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帝国の剣  作者: 0343
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少年シオン

 賊討伐軍の出発の日の朝、シンは集合場所へ行くと早速揉め事に遭遇した。


「何で俺が荷駄隊なんだよ、前で戦わせろよ!」


 騎士にまるで噛みつかんばかりに吠えるのは、先日の採用試験でシンのすぐ後に戦った小柄な少年だった。

 革のジャケットに革のズボン、背にはリュックを背負い、腰にはショートソードとダガーを履いている。

 髪の色は栗色で瞳は薄茶色でキャンキャン吠えたてるさまは小型犬を彷彿させる。


 騎士はもっともな理由を述べるが、少年は納得しない。

 騎士とシンの目が合った。

 ヤバイ、と思ったがもう遅い。


「おお、お前は試験でレイランを破った奴だな。丁度いい、お前なら一人くらい任せても大丈夫だろう。

こいつの面倒を見てやれ、いいな」


 何が丁度いいのかわからないが、面倒な厄介ごとを押し付けられたシンが断ろうとすると


「傭兵は雇い主の騎士の命令には絶対服従、嫌だと言うなら解雇する。じゃあ、後は任せるぞ。あとお前の直属の上司の騎士はスタルフォンだ。今後の指示はスタルフォンに聞け」


 言う事を言うとさっさとどこかへ去って行った。

 シンと少年はその場に取り残される。

 取り敢えず自己紹介でもするかと思い、少年に話しかける。


「シンだ、よろしくな」


 だが、少年はシンを睨み付けるばかりで名乗りもしない。


「名前、教えてくれ。何と呼んだらいい?」


「……………………」


「よし、名乗りたくないなら構わないがお前の事を呼ぶときはチビと呼ぶことにする」


「…………シオン……」


 そしてまた沈黙が訪れる。

 シンはやりにくさに内心頭を抱えてしまう。


「よし、シオン取り敢えず上司らしい騎士のスタルフォンの所へ行くぞ」


「……………………」


 返事も無いが一応後を着いて来たので構わず放って置いた。

 やがて一人の騎士がシンの前にやって来た。


「おい、おまえがシンだな。俺はスタルフォン、お前の所属する部隊の隊長の騎士だ。俺の部隊は切り込み隊、最前線で最初に突っ込む役だ。お前の剣術……変わった剣術だったが技量は高そうだ、期待しているぞ。ところで後ろの小さいのはなんだ?」


 シンはここに来るまでの経緯を話す。


「よし、俺も忙しい。騎士ガーニーがそう決めたならそれでいい、面倒見てやれ。ただしさっきも言ったように俺の部隊は切り込み隊だ、覚悟はしてもらうぞ。そろそろ出発する、隊列に加われ」


 シンは後ろを向きシオンを見ると、シオンの両の眼は爛々と輝き口許は少し吊り上がっている。

 切り込み隊と言われて緊張しているのか? それとも手柄を立てやすいと興奮しているのか? わからないな……何か声を掛けた方がいいのだろうか? 何だか何を言っても無視されそうな気がするが、一応注意しとくかと思い声を掛けた。


「今から逸っても疲れるだけだぞ、肩の力を抜いたほうがいい。言われた通り隊列に加わるぞ」


 シンが声を掛けると、シオンは面白くなさそうにそっぽを向いた。

 予想通りこちらの言う事に耳を傾ける気はさらさら無いようである。

 顔立ちは中性的で、険のある感じが取れればむしろ優しい顔立ちだろう。

 背の高さ、顔立ちが自分とは正反対の少年である。

 目の前で死なれるのも気分が悪かろうと思い、多少は目を掛けてやろうと思いつつも、これからの気苦労を考えると頭を抱えたくなるのであった。



---



 討伐軍の内訳は騎士十一人、これは各部隊の指揮官である。

 従者と兵が二百五十人、傭兵が二百五十人の計五百十一人である。

 兵の中に荷駄隊やコックなども入っているので、実質的な戦力は四百五十人程度だと思われる。

 討伐軍の総指揮官は大隊長の騎士コアントローが執る。

 この下に五十人の部隊を十部隊、それぞれの指揮官に騎士階級のものが就く。

 騎士スタルフォン率いる第一部隊、切り込み隊五十人の傭兵の中にシンとシオンは配属している。

 シンはシオンが若輩と侮られ絡まれるのではないかと思ったが、そのような事は起きず他の傭兵達は自分の手柄を立てる事以外はどうでもいいらしかった。

 個人主義の傭兵らしいとシンは思ったが、作戦や連携などは上手くやれるのか少し不安を感じもした。


 北へと続く街道、ここに現れて商隊を襲う凡そ五十人ほどと思われる賊を倒すのが最初の戦いのようだ。

 荷駄隊を商隊に偽装して賊をおびき寄せて倒すという簡単な作戦だった。

 荷駄隊が持ちこたえてる間に距離を詰め、賊を倒し逃げる賊を追いかけて拠点をも一気に叩くつもりらしい。

 賊の首一つにつき銅貨十枚の追加報酬を払うと言うと、傭兵たちが口々に安いと文句を言う。

 大隊長のコアントローが、敵兵や騎士なら未だしもたかが賊でしかもソシエテ王国の農民崩れごとき銅貨十枚でも高いと言うと皆渋々ながら黙った。

 シンはどう戦うか考える。

 一人で戦うならそれ程考える事はないが、シオンの面倒をどう見るか頭を悩ませていた。


「シオン、俺とお前の二人で組んで戦うぞ。ここでは騎士の命令は絶対だ。その騎士が俺にお前の面倒を見ろと言った、嫌なら今すぐアンティルに帰るんだな。俺が槍で傷つけた敵をシオンがトドメを刺せ。首はお前にやる」


 シアンを見るとトドメを刺せと言ったときに少しだけ目を見開いたように見えたが、あとはいつも通り憮然とした態度で短くわかったと言っただけだった。

 本当にわかったのか不安だったが、しつこく聞いて臍を曲げられても困るので後は成り行きに任せる事にする。



---




 前方、二百メートルほど先から微かに剣戟の音が聞こえてくる。


「ようし! 第一部隊、前進! 餌に食らいついた賊を一人も生かして帰すなよ」


 隊長のスタルフォンの掛け声と共に第一部隊だけ前進する。

 全軍で行くと賊が交戦する前に逃げ散ってしまう恐れがあるので第一部隊だけで最初は戦う作戦である。

 第一部隊の五十人でも賊が逃げ散る可能性はあるが想定より賊が多い場合の事も考え、第一部隊全員で行くことになった。


百メートル…………五十メートル


「今だ、雄叫びを上げて突撃せよ! 一人も生かしておくな!行け!」


 スタルフォンの号令と共に雄叫びを上げ第一部隊が突っ込む。賊は最初から交戦を諦め、背を見せて逃げに入った。

 シンは先頭を走ると背を見せる賊を容赦なく槍で突き、止めをシオンに譲り次の敵に襲いかかる。

 戦闘と言えるほどのものではなく、ただ逃げる敵を追いかけて殺すだけであった。

 この戦闘で賊を十七人倒すことに成功した第一部隊は、追跡と撃滅を他の部隊に任せ荷駄隊の護衛と死体の処理などの後片付けに入る。

 シンは三人を討ち取り、止めはシオンに全部任せて報酬も全部シオンに譲った。

 当のシオンは第一部隊が追撃しないことに文句を言っていたが、シンがこれで終わりではなくまだ賊との戦いは続くだろうと言うと渋々ながら黙る。

 初戦である街道の掃除は第一部隊は全員無傷、荷駄隊に数名軽傷者が出ただけで先ずは順調な滑り出しと言えるだろう。

 次は賊を探しながら北部辺境領に近い村へ向かい、情報を集めるとともに村の防備を固める予定との事だった。

 この時は、あの程度の賊ならば幾ら数が多かろうが問題ではないと討伐軍全員が思っていたが、後々甘く見ていたことを全員が後悔することになるのだった。



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