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帝国の剣  作者: 0343
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少女シオン

 討伐軍は街道沿いにのさばる賊を撃滅しながら北方辺境領近くのクローゼ村を目指している。

 捕まえた賊も情報を聞き出した後は容赦無く処刑する。

 この国では元々、賊は死刑なので戸惑う者はシンだけだった。

 裁判も無しか、まぁ放火、強姦、強盗、殺人、裁判あっても死刑か……現代日本でも死刑だな。考えてみれば凶悪極まりないな、情けをかける必要ないわ。


 後ろを見れば相も変わらず、不機嫌な顔をしたシオンがいる。

 最近はこの二人を見て、部隊内でもペアを組む者も出始めていた。

 最初、賊の首を全部シオンに譲っていたが最近は、シオンが折半で良いと言ったので賊の首の報酬は折半していた。

 これまで二人で狩った首の数は二十二、部隊内でも討伐軍全体でも抜きん出ていた。


 古都アンティルを出て八日目の夜の事だった……

 この日も昼過ぎに囮作戦に引っかかった賊を蹴散らし、コスラエ川の河原で野営をする。

 部隊ごとに交代で、川で体を洗うために男たちが飛び込んで行く。

 シンは夕方に順番がきて、体にこびり付いた返り血と汗や戦塵を落とす為に川に入り体を洗う。


「シオン、水が冷たくて気持ちがいいぞ、お前も入ったらどうだ? ついでに洗濯もするといい」


「私はいい」


 シオンは洗濯だけすると、シンから顔を背け足早に河原から立ち去った。

 入浴時間が限られているのでシオンばかりに構っておられず、洗髪や体の洗浄、洗濯を手早く済ます。

 しょうがない奴だと思いながらも、最近では戦闘中は息が合ってきており当初の刺々しい雰囲気も若干和らいできた。

 それにシンが朝晩やる素振りなどの稽古を覗き見て真似をしているのを知ってからは、かわいらしささえ感じていた。


 その日の夜中、シンが尿意を催して起きると傍で寝ていたシオンの姿がない。

 シンは刀を腰に差し、警戒しつつ辺りを見回し耳を澄ます。

 するとかなり遠くで微かに水音が聞こえる。

 敵か、それとも魚が跳ねただけか……警戒しながら川に近づくと人影が川の中に見えた。

 雲が出ており月も隠れがちで光源が乏しいため、何者かはわからない。

 慎重に音を立てずに近づいていくと不意に雲が晴れ、月明かりが川面を照らす。

 そこには川で水浴びをしているシオンがいた、ほっとして声を掛けようとしてシンは思わず息を飲んだ。

 シオンの細い体に微かに膨らんだ双丘を見て、シンは動揺し後ずさる。

 草の揺れる音にシオンが反応しシンの姿を見つけると、体を隠しながら川にしゃがみ込んだ。


「見ないで! 後ろを向いて!」


 ハッとしてシンが後ろを向くとシオンが川から上がる音がした。


「この変態野郎、覗きなんて最低だわ!」


「なっ、俺はお前を心配してだな……」


「嘘おっしゃい、男なんて皆獣だわ、信用なんて出来るもんですか! で、どうするの? 私を犯す? それとも騎士に突き出す? 好きにすればいいわ」


「待て、待て待て、男の振りをして傭兵になったのは何か理由があるんだろ? 俺は何もしないさ、今まで通りでいいさ」


 会話の間にもシオンが服を着る音がシンの耳に響いて来る。

 股間を見ると痛いぐらいに勃起している。


 やっぱ溜まってるのかなぁ……これが終わったら娼館に行くことも考えよう。

 取り敢えず今は静まってくれ! 頼む! 素数を数えるんだ、一、二、三、五…………


「もうこっちを向いてもいいわよ」


「いや…………このままでいい。一つだけ教えてくれ、なんで傭兵になんかなった?」


「…………いいわ、教えてあげる、その代りこの事は内緒にして頂戴」


「わかった、誰にも言わない」


「私は北方辺境領の外れにあるチューク村に住んでいたの、今からだいたい四ヵ月前に賊に襲われたわ。

その時に父や村人は勇敢に戦ったけど皆殺された。母と姉は犯され散々嬲り者にされてから鍋で煮られて喰われたの! 母と姉が何人もの死体を私の上に被せて隠してくれたから助かった……でも村の女子供が犯され、嬲られ、さらには喰われるのをこの目で見てしまった! あのケダモノ共、絶対に許さない! 必ず見つけ出して殺してやる、絶対に、絶対によ!…………賊の頭領らしき男は身の丈が2メートル半はあったわ、大きな剣を軽々と振る化け物、人の肉を食らう化け物よ。でも何年掛かろうとも必ず見つけ出して殺してやるわ、だからお願い、邪魔をしないで頂戴」


「わかった、邪魔はしない。すまなかったな、辛いことを思い出させてしまって……明日に備えてもう寝よう、すまないが先に戻っていてくれ」


 シンは野営地に戻るシオンの小さな後ろ姿を見て溜息をつく。

 少女は地獄を見たのだ、今までの戦場など生温い程の地獄を……

 シンはこれからどう接したらよいのか、敵討ちを手伝うべきなのか、それとも関わり合いにならない方がいいのか……月を見上げながら考え、悩み、そして朝を迎えることになった。


 朝食の前に朝の鍛錬を始める。


「シオン、居るんだろ出てこいよ」


 シンが顔も向けずにそう後ろに声を掛けると、茂みの中からシオンが現れる。


「剣を教えてやる、と言っても俺も未熟だがそれでもいいなら教えてやる」


 シオンは黙ったままシンの隣に並ぶとシンの素振りの真似をする。

 少女の体は細く、力は弱い。まともに打ち合うことなど出来ないだろう。


「その剣は少しシオンの体には大きいな、もっと短い剣にしたほうがいい」


「父の形見なの……剣だけじゃないわ武器や着ているものから何もかも全て村の人たちの形見なの。敵を討つために勝手に拝借させてもらったけど、きっと許してくれるわ」


「わかった、だがシオンは非力だ、打ち合いは絶対にしてはいけない。隙を突いて一撃で倒す、突きを重点的に教えよう」


「お願いするわ…………それと黙っててくれて……ありがとう」


 行軍中も二人は時間の許す限り鍛錬に勤しんだ。

 それから三日後、昼前にはクローゼ村に着くという所で先触れに出した兵士が慌てて戻って来た。


「た、た、大変です、村が、クローゼ村が襲われて村人たちが皆殺しに……」


 これまで賊相手に楽勝ムードの漂う討伐軍に緊張がはしった。

 シンもこれまでにない嫌な雰囲気を感じながら、指揮官の指示を待つ。


「よし、第一部隊先行してクローゼ村に急行する、急げ! 出発するぞ!」


 隊長のスタルフォンの命令で第一部隊は行軍の足を速める。

 予定より二時間程早く着いた第一部隊であったが、村の惨状は想像以上であった。


 村の家屋は数件が焼けており、入口の家の壁に人が貼り付けられており、体には無数の矢が突き刺さっていた。

 村人の体には血で的を描かれており、残虐なゲームに興じたであろうことが誰の目にも明らかであった。

 女性は老いも若きも裸に剥かれており激しい凌辱のあとが残っていた。

 大人の男の死体は無造作に打ち捨てられていたが、子供たちの死体が無い。

 スタルフォンを始め皆がどこかに避難させてのではないかという希望を持ったが、それは粉々に打ち砕かれることになる。

 村の中央の広場にに釜が集まっている、釜の中から煮られた人間の手足が覗いていたのを見て傭兵達も耐え切れずにそこらかしこで嘔吐し始める。

 釜が集まる中央にはトロフィーでも飾るかのように子供たちの首が並べられていた。

 その首だけになった子供たちを見て、釜の中の手足の持ち主であろうことが、言わずともわかってしまう。

 釜の傍には骨が散乱しており、人肉を喰ったことを物語っている。

 シンもそれを見て堪えきれず嘔吐する。

 話で聞くのと見るのでは大違いである。


 本当に人を喰ってやがる、こいつらが何をしたって言うんだ! もう相手を人間だなどとは二度と思うまい、必ず報いを受けさせてやる!


 シオンを見ると顔を真っ青ににてブルブルと身体が震えていた。

 だが目は復讐の炎に燃えており、堅く握られた拳は怖れでは無く怒りに震えていた。


「同じだ、私の村と同じだわ……あいつが来たんだこの村に! 敵を討つわ、絶対に!」


---


 スタルフォンが念のために辺りに斥候を放ち、残ったもので生存者を探してみたが誰一人生きているものはいなかった。

 後続の部隊が来るとまた嘔吐があちこちで始まり、酸っぱい空気が村中に漂い始める。

 騎士は怒り、兵は怯えた。

 釜の上に浮いた人の脂がまだ固まりきっていない事と、斥候の報告で足跡が隣の村に向かっていることがわかると一部隊を後始末に残して、残虐な賊を捕捉撃滅せんとし討伐軍は足早に追跡を開始し始めた。










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