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帝国の剣  作者: 0343
73/461

最終階層へ

 松明に照らされた影が長くなり短くなり幾度も交差し、離れまた交わる。

 短い時間の中、神経が焼き切れそうな程のやり取りを重ね、骨の戦士の四本の腕の二本を奪うに至った。

 代償は体中に受けた大小無数の傷、そこから流れ出る血は一滴ごとにシンの体力と命の灯を削っていく。

 重さに耐えかねて死の旋風を投げ捨て、腰から天国丸を抜くがそれさえも重く、一刀ごとに斬撃の速度は目減りしていく。

 剣技は互角だが無限の体力を持ち、傷の痛みも無いアンデッドモンスターと、動けば動くだけ体力を消耗するシン……勝負の行方は誰の目にも明らかだった。


 シンの劣性に最初に気づいたのはクラウスだった。

 直ぐにも応援に駆け付けたいが、目の前の二匹のスケルトンに阻まれ近づくことが出来ない。

 焦れば焦るだけ攻防共に雑になり、要らぬ手傷を幾つもこさえてしまう。

 このままでは……焦る自分を冷静になれと叱咤し、立ちまわりながら周りの状況を見る。

 カイルも重武装のスケルトンに苦戦している。

 このスケルトンは並みのスケルトンでは無い、戦い方が堂に入っていて、まるで熟練の騎士を相手にしているような感じを受ける。

 速度が売りのカイルとレオナは重武装の相手に苦戦を強いられている。

 魔法を放つ隙を与えない堅実な攻め方に二人とも苛立ちを隠せず、攻撃が荒くなってしまっているのが苦戦に拍車を掛けてしまっていた。


 エリーとサクラは前後で相手を挟み、巧みに連携して優位に事を運んでいる。

 後ろからサクラが蹴り、バランスを崩した所をエリーが力いっぱい槌鉾を振りダメージを重ねていく。

 すでにスケルトンは鎧の上から鎖骨と肋骨を砕かれ、剣や盾を振るのも覚束なくなってきていた。沈むのも時間の問題と見てとったクラウスはある決断をする。


「エリー、そいつを倒したらレオナさんを援護しろ! カイル、そいつを俺の方へ引っ張って来い。俺が三体受け持つからお前は師匠を助けに行け! 心配するな、倒すのは無理でも持ちこたえる事は出来る。師匠が危ないんだ、迷っている暇はねぇんだ、さぁ早く!」


 その声は少し離れたレオナにも届く。

 レオナは焦り、雑な攻撃がさらに荒々しくなり隙を突かれ無用な手傷を増やしてしまう。

 スケルトンを倒したエリーとサクラが駆けつけてくると、レオナは二人に任せシンを援護するべく駈け出すが、三体のスケルトンに囲まれ無数の手傷を受けながら奮戦するクラウスを見てやむ得ずシンの元へ行くのを断念し、クラウスを救うべくとり囲んでいるスケルトンの背後から斬りかかった。

 

「師匠!」


「カイル、迂闊に近づくなよ。腕は二本しか残ってないが、背後の腕は可動範囲が広く真後ろまで届く。注意しろ」


 カイルは真っ赤に染まったシンを見て逆上しかけたが、シンの言葉を聞いて急速に頭を冷やし冷静に相手を観察する。

 四本の腕の内、残っているのは左手と右背後の手の二本。

 死角は左斜め後背、ゆっくりと位置をずらして死角を取ろうとするが、それに気付いた敵は微妙に角度をずらしてくる。


「カイル!」


 掛け声と共にシンが真正面から斬りかかる。

 左手の剣で受けた敵に出来た隙をカイルは見逃さず、死角となった左後背から仕掛けるが、骨の戦士は半身を捻り右の背後に生えている手に持つ長剣でカイルを牽制する。

 三者が再び距離を取り、互いの出方を覗うがどちらも動かず……いや、動けずにいた。


「カイル、このまま時間を稼ぐぞ。あと一人誰かが駆けつけて来れば俺たちの勝ちだ。それまで後ろから牽制を頼む。そう心配そうな顔をするな、俺はまだ大丈夫だ。もう少しはいける」


 カイルは頷くとシンから相手の気を逸らす為に、盛んに相手の攻撃範囲に出入りをし牽制をする。

 やがてレオナが駆けつけると形成は一気にこちらに傾き、三人が同時に数度仕掛けると骨の戦士も耐え切れずに床に崩れ落ちた。

 レオナとカイルはクラウス達が相手をしている最後の一体を倒すべく援護に向かうが、シンは手傷と疲労によりその場に膝を着き動くことが出来なかった。


 敵の全てを排除し、疲労と怪我を負った体を動かして次の層への階段へと駆け込むと、すぐさまに治療を開始する。

 怪我が酷いのはシンとクラウス、この二人を優先してエリーは回復魔法を掛ける。

 警戒にはレオナとカイルが疲れた体に鞭を打って務め、サクラは心配そうにシンの顔の傷を舐めていた。


「クラウス、助かったぞ。お前の判断でカイルを寄越してくれなければ、俺は死んでいたかも知れない。ありがとうな」


 シンがクラウスの頭を撫でながらそう言うと、照れくさそうに鼻の頭を掻きながらクラウスはお道化て言った。


「まぁ、碧き焔の盾としては当然の事さ、あんな骨共何体いようと俺が止めてみせるよ」


 二人のくぐもった笑い声が階段に小さく響く。

 エリーはあきれ顔で二人の治療をするが、欠損部位や致命的な怪我が無いことを知り安堵の溜息を吐いた。


「いよいよ、六層だな。そろそろ地上が恋しくなってきた、この階層もさっくりと攻略するぞ。その前に休憩を長く取ろう、完全に体とマナを回復させてから動こうと思う」


 五層の方から階段への扉が閉まる音が聞こえて来る。

 階段を六層入口付近まで降りると、交代で歩哨を立て長い休憩を取る。

 エリーは全員の怪我を治療した後、倒れるように眠りこむ。

 シンとクラウスも治療の最中に力尽きたように眠った。

 食事は今までになく豪勢にした。

 生姜湯を作り体を中から温め、硬くなった黒パンを軽く焼き、大蒜を炙りバターと共に載せガーリックトーストもどきを作ると、皆我先にと言わんばかりに手を出しあっという間に完食する。

 シンとエリーのマナを完全に回復させるために、苦い丸薬を飲み再び交代で見張りを立て休憩に入る。


 完全に回復したパーティは六層へと足を踏み入れた。

 すでに戻るべき道は無く、否が応にも先に進むしかない。

 六層は五層と同じく人口的な迷宮、というより大きな直線の道の左右に小部屋があるといった作りになっていた。

 念のために小部屋を見て見るが、どの小部屋にも宝箱はおろか敵の影すら見当たらなかった。


「これは……素直に直進しろってことかな? だが、念を入れて調べておいた方がいいな」


「そうですね、敵が出てこないのがかえって不気味ですが……」


「宝でもあればまた違うのになぁ、ケチくさいよな」


「何だか嫌な予感がするよ、気を抜かない方がいいかも」


「敵は兎も角、幽霊だけは勘弁して頂戴!」


 その後も小部屋を虱潰しに探索するも、敵も宝も見つからず徒労感だけがパーティを襲う。


「わかった、わかった、もう素直に直進するよ。いいな?」


 皆もここまでの無駄に払った労力に嫌気が差し始めていたので、一も二も無く賛同する。

 警戒だけは怠らずに大通りを進んでいくと途轍もなく大きな両開きの扉が行く手を塞いでいた。

 扉には何か絵と文字のような物がびっしりと刻まれており、その絵を見たレオナが突然膝を折り手を合わせ祈りの言葉を紡ぎだす。


「どうした、レオナ? この絵や文字は何だ?」


 祈りを終えたレオナは立ち上がると神妙な顔つきで、絵と文字について話し始める。


「ここに書かれている絵は創造神ハル様の御姿を表しておられます。文字は読める部分だけを読むと、選ばれた者のみがこの扉を開ける事が出来ると書かれてあります」


「創造神ハル?」


 シンは素っ頓狂な声を上げてしまう。


「シン様は遠い異国からいらっしゃられたのでご存じ無いかもしれませんが、帝国、いや帝国だけでなく近隣諸国皆、創造神ハル様を主神として崇めておられます」


 意外な場所で意外な事実を突き付けられたシンは軽く動揺しながらも、惑星管理コンピューターを神と定義した狂った科学者たちの所業に腹を立てずにはいられなかった。


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