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帝国の剣  作者: 0343
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竜殺し

 心地良い日差しと風を堪能しながら、街の郊外にある牧場の中を龍馬のサクラと一緒にのんびりと過ごす。

 シンが宿で目を覚ましてから五日が経ち、体の痛みも大分和らいできていたが、左足がまだ微かに痛む。

 毎朝宿の主人が用意してくれる物凄く苦い薬湯を飲み、無理をしない程度の散歩をしてゆっくりとした時間を過ごしていた。


 迷宮都市カールスハウゼンは、若き竜殺ドラゴンスレイヤーしの誕生に湧き上がっていた。

 地竜と言えども竜が倒されたのは久しぶりで、人から人へと瞬く間に話が広がって行く。

 持ち帰った地竜の素材は竜を倒した何よりの証拠であり、暁の先駆者の面々がシンが一人で地竜を倒した所を間近で見ていて、その話を事あるごとに周りに話したのでシンは竜殺しと呼ばれるようになっていた。

 カールスハウゼンを治める領主のシュトルベルム伯爵は地竜の素材を高値で買うと公言して、商人や他の貴族たちの手に渡らぬよう牽制していた。

 シンにもいち早く接触しており居城に招こうとしたが、怪我を理由に断られていた。

 また、素材についても暁の先駆者と分配すると言われ話し合いが終わるまで地竜の素材は誰にも売らないとシンが宣言したので伯爵や商人たちは焦る気持ちを抑え、一先ず様子を見守ることにしていた。


 暁の先駆者は地竜の素材はいらないと言っていたが、解体し持って帰って来たのは彼らであったし、シンも迷宮で倒れたのを運んでもらった恩を感じていたので、角二本以外の素材は売って金に換え公平に分配することにした。

 角はシンがお願いして譲って貰った。

 角の取り分だけシンは自分の報酬を低くしようとしたが、暁の先駆者の面々がそれを良しとせず角は無条件でシンの物とし、残りを売った金を公平に分配することになった。

 地竜の素材を伯爵と商人に売った結果、金貨二千七百枚になったので一人当たり金貨三百枚として分配した。

 暁の先駆者の面々は大金に開いた口が塞がらない。


「シン、本当にいいのか? 俺たちがこんな大金受け取っても?」


 ハンクがパーティを代表して恐縮しながら聞いて来る。


「ああ、構わないよ。俺一人じゃ素材は持ち帰れなかったし、何より命を助けて貰ったわけだしな」


「それは俺のセリフだぜ、ありがとうな。俺たちは依頼のマンイータートラップの蔓とギガントードの毒腺を帝都まで運ばなければいけない、そこまでが依頼なんだ。シンはどうする? 帝都に一緒に行くか?」


 帝都か……シンは少し考えた後、まずは体を治すことを優先することにした。


「誘ってくれてありがとう、でもまだ体が本調子じゃないからここに残って治すことにするよ。一つ頼みごとがあるんだが……」


「ん? なんだ? 出来る事なら何でも言ってくれて構わないぜ、遠慮すんなよ」


「それじゃ、お願いなんだが手紙を届けて欲しいんだ。一通はハーゼ伯爵にもう一通は皇帝陛下に、ついでに角も添えて届けてほしいんだが…………」


「こ、こ、こ、皇帝陛下とど、どういう関係で……」


 ハンクが驚き、震えながら聞く。シンは前に世話になったお返しをしたいんだと笑って言う。


「わかった、命の恩人の頼みだ、必ずや無事に届けてみせるよ!」


 ハンクの話では明後日ここを発つと言うので、慌てて道具屋に駆け込み紙と筆を買い手紙をしたためて渡すことにした。


---


 毎日飲まされている苦い薬湯のおかげか、日に日に体の調子は良くなっており完全に回復するのも時間の問題かと思われた。

 今日も郊外の牧場でサクラとのんびり散歩を楽しむ。

 毎日少しずつ歩く距離を伸ばし、十分に歩いた後は二人で昼寝を楽しんでいる。

 シンは体が回復したら、体力作りなどの基礎から訓練をしたいと考えていた。

 迷宮に入り何が自分に足りないかを見つめなおし、今度は荷物持ちでは無く冒険者として迷宮に挑んでみたくなったのだ。

 サクラと別れ宿に戻ると女将がギルドの人間に言付けを頼まれたらしく、空いているときでいいからギルドに顔を出して欲しいとのことだった。

 シンの方は当面の間、ギルドの方に用事は無かったが取り敢えず明日にでも顔を出してみようと思い、女将に礼を言って、食事の用意をお願いした。


 翌日の朝、早速ギルドに顔を出してみる。

 受付にレムさんを見つけ、ギルドに呼び出されたことを告げると、レムさんはそんな大層な事じゃないんだと笑う。


「いやいや、ほら、先月のポーターの依頼料さ、依頼者行方不明で保留扱いになっていた件の。一ヶ月経って依頼者の死亡が認められたので、その支払いの話だったんだ。今清算するかい?」


 ああ、そんなこともあったなぁと記憶をほじり返して確か銀貨一枚だったっけ? と苦笑する。


「お願いします、あれからもう一ヶ月経つんですね」


「ははっ、まさか君が一ヶ月で竜殺しになるとは私も、いやここの誰もが思わなかったよ。はい、銀貨一枚。そういえば怪我の具合はどうだい? 見た所、大分良くなっているようだが……」


「ええ、大分良くはなりました完治まであと少しです。治ったらまた一からなまった体を鍛えなおさないと……ギルドの依頼は当分はお預けですね」


「そうか、先ずは怪我を完全に治してからだね。今日はわざわざ呼び出して済まなかったね、怪我が治ったらまた依頼を受けてくれよ」


 ギルドから出ると、シンは頼んでいた装備の手入れとそれの回収と支払を済ませるために鍛冶屋アイアンフィストに向かう。


「おっ、竜殺しの旦那! 手入れの方はばっちり仕上がってますぜ!」


 威勢のいい声で迎えられるが、竜殺しと面と向かって言われるのは何時まで経っても慣れてこない。

受け取りと会計を済ませ店を後にする。

 宿に戻り手紙を書こうとするが、中々筆が進まない。

 書きたいこと、聞きたいことが多すぎて上手くまとめられず思わぬ時間を取られてしまう。

 明日、ハンク達が帝都に向けて出発するので今日中に書き上げねばならないと思うと、余計に筆が進まなくなってしまう。

 何とか日が落ちる前に二通書き上げ、その日は慣れないことをした疲労感からいつもより大分早く床に着いた。


 翌朝、暁の先駆者たちに手紙を託し出発を見送る。


「じゃあ、手紙と角を頼むよ。道中気を付けて、無事に戻ってくることを祈っている」


「ああ、まかせてくれ、帝都土産を持って帰ってくるさ!」


 ハンク達と握手をし、姿が見えなくなるまで城門から見送った。

 さて、今日もサクラと散歩……もといトレーニングをするかと考えながら宿に戻ると、一台の造りの良い馬車が止まっていて、その作りから余程の金持ちの持ち物だとわかる。

 繋がれている馬も良く手入れをされていて毛並みも身体つきも立派なものである。

 宿に入ると、一人の恰幅の良い老紳士が挨拶をして来た。


「噂に名高き竜殺しのシン殿ですな。わたくしシュトルベルム家に仕えるデムバッハと申します。この度は我が伯爵家に地竜の素材をお売り頂き誠にありがとうございます。伯爵様は大変お喜びになり、是非お会いになって直接礼を述べたいと申しておりまして、いかがでしょうか?もし、宜しければこのままわたくしと同行頂ければと思いまして……」


「伯爵様の……こちらこそ高く買って頂き感謝しております。そういうことでしたら私の方こそお会いになってお礼を申し上げたいと思いますので、お手数ですが伯爵様にお取次ぎの程をよろしくお願いします」


 断っては角が立つと思い素直に招きに応じる事にすると、使いのデムバッハは大仰に喜ぶ振りをして早速シンを馬車の中へと招き入れ、街の中心部へと馬車を走らせた。

 外見だけでなく内装も派手さは無いがシンプルかつ美しく、乗り心地もバツグンで揺れも少なく流石は高位貴族の所有する馬車だけのことはあった。

 迷宮都市カールスハウゼンのほぼ中央に、シュトルベルム伯爵の居城であるリヒトブルク城はそびえたっている。

 白い外壁が美しく、遠くからでもその存在感は圧倒的であった。

 ふと、シンは故国日本の白鷺城を思い出した。

 第二城壁の門を越えて貴族たちの住まう中心部へと入る。

 防衛用に入り組んだ路を右に左にと回り込んでやっとのことで城に辿り着くように作られていた。

 門を開いて美しく刈り揃えられた低木樹の植えられた中庭のロータリーへと、馬車は回り込み静かに停車する。

 馬車の到着を待ち、中庭に控えていた若い使用人が外から馬車のドアを開き、馬車から降りるための階段を用意する。

 シンが緊張しつつ馬車から降りると、中年の煌びやかだが派手さの無いセンスの良い恰好をした貴族の男性が諸手を上げて歓迎の意を示していた。


「よく来た! 竜殺しのシンよ、昼食の用意をさせている。中で竜との戦いの話を聞かせてくれたまえ」



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