表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国の剣  作者: 0343
99/461

スードニア戦役 其の十四

クリスマス土日とか勘弁して下さい、忙しくて死んでしまいます。

「なんだと! 銀獅子が討ち取られただと、馬鹿な……それで陛下は、陛下は御無事であらせられるのか」


「それが……戦場を離脱されたのは確かなのですが、行方はようとして知れず……全力を持ってお探ししてはいるのですが……」


 銀獅子とはルーアルト王国近衛騎士団長ジョージ・ブラハムの二つ名である。

 国内の剣術大会などで度々優勝しており、勇猛果敢で国内での人気は高く、更には頭髪がプラチナブロンドであるためにそう呼ばれるようになった。

 だが近衛騎士団長という立場上、国外遠征には今回が初参加であり国外での知名度は左程でもない。

 むしろシンに討ち取られたことによってその知名度が高まったと言えよう。

 この時将兵たちは、国王の安否よりも銀獅子の死を悼んだと言われる。


「兎に角、陛下をお探しせよ! 人は幾ら使っても構わん、急げ!」


 そう言って宰相アーレンドルフは近臣を執務室から追い立てるようにして命を下す。

 宰相アーレンドルフは一国の宰相としての器は持ち合わせていたが、同時に野心家でもあった。

 愚王ラーハルト二世に自分の娘二人を嫁がせて、男児を二人儲けさせている。

 このどちらかの男児を次代の王に据えることで王朝を乗っ取る腹積もりであった。

 だが王には他にも王位継承権を持つ男女三十四人の子があり、未だ明確に王太子を立ててはいない。

 とりわけ目立つような聡明な子は居らず、ここでラーハルト二世が歿すれば誰が次代の王となるかは皆目見当もつかなかった。

 ――――だから儂は止めたのだ、それをあの愚か者め何をトチ狂ったかハーベイの甘言に乗りおってからに……愚物は操りやすいが稀に制御不能に陥る……だが今回はいささか度が過ぎておるわ。このままでは儂の計画が水の泡と消える、あの馬鹿を何としても連れ戻さねば儂の命すらも危ういわ。


 当然時の権力者であるアーレンドルフを危惧する声は多い。

 だが、愚王を巧みに操り反対勢力を中央から追い出すことに成功しこれから土台を強固なものにしようとしていた矢先、愚王が無益な戦を起こしたのである。

 愚王ラーハルト二世が居なくなれば、追いやった者達が再び中央に返り咲くであろうし、その時はアーレンドルフの命は無いであろうことから、国王捜索に多額の金と膨大な人員を惜しげも無く使うつもりであった。

 

「宰相閣下! 陛下は、陛下は無事にあらせられまするぞ!」


 そう言って転がるように執務室に入って来た小太りで初老の男は、数ある大臣の一人マノクール。

 彼は宰相アーレンドルフの次男に娘を嫁がせており、時の権力者に縋って周囲に威張り散らす典型的な小役人肌の男である。


「なに、まことか! で、陛下は何処いずこにおわす」


「はっ、陛下は今ボージンガー子爵領にて歓待を受けているとの事で……」


「よし、直ぐに迎えを出す。用意を急がせよう、卿も着いて来るが良い」


 ――――まだ天は儂を見捨ててはおらなんだ……これは逆に計画を進める契機になるやもしれん。


 アーレンドルフは慌ただしく席を立つと、走るようにして執務室を出る。

 その後ろを大臣のマノクールは、流れ出る汗をハンカチで拭きながら慌てて追いかけた。



 後世においてルーアルト王国宰相アーレンドルフの評価は佞臣、奸臣の類ではあるが実力は高く評価されている。

 国王ラーハルト二世の国が亡びかねないような数々の失態の尻拭いをして、国の崩壊を水際ではあるが防ぎ続けたのである。

 勿論これは国王のために行ったのではなく、彼自身の野心のためではあるがその手腕だけは高く評価されるべきであろう。

 国王や貴族達の度を越した贅沢に歯止めを掛け、無用な建築や土木工事を控えさせて財政破綻を防いだ事で当時の民衆の支持もそこそこ得ていたのだ。

 だがその優れた手腕に反して、金に意地汚く汚職や賄賂が横行するきっかけとなったことは許されることではない。

 何にせよこのアーレンドルフはこの時代のルーアルト王国を代表する人物であり、彼がいなければルーアルト王国の滅亡はもっと早まっていたかも知れなかった。


---


 一方その頃、ハーベイ連合ではスードニアの丘での戦の敗報を受けて、急遽議会が開かれていた。


「戻って来た兵は二万余り、後は死ぬか逃げ散るか……この損失は大きい。他国や魔物からの防衛を我が連合は傭兵に頼る所が大きい、これは容易ならざる事態ですぞ」


「傭兵だけの問題ではない、これまで投資したすべてが水の泡と化したのだ! 持たせた物資などは殆ど全て帝国に接収されたとのことではないか!」


「これでは帝国に貢物を持って言ったと揶揄されても仕方がありませんな。だから私は言ったのですルーアルトなど当てにならぬと」


「今そのような事を言っても始まらぬ。これからどうするか? 差し当たっては失った防衛力をどう補うか、現状のままでは各国間の主要街道の維持すら困難を極める状態である」


「新たな傭兵を徴募するしかなかろう、いやはやこれはとんでもない大損ですな議長。先ずはこの失敗の責任を一体誰が取るのか、そこから話を進めて行かねばならないと思いますがいかがか?」


 派兵反対派が息を吹き返し、以後議会は勢力を二分しての内紛が長きにわたり起こることとなる。

 ハーベイ連合はルーアルト王国が占領した地域の資源の権利、鉱山や湖や川などの水資源などを得て王国を内部から、帝国を外部から浸食していく計画であったが全ては水泡に帰して人命物資共に失い、更には国王ラーハルト二世をそそのかす為に使われた巨額の資金も無駄になり、しばらくの間はいたずらな野心を抱くことすら出来なくなってしまった。


---


 フュルステン城ではルーアルト王国軍の敗報を知った反乱貴族たちが顔を青くして右往左往している。

 城の執務室に城主であるオルナップ男爵や、レオナの実父であるルードビッヒ男爵などの主だった貴族が集まっていた。

 その中には皇帝ヴィルヘルム七世が送り込んだ間者のブナーゲル男爵も居る。

 集まったところでこれと言った策も出ない、最初からルーアルト王国頼みでの挙兵である。

 幹を切られて枝葉が生き延びれるはずもない。


「どうすればよいのか、何か妙案は?」


 苛立つルードビッヒ男爵の問いに答える者は誰一人として居ない。


「いっその事自領に戻るべきではないか? そこで陛下に詫びを入れ多額の献金をしてお許しを頂くというのはどうであろうか?」


「馬鹿な、陛下がお許し下さるとは限らんのにか? 少々兵は逃げ散ったがまだ二万近くの兵が居るではないか。この兵をもってフュルステン城に籠ればいかに陛下であろうとも容易には落とせぬ。そこで初めて長期戦を嫌う陛下と交渉の余地が生まれよう。その間にルーアルトにもう一度出兵を願ってもよし、まずは籠城するのが良いと思うがいかがか?」


 ブナーゲル男爵が慌ててその発言を否定し、反乱軍が離散するのを防ぐ。

 ――――ここで離散されては反徒どもを一網打尽には出来なくなる。後は儂が自然な形で何とかして東西南北どこでもよいから城門の主将にならなければ……


「確かにブナーゲル男爵の言う通りだ。幸い兵糧の備蓄はあるし、城内の井戸には地下水が湧き出ており水に困ることはない。節約すれば一年半ほどは籠城出来よう」


 城主であるオルナップ男爵の言葉に、ブナーゲル男爵は安堵の溜息を吐く。


「しかし敵、いや陛下の率いる軍は我が方の倍以上だとか……大丈夫でしょうか」


 反乱軍の貴族の中には軍事に疎いものも大勢いる。

 ブナーゲル男爵はこの発言を大いに利用することにした。


「城を落とすには倍の兵では足りませぬ、少なくとも五倍は必要。正門は勝手知ったる城主のオルナップ男爵がお守りすれば正に難攻不落。某も東西どちらかの門をお守りしてオルナップ男爵のお手伝いをいたす所存」


「おお、ブナーゲル男爵の御言葉心強い限り。経験豊かなブナーゲル男爵には東門をお任せしたい、他にも幾人かで交代しながらこの城を守れば早々落ちはしませんぞ」


 ブナーゲル男爵は思わずほくそ笑み喜びが表に表れてしまうが、これを見た他の貴族達はオルナップ男爵に実力を評価されてのことだと思っていた。

 

「東門の守りは某にお任せあれ、何人たりとも通しはせぬゆえ」


 ――――これですべての準備は整ったわ、後は陛下が来るのを待つのみ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ