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帝国の剣  作者: 0343
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迷宮最後の敵

 

 シンが茫然と扉に書かれた絵と文字を眺め、扉に触れるか迷っていると突然、大きな音を立てながら扉が開いた。


「どうやら、神様は俺たちをお呼びらしいな。出迎えに注意しながら進むぞ」


 扉をくぐり中に入るとそこは円形闘技場を模したような作りになっていた。

 広さは半径五十メートル程だろうか、床は硬い土で出来ており凹凸も無く滑らかに均されている。

 中央には二メートル半程の石像が立っており、それはシンには見慣れた形をしていた。

 シンがまだ中央管理施設に居た頃に、訓練相手として戦った物と酷似しておりその強さは身に染みてわかっていた。


「気を付けろ、あれはストーンゴーレムだ。見た目よりはずっと速く動くし力も強い、攻撃を受け止めるな、骨を折られるぞ。あと、とにかく硬い……さてどうするか……直ぐに戦闘ってわけじゃなさそうだから、今の内に作戦を立てるか、弱点は胸部装甲内の核なんだが胸部の装甲が一番厚いんだ」


「シン様はあのストーンゴーレムと戦ったことがおありなのですか?」


「ああ、以前に一度だけある。その時の俺では勝てなかった、まぁあの時は俺一人だったからな。だが今はみんながいるし、弱点もわかっているから勝機はあると見ている。胸部装甲をどうやって破壊するかが鍵で、露出した核を壊せば動作が止まる……博打要素が強いけど考えはあるんだ。だが俺一人では無理だし、みんなにも手伝ってもらわなければならないんだが……」


 シンが皆の顔を見る。誰も臆病風に吹かれた様子はなく、その目には闘志が漲っている。


「師匠、出来る事なら何でも言ってくれよ!」


「よし、では作戦はこうだ…………」


---


 パーティが中央のゴーレムに近づくと、ゴーレムから電子音が鳴り両目が紅く光る。

 シン以外には小鳥のさえずりのような音に聞こえ、気味の悪さに鳥肌を立てた。

 シンはサクラと少し離れた所で、サクラの背の鞍の具合を確かめていた。


「サクラ、お前が今回の作戦の肝だからしっかり頼むぞ!」


 そう言って優しく首筋を撫でると、サクラは嬉しそうにゴロゴロと喉を鳴らした。

 一方でパーティは前衛にレオナとクラウス、中衛にカイル、後衛をエリーとして隊列を組みゴーレムとの戦闘に臨む。

 シンの立てた作戦通りに中央からゴーレムを部屋の隅へと誘導する。

 レオナとクラウスが交互に仕掛け、少しずつ後退していく。

 ゴーレムの攻撃は見た目よりは速く力強い。

 地面に拳が当たれば、地面はひび割れ土埃が舞い上がる。

 振り回される両の拳を受け止めるなど、とてもではないが不可能である。

 轟音を唸らせて迫る拳を必死に躱しながら二人は連携を密にして作戦通りにゴーレムを誘導していく。


 シンはこっそりと音を立てないように、ゴーレムのいる場所の対角線上にサクラに跨って移動していた。

 パーティの方を見て、額や手に汗が噴き出て来る。

 一発でも喰らえば致命傷になりかねない攻撃を、必死に躱す二人を見てすぐにでも代わりたい気持ちを押さえつけながら、背中から死の旋風を取り出す。


 盾に拳を掠めたカイルが大きくバランスを崩す。

 ゴーレムの誘導に成功したと見たレオナは振り回される拳を掻い潜り背後に回ると、大声を上げてゴーレムを挑発する。それはシンに対しての合図でもあった。


「行くぞサクラ! 俺が振り落とされても気にするな、ゴーレムとすれ違った後は減速して壁にぶつからないようにな」


 シンを載せたサクラは加速が載るには十分とは言えない距離を出来る限り全速力で駆ける。

 シンは両の脚で落ちないように必死に挟み込みながら、ブーストの魔法をフルパワーで、特に腕に限界以上のマナを送り込む。

 パンパンに張った腕の筋肉は普段の倍近くにも太くなり、その負荷が激痛となってシンを襲う。

 顔を僅かに顰めながらも、徐々に迫ってくるゴーレムに意識を集中させた。

 前方にいるレオナが横っ飛びでサクラとシンの進路上から身を躱すと、黒い塊が物凄いスピードで通り過ぎた。


 サクラに騎乗し、死の旋風を振りかぶったシンとゴーレムが交差する。

 何かが砕け爆ぜるような、凄まじい音がしてゴーレムの破片が周辺に降り注ぐ。

 その中に一際大きな黒い影が宙に投げ出され、受け身も取れずに地面に叩きつけられ転がって行った。 サクラは脚の爪を立てて急制動を掛けるが、止まれずに壁に横からぶつかると口から僅かに血を吐き倒れ込んだ。エリーがすぐさま駆け寄り回復魔法を掛けて回復させる。


 一方ゴーレムは頭と右腕が吹き飛び、胴体も大きく割れていてその隙間から赤く光る核が見え隠れしていた。

 俊敏だった動きは今や見る影も無く、電池が切れかけの玩具のようなぎこちない動きでその場でもがくような仕草を見せていた。

 ゴーレムに素早く駆け寄ったカイルは十分に刀にマナを練り込んだ抜き打ちの一撃を叩き込む。

 核に亀裂が入ると次第に光が弱まりやがて消え、ゴーレムは沈黙する。


 クラウスがカイルに近付き、肩を叩き笑顔で互いの健闘を讃え合う。レオナはシンの元に駆け寄ろうとして剣を落とし叫んだ。


「エリー、エリーーーーーー! 早く、早く来て! シン様が……シン様が!」


 常日頃冷静沈着なレオナの悲痛な叫びは皆を飛び上がるほど驚かせた。

 落ち着いてきたサクラの治療を一時中断すると、急いでシンとレオナの居る方へ駈け出す。

 カイルとクラウスも慌てて駆け寄るが、あまりの状態の酷さに顔を青くし、涙をポロポロと零すと口ぐちにエリーを呼んだ。

 エリーが慌てて駆けつけてシンを見るが、思わず口許を抑えてしまう程の酷い有様だった。

 レオナに膝枕されているシンの顔は青く、精気が殆どないように見える。

 口からはあわの混じった血が流れ、あちこちに夥しい数の擦過傷が出来ている。

 特に酷いのは両腕で、肘から下が爆ぜて原型を留めていない。

 エリーは真っ青な顔色でクラウスに二の腕を紐で縛って止血するように指示をすると、胸に手を当てて回復魔法を大急ぎで唱え始める。


「……くそ……目が、目が見えねぇ……身体も……動かん……カイル、カイルいるか?」


 シンが苦しげに喘ぎながらカイルを呼ぶ。

 カイルは泣きながら傍に居ますと答えるのが精一杯だった。


「ゴーレムはどうした? やったか?」


 開いているシンの両の眼は焦点が定まっておらず、咳き込み口から血を吐きながらカイルに戦闘の行く末を聞いた。


「師匠、ゴーレムは、ゴーレムは倒しました。師匠のおかげで倒すことが出来ました」


 涙で顔をクシャクシャにして、しゃくり上げながら言う。


「よくやった。みんなは無事か? サクラはどうした?」


「師匠、みんな無事だよ。サクラも怪我したけどエリーが治してくれた」


 クラウスが大粒の涙を零しながら答える。


「エリー、ありがとな。レオナ、レオナはいるか? 後の事を頼むぞ、みんなで無事に地上へ……」


 シンは苦しげにそう言うと遂に意識を失った。

 エリーは皆の顔を見て涙を零しながら首を振る。

 皆の顔に絶望の色が広がり、全員が大声で泣き出したその時、突然目の前に半透明の人影が音も無く現れた。


「よくぞ試練を乗り越えました。あなた方の望みを一つだけ叶えて上げましょう」


 そう言って近づいて来る半透明の人影の方を向いたレオナは、その姿を見て絶句する。


「…………創造神ハル様…………」


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