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帝国の剣  作者: 0343
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マンイータートラップ

 二層は一層よりも湿っぽい空気が流れていて土の匂いが濃く感じる。

 前後ろ上下左右と一瞬たりとも警戒は怠れない。

 壁には一層よりも光苔が多く生えており一層よりは若干明るく感じられる。

 数分ほど歩くと遠くの前方からオレンジ色の玉がぼんやりと見える。

 リーダーのハンクが松明を大きく円を描くように振り出すとしばらくしてからオレンジ色の玉も同じように円を描き出した。


「あれはパーティ同士の合図だ、交戦の意思の無いことを示すためにお互いわかるように大きく円を描いてアピールしあう。お互いに発見しあえば待ち伏せや不意打ちは出来ないだろ?だが、油断は禁物だ。友好的に近づいて来てからの不意打ちは有りうるからな。おっと、近づいてきたな……ここからが問題だ、油断するなよ」


 グラントは説明すると片手を剣の柄に掛けた。

 周りを見ると皆緊張の表情で臨戦態勢を整えている。


「お~い、暁の~俺だ、俺だ、新緑の風のデールだ」


「おお、デールか! ほっとしたぜ」


 デールと名乗る男のパーティの姿が見えてきて、顔が判断できるようになり皆がやっと戦闘態勢を解除する。


「知り合いなんだ、信用できる奴らだ。こういう時はお互いに情報交換をするのがいいぞ、ただし余程信用できる奴以外はその情報を鵜呑みにするなよ」


 グラントは本当に丁寧に一から十まで教えてくれる。

 シンは感謝しつつ教えられた全てを覚え後に活かしていこうと、安心して緩んだ気を引き締めなおした。


「おう、ハンク元気そうだな、どこまで行くんだ? 三層までの直行路は掃除しちまったぜ。」


 お互いのパーティのリーダーが握手をして情報交換をしている間も、互いのパーティメンバーは周囲を警戒している。


「依頼でね、マンイータートラップの蔓とギガントードの毒腺を取りに来た。と言う事は迂回路に行った方がいいな、ありがとう」


「いいってことよ、ちなみに直通路にはいなかったぜ。俺たちはアイアンビートルの殻集めさ、重いからな小まめに地上と行き来しなきゃならなくて面倒くせぇったらありゃしないぜ」


「その分報酬はいいんだろ? 今度一杯奢れよ」


「まぁな、よし! お互い無事に戻れたら一杯やるか、約束だぜ!じゃあ、俺らは戻るから気を付けて行けよ」


 お互いのパーティが離れて行き、再び静けさが戻って来た。


「みんな、三層への直通路じゃなく迂回路に行こうと思う。どうだ?」


 皆が了承の声を上げると三層への迂回路へと進路を変え、慎重に進みだした。

 ハンクが止まりハンドシグナルで皆を制す。

 指差す先には足跡と消えた松明が一本落ちていた。


「気を付けろ、みんな! どうも様子がおかしい、戦闘態勢を取れ! 索敵を怠るな!」


 低い音量だがよく通る声で指示を飛ばす。

 シンはブーストを唱え、目を凝らし通路の先を見ると巨大なカマキリが両手の鎌で人を持ち上げ、頭から齧りついているのが見えた。


「ハンク、何かいる。大きいカマキリみたいだ……人が喰われてる……動かないから既に死んでいるみたいだ」


 人より夜目が効くんだとブーストの事は隠しつつ言うとハンクは素早く決定を下す。


「シン、見えるのか? 大きいカマキリ、アサシンマンティスだな。よし、この先に進むためにやるぞ! 天井にも気を付けろ。行くぞ!」


 音を立てないように獲物を構え、ゆっくりと進んでいく。

 松明の明かりが敵の姿を捉える、むしゃむしゃと食事中のアサシンマンティスが二匹、足元には惨殺された人間の遺体が数体転がっていた。

 前衛の二人が左右に別れ、左右の側衛をしている二人組の前にいる方がそれをサポートするように後を追う。

 後衛は前をちらちらと覗いながら後ろを警戒し続けている。


「シン、もし前衛がやられたら俺は前に出るが、お前は前には出るんじゃないぞ! むしろ後ろに下がって退路の確保を頼む!」


 グラントが幾分かの緊張を含んだ声で指示をするのを、シンは短く了解の意を示す。

 天国丸を抜き不測の事態に備えながら、戦闘の成り行きを見守る。

 激しい息遣いと剣戟の音が迷宮の壁に反射し、剣と鎌が擦れあい火花が散った。

 素早い鎌の大振りを潜り抜け体を支えている足の関節に斬撃を叩きこむ、するとバランスを崩した敵は横に倒れ、柔らかい腹部が見えた。

 すかさず槍で腹部を突き追い討ちをかける、すると穴の開いた腹部から青い血が溢れだすのが見えた。

 もう一匹も同じように足の関節を破壊され、地面に転がされ腹部に槍が何度も突き刺さる。

 さらに攻撃し続けているとだんだんと動きが鈍くなっていき、終いには動かなくなった。


「シン、まだだ、よく見ておけ! 用心に用心を重ねた冒険者だけが生き残れるんだ」


 グラントを始め、パーティメンバーは敵が動かなくなっても気を抜かない。

 槍で執拗に突き、頭部を破壊してやっと戦闘態勢を解除し警戒態勢へと移る。


「グラントさん、頼みます」


「おぅ、シン着いて来い。カマキリには用はねぇ、こいつは強いだけで素材は取れない嫌な奴なんだ。それじゃ死体を漁るぞ。身元を確認出来りゃいいんだが、使える物はなるべく回収だ。残して行ってもスライムの餌になるだけだからな。遺体は首が付いてたら刎ねろよ、アンデット化されないようにな」


 身元不明の遺体が四体で顔を見ても誰も知り合いでは無く、誰だかはわからなかった。

 遺体から貨幣が数十枚と保存食、ナイフと手斧、ショートソードとバックラーを頂いておく。

 後の武器は刃こぼれが酷かったり折れていたりして使えそうもなく、革鎧は鋭い鎌によって切り裂かれていた。

 遺体漁りをしている間にハンクとハーベイが犠牲者の傷や、足跡、武具の破損の仕方を調べ、何があったのかを調べていた。


「後ろから斬られてるな、下から上に切り裂かれた感じだ。天井に張り付いてたのを見逃して、背後から襲われたのか……手斧とショートソードは傷がない。この二人が最初にやられたってことじゃないか?」


「だな、慌てて反撃したが敵わずさらに二人がやられ逃走……前へと続いている足跡がその証拠。足跡は二人分、六人パーティかな? 上手く行けば生き残りに会えるかもな」


「若いな、おそらく新米ルーキーだろう。よし、ついでに生き残りも探すぞ!」


 カマキリの死骸と首を刎ねた遺体を通路の端へと置き捨て、一行は目的のマンイータートラップを探す。

 足跡を辿って行くと不意にそれが途絶えていて、その先に何か引き摺ったような跡がある。ハンクが警戒を促す。


「お目当てのマンイータートラップだ。先程の生き残りが引っかかった跡がある、戦闘準備!足元に気を付けろ、絶対に蔓を踏むなよ。ハーベイ、火矢の準備を頼む。シン、マンイータートラップの本体に火を点けると暴れて土が被せられてて見えない蔓が動くんだ。それで蔓の場所を把握しつつ、本体を撃破するのさ。動いてる蔓にも注意してくれ巻きつかれるからな」


 シンはまたブーストを唱えて先を見通すと、壁に人が入るほど大きなウツボカズラのような物が見える。

 右側の壁にいることを伝えると、ハーベイが火矢をシンの誘導で放つ。


「シン、お前のおかげで近づかなくて済んだぜ! ありがとよ!」


 放たれた火矢が命中すると、辺りの地面がうねり出した。

 さらに続けて火矢を放つ。

 動いている蔓を切り落としながら慎重に近づき、燃え燻っている本体に剣で何度も斬りつけズタズタにしてトドメを差すと、切り口から溶解し始めている人間の遺体が二体、体液と共に地面に落ちて来る。


「さっきのパーティの逃げた二人だな、残念な結果になっちまったな。よし、シン、切り落とした蔓を集めるぞ。長さや太さに関係なく持てるだけ持って帰るからな。シン、これはお前が全部持ってくれ、俺はギガントードの毒腺の方を全部持つから」


 グラントの指示に従い蔓を集めるが、中にはまだウネウネと動いている物もある。

 全部の蔓を背負子に乗せるがかさばるだけで重くは無い。

 蔓を集めている間に、遺体の首が落とされていた。

 酷いようだがアンデット化を防ぐためには仕方のないことだ。


「これだけあれば十分だ、次は三層に降りてギガントードを探すぞ! 索敵を怠るな、さっきのパーティの様になりたくなかったら気合い入れていけよ!」


 ハンクの号令で再びパーティは歩き出す……三層への階段はまだ遠い。











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