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帝国の剣  作者: 0343
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強盗

 三層への迂回路を進む一向は二手に分かれた分岐点に到達する。

 ハンクが他のメンバーにしばらく警戒を言いつけ、羊皮紙を広げて道の確認をする。


「ここを左の道に行けば三層の階段へと着く。シン…………は元傭兵だったな、じゃあ対人戦闘はできるな。この先の道は三層まで一本道だから隊列を組みなおす。前衛三人、中衛三人、後衛三人として前後からの敵に備える。道幅がそれ程広くないんで、左右の側衛はこの先はいらないんだ。でだ、ここからが難所の一つで、長い一本道なんだが、曲がり角が何か所かある。冒険者崩れの強盗たちが待ち伏せを仕掛けるポイントでもあるんだ。強盗だから、当然戦利品を運んでいるポーターは狙われやすい。グラントさん、シン、十分に注意してくれ」


 グラントは頷くとハンクの説明を補足する。


「強盗が現れるのは大体が一層と二層だ。何故かと言うと、そもそも強盗は迷宮の厳しさに付いていけなくてドロップアウトした連中が大半でな、そんな奴らが精々倒せるのは一層と二層の敵ぐらいなもんだ。

それに一層、二層は新米冒険者ルーキーも多い、まだ弱いそいつらをカモにして稼ごうって言う腐った連中だから情け容赦はいらないぞ、次の被害者が出ないようになるべく殲滅するのが定石だ。

三層以下に行ける普通の冒険者なら強盗なんかするよりも遥かに稼げるからな、強盗なんてするのは三層にも行けない弱い奴らだが、奇襲には十分注意しなければならないぞ」


 シンが了解すると、隊列を組み直し一本道へと進む。

 グラントはシンに話しかけ様々な情報を教え、逆にシンは様々な疑問をぶつけた。


「この迷宮は何層まであるんだ?暁の先駆者は確か四層まで行ってるんだっけ?」


「ああ、俺たちは四層の最奥まで攻略済みだ、すぐにでも五層に行くさ。六層までは確認されているが、最下層が何層なのかはまだわかっていないんだ。この迷宮は最近……と言っても三年前だが……発見されたのが新しいせいかまだ情報が少ないんだ。だから危険に満ち溢れているが、同時に荒らされてないので稼げるのさ」


「しかし迷宮に入るのに人数制限があって少ないと門番に止められるのは驚いたよ」


「ああ、それには理由があってな……最初は自由だったんだ、ソロで潜る奴もいた。だが少人数で潜った奴らの生還率が低くてな、というか殆ど戻ってこない。戻ってくるのは六人以上のパーティばっかりで、さすがにここの領主も考えたのさ。この迷宮を売りにして稼ごうってのに、難易度が高すぎるって噂でも流れちゃ冒険者が来なくなっちまうしお宝も流通しない。六人以上のパーティは戻ってくるなら最初から六人以上で行かせればいい。まぁ迷宮は狭いとこも多いから、六から十人が基本になっちまうんだが」


 なるほど、そういう理由があったのか……魔物の素材やお宝を持ち帰らせて流通させ経済を活性化させることで税収を高めるか……領主の考えはわかった。

 かなり経済に明るい領主なのだろう。

 他の迷宮都市も似たような物なのだろうか?


「お宝ってどんなものが出るんだ? 金や宝石か?」


「まぁそれもある。だが、冒険者にとってはマジックアイテムの方がお宝として人気があるな。お前さんの着てる鎧ほどじゃないが、俺たちもいくつかのマジックアイテムを手に入れたぜ」


「マジックアイテムか、確かに魅力的だな。しかしこんな天然に出来た洞窟に宝箱ってもピンとこないな……」


「ああ、何故かあるんだよな。不思議だがあるんだからしょうがねぇ、美味しく頂くだけさ。たまに強烈な罠がしかけてあるらしいから十分に注意する必要があるけどな」


「罠? どんな罠だ?」


「例えば、開けたとたんに矢が飛び出して来たり、宝箱自体が罠で実は擬態した魔物だったりとかな」


 前衛のハンクが止まりハンドシグナルで注意を促す。

 グラントが腰の剣を抜いたのを見て、シンも天国丸を抜き構える。

 例の見通しの悪いカーブ、賊の待ち伏せポイントだ。

 ハンクがカーブの先に聞こえるように大きな声で呼びかける。


「そこに誰かいるのか? 敵意がないなら返事をするか出てきてくれ、十秒待つ。一、二、三…………」


 きっちりと十秒後にハンクがこぶし大の緑色の玉を取り出して、火を点けてカーブの先に投げ込む。


「短時間しか効果ないが煙を浴びると涙とくしゃみが止まらなくなるんだ」


 しばらくするとゴホゴホという声が聞こえてくる。


「やっぱりいやがったか、怒って出て来るぞ、多分な。戦闘態勢を取れ!」


 涙を流し、咳とくしゃみをしながら襲い掛かってくる賊を容赦なく切り捨てて行く。

 賊は満足に剣も振るえずただ的になりに出てきたようなものである、くしゃみで武器を落とす者までいた。

 目の見えなくなった賊が滅茶苦茶に剣を振り回すが、間合いの外から槍で突かれて死んでいく。

 短い一方的な戦いが終わった。


「よし、煙の効果が無くなるまでここで待機。後衛は後ろを警戒してくれ、グラントさんとシンは賊どもの身包みを剥いでくれ、ヨーヘンは二人の護衛。前衛は前を警戒、まだ生き残りがいるかもしれないから気を抜くな!」


 賊は碌な物を持っていなかった。

 貨幣も全員合わせて銅貨数十枚しか持っていない。

 しけてるな、と呟くとそんなんだから賊になるのさとグラントが笑いながら言った。


「よし、もう煙の効果も無いから出発するぞ。だが、あと二カ所同じような曲がり角があるから油断せずに行こう」


 リーダーのハンクの号令でパーティは三層への階段へと進みだす。

 微かに刺激臭のする角を曲がり先に進んだが、それ以降は賊の待ち伏せは無かった。


「三層に降りる前に休憩する。交代で見張りを立てるぞ、まずは後衛から休んでくれ、後衛、中衛、前衛の順に休んでそれから三層に降りる。」


 休憩といっても地べたに座り込んで水と軽く干し肉を齧るくらいだが、それでもするのとしないのでは大きく変わってくる。

 順番がきて背負子を降ろし、床に座ると自分が思っているより遥かに体が疲労していることに驚いた。

 皆と同じように干し肉を齧り、水を飲む。


「どうだ? シン、まだ行けそうか?」


 グラントが壁にもたれかかりながら聞いてくる。


「ええ、まだまだ大丈夫ですよ」


「三層はここより湿度が高くて息苦しいからな、今の内にしっかり休憩を取るんだぞ。それと、次の階は全員松明を持つ。ジャイアントリーチ対策さ、見つけ次第松明を押し付けて焼いて行く。ついでにジャイアントスラッグも焼いてくれ。あいつらいつの間にかカバンに入り込んで保存食を食い荒らすからな、気を付けろ」


 聞いただけで気が滅入ってくる、ヌメヌメ天国かよ、そういやターゲットのギガントードもヌメヌメしていそうだな。

 全員交代で休憩を取り、三層の階段を下りていく。

 湿度がどんどんと高くなるのが息苦しさで嫌でもわかってしまう。


「手早く済ませて、さっさと帰ろう。ギガントードの毒腺は一、二匹分でいい、確保したら直ぐに地上へ戻るぞ」


 三層の床は湿気ている。

 泥とまではいかないが十分に水分を含んだ土がブーツの底にこびり付くのがよくわかる。

 少しでも目を離すと足元にジャイアントリーチが忍び寄ってくる。

 ジャイアントリーチは体長五十センチ程の巨大な蛭で、厄介なことに床にも壁にも天井にもと、どこにでもいる。

 数匹に噛まれて気づかずにいると、貧血になると言われる。

 無数に集られれば失血死の恐れもあるが幸いにも怖いのは吸血だけで、毒などは持っていない。

 噛まれる前に近づく奴は片っ端から松明を押し付けて焼いて行くと、ジュッと焼ける音とピィと蛭の断末魔が迷宮に響く。

 ここも三人ずつの三列で進み、左右の者が足元の蛭を焼き中央の者が索敵をして進んでいく。


「もう少しで蛭も出なくなる、あと少しだみんな頑張れ、気を抜くな!」


 ハンクの言う通りぱたりと蛭の出現が止まる。

 何故だ? と問うと、ギガントードの縄張りだからさ、餌になっちまうから蛭もここから先には来ないと教えられる。

 いよいよだ、お目当てのギガントードを探す。


「舌に捕まったら松明を押し当てろ、後は背中は分泌液でヌルヌルして斬れないから頭か腹をやれ」


 全員が目を凝らしながら歩いていると、右前方に小山のような影が動いたような気がした。

 ハンクが注意を促す。


「いたぞ、ギガントードだ。でかいな、オスかもしれない。鳴かれて仲間を呼ばれる前に決着を付けよう」


 でかい、しかも仲間を呼ぶのか……厄介だなと思いつつ、シンは天国丸を抜き片手で構え松明をギガントードにかざした。

 その瞬間、桃色の塊がもの凄いスピードで自分に迫って来たのを体を捻って躱す。

 

「うぉおおおおおっ!」


「シン!」


 舌だ! カエルなので当然舌先に粘着力があり、くっつけばそのまま口の中に放り込まれて丸のみにされる。

 戻ろうとする舌を刀で斬りつけるが、体勢が悪く切断には至らない。

 激しい怒りの鳴き声が迷宮に響く、前衛はすでに抜剣して突撃していた。

 噛みつき攻撃や巨体で押し潰そうとするのを見切り、喉や目などの生物としての弱点に攻撃を集中させていく。

 待ち伏せ型の魔物で瞬発力はあるが、恐ろしい爪や角があるわけではない。

 口に僅かに数本、咥えた獲物を逃がさないようにするための牙が生えているがそれだけである。

 取り囲み落ち着いて対処すれば熟練の冒険者なら問題無い敵である。

 やがて無数の切り傷と槍の刺し傷から流れ出る血が足元に溜まり、その上にうつ伏せにギガントードは倒れた。



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