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帝国の剣  作者: 0343
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籠城

 シンが食事を摂っていると、身形の良い老人と御付の騎士が近付いて来る。


「貴公の働き、誠に見事であった。儂はカーン城主ヴァルター・フォン・ハーゼと申す、良ければ貴公の名をお聞かせ願いたい」


 重厚かつ張りのある良く通る声だな、元気な爺さんだ……貴族か、あまり関わり合いになりたくないな。

 そんなことを考えながらシンは立ち上がり一礼して名乗る。


「俺の名はシン、傭兵です」


「遊歴の騎士かと思ったが……帝国の人間でもないようじゃの、生まれは何方であろうか?」


「遥か東の国、日本が俺の祖国です」


「聞かぬ名じゃ、余程の遠国と見える。見事な大剣じゃの、良ければ見せて欲しい」


「……どうぞ」


 シンは城壁に立てかけてあった死の旋風をヴァルターに手渡す。


「おお、これは重いのぅ!儂にはとても扱えぬわい、これをあれ程軽々と振り回すとはのぅ……これはこれは、強力なマジックウェポンじゃな……どうやってこれ程の物を手に入れられた?」


 ヴァルターが目を細めながら死の旋風をマジックウェポンだと言うと、御付きの騎士たちがどよめく。

 シンはこれまでの経緯を話すと、騎士たちだけでなくヴァルターまでもが驚いていた。


「ソシエテ王国と我が帝国とは国境を接してはおらぬが黒蛇騎士団とその長、ザギル・ゴジンの悪名は鳴り響いておる。貴公が討ったことは今初めて耳に致したわ。噂では相当の化け物と聞いていたが……」


「勝てたのは運が良かったからで、もしもう一度戦えと言われたらすっ飛んで逃げますよ」


「いやいや運も実力のうちと言う。眼福であった、剣をお返しいたす。……貴公はこの度の戦をどうみる?」


 シンは死の旋風を受け取りながらヴァルターを見ると、笑顔だが目が笑っていない。

 警戒されているのか? いや試されている感じだ……一瞬きちんと答えるかはぐらかすか迷ったが、素直に答えることにする。


「敵がこのままの調子なら十日程はもつでしょう。敵の指揮官は用兵に疎いと思われますし……敵の進退がバラバラで統一性がないことから指揮系統も一本化されていない可能性もあります」


「ほう、あの戦いの最中でよう見とるな、敵が用兵に疎いと思った理由はなんじゃ?」


 ヴァルターの目がすぅっと細まり、心の奥底を覗かれているような気になる。

 シンは若干気圧されながら話した。


「まず、城を手に入れたいのならば何処か一か所相手の逃げ道を作っておくのが定石です。さらに攻め方に工夫がない。数が圧倒的に有利なのだから交代で昼夜問わず攻めて、こちらの疲労を誘えば良いのにそれをしない。攻城兵器の用意がないことなどから、敵の指揮官は戦に明るくは無いと思います」


 ヴァルターは目力を弱め、満足気に頷く。


「貴公……シンの言う通りじゃ。十日後に援軍が来る、それまでしっかりと頼むぞ!」


 肩をバンバンと叩くと踵を返し楼閣へと戻って行った。



---


「親方様、あの者一体何者でしょう? 本当にあのザギル・ゴジンを倒したのでしょうか?」


 後ろに控える中年の騎士、カール・デルプが訝しんでいるのを見てヴァルターは振り返って答える。


「ザギル・ゴジンを倒したのは事実であろうよ、一介の傭兵があれ程のマジックウェポンを買えるはずもないからのぅ、それよりも儂が気になったのは戦いの最中に敵情を見抜いたこと。あの答弁を聞く限り用兵学を学んだことがあるのではないかと思う。それにお主は見たか? あの者、シンが腰に履いておった剣を……片刃で僅かだが反りがあった。近隣諸国であのような片刃の剣を使う国はない。東から来たと言っておったな……遠国の貴族かもしれんな」


「ですが貴族にしては礼儀を知りませぬ」


「うむ、それは儂も気になっておった。教養は高そうじゃが……傅かれる側の人間だとすれば……なんと言うかちぐはぐな感じのする男じゃのぅ」


 楼閣から東門の方を見てヴァルターは目を細めた。


「シンの言う通り敵は用兵を知らん。敵の攻勢の合間にしっかりと休息を取らせよ、今は昼過ぎ……このまま敵が攻めて来なかったならば、恐らく夜襲をしかけてくる腹積もりじゃろう。わかりやすくて助かるのぅ、これなら何とかなるじゃろう」


 ヴァルターは細かい指示を飛ばすと自身も休息するために奥へ下がって行った。



---



 敵は昼過ぎから攻撃をしては来ず、夜になって攻撃を開始した。


「単純じゃのぅ、この調子なら士気さえ維持出来れば凌げるか……篝火を絶やすな、薪はいくらでもある」


 敵を見れば夜襲などしたことないのだろう、動きは悪く攻撃も散漫である。これでは夜襲の意味が無い。

 それを見てヴァルターはやれやれといったように首を振った。

 そもそも夜襲とは不意を突いたり、もしくは昼夜問わぬ連続した攻撃で敵の疲労と士気を挫いたりと、明確な何らかの目的を持って仕掛けるものである。

 だが、敵はただ夜に昼と同じように攻撃するだけであった。

 この日の夜襲の成果がほぼ無かったことから、その日以来夜襲は仕掛けてこなかった。


 籠城五日目に敵はやっと攻め方を変えた。

 東門への集中攻撃である。だが、他の門への陽動などは無く単純に東門に人数を集めただけであった。


「別の意味で頭が痛いのぅ、張り合いが無さすぎると兵がダレてしまうぞ。東門に応援部隊を送れ、まぁ、ないじゃろうが他の門も警戒を怠るでないぞ」


 シンはと言うと大忙しである、斬っても斬っても次から次へ敵が昇ってくる。

 城壁の上は血と脂で滑りやすくなっており、踏ん張りが利かないため思わぬ苦戦を強いられていた。

 応援部隊が来るとシンは必死に叫ぶ。


「おい! 死体をどかしてくれ、あと水を汲んで来て血と脂を流してくれ、急いでくれ!」


 夕刻には攻撃が止んだが、東門担当の兵は皆、剣を杖にして肩で息を吐き座りこんだ者は立ち上がることが出来ないほど疲弊していた。

 楼閣からそれを見たヴァルターは顔を顰める。

 一番の敵は疲労である。

 これを続けられるととても二週間耐える事は出来ない。


「拙いな、東門の連中を下げて他の門から部隊を抽出し東門の防衛に充てろ」


---


 それから三日間に敵は攻めてこず、睨み合いが続いた。

 これには城兵大助かりで交代で休息することが出来た。

 何故、敵は三日間攻めて来なかったのか? それは九日目の朝にその理由がわかる。

 破城鎚を作っていたのである。

 ヴァルターは頭を抱えた。

 破城鎚にではなく、敵の張り合いのなさにである。


「全くどんな手で来るかと思えば、今頃になって攻城兵器を作るとは! 大体そのような準備は攻め入る前にする事であろうが! 運び手に矢を集中させよ、破城鎚には火矢を放て、城門下まで来たら上から油を掛けて燃やしてしまえ。この城の門は全て鉄門じゃから気にせず燃やせ」


 ヴァルターは段々とイライラが募ってくる。

 おそらく生涯最後の戦の相手があまりにも不甲斐なさすぎて腹が立って仕方がなかった。

 しばらくして東門を見ると案の定、急ごしらえの破城鎚で鉄門を抜くことは出来ず黒煙を吐き門前で燻ぶっていた。



---



 その後も単調な攻めの日々が続いた。

 籠城は十五日目を過ぎ、兵達の中から本当に援軍は来るのか疑問視する声が上がり始める。

 敵の攻撃が緩慢なので凌げてはいるが、危険な兆候ではあった。

 ヴァルターは遅すぎる援軍に苛立ちと不信感を募らせる。

 気分転換も兼ね、交代で休憩しているシンを呼んでくるように部下に伝えて楼閣の上から戦況を見つめる。

 やがてシンが呼ばれてくると、自らワインを木製のジョッキに注ぎシンに手渡す。


「シン、お主の言う通りだったの、敵は用兵を知らん。それどころか張り合いが無さすぎて拍子抜けじゃわ」


 シンは並々と注がれたワインを零さないように軽く口をつけた。


「油断は禁物です。以前の東門集中攻撃は危なかったですし、負傷者と死者は増えることはあっても減ることはありません」


「ふふっ、普通は年長者が慎重論を唱えねばならんのだが逆じゃのぅ。シンよ、援軍が遅れておる。兵達も不満を漏らしておるだろう?」


「はい、自分たちは捨て駒ではないか?と言い出す者も僅かですが出始めています。このままでは危険かと……」


「ふむ、どうするかのぅ? 敵がアホで弱いからこの兵力さでもなんとかなっているが、士気が萎えたら流石にどうにもならん」


 まるでシンを試すかのようにニヤニヤと目を細めヴァルターはワインを喉に流し込む。


「……現状の打開策ですか……博打要素がありますけど手はあります」


「言うだけ言うてみぃ、どんな馬鹿げた策でも怒りはせんよ」


「では……少数の歩兵を敵に変装させて夜襲を掛けます。その際に、さも敵同士が裏切ったかのように騒ぎ立て同士討ちを狙います。指揮官を討てればよし、もし討てなくてもこちらの策で勝利したとわかれば城兵の士気も高まるでしょう。また夜明けまでに北の森に少数の兵を派遣し森に軍旗を立てて援軍が来たように偽装します。夜明けとともに狼煙を上げさせ、こちらも呼応したかのように狼煙を上げ返したりすればより真実味を持たせられるでしょう。同士討ちが成功していれば敵の士気も落ちているはず、諦めて兵を退く可能性があります。敵が兵を引いたら程々に追撃を掛ければもうこの城には戻ってこないと思います」


 ヴァルターの目がスッと細まる、取り敢えず合格かなとシンは息を吐き注がれたワインを一口飲んだ。


「ふふっ、ふはははは、シンよ、お主何者じゃ? 一介の傭兵風情では無いな?明らかに兵学を学んでおるな……まぁよい、敵に斬り込む夜襲部隊の指揮はシン、お主が執れ。お主の策じゃからな、その方がやり易かろう」


 やはりそうきたか……予想通りの結果にシンは驚かない。

 シンは兵学など学んだことは当然ない、日本の義務教育では教えないし、高校でも教わらないだろう。

 孫子を図書館で読んだ程度である。

 自分に他人を指揮出来るのか不安はあったが、敵の真っ只中に夜襲で斬り込む事については不安はなかった、あまりに敵がお粗末すぎたためである。


「わかりました、用意の方はお任せします」


 こうしてシンの策が用いられ、夜襲の準備が進められていった。




















評価、ご意見、ご感想お待ちしております。

女騎士とか出した方がいいですかね?自分が女騎士とか想像すると女子プロレスラーみたいなガタイの良い人になっちゃいますけど・・・

だって華奢で綺麗な人が戦場に出てくるわけ無いじゃないですか、綺麗だったら即嫁いじゃいますよね

戦場に出す万人が納得する理由が欲しいですよね、戦場に出さないならお姫様でいいのかな?

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