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帝国の剣  作者: 0343
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最初の武器

 

 神経を尖らせ辺りを見回しながら、注意深く川沿いを歩く。

 あれから大きな生物の影すら見えないが、片時も油断は出来ない。

 この二日半で何回命の危険に晒されただろうか……特に首長亀の時は浮かれて注意力が散漫で、波の立ち方の変化に気が付かなかったならば、間違いなく死んでいただろう。

 ほんの数時間前の出来事だが、思い出す度に身も心も凍る思いがする。

 ――――せめて身を守るための武器が欲しい……黒曜石でも落ちていれば……


 実は真一は、密林に最初に入った時に武器のことは一度考えてはいたのだ。

 まずはタオルを使ってスリングを作ろうと思ったが、肝心の弾となる適当な大きさの石が見つからなかった。

 次に木の蔓だか根っこだかわからない物で木槍が作れないかと何本か根っこ蔓を引っこ抜いてみたものの水分を含んでいるそれらは柔らかすぎて使い物にならない。

 ゆっくりと乾燥させている時間も無かったので断念せざるをえなかった。

 次は根っこ蔓を使って弓が出来ないか考える……よしんば弓が出来ても肝心の矢を作ることが出来ない。

 弾弓も考えたが、スリングと同じで弾の確保が出来なかったので諦めざるを得なかった。


「ナイフの一本でもあればなぁ」


 一人愚痴るが、修学旅行にナイフ持参は無理である。

 こうしていいアイディアも使えそうな物も見つからずに今に至る。

 川底に石が見えたが、あの恐ろしい首長亀やイクチオステガを見た後では石ころのために命を懸ける気にはなれなかった。


「どうしたものか、使わなくても持ってるだけで心強いんだがなぁ」


 独り言を呟きながら、川に沿ってひたすら歩き続ける。

 そろそろ野営場所の確保を考えながら歩き続けていると、川岸の水面から大きな牙を持つ動物の頭蓋骨のような物が目に映った。

 象だろうか? 河馬だろうか? 思わぬ発見に心が躍る。

 何にせよ武器に出来そうな物を見つけた興奮と、牙を手に入れることで直ぐに頭が一杯なる。

 先程はこれで失敗したんだから慎重に行こうと、自分に言い聞かせて平常心を保とうとするが、逸る心がまるで背中を押すように足が川に向かって行く。


 用心に用心を重ね注意深く辺りを調べてから、恐る恐る川に足を入れる。

 くるぶし丈位の浅瀬だが、それでも先程の首長亀を思い出すと足が震えた。

 ゆっくりと浅瀬を進み頭蓋骨に手が届くと、掛け声と共に頭蓋骨を岸に放り投げ自身も慌てて水から上がる。

 頭蓋骨は長い年月風雨に晒されていたのか脆くなっており、見た目よりも軽く勢いよく投げた衝撃に耐え切れずに、音を立てバラバラになってしまう。


「ああっ!」


 思わず声をあげ慌てて近寄ると、お目当ての牙は1本だけ綺麗な形を保って転がっていた。

 長さは四十センチから五十センチ程であろうか、緩やかに湾曲しているが体重を掛けて刺せば十分に武器としての役割を果たすであろう。

 根本に滑り止め代わりにハンカチを巻き、紐で縛ると武器らしい雰囲気が少しだけ漂ってきて、自然に笑みがこぼれ出す。

 左のベルトとズボンの間に差してみたところ中々しっくり来るではないか。

 鼻歌でも歌いだしそうな気持になりながらも川辺に注意を払いつつ樹上野営に適する木を探しながら、さらに川沿いを歩くのだった。


 やがて夕日が差し込む時間になり、何とか登って寝れそうな木を見つけホッとしていたところ、何か犬の様な鳴き声が遠くから聞こえてきた。

 狼だろうか? 背筋に冷たい汗をかきながら、慌てて木に登るが足を何度も滑らせて落ちそうになる。

 ――――落ち着け、落ち着け、まだ相手の姿は見えていない、慌てるな、慌てるな! 

 必死に自分に言い聞かせながら、何とか木の上に上がると安堵の溜息と共に全身の力が抜けそうになった。


 不安に駆られながら辺りを見回していると、対岸の茂みがガサガサと音たてて揺れている。

 そして現れたのは又しても有名な古代生物の一つだった。

 アンドリューサルクス……ディアトリマと同じく始新世時代の大型肉食獣である。

 しばらく様子を見ていると川に水を飲みに来ただけらしく、喉の渇きを潤すとこちらには見向きもせずに森の中へと消えて行った。

 アンドリューサルクスについては今は考えたくもない。

 疲弊しきった体と頭では対策など考え付かないし、そもそもその気力が無かった。

 とにかく少量でも食事をして短時間でも睡眠を取りたかった。

 真一は今日の出来事を思い出しながら食事をし、牙の短刀を腰から抜いてしげしげと見つめた後、幹と枝に根っこ蔓で体に巻きつけるように結ぶと、すぐに抗い様の無い睡魔が押し寄せて来た。


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