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帝国の剣  作者: 0343
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報告と今後の外交指針

ノートパソコンのHDDが死にまして、慌ててHDD買いに行ってOSの入れ直し等をしていたら、あっという間に土日が終わってしまいました。原因の究明に時間をかなり使ってしまい、その分投稿が遅くなり申し訳ありませんでした。





 翌日、シンは約束通り宮殿へと向かう。あいにくにも朝から大粒の雨が降り注ぎ、頭から被った雨避けの外套の外側をぐっしょりと濡らしていく。

 外套は外側に獣脂を塗り固め、内側は蝋を塗っているため少しぐらいの雨であれば濡れはしないのだが、スコールのようなこの雨の前では、対して役に立ってはいなかった。

 顔にぶつかる生暖かい晩夏の雨。その雨には、ほんのりと僅かに秋の匂いが嗅ぎとれた。


「ふぅ、まいったぜ。下着までビショビショだ」


 タオルを渡しに来た侍女が、お着替えをご用意致しますので、申し訳ありませんが今少しお待ちくださいと言って応接室を出て行った。

 自分のような大男に合うサイズの着替えなどあるのだろうかとシンは思ったが、しばらくした後に用意された着替え一式を見て、おおと感歎の声を上げた。

 侍女がまだ控えているにも関わらず、シンはぱっぱと濡れた服と下着を脱ぎ捨て、体をタオルで拭き着替える。

 いきなり目の前で裸身を晒すシンに驚いた侍女は、キャっと言う声を上げて手で顔を隠しながら顔を背ける。

 食い入るように見て来るウチの女どもとは偉い違いだと思いながら、テキパキと着替えを済ます。

 濡れた衣服を侍女に預け、いつもの席に座って用意されたお茶を啜っていると、皇帝ヴィルヘルム七世が宰相と何名かの大臣を伴って部屋に入って来た。


「雨の中ご苦労だったな。経済や外交面の話にもなると思われるゆえ、予め宰相らを連れて来たぞ。構わんな?」


 シンは口に含んだお茶を飲み干しながら、こくりと頷いた。


「ではシン、先ずはエルフの国とゴブリンの国について知り得た情報を頼む」


 シンは先ずロラの故国であるシュバーラ王国の話をした。


「う~む、王の器量悪しといったところか……エルフは数こそ少ないものの、剣と弓に優れ多くの者が魔法を使えるという優れた種族ではあるが元より排他的な性格の上、愚王と来ては交渉は困難であると言わざるを得んな。どう思うか?」


「シン殿のお話を聞く限りでは、同盟どころか共闘すら危ういかと思われまする。ですが、結果はどうであれ使者は送るべきでありましょう」


 宰相エドアルドはそう言うと、自らの手でカップにお茶を注ぎ口に含んだ。


「うむ、使者は出す。そなたの言う通り、話し合いどころか追い返される可能性が高いが、こちら側から使者を送ったという事実を積み上げる必要があるからな」


 その場に居る全員が頷いた。エルフ国のシュバーラ王国の戦況などは、諜報と影に調べさせる事としてこの件は終わり、次はゴブリンの国についてシンは話した。


「やけに肩入れするではないか、何故そこまでゴブリンに肩入れするのだ?」


 皇帝としては自分が外戚によって苦しめられていたというのに、シンがそのゴブリンと仲良くやっていたのが気に入らない。単なる嫉妬、だがそれは冗談のレベルでありシンもその棘を含んだ言い方に対して、ただ苦笑を浮かべただけであった。


「まずゴブリン族の優れた点を……それは薬学だ。俺やエリーは、冒険者として薬学を教わり多少は詳しいが、それらを軽く凌駕する知識を戦士であるギギは有していた。そのギギが言うには、祈祷師や薬師などが色々な薬草を栽培しており、その数は数百品種を超えると言う。実際にギギは、今回の作戦中にも役立つ薬や毒の数々を作りだし活用していた。効果は抜群、ゾルターンもその知識に脱帽するほどだ」


 賢者として名高いゾルターンが認めたとなると、その知識は本物であろう。

 皇帝以下、シンを除く全員が顔を見合わせ強い興味を示した。


「だが、彼らがその技術や知識を軽々と寄越すとは思えぬ。どのような対価を示すのが良いか、よくよく思案せねばなるまい。何かこう、彼らが強い興味や欲する物や技術があれば話が早いのだがな……」


「それについても心当たりがある。ギギは鉄に強く惹かれていた。ゴブリン族の武器は青銅製らしいんだ。鉄の産出が僅かで銅が多いらしい。銅では柔らかすぎるので、錫を混ぜて青銅としているのだそうだ」


「銅ですと!」


 大臣たちの口から驚きの声が上がる。皇帝も顎に手を添えて、銅か……と小さく呟く。


「シン、今帝国は経済の面でちと困ったことがあってな……」


「ん? 国庫は潤っているんじゃなかったのか?」


「いやそうではない。貨幣の発行の問題なのだ……我が国では金貨、銀貨、銅貨の三種の貨幣を使っているわけだが、シン……どれを一番多く作らねばならぬかわかるか?」


「おいおい、馬鹿にし過ぎだ。銅貨に決まっている。庶民の手にあるのは多数の銅貨と少数の銀貨なのは、周辺各国同じのはずだ」


「その通り。許せ、試したのではない。どう認識しているのかを知りたかっただけだ。その銅貨なんだが、銅貨の元の銅が帝国では殆ど取れぬ」


「はぁ? じゃあ今までどうやりくりしてきたんだ?」


「隣国ルーアルトからの輸入が大半であったが……後は言わずともわかるな?」


 先の戦争のせいで、国家間大規模な取引が無くなってしまったため、帝国は自国で産出する極僅かな銅をもって貨幣の鋳造に充てるしかない状態になってしまった。

 そのせいで銅の価値は高騰。銅貨一枚を作るのにそれの何十倍のコストが掛かるようになってしまった。

 日本でいうと一円玉が似たよう状況である。


「なるほど……帝国は鉄は腐る程出るが銅は殆ど取れないわけか……渡りに船とはこの事だな」


「うむ、だがいきなり弱みを見せてしまうのは、外交としても商売としても下策に過ぎよう」


 言いたいことはわかるが、シンの考えは全くの逆であった。

 ギギと接して、彼から様々な話を聞いてわかったことがある。彼らは侠の心を持っている。

 ここは光武帝に倣い、赤心を推して腹中に置くべきではないだろうか? 


「ああ、言い忘れていたが俺はギギと血の盟約を交わした」


「血の盟約? 何だそれは?」


「簡単に言えば、生死を共にする義兄弟ってところだろうな。侠気を持つゴブリン族、俺はすっかり気に入っちまったよ。ここはいっそのこと、腹を割って話すべきだと俺は考えている。それにギギも、帝国と自国との国力の差に気付いている。向こうから仕掛けて来る可能性は低い」


 侠気……何かと合理的な帝国の民にはあまり馴染みの無い言葉である。

 皇帝は迷う。シンが信じるゴブリン族と同盟を結ぶか、それとも国力差を思い知らせて隷属させるか……

 だが、次のシンの言葉によって皇帝の腹が決まる。


「帝国は先帝陛下が、亜人追放令を発して亜人たちの受けが悪い。亜人追放令は撤回されたものの、未だに根強い不信感があるだろう。ここでもし、亜人であるゴブリン族と強い友誼を結べば、他の亜人種族たちも多少は帝国を見る目が変わって来るのではないだろうか? 次に戦でラ・ロシュエルに勝っても、すぐまた亜人たちとの戦争という事にでもなると、いくら強大な帝国といえどもかなりしんどいだろうしな……」


 皇帝も次の聖戦に勝っても、いきなりラ・ロシュエル王国の全土を征するのは、不可能と見ている。

 戦後処理として領土の割譲させ、ラ・ロシュエルはあえて残し周辺の亜人たちや、南方の小国家群と相争わせ、どこも力をつけさせぬようにするのが良策であると考えていた。

 となると、ラ・ロシュエルは当然帝国を心の底まで恨むだろう。それに対抗する亜人たちを帝国のシンパとするのに一役買うとするならば、シンの言う通りにしても良いだろう。


「あいわかった。シン、ギギ殿との会見を余は希望する。いつが良いか……いや、そうではないな。何時でもギギ殿が望まれるときにするべきであろうな」


 大臣たちの幾人かは、銅の問題の解決の予感に安堵の溜息を放つ。

 このままでは、何れ銅貨と銀貨の価値が入れ替わりかねない状況となっていたのだ。

 後世に無能な為政者としての名を残さずにすんだという事も、彼らの口元を綻ばせている理由の一つだろう。


「わかった。けど、最初に送る使者が持って行く音物は、相手の度胆を抜くような物にするべきだろうな。その方が何かとやり易くなるだろう」


 皇帝も元よりそのつもりである。皇帝は早速宰相と大臣に、音物の選定作業に入るように指示をした。

ブックマークありがとうございます! 投稿してないのに増えてたのでびっくりしました。感謝です!


ドラクエ、ちょびっとだけやりました。最初の仲間がパーティに入るところまで。

触って見た感想としては、8に近い感じかなぁと……

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