麗らかな春の日
あたし、スライム。
今日、生まれて初めての恋をしました。
今日は朝から、気持ちがいい抜けるような青空で。昨日まで降っていた雨のおかげで草花はどれも瑞々しくって、あたしご機嫌で草をはみはみと溶かしていたの。
人間だったらこんなとき、鼻歌とか歌っちゃうんだろうなー、あたしだって声帯さえあったら歌いだしたいくらいよ。
そんな幸せな時間をぶち壊すいやあな叫び声が、突如として草原に響き渡った。
「ギニャーッ」
猫っぽいのに可愛くない、あの叫び声は間違いなくアシャムキャット。猫のようで猫でない、獰猛な肉食動物だ。あんなのに見つかったりしたらあたしなんかきっと一瞬で殺られちゃう。あいつらは水分を補給したくなると、よくあたし達のプルプルボディを狙うんだ。
そそくさとお家へ帰ろうとして、ふとアシャムキャットのごく近くでフルフルと震える若草色の物体が目に入った。
あ、れ、は……!
気が遠くなる思いだった。
隣んちの、分裂したばっかりのチビちゃん達……!
三匹仲良く寄り添って、プルプル、プルプルと恐怖に震えている。
なんで、あんなところに!
あんなの、殺してくれって言ってるようなもんだよ!パパとママはどーしたの!
言いたい事は色々あるけど、そんな事言ってる場合じゃない。だって、アシャムキャットが悠然と近づいて、チビちゃん達に明らかに狙いをつけてるんだもの。チビちゃん達はもう、体が竦んで逃げる事もできないんだろう、プルプル、プルプル震えるだけで後ずさる事すらできていない。
あたしは意を決して、全身を強く強く収縮させる。その反動を使って跳ね上がり、アシャムキャットの目前に爆弾瓜みたいな勢いで着地した。ポヨン、と気の抜ける音がしたのはスライムだから仕方ない、許して欲しい。
「キシャーッ」
突然邪魔が入った事に激怒したアシャムキャットが、その鋭い爪を振り上げる。あたしは体を精一杯膨らませて、三匹のチビちゃん達の前で壁になろうと努力した。
逃げて。お願い、逃げて。
抉られるような衝撃と、怖気が走る痛みがあたしを襲った。ゼリー部分を少々抉られたってたいした事ないけど、今の、核の部分かすった痛みだ。
幸いアシャムキャットに攻撃された反動でチビちゃん達にぶつかって、チビちゃん達はコロコロと弾かれたように後ろに転がっていく。
お願い、そのまま、逃げて……
体はぱっくりと大きな裂けめができてるけど、まだ、動ける。あたしはそのままチビちゃん達を庇うようにアシャムキャットの前に立ちふさがる。きっとあたしは死ぬだろう、ここで逃がしてくれるほどアシャムキャットは温和な種属じゃない。
アシャムキャットの体高がふっと下がる。
ああ、くる。
覚悟を決めたその時だった。
「おーおー、たかだかスライムがけなげだねえ」
バシュッという音と共に、目の前のアシャムキャットがゴミクズみたいに飛んでいき、あたしには温かくて真っ赤な血が降り注いだ。