世界初の急降下爆撃
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何とか生きてます! 更新が遅れて申し訳ありませんでした。
作戦は定まった。
今の危機的状況を打破し、勝利を得るにはこれしかないと誰もが確信していたが、ある一点のみ非難の声が上がった。
「しかしながら、他国の者に一軍丸々預けるというのは、如何なものでしょうか?」
「それは某も不安に思っているところではあるが、仕方のないことではないか」
「それとも何か? 我らの内の誰かが、この囲みを破って指揮を執りに行くというのか?」
「それは不可能だ。第一、そのような行動を起こせば、作戦が敵に知れる恐れがあるではないか」
シンは目を瞑り黙っていた。
この手の非難を受ける事は、会議の前から予想していた。
それにこの限られた状況に於いてのこの選択は、決して間違いでは無いという自信もあった。
皇帝はそんなシンの方をちらりと一瞥してから、声を上げた。
「静まれ。確かに、然るべき将を送り、指揮を執らせられないのは残念ではあるが、状況が状況である。作戦内容から考えても、シンの選択は正しい。というよりも、それしかないであろう。それに、オルレンス伯は経験豊富な名将として名高き人物であれば、任せても問題あるまい。もしこの作戦が成功し、この戦いに勝利した暁には、余はこの件をあえて広く喧伝し、帝国がいかにエックハルト王国を信頼しているかという事を、世に知らしめるつもりである。此度の戦、敵は未熟ながらも連携してきた。こちらもそれに対し、連合を組んだが、今後のことも考え、この繋がりをより強くする材料として、今回の件を用いるつもりである」
これを聞いたシンの口の端に笑みが浮かんだ。
やはり皇帝は天才なのだと。戦の才能は平凡なれど、政治や謀略の才は非凡であると。
一瞬で、一見すると不利な材料を、有利へと変えて見せたのだ。
確かに、今後のことを考えれば、エックハルト王国とは、より繋がりを強くしておくにこしたことはないだろう。
それに、派遣した将が手柄を立てたとあれば、エックハルト側の面子も立ち、気を良くするに違いない。
「それはよろしいかと思いますが、あまり他国の者に手柄を立てられますと…………」
「褒美や恩賞の問題か? 余は、今回のエックハルト王国、ムベーベ国の両国に対しては、領土の割譲を以ってそれに充てるつもりである」
「な、それは如何なものかと…………」
「この戦に勝てば、最低でもラ・ロシュエルの北部を取る事が出来るだろう。なれば、帝国の領土的には損は生じない。まぁ、勝てたらの話だ。あくまでもな…………」
そう言って、皇帝は薄く笑う。
手痛い敗北を味わった後である。いくらシンの立案した作戦とはいえ、盲目的に勝利を夢見る事は出来ようはずも無い。
「…………勝つさ…………もう、裏切り者はいないからな…………」
そう言うシンの表情にも、苦み走ったものがある。
先の戦の敗北には、予想外の出来事が絡んだ結果とはいえ、相当に堪えていた。
皇帝、諸将ともに口を閉ざし、室内にようやく夜更けらしい静けさが訪れた。
その静けさを討ち破ったのは、皇帝であった。
「この期に於いてこれ以上の議論は無用であろう。シン、任せたぞ」
皇帝に声を掛けられたシンは、立ち上がり一礼すると、カツカツと甲高い足音を響かせながら退出した。
その背を、皇帝をはじめ、友であるザンドロック、そして居並ぶ諸将らが無言で見送る。
「矢は放たれた! こちらも期日まで何としても持ち堪えつつ、反撃の準備をせねばならない。夜明けと共に早速準備に取り掛かる。では、解散!」
「はっ、必ずや帝国に勝利を!」
ザンドロック以下、諸将は立ち上がり一礼してから退室し、それぞれの持ち場へと戻って行った。
それを見送り、一人きりになった皇帝は、誰もいないのを確認してから、一人俯きながら呟く。
「シン、お前は強い。いや、強すぎる。戦後、お前のその強さを危惧する者が必ず現れるだろう。余は、お前を護ってやれるだろうか? 貴族にしてやるといっても、お前は受けぬし、一体どうすれば、どうしたらお前のこれまでの功に報い、立場を強くし、護ってやれるのだろうか?」
シンが政治的に追い詰められ、心身に危険が迫った時の事を考える。
そうなればシンが取る道は一つ。シンは帝国を去るだろう。
シンに帝国を去って欲しくはない。帝国に縛り付けるには、どうすれば良いだろうか?
皇帝は、そのまま誰も居なくなった広々とした会議室で、ただ一人、腕を組みながら夜が明けるまで思案に暮れ続けた。
ーーー
一方、シンはその頃にはサクラの背に乗り、闇に紛れ包囲網の上空を通過、突破し、北の空へと消えていた。
シンが再び戦場に姿を現したのは、夜明けの朝日が昇り始めた頃であった。
シンとサクラは、消え去った北からではなく、西の空より飛来し、ケンブデン城を囲むラ・ロシュエル王国軍に、単騎で攻撃を仕掛けた。
その攻撃方法は、上空より一気に急降下し、サクラの口から放たれるブレスで、舐めるように地表をなぞりながら、背に乗るシンもまた、炎弾の魔法を左右に撃ち放ち離脱するというものであった。
「さながら竜の急降下爆撃ってところだな。サクラ、攻撃は適当でいい。姿勢制御に重きをおけ」
そう言われたサクラは、急降下からの攻撃、しかる後に即座に急上昇するという、体勢の制御により、返事を返す余裕もない。
攻撃を受けたラ・ロシュエル王国軍は、突然の竜の来襲に全く対応出来ず、遥か上空に過ぎ去ったその陰に向かって、遅ればせながら矢を放つのが精一杯であった。
このシンとサクラの攻撃は翌日も行われた。
今度は朝日を背にしての、東からの攻撃。
朝日を浴びて煌めく剣戟の煌めきに向かって、シンとサクラは死の火炎を見舞う。
又しても竜の強襲を許したラ・ロシュエル王国軍は、有効的な反撃も出来ずに、少なからぬ損害を受けた。
さらに翌日、シンとサクラは今度は南側から、朝では無く夕方、陽の沈む間際に攻撃を仕掛けた。
この頃になると、ラ・ロシュエルもシンとサクラが来襲するであろうことを予測し、一旦ケンブデン城の攻囲の手を緩め、竜を迎撃すべく上空を攻撃できるもの、攻城弩級や投石機、弓兵などで四方の守りを固めていた。
「中々に対応が早いじゃないか。だが、そんなもんで俺たちを仕留められると思うなよ! サクラ、急降下ではなく、低空からの高速で敵の外延部を舐めるように飛べ!」
そう命じられたサクラは、いいの? 大丈夫? と首を回してシンを見た。
シンは、大丈夫だと頷き、サクラの首に巻いた革紐を体に巻き付けて見せた。
それならばと、サクラは命じられた通り、高度を下げ、速度をぐんぐんと上げていく。
ラ・ロシュエル王国軍も近付いて来る黒点を発見し、即座に迎撃態勢を整えようとするが、その前にラ・ロシュエル王国軍南側陣地を、黒い塊が駆け抜けた。
すれ違いざま吐かれたブレスと、シンの魔法がどれほどの被害を与えたのかは不明であるが、直近にいた兵たちは軒並み風圧によって薙ぎ倒され、負傷者が続出し、阿鼻叫喚の模様である。
「時速五、六百キロは出てるんじゃないか? とてもじゃないが、身体を強化しないとしがみ付いている事さえ出来ないな」
混乱しているラ・ロシュエル王国軍を尻目に、シンとサクラは悠々と再び南側へと飛び去る。
これらの度重なる竜の強襲に、ラ・ロシュエル王国軍は怖れ慄いた。
受ける損害も馬鹿に出来ない上、将兵らの士気の低下は著しい。
翌日、シンとサクラは、今度は北側を強襲した。
こうなってはもうケンブデン城の攻囲どころの騒ぎでは無い。
一刻も早く、毎日違う方向から来襲する竜に対抗し、撃墜しなければ、士気の低下により全軍の崩壊すら危ぶまれる事態となっていた。




