表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国の剣  作者: 0343
42/461

荷物持ち

 シンが適当に相槌を打ちながらどう対処しようかと頭を悩ませていると、思わぬ所から助け舟が出された。

 先程話しかけたギルド職員がやって来た。


「ああ、君、君、新人君、探すのを頼まれてた募集の件あったよ。おや? ポールさん彼とお知り合いで?」


 職員の顔を見たとたんポールの顔が曇る。


「いや、今知り合ったんだが……うちのパーティに誘おうかと思ってね……」


「あ~そう……でも今回はギルドの顔を立ててくれないかな? 申し訳ないけれども依頼処理が滞っていてね、少しでも減らしたいんだよね」


 そう言って職員が掲示板を指差す。

 ギルドの名前を出されると流石に強くは出れないのか、ポールは不快感を隠そうとはしないものの勧誘を諦める素振りを見せた。


「ちっ、そういうことならしょうがねぇな。貸しだぞ、貸し! 坊主、困ったら何時でも俺の所へ来いよ! いいな!」


 舌打ちしつつ不機嫌さを顔に出しながらギルドを出て行った。


「危ないところだったな……おっと失礼、私はギルドの職員のレムと言う。君、気を付けたまえ……奴は新人殺ニューフェイスキラーしさ、彼らと組んで迷宮に潜った新人はまず帰ってこない。迷宮の中では犯罪を立証するのはほぼ不可能に近い、だからあんな小悪党が野放しになってる。迷宮では自分の身を守るのは自分しかない、君も十分注意したまえ」


「助けて下さってありがとうございました。私はシンと申します。一つお伺いしたいのですが、依頼の件はあいつらを煙に巻くための方便でしょうか? もしそうでないなら紹介してもらえないでしょうか?」


「ああ、依頼があることにはあるんだが……冒険者としてじゃなくて荷物持ポーターちとしての依頼なんだが……それでもいいかね? まぁ新人はここから始める人も多いよ、荷物持ちでも迷宮に行くことは変わりないからね。そこで色々経験を積んで改めてパーティ募集に応じるって人もいるからね」


「そういうことなら是非お願いしたいです。このままだとまた変な奴らに目を付けられるかも知れないんで……さっさと経験を積んで冒険者として迷宮に挑みたいですから」


「いい心がけだね、依頼者も若くてまだ経験の浅い人達だから気が合うかもしれないよ。じゃあ、手続きするから別室に行こうか」


 こうしてシンの最初の迷宮探索は荷物持ちから始まった。


---


 ギルド職員のレムさんの言葉とは裏腹に紹介されたパーティは荷物持ポーターちを奴隷か何かと勘違いしているような奴らで、シンは何度も刀を抜きそうになるが、一度でも迷宮に潜らなければ未経験者として扱われしまい、次のパーティに参加するのも無理そうな状況だったので何とか堪えていた。


「おい、ポーターぼさっとしてないでさっさと戦利品ドロップを集めてこい! ったく使えねぇなぁ言われる前にやれよ!」


 戦利品と言っても素手のスケルトンを倒して地面に転がっているのは当然骨だけだ。


「…………この骨に何か価値があるのか?」


「ああっ? 価値があるか無いかは帰ってから調べりゃいいだろうが! ごちゃごちゃ言ってねぇでとりあえず全部拾っておけよ!」


 言われた通りにスケルトンの残骸を拾い集めるが何処をどう見ても価値などなさそうだ。

 こんな調子で利益が出るのか?……これじゃ前の荷物持ちが逃げ出すのも頷けるわ。

 シンはもうパーティメンバーの名前を覚えることすら放棄していた。

 今回無事に探索を終えられればそれでいい、もうこいつらと二度と組むことは無いだろう。


 ケイブウルフと戦っているパーティの様子を見る。

 別にシンはサボっているわけではない、初心者のポーターだから邪魔者と決めつけられ戦闘に参加させて貰えないのであった。

 ま、楽でいいけどね……しかし、攻撃はただ力任せに武器を振り回してるだけで、ケイヴウルフに間合いを見切られているな。

 あれじゃいくらやろうが当たらないだろう。おお! 魔法使いがいたのか! 一、二、三…………十五、詠唱長いな。十五秒かけて火の矢が一本か、だが放出系魔法使いを見たのは初めてだ。

 目の前で行われている戦闘を冷静に分析していると、戦闘音を聞いてか血の匂いを嗅いでか、次々と魔物が集まってくる。


「おい! 何ボサっとしてやがる! ポーターてめぇも戦うんだよ! ボケが!」


 前衛を務めるリーダーの名前はたしか……聞いたが覚えていない……が怒鳴り散らす。

 仕方なくシンは天国丸を抜き、苦戦している前衛を翻弄しながら後ろに回り込もうとしているケイヴウルフを鋭い踏み込みから横に一閃しケイブウルフの首を半ばまで斬り、一撃で仕留める。

 続けて間髪を入れずに二匹目に襲いかかり、一瞬怯んだ隙を見逃さずに頭部を唐竹割りにして瞬時に絶命させると、残りの敵はゆっくりと後退りしだし距離が空くと背を見せて逃走した。

 これで少しはこいつらも大人しくなるかと思ったら、勝てたのは武器のせいだなどとのたまい始め、ポーター風情には勿体ないから寄越せと、終いにはシンの天国丸を取り上げようとして来た。

 流石に堪忍袋の緒が切れたシンは松明を投げ捨て、武器を突き付けながら刀を奪おうとした相手の右手を抜き打ちの小手を決め斬り飛ばす。

 絶叫が迷宮に響く、おそらく直ぐに敵が殺到して来るだろう。

 最後尾にいる先程の魔法使いが詠唱を始める、詠唱の内容は火の矢だ。

 そうはさせじとシンが斬り込む、まさか自分に向かってくると思わなかったのか詠唱を中断して棒立ちになる。

 無防備な腹に拳を叩き込むとくの字に倒れ込みさらにその顎を蹴り上げて意識を飛ばす。

 倒れた魔法使いを盾にするように回り込むと、パーティの後ろに魔物の影が見えた。

 不意を突かれたパーティは抵抗する間も無く蹂躙された。

 襲ってきたのは毛の色が灰色をしている大きな猿。

 先程スケルトンの残骸を集めさせられてる時にシンをからかい槍の石突で突いてきた槍使いは、後ろから首筋に噛みつかれそのままうつ伏せに組み敷かれた。

 迷宮に入るときにワザと足を掛けて来た意地の悪い剣士は猿に喉笛を噛みつかれて死んでいた。

 シンに片手を斬り飛ばされたリーダーは壁に背を着きながら滅茶苦茶に剣を振っているが、やられるのも時間の問題だろう。

 後の二人はどちらも死んでいた。

 首の骨を折られたのが一人、もう一人は猿にマウントを取られ顔に齧りつかれて死んでいた。

 シンはとっとと退散することにする。

 魔法使いが気絶して倒れているが知った事ではない。

 シンはケイヴウルフに倣い、猿たちに向き合ったままジリジリ後退し距離が空くと背を向けて逃げ出す。

 獲物が手に入ったからか、猿たちは追っては来なかった。

 碌な物の入っていないポーターの背負子を投げ捨て、マナを体内で循環させブーストの魔法を唱える。

 ブーストの効果で目が強化され暗闇でもある程度は見通しが効く。念のため羊皮紙に木炭で書いておいた地図を見ながら出口へ向かって一直線に駈け出した。

 途中、スケルトンに遭遇するも無視して出口に辿り着く。

 太陽の位置から今は正午くらいだろう。

 朝、迷宮に入ってからそれ程時間は経っていない。

 出口を抜け、開放感から大きく伸びをしていると出口を見張る衛兵が話しかけて来た。


「おい、お前今日の朝入って行ったパーティの奴だよな? 他の連中はどうした?」


「灰色の毛をした猿の奇襲を受けて俺以外全滅した。俺は最後尾にいたおかげで逃げ延びる事が出来た」


 途中をすっ飛ばして説明するが、まぁ問題ないだろう。


「ああ、それは御愁傷様だったな。キラーエイプは偶に獲物を求めて二層から一層に上がってくると聞く、おそらくそれにやられたのだろう。一応ギルドの方にも説明だけはしておいてくれ」


 なるほど、あの猿の名前はキラーエイプと言うのか。

 それも本来ならば二層の敵だということがわかった。

 一層の敵で今日遭遇したのは、スケルトン、ケイブウルフ、ケイブバット、マーダーバニー、そしてキラーエイプ……他に比べてキラーエイプだけ飛び抜けて強かったのは下の階層の敵だからか。


---


 一応報告の為にギルドに行くと丁度、職員のレムさんがいたので彼に報告した。


「えっ? 一層にキラーエイプが上がって来てパーティ、イアンの栄光が全滅したって?」


 イアンの栄光とは、今日組んだパーティの登録名である。

 彼らが全員イアン村出身でいつか故郷に錦を飾る意味で付けた名前らしい。


「そうか、君だけでも生き延びてくれてよかったよ。貴重な情報も手に入ったしね。それでポーターの報酬なんだけども、ちょっとこれは面倒でね。今回は依頼人が先払いで報酬を払っているから死亡していても支払われるんだが、依頼人が迷宮で行方不明扱いになると、一ヵ月経たないと死亡認定されないんだ。だから君の今日の働きに対する報酬は一ヵ月後に支払うことになってしまう。遺体があれば即支払われるんだけどね」


「はぁ、わかりました……取り敢えず一度は迷宮に潜れましたし、これで未経験者ではなくなっただけでも良しとします」


「いきなりパーティ全滅なんて残念な結果だけど、気を落とさないで生き延びた経験を活かしてがんばりたまえ」


 クズの相手を半日もさせられた挙句、タダ働きとはなんてこった……だが収穫は多い、幾つもの貴重な経験と情報を手に入れられた。

 出来れば次は冒険者として潜りたい、それとまともなパーティと組みたい。

 そう思いながら、肉体的よりも精神的に疲れ果てたシンは黄金の楓亭へと肩を落とし歩いて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ