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帝国の剣  作者: 0343
41/461

迷宮都市

 迷宮都市カールスハウゼン、人口およそ六万人の大都市である。

 石造りの巨大な城壁が街をぐるりと囲んでいる。

 この世界の殆どの都市は大なり小なり城壁を有している。

 これは戦争のためだけではなく魔物の侵入を防ぐ役割も担っている。

 世界各地にある迷宮都市は迷宮で獲れる魔物の素材や発見物のおかげで交易都市として発展していった。

 迷宮都市カールスハウゼンもその例に漏れず交易型の都市である。



---



「い、命だけは助けてくれ!頼む!」


「どうせ見逃しても別の誰かを襲うだけだろ、お前らは人生の選択を間違えた。賊になるくらいなら迷宮に挑んで一攫千金でも狙うべきだった。」


 男は頬を涙で濡らしながら慈悲を乞う。

 だが非情にも死の旋風が男の首を刎ね飛ばした。

 帝国の賊に対する法は一律死罪、これに例外は無い。


 交易都市の周りには必然的に賊が多くなる。

 商人や旅人を狙うためだ。

 迷宮都市カールスハウゼンまであと少しという所で野営していると、少人数の賊に襲われた。

 装備の質から推測すると逃げ出した奴隷などではなく、迷宮都市に馴染めなかった冒険者の類かもしれない。

 アンデット化しないように全員の首を刎ね、懐をまさぐるが所詮はチンケな賊、大したものは持っていない。

 野営も一人で旅しているときより遥かに楽になった。

 今回賊の接近を教えてくれたのは龍馬のサクラである。

 褒美にサクラに干し肉を与えるとぐぅぐぅと歓喜の唸り声を出しながら齧りつく。

 今だからわかるが最初はこの唸り声も喜んでいるのか威嚇されているか判断が付かなくて苦労した。


「サクラ、助かったよ。これからも頼むぞ。」


 頼もしい相棒の首筋を優しく撫でると気持ちよさそうに目を細める。


 その後は何事も無くカールスハウゼンに辿り着く。

 城門の前は入城待ちの人々が列をなしており、すんなりとは中に入れない。

 城門で入城税銀貨一枚を払い中に入ると、まずは厩舎付きの宿を探すべく中央通りをサクラの手綱を引きながらゆっくりと歩く。

 呼び込みをしている安宿は避ける。

 こういう宿は大抵が大部屋で雑魚寝で、プライベートもへったくれも無い。

 それに防犯上宜しくない、シンの懐は褒賞で温まっており万が一これが知られたならば犯罪者が群がってくる事必定である。

 しばらく宿を物色しながら歩いていると黄金の楓亭というこの世界では珍しい三階建ての大きな宿屋を見つけた。

 中に入って話を聞くと、小部屋で鍵があり厩舎もあるという。

 ただし、当然値は張る。

 朝食夕食付きで一泊銀貨二枚、以前泊まったルーアルト王国の古都アンティルの宿屋の四倍である。

 さらに龍馬の世話代として銀貨一枚がかかる。

 一瞬迷うが、金が無いわけでもないので取り敢えず五泊分銀貨十五枚を払い部屋に案内して貰う。

 部屋番号二百五号室に案内され、旅装を解くとサクラの様子を見てからカールスハウゼン見物へと洒落込んだ。


---



 迷宮に一人で挑むのは死にに行くようなものである。

 挑むならば動きやすい六人から十人のパーティを組むのが常識だ。

 この人数以下のパーティもいないこともないが、ここカールスハウゼンでは六人以下だと入口で衛兵に止められる。

 それに荷物を持って帰ることを考えれば多いにこしたことはない。

 ならばより大人数で行けばいいのでは? と思うだろうが、迷宮は広い所もあれば逆に狭い所もあり大人数ではかえって動きにくくなる場合がある。

 それらを踏まえた上で長年掛けて導き出された最適解が六人から十人なのである。

 シンはまずギルドに向かった。

 ここカールスハウゼンのギルドも古都アンティルと同じく現代日本で言う職業斡旋所であった。

 ただし他の都市と違う所は、交易が盛んなこともあり荷運びや荷降ろしの仕事の割合が多いことと、迷宮に挑む参加者募集の張り紙があることである。

 シンは仕事の張り紙が貼ってある掲示板は無視して、迷宮関連の掲示板を見る。

 ケイブウルフの毛皮五頭分で銀貨四十枚だとか、マーダーバニーの肉一頭につき銅貨五枚などの所謂素材収集の張り紙から、求む! 三層までの経験者で前衛フロント希望者一名などの募集の張り紙など様々な要望の張り紙が所狭しと張られている。

 中には行方不明者の捜索などの依頼もある。

 ここでシンは厳しい現実に直面する。

 パーティ募集の張り紙を端から端まで見たが、どれもが経験者募集なのである。

 経験者以外で募集しているものは回復魔法などを使える魔法使いばかりで、未経験者が割り込む余地が無い。

 考えてみれば当たり前のことである。

 命が掛かっている迷宮にズブの素人を連れて行けばそれだけで負担になり下手をすれば自分の命が危うい。

 回復魔法を使えるなどよっぽど卓越した才能や技術が無い限り素人をホイホイと参加させたがるパーティは無いだろう。

 これにはシンもほとほと困り果てる。

 ギルドの職員に初めて迷宮に挑む者はどうするのか? と聞くと村や街などから来る者は同郷の者たちと最初からパーティを組んで来る者が多いと言う。

 それ以外の者は迷宮の入口であぶれ者同士組んで入ることが多いが、そういうパーティは生還率が低かったり大小いざこざが絶えないと聞く。

 極めて現実的な壁にぶつかってしまったシンは思わず天井を仰ぎ見る。

 その様子を見たギルド職員は、稀に素人でも募集がかかることがあるから小まめに掲示板を覗きに来るといいとなぐさめも含んだ声で言うと別の仕事に取り掛かるため離れて行った。


 その様子を離れた場所から二人の男が興味深そうに眺めていたのにシンは気が付かなかった。


---


 背の低い中年の男が横にいるひょろりとした中年の男のわき腹を肘で突く。


「おい、ジャックあれを見ろ。馬鹿! まともに見るんじゃねぇ、さり気なく相手に気づかれないよう注意して見ろ」


 ひょろりとした男はジャックと言うらしい。

 キザったらしい風貌で左耳が少し欠けている。

 ジャックは言われた通りにさり気ない風を装って対象を観察する。


「ポール、あれか? 本当に素人か? それにしてはいい武具もの持っていやがるぜ? もしかしたら違うんじゃねぇか?」


 ポールと呼ばれた背の低い男は右の頬に縦に刀傷がはしっており、濃い眉と相まって厳つい顔つきである。

 対象がギルドに入って来た時から、さり気ない風を装って観察していたと言う。


「なるほど、なるほど……装備がいいのは騎士崩れかもしれないぜ? 腕に覚えがあると厄介じゃねぇか?」


「なぁに、不意を打てばいいだけの話さ、それに人数差で畳み掛ければイチコロだろうよ。それにあの剣と鎧、かなりの値打ち物だぜ……家宝か何かを持ち出して来たのかも知れねぇな……」


「んじゃ、売リ払えば久しぶりに美味い酒にありつけるって寸法だな」


「ああ、お前はガットン達に知らせ来い。次のターゲットが決まったってよ……俺はこのまま奴を逃がさないように話を付けてくる」


「わかった! 久しぶりの大物だって言えば文句なしでやるだろうよ、じゃあそっちは任せたぜ」


---


「よう! 若いの、何をそんなに困ってるんだ? 良ければ相談に乗るぜ?」


 顔に満面の笑みを浮かべながらポールはシンに話しかける。

 シンはポールを見て心のどこかに微かに引っかかるものがあった、顔は笑っているのに目が笑っていない。

 注意深く相手を観察しつつ、迷宮に挑みたいが経験者以外の募集が無くて困っていることを話す。


「ああ、わかるよ。経験者が優遇されるのは仕方がないんだ。だが、君は運がいい! 丁度俺たちのパーティに一人空きが出来てな、募集しようと思っていたのだよ。君さえ良ければ俺たちのパーティに加わらないか?」


 シンは渡りに船だと思ったがどうもタイミングが良すぎる。

 警戒が必要かも知れないと思いつつ詳しい話を聞くことにした。


「素人が相手にされないからと言っても一人で迷宮に挑むのは馬鹿のすることさ、絶対にパーティを組むべきだ。俺たちのパーティの一人が故郷くにに帰ることになってね、丁度前衛に一人欠員が出た所だったんだ。いやぁ、本当に君は運がいいな! 俺たちのパーティに加わればあっという間にベテランの仲間入りさ!」


 胡散臭すぎる……厄介なのに目を付けられてしまったな、この手の奴らはしつこい。

 今ここで断っても付き纏われたり嫌がらせをされたりするのは目に見えている。

 それだけならまだいいが、おそらくそれだけでは済まない気がする。

 良く見ればさっきからこっそりと俺の装備をチラ見してるのがバレバレだ。

 俺を誘い迷宮に潜って人気のないところで殺して装備を奪うといったところか……そういう輩がいると事前に聞いていなければ引っかかっていたかもしれない、黄金の楓亭の主人には感謝だな。

 さて、どうするかな……




残酷な主人公だと思うかもしれませんが、主人公は敵対する者の命を奪う事に躊躇はありません。

躊躇すれば最悪死ぬことがわかっているので、迷わず首を刎ねます。

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