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帝国の剣  作者: 0343
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目覚め

 

 真一はフワフワと全身が宙に漂うような浮遊感の中、ゆっくりと目を開けた。

 目に映るのは白く深い霧のようなものだけで他は何も見えない。

 首を動かして周りを見ようとして気が付いたが、首はおろか指先すらピクリとも動かない。

 色々と体を動かそうと四苦八苦するが、結局動くのは瞼だけで瞬きしか出来なかった。

 ――――動けない、声すら出ない……ここは何処だ?……今俺はどうなっている?

 途方もない不安に襲われ、軽いパニックに陥っていると突然釘を刺すような強烈な頭痛が襲ってきた。

 特に左側がザクザクと釘を打ち込まれるかと錯覚するような強烈な痛みが奔る。

 痛みが急に治まった次の瞬間、文字、映像、記憶、それらをごちゃ混ぜにした何かが頭の中に猛烈な勢いで流れ込んできた。

 不快感などという生易しいものではなく、言葉に表すことの出来ない感覚が真一の脳の中で渦を巻いている。

 何処からか微かに誰かの声が聞こえたような気がしたが、まるでブツンと音を立てて機械の電源が切れるかのように急に意識を失った。






---



「移植手術完了、精神崩壊の兆候あり……安定剤の投与量を増量……情報転写手術完了……術後の経過期観察は通常の倍の期間行う必要性を認める。初めてのケースの為、情報の収集と記録を最優先事項とする」



---



 真一はゆっくりと瞼を開ける。

 最初に目に映るのは白い壁……そのままぼんやりとしていると、低い駆動音とともに背中の部分が持ち上がってきた。

 突然白い壁が優しく数度点滅した後で強い光を放つ。

 思わず眩しさに左手をかざして目を細めるが、数秒経つと明るさに目が慣れて来た。

 真一が壁と思っていたのは天井でベッドに仰向けで寝ていたのが、背中の部分が持ち上ってリクライニングシートのようにベッドが変形していた。

 段々と頭が冴えてくる。そして、ふとあることに気が付く。


「え? 手?……え?……あれ?……」


 真一は左手を目の高さまで持ち上げて見る。

 失ったはずの左手があるのだ……見ただけでは信じられずに、左手の手のひらを握っては開きを数度繰り返す。

 それでも信じられなかったのか右手で左腕を抓ると、確かな痛みがかえってきて思わず声をあげた。

 ――――俺は夢を見ていたのか?…………それとも見ているのか? 

 現実なのか夢なのか判断のつかぬままに、ゆっくりとした動作でベッドから降りようとする。

 ベッドから床に足を着けると両の足の裏から、ヒンヤリとした冷たい感覚が伝わってきた。

 両の足でしかと立ち上がってから、真一は素っ頓狂な声をあげた。


「うわ、裸じゃねーか……ちょっ!」


 あわてて周りを見回すが、今はリクライニングシートに変形してしまった元ベッドの他に家具や調度品の類は無く、それどころか窓すらないことに気が付く。

 ――――何だここは? 

 どこか薄気味悪さを感じながら、もう一度部屋を見回す。

 ピカピカに磨きあげられた白い床を見ると、そこには誰だか知らない人が映っている。

 とっさに前後左右を見回してみても部屋の中には自分しか居ない。

 もしやと思い、恐る恐る片手を上げて見ると床に映る人物も鏡のように片手を上げた。


「っ…………!」


 今度は足を上げて見るも結果は言わずもがな、真一は床に映る人物が自分であることを認めたくはないが、こうなってしまっては認めざるを得ない。


「顔が……あ、え……」


 今までの佐竹真一とはまるで別人の顔、そしてさらに重大な事に気づく。


「でかい。うお、でかい……でかいよ!」


 下を向き股間を見ると見慣れたいつもの一物ではなく、大きさがいつも見慣れている一物より二回りは大きい物が目に映っていた。


「どうなってんだ? クソ!」


 クソと叫んだ瞬間、左側の壁が音も無くスライドして、中に備え付けてある洋式便座の蓋が自動的に開いた。

 突然のことに真一は、あんぐりと口を開けそのまま固まりしばらく動くことが出来なかった。

 だが気を取り直すと、微かな尿意を感じていたのでこれ幸いと洋式便座に座り用を足す。

 用を足し終えて大きく溜息をつくと、便座から股間に霧の様なものが吹き出し、その後に熱すぎず冷たすぎず丁度いい温度の風が吹いてきて乾かされる。


「すげぇ……小便用のウォシュレットは初めてだ、でもこれ服着てたら濡れるんじゃないか?」


 用を足した後、便器を離れ部屋の中央に戻ると最初と同じように音も立てずに壁がスライドして元通りの壁に戻った。

 真一は再び壁に近づいて色々と調べてみたが、スライド部分の壁の継間すら見つけることは出来なかった。


「裸じゃどうしようもない、服がなきゃこの部屋から出れんぞ」


 まるで真一の声に反応したのかのように、今度は反対側の壁が矢張り音を立てずにスライドする。


「まさか!」


 慌てて駆け寄って見ると思った通り中はクローゼットになっていた。

 何着か無造作にハンガーで吊るされており、真一はその内の一着を適当に手に取って思わず絶句した。

 手に取ったそれは服と言ってよいのだろうか、上下一体型の頭から足の指先まで繋がっている全身タイツだった。

 頭の部分には顔を出す穴が開いており生地の色はシルバーでギラギラと天井の光を反射していた。


「……………………」


 真一は無言でそれを元の位置に戻す。

 その後何着か手に取り、最終的に黒い作務衣のような服を選んだ。


「ちゃんとしたのがあって助かった、さっきのあれ着る奴いるのかよ? そういや下着は無いのか?」


 又もや真一の声に反応して、クローゼットの床から小さな箪笥のようなものがせり上がってきた。

 流石に三度目となると慣れてしまいもう驚かない。

 下着の種類はボクサーブリーフのみで色は何色か用意されていたが、作務衣と同じ黒を選んだ。

 とりあえず下着履き服を着ながら、「次は靴だな」と呟くと今度は下着が入っていた箪笥の横の床がせり上がり靴箱が目の前に現れた。


「やっぱりな……そうなんじゃないかと思ったぜ」


 観音開きの扉を開けると、ショートブーツの様な靴が一足だけ入っていた。

 サイズは合うのか疑問を抱きながらも、履いてみるとまるで測ったかのようにジャストフィットする。

 着替え終わるとまた音も無く壁がスライドし、クローゼットが隠れていった。


 真一が着替え終わるのを待っていたかのようなタイミングで扉がノックされる。

 何と返事をしようか迷っていると、モーターの駆動音のような音を立て出入り口と思われる扉が横にスライドした。


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