すっごい声。いったいどこから聞こえてくるんだろ。周り中から聞こえてくるみたいで、声の出どころが分からない。あたりを見回してみるけれど、霧ばっかりで見えやしないし。
しかも、この声……ものっすごくゆっくりだけど、『アルマ』って呼んでる気がするのは気のせいなんだろうか。
アルマさんを見上げたら、アルマさんは目を閉じて額をおさえていた。
「アアアアアアア~~~~ルウウウウウウウ~~~~マアアアアアアア~~~~~」
「無理! ホント無理なんだって! 依頼の途中なんだよ」
誰に話しているのか、アルマさんは虚空へ向かって叫ぶ。いつもよりなんだか話し方が子供っぽい気がするのって気のせいかな。
「アアアアアアアア~~~~ルウウウウウウウウ~~~~マアアアアアアアア~~~~~」
「分かった分かった、分かったよもう! 飲んで行けばいいんでしょう?」
いよいよ大きくなっていく声に、ついにアルマさんは折れたらしい。泉の淵にどっかりと座り込み、据わった目で「酒!」と声を上げた。
「スピリタス様、言っておきますけど、今日だけですからね!」
またも虚空にそう宣言すると、胸元のあたしに目を移し困ったように眉根を寄せて、いきなりぐいっと懐の深くに押し込んだ。
「スラちゃんは隠れてたほうがいい。酷い目にあうからね」
アルマさんがそう言ったのとほぼ同時に、あっちからこっちから、わらわらと酔精の皆さんが集まってくる。おっきいのもちっさいのも、どこからこんなに集まってきたのかっていうくらい、いっぱい。さっきまでだって相当多いと思ってた酒精たちだけれど、なんかもう数える気にもならない。
「アルマぁ、ついに観念したか!」
「呑め呑め!」
「楽しみだなぁ」
「呑むって決めたアルマはスゴイものねぇ」
「山ほどジョッキを持ってこい! こんなもんじゃ足りねぇぞ!」
とたんにお祭りみたいに賑やかになって、色んな酔精がアルマさんを囲んでは好き勝手にしゃべりまくる。その中で、あたしは聞き捨てならないことを聞いた気がした。
待って。
『呑むって決めたアルマはスゴイ』ってどういうこと?
これまで結構な時間、一緒にいたと思うんだけど、アルマさんって全然お酒飲まないよ? コーチやジョットさんが「祝杯だ!」って呑んでる時でも、涼しい顔して薬草茶飲んでるような人だよ!?
なのにアルマさんの前には大小さまざまなジョッキが列をなしていく。
そしてアルマさんの細い手が、躊躇なくジョッキを鷲掴んだ。




