レアモンスター
すみません遅くなってしまいました
レオナの召喚したスプライトの放つ光によって、天井からはまるで照明が付いているかのように明るい光が部屋全体に注がれ、地面に落ちている武器が反射して煌びやかに輝いている。
その輝きによって我に返ったシンはパーティメンバーに指示を飛ばす。
反省は後だ、まだ迷宮の中なのにそんな事を考えている余裕は無い。
今は迷宮探索に集中しなければならない。
「エリー、まず自分の怪我を治してからカイル、レオナ、クラウス、サクラの順に治してくれ。カイルは回復したら俺と交代して警戒にあたってくれ。レオナは回復したら戦利品を集めてサクラに積んでくれ、クラウス、クラウスどうした? 怪我が傷むのか?」
クラウスを見ると俯きべそを掻いている。
どこか大怪我でもしたのかと慌てて近付くが、見た所目立った傷は無い。
クラウスの目からすぅっと涙が一筋零れ落ちる。
「師匠、頂いた剣が……剣が……」
クラウスの目線を追うと右手の黒鉄鉱の剣に注がれている。
剣は切っ先が折れ、刃はノコギリのように刃毀れし最早剣としての体を成さない。
「それはお前が良く戦った証しみたいなもんだ、気にするな。また買えばいい、お前が無事ならそれでいい。まだ迷宮の中だ、気を抜くのは宿に帰ってからにするんだ」
半分自分に言い聞かせるかのような口調でクラウスの頭を撫で、肩を叩いて励ます。
しゃくりあげていたクラウスは頷いて涙を拭うと、戦利品を集めているレオナを手伝う。
カイルが回復し警戒担当を変わってもらうと、サクラの元に行き鼻面に額をつけ首筋を撫でながら労をねぎらった。
サクラの周りには噛み砕かれた骨が無数に散らばっており、その勇戦ぶりが見ずともうかがえた。
サクラは嬉しそうに目を細め低いうなり声をあげる。
「サクラ、ありがとうな。怪我はしていないか? 荷物を積んだら入口に戻るからそれまでよろしく頼むよ」
シンはそう言いながら怪我がないか確かめ、無いとわかるとサクラの腹を軽く叩く。
サクラは荷物を載せやすいように座り、首だけを上げて辺りを警戒しだした。
倒したスケルトンの数は数十にも及ぶ。
かなりの金属製の武具が手に入ったが、その場で軽く選別し錆の酷いものなどは捨て置いた。
スケルトンリーダーの装備は全て持ち帰ることにする。
おそらく魔法武具であろうことが戦いの最中にうかがい知ることが出来たが、前にグラントから聞いた呪いの掛かった武具の事を思い出し、戻って鑑定してもらってから処分を決める事にする。
「シン様、来てください! 箱が、宝箱があります!」
普段冷静なレオナらしくない興奮した声で呼ぶ方を見ると、骨の残骸の山の中に小さな宝箱が見えた。
「手を触れるなよ、罠があるかも知れないからな! 他の戦利品をすべて頂いて、いつでもこの部屋から逃げれるようになってから宝箱に取りかかろう」
戦利品の選別と積み込みが終わり宝箱から皆を遠ざけると、シンは投げナイフを抜き宝箱へ投げる。
宝箱は乾いた音を立て転がって蓋が開き、中から指輪が一つだけ出て来た。
あっさりと開いたのと中身が指輪ひとつと拍子抜けしたが、箱から出たのだからそれなりの価値はありそうと判断し持ち帰る事にする。
「よし、一度戻ろう。最後まで気を抜かないで行こう、明かりを松明に切り替えて行くぞ」
用心に用心を重ねて来た道を慎重に戻って行く。
幸いなことに敵にも賊にも遭遇せずに入口に戻ることが出来たが、一番危ないとされているのが気の抜ける入口付近だと、これも以前にグラントから聞かされていたので入口を抜けるまでは気を抜かずに行く。
外に出ると皆、眩しさに目を細めながら伸びをし緊張に疲れた体を解していく。
改めて皆の装備を見るとボロボロで、衛兵などは数時間で何があったのかと目を見開いて驚いている。
竜殺しのパーティとして注目を集めていたが、数時間しか経っていないのに装備はボロボロで傍から見れば迷宮に挑んだものの敵わず逃げ帰ってきたように見え、迷宮の周りに屯している連中からは冷ややかな目で見られていた。
だが、シン達はそんな視線には全く気にも留めずに装備の修理と戦利品の売却のために、街へと歩いて行く。
馴染みの鍛冶屋アイアンフィストで戦利品の鑑定と売却をお願いすると、持ってきた戦利品の半分は使い物にならず屑鉄として引き取られた。
それでもここカールスハウゼン周辺には鉱山などが無いため、屑鉄にもある程度の価値はある。
魔法武具と思われる品以外は全部売り、得た金で防具の修繕に充てることした。
問題は魔法武具の鑑定である。
街に数件ある古道具屋の何処の店が信用出来るのかわからないので、暁の先駆者にお勧めの店を聞いてから改めて鑑定をしてもらう事にし、革防具屋に鎧の修繕を頼むと黄金の楓亭に戻り、直ぐにミーティングに入る。
「俺の迂闊なミスで皆を危険に晒してしまった、すまない。」
皆が席に着いた瞬間、シンが頭を下げ皆に詫びる。
その様子に全員が驚くが、中でもレオナが一番驚いているように見える。
いつも自信に満ち溢れているような男が簡単に頭を下げるとは思いもよらなかったのだ。
「俺はどこかで慢心していた、だからスケルトンの影を見てちゃんと確認せずに突っ込んでしまった。今考えれると、先ずあの小部屋にレオナに頼んでスプライトを飛ばして敵の姿を確認するべきだった。そうすればあのでかいスケルトンにも気が付いたし、戦わずに撤退することも出来た。すべては俺の迂闊さのせいだ、すまん」
「私も思いつきませんでしたし、次からは皆で気を付けて行きましょう。私も敵のリーダーに正面から突っ込んだのは無謀でした、申し訳ありません」
「お、俺も、師匠に貰った剣を初戦でダメにしちまった……ごめん……」
皆が口々に至らなかった点を謝罪し、今後に活かすと決まると今後の方針を決める。
「戦利品の魔法武具は鑑定するまでは極力触らないこと、前にも言ったが呪われている可能性があるからな。それと迷宮には防具が直るまでは潜らない、クラウスの剣についてはちょっと考えがあるので待ってほしい。じゃあ、無事の生還を祝って飯食って乾杯しよう!」
そう言ってシンは女将に料理と酒を注文し、しばらくして料理と酒が揃いいざ乾杯と言う時に、暁の先駆者のリーダーのハンクに声を掛けられた。
「シン! みんなも無事だったか……心配したぞ! 守衛がお前たちの話をしていて、何でもボロボロになって戻って来たって聞いてな……誰も欠けてないようで安心したぜ」
「ハンク、わざわざ来てくれたのか! 心配をかけてすまない、だが俺たちは無事だ、ありがとう。今から無事生還した祝いに一杯やるところなんだ。良かったら一緒に飲まないか?」
「そうか、そういう事なら皆も呼んでいいか?」
シンが勿論だと言うと、ハンクは仲間を呼びに自分たちの宿へ一度戻って行った。
シンは女将に追加の酒と料理を頼んで帰りを待つ。
去って行くハンクの背を見て、改めてパーティリーダーを不足なく務めみんなの信頼を勝ち取っているハンクの凄さを知る。
そしてパーティどころか国を率いているエルの偉大さを知り、帝都にいる親友に敬意を抱いた。
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その後、暁の先駆者たちにも無事を祝ってもらい、シンたちは飲み食いをしながら交流を深める。
「しかし、一層しか潜らなかったんだろう? 何でそんなに苦戦したんだ?」
少し酒がまわったところで、ハンクがシンに率直な疑問をぶつけて来た。
シンは今日の出来事を包み隠さず話す。
するとハンクたちの酔いで浮かれていた顔は一瞬で真顔になり、年相応の若者から鋭い眼光を放つ冒険者の顔つきに変わった。
「レアモンスターだ……」
「レアモンスター?」
「ああ、その大柄なスケルトンは過去二回目撃されている。おそらくもっと目撃されてはいるんだろうが、見た奴がやられちまってるんだろうな。ほら、俺たちが会った地竜、あれも多分三層のレアモンスターだ。レアモンスターはその層にいるどのモンスターよりも強いと言われている、実際に会った地竜はとんでもない強さだったし、今聞いたスケルトンも相当な強さだったんだろう? 間違いなくレアモンスターさ」