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帝国の剣  作者: 0343
68/461

鬱陶しい賊ども

 汗と血と埃の匂い、剣戟が命を絶つ音、絶叫と悲鳴、揺れる松明の明かり……

碧き焔は迷宮一層の奥で賊と激闘を繰り広げていた。


「賊に情け容赦は無用! 殲滅しろ!」


 いくら数が多くとも、碧き焔は賊ごときに怯みはしない。

 特に賊に家族を殺されたカイルとエリーの戦いぶりは凄まじく、正確かつ無慈悲に賊の命を刈り取って行く。

 賊を睨むその眼は復讐に燃え、賊そのものを徹底的に排除する鋼のような意志を感じさせた。

 賊は敵わぬと見て逃走に移るが、背を向け逃げる相手にも容赦なく白刃が振るわれほぼ全員が討ち取られた。


 エリーが足を斬られ苦痛に呻きながら慈悲を乞う賊の頭に、槌鉾を振りおろし止めを刺すと辺りには再び静寂が訪れた。


「よし、逃げたのは一人か二人だな。追わなくていい、戦利品の回収と死体の処理をするぞ。カイルとエリーはよくやった、そのまま警戒にあたってくれ。俺とクラウスとレオナは死体の首刎ねと戦利品の回収だ」


 シンが素早く的確に指示を出す。

 アンデッドモンスターにならないよう死体の首を刎ねながら、最近の賊の多さに頭を悩ませていた。

 二層を目指していた碧き焔は、今日既に三度も賊に襲われていた。

 龍馬でポーター役のサクラの背には賊から奪った武具が積み上げられている。程度の良い武器はそのまま売れ、質の悪い武器でも屑鉄として一定の価値があるのでなるべく持って帰るのだが、これでは二層に着く前に荷物が溢れてしまうだろう。

 ならば賊の落とす戦利品を拾わなければいいのだが、金になる物を置いて行けるかと言えば中々に難しい。

 武具の手入れなどで迷宮に入る度に金は掛かるので、稼げるなら少額と言えども稼ぎたいという気持ちがあるからだ。

 賊から鎧を剥ぎ取りながらシンは決断する。


「一度地上に戻る。この短時間でこれだけ襲われると、流石に荷物が一杯だからな。それとちょっと考えがある。一度宿でみんなの意見を聞きたいからここで折り返して戻ろう」


---


 碧き焔は地上に戻り、戦利品を全て金に換えて黄金の楓亭に帰還する。


「みんな、お疲れ……迷宮の中でも言ったが、これじゃ奥まで進むまでに何度賊に襲われるかわからん。そこでだ、しばらくの間俺たちで賊狩りをしようかと思うんだが、皆の意見を聞きたい」


 カイルとエリーは即座に賛成の意を示し、それを聞いてシンは自分の考えを述べる。


「前に暁の先駆者と潜って地竜を倒して、ボロボロになりながら戻って来た時に賊に襲われて危ない目にあったんだが、俺たちも今後迷宮深くまで潜った帰りに賊に襲わるかもしれないと考えると、賊が碧き焔に手を出すのは拙いって思わせておいた方がいいかと思ってな」


「つまり、我々に手を出させないために一時的に賊を狩りまくり我々に対する恐怖感を心に刻み込ませると?」


「レオナ、その通りだ。碧き焔と名乗った途端に逃げて行くようになれば迷宮探索も少しは楽になるだろう、どうだ?」


「良いと思います。小銭も稼げるので武具の修繕費にも困りませんし、対人戦闘の経験も積めます。特に騎士を目指すクラウスにはいい経験になるでしょう」


 レオナがそう言うとクラウスも俄然やる気を出し、パーティの総意を得て賊狩りをすることに決まる。

 賊の中には浮浪児のような者もおり、その境遇には心を痛めるが情けは掛けない。

 奪うのなら奪われる覚悟もするべきだとも思っているし、世の中綺麗事では済まない事も多々あるのを肌身で感じ知ってもいる。

 容赦せずに刃向って来る者すべて叩き潰す覚悟で、シンは賊狩りを行う事を決意していた。


---


 翌日から早速襲い掛かってくる賊を倒すべく一層をうろつき、賊を狩る。

 モンスターも選り好みせず目の前に現れた者は全て狩って行った。

 一層だから出来ることで、二層では流石にモンスターまで皆殺しをするような無謀な事はしないと決めていた。

 後、レアモンスターのスケルトンリーダーも見かけても無視すると事前に皆で決めている。


 ほぼ毎日のように迷宮に潜り、出てくるときには賊狩りの戦利品の武具を山のように抱えて出て来る碧き焔は、すぐに賊狩りとして有名になった。


「よう、シン! 最近賊狩りに精を出しているんだって? 俺らとしても助かるぜ、そのまま奴らを根絶やしにしてくれよ」


 そう言って入口ですれ違うパーティは新緑の風、リーダーのデールも最近の賊の多さに辟易していたので碧き焔の賊狩りを応援する。

 新緑の風だけでなく、迷宮三層以上に潜っているパーティの殆どが碧き焔の賊狩りを応援していた。


 賊もただ狩られるだけでなく、裏をかこうと必死である。一層を諦め二層に行き追剥ぎをしようとするが、一層よりも手強い二層の敵の前にかなりの人数が屍を晒すこととなる。

 さらに碧き焔が二層で賊狩りを開始すると命あっての物種といった連中が、迷宮での追剥ぎを諦めカールスハウゼンを去って行った。


 シンは何も賊を全滅させるつもりはさらさら無いので、頃合いを見計らって再び迷宮探索に戻るつもりであった。

 だが、周りがそれを良しとせず、出来れば続けて欲しいと言って来るパーティまで出て来る始末であった。

 自分勝手な連中の願いなど知った事ではないが、要らぬ波風を起こさないように神妙な顔で、自分たちも迷宮深部を目指したいので許してほしい、今まで通り出合った賊には容赦はしないからと言って皆を渋々納得させ迷宮攻略を再開することになった。

 内心ではもう碧き焔には賊は襲い掛かってこないで、俺たちが賊を狩っている間、何もしなかったお前たちに牙を剥くだろうよと思っていたが……


---


「迷宮の風通しも良くなったことだし、迷宮攻略を再開する。今日は二層の三層への直通路を探索する。進行具合によっては三層まで行くことも考えているので、気合い入れて行こう」


 一層の途中で会う賊は碧き焔だと知った途端に逃げ出す。

 これでいい、この状況を作りたかったのだ。

 これで深部まで潜った帰り道でも襲われるリスクが減るだろう。


 暗く淀んだ空気の中、碧き焔は二層から三層への直通路を順調に進んでいた。

 途中アサシンマンティス三匹に遭遇したが、カマキリの身体の構造上、下から鎌が出て来る事は無いから上と左右からの攻撃に集中して捌けと、冷静で的確な指示を飛ばし難なく倒すことが出来た。

 グラントさんの教えの通り、死んだと思っても容易には近づかずに様子を見て、念の為に頭を死の旋風で叩き潰してから立ち去った。

 こういった小さい注意の積み重ねが、無事の生還に繋がると皆で注意をしながら慎重に奥へ奥へと進んでいく。


 もう少しで三層への階段という所で鈍い鉄色をした小山のような物体に遭遇する。

 刺激をしないように距離を取り脇をすり抜けようとするが、足音に反応したのか、それとも微々たる振動に反応したのか、むくりと起き上がると猛然とパーティの方へ突進してきたのだ。

 それはまるで軽自動車が突っ込んでくるような感じをシンに与える程の速度と質量で、慌てて飛びのきながら指示を飛ばした。


「アイアンビートルだ、装甲が厚くて刃は通らないから関節部分を狙うんだ! 突進と角振りに注意しろ、轢かれて踏まれたら助からないから気を付けろ!」


 事前に暁の先駆者から聞いていた情報を元に対処しようとするが、まさかここまで大きく突進速度が速いとは思わず、パーティメンバーにも緊張の汗が滝のように流れ出した。


「レオナ、エアバーストを奴の腹の下で最大威力で破裂させられるか? ひっくり返しちまえば、後はどうにでも料理出来るはずだ!」


 指示を飛ばすその間にも、角をブンブンと猛烈な勢いで振り回し中々関節に攻撃を仕掛ける隙を与えてくれない。

 六本脚を駆使した回頭速度も中々に速く、後ろに回っても一瞬たりとも気を抜くことが出来ない。

 エリーにサクラの手綱を引かせて後退させ、シンは敢えて正面に立って囮になりレオナが魔法に集中する時間を稼いだ。


 角の長さは一メートル半近くはある。

 両目を不気味に光らせ角で突き、薙ぎ払い、掬い上げて来る。

 その全てを躱し、何とか隙を突いて攻勢に転じようとするが、硬い装甲に守られた正面は正に鉄壁というに相応しい。

 左右から交互にカイルとクラウスが仕掛けて脚の関節部分を狙うが、巧みに躱されるか皮の厚い部分で受けられるかして有効打を与えられない。


「みんな下がって!」


 レオナの迷宮には相応しくない澄んだ声が魔法の用意が完成したことを告げると、蜘蛛の子を散らすように三人はアイアンビートルから距離を取った。

 それを見届けてからエアバーストがアイアンビートルの腹の下で炸裂し、勢いで横倒しになる。

 すかさずクラウスが柔らかい腹部に剣を刺し込み、抉ると緑色の体液が傷口から吹き出した。

 カイルも回り込んで来てクラウスと共に何度も腹に刀を突き刺す、シンは露わになった口の中に刀を突き刺し捻る。

 体液が吹き出す度にもがいていた脚から力が失われて行き、遂には動かなくなるが用心の為に更に何度か剣や刀を突き刺した。


「とんでもない化け物だ、レオナがいなけりゃやばかった……後で他のパーティがどうやって倒しているのか聞いておこう。さて、こいつは装甲全てが高純度の鉄で出来ているらしいぞ。重いが持って帰ると結構な金になるらしい、どうする? 持って帰るか?」


「そうですね、持って帰るついでにどうやって他のパーティが倒しているのか聞いた方がいいと思います。倒し方が今の方法しか無いというのはいざという時に不安ですし……」


「そうだな、レオナの言う通りだ。よし解体して持てるだけ持って帰ろう! サクラ、すまんが力を貸してくれ!」


 低いうなり声を上げてサクラ首を下げるが、それが了承の証しか不満の表れかは主人のシンにも今一つわからないのであった。

 


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