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帝国の剣  作者: 0343
204/461

新魔法……その名はバルカン


 皇帝とシンはグザヴェルに後の事を任せて、そのまま視察を続ける。

 次に向かったのは、帝国版の忍者とも言うべき影の養成所。

 お忍びで向かったはずであるが、二人が到着することは影独自の情報網により知らされており、訓練生たちは整列して二人を出迎えた。

 影がきちんと機能している事を知った二人は、出迎えた訓練生たちを満足気に見回す。

 訓練生たちの殆どが元孤児である。中にはまばらではあるが少女の姿もちらほらと見受けられる。

 影は危険な職であるがために、給金は並みの兵士の何倍もの額が支給されている。

 元孤児たちからすれば、信じられない程の大金である。

 それと影と言う日の当たらぬ仕事柄、表立って功績を表彰するわけにはいかないが、その分臨時ボーナスを弾むようにしている。

 大抵の人が、金を手に入れた後に欲するのは名誉である。これはシンが、地球で身に沁みる程に散々見て来た事実である。

 表に出すわけにはいかない彼らを、どう遇するか……シンと皇帝は宰相エドアルドに知恵を借りた。

 宰相は、やはり表立った功績を賞する事が出来なければ、名誉を与える事は難しいと言う。

 三人で熟考に熟考を重ねた結果、十年影を勤め上げた者は騎士位相当の扱いをする事とした。

 やがて帝国では、影出身の者たちが集められた騎士団が結成され、その影特有の神出鬼没さから敵から幻影騎士団ファントム・ナイツと呼ばれ、幾多の戦場で勇を奮い大陸中にその名を響かせることになる。


 影たちは、ありとあらゆる武芸を仕込まれる。剣術や弓術は勿論の事、槍術、杖術、投擲術、そして魔法の才があるものは魔法を授けられる。

 シンは影の仕事柄上、暗器が有効であるとして棒手裏剣や苦無などを教えて作らせて、習熟させていた。

 

「それにしてもお主の頭の中は、一体どうなっているのやら……次々と、まるで泉のように湧き上がる智恵や知識の数々には驚かされてばかりであるな」


 的に向かって棒手裏剣を放る訓練生を見ながら、皇帝がしみじみと語る。


「全部偉大なる先人たちの知恵だ。俺はそれをただ拝借したに過ぎんよ」


 シンは様々な人々に褒め称えられるたびに、この言葉を口にして来た。

 それを聞いた人々は、それを謙遜や奥ゆかしさと捉えて、益々シンに好感を持っていく。

 シンは、好意を持たれるのは好ましい事であると頭でわかっていながらも、心は時折煩わしさを感じずにはいられなかった。

 だが知識の出し惜しみは出来ない。次の戦、聖戦に負ければ帝国は間違いなく滅ぶだろう。

 シンはふと、皇帝の顔を見る。皇帝は、棒手裏剣が次々と刺さっていく的を、真剣な表情で見つめている。

 その横顔を見つめていると、帝国に来てから世話になった人々の顔が、次々と思い返されていく。


 ――――帝国に深くかかわり過ぎてしまった……もう、後戻りは出来ない。ならば、どこまでも進もう……



---



 視察を終えた二人は、一度宮殿に戻り別れ、それぞれの仕事へと戻って行った。

 仕事と言ってもシンに与えられている役は名誉職であり、特に決められたスケジュールがあるわけでは無い。

 学校の講師や皇帝の呼び出しが無ければ、気の向くまま自由に動き回ることが出来た。

 自宅へと帰る途中で武具店に寄り、板金鎧を一着買ったシンは帰るなりそのまま庭へと行き、買って背負って来た鎧を杭に被せて固定した。

 戻ってくるなりおかしなことをし出したシンを見て、邸宅の中からぞろぞろと碧き焔のメンバーたちが庭へと現れる。


 シンは鎧を着せた的から二十メートル程距離を取ると、右手を上げ手のひらを的へと向けた。

 カイルやゾルターン、レオナやエリー、そしてマーヤなど、魔法を使える者たちはシンが魔法を撃つために集中しているのだと、直ぐに気付いた。

 誰も口を利かないのを見て、ハンクとハーベイ、そして学校から帰って来たクラウスも、黙って静かに見つめている。

 精神集中のために一旦閉じられた目が、くわっと見開かれる。本来の碧い瞳は真っ赤に染まり、猛々しい赤光を放った。

 突き出された手のひらから大人の人差し指ほどの長さのオレンジ色をした塊が発射される。

 それは鎧にまるで吸い込まれるようにして当たると、鎧にその塊より幾分か小さな穴が開いた。

 シンは続けて魔法を放ち続ける。この時シンがイメージしたのはバルカン砲、次々と間髪を置かずして発射された弾は次々と鎧に命中し、たちまちの内に鎧は穴だらけとなってしまう。

 連続で魔法弾を発射しながら、シンは徐々に後ろへと下がって行く。その距離が三十メートルを超えてしまうと、魔法弾は力を失い、細かいマナの粒子となって大気中へと霧散した。


「射程距離三十メートルってとこか、射程に関しては弓には遠く及ばないな。それどころか普通の炎弾よりも短射程だと、使い方に工夫が必要だな」


 穴だらけとなり、最早鎧としての姿を成していないスクラップを見ながら、シンはブツブツと独り言を呟いていた。

 皆が驚愕の表情を浮かべながら、鎧とシンを交互に見ている中、ゾルターンだけがシンが何をしたのかを正確に把握していた。


「シン、今のは炎弾の魔法だの。それをお主は一発一発を小さくして連続で放った……」


 流石は賢者と謳われることだけのことはある。短時間でその魔法の本質をすべて理解している。

 シンは額から滲み出る玉のような汗を、腕で拭いながらゾルターンを褒め称える。


「流石だな、賢者の二つ名は伊達じゃねぇな。その通り、今撃ったのはただの炎弾。それを小さくして連射したに過ぎない」


「なるほどの、盲点じゃわい。普通はより大きくして威力を上げようとするところを、逆に小さくして連射出来るようにする。発想の逆転か、こりゃ一本取られた気分じゃて」


 二人の会話を聞いて、ようやく我を取り戻した皆は次々にシンへ質問する。


「し、師匠、今の技は何と言う名前ですか? 僕にも出来ますか?」


 特に激しく喰いついてきたのはカイルで、ゾルターンとレオナは既に体得することを決め、そのために動き始めているのか、目を瞑って先程の光景を思い返しているようであった。


「そうだなぁ……名前か……敢えて付けるならバルカンってとこだな。カイルは俺よりマナの操作が上手いから直ぐに出来るようになるだろう」


「師匠はもう何でもありだな、こんなのを喰らったらひとたまりも無いぜ」


 クラウスは、かつて鎧であったものをつま先をもって軽く突きながらその威力に恐怖していた。


「そうでもない……やっぱりマナの消費が多いのが何よりの足枷となっているし、それに飛距離が三十メートルでは弓に遠く及ばないし、騎兵なら一騎か二騎倒した時点で肉薄されてしまう。まだまだ実用には程遠い、見た目が派手な見せかけの魔法に過ぎない」


「けどさ、最初の一人や二人は確実に死ぬぜ。これを見た後でなら、突っ込むどころか俺ならすっ飛んで逃げ出すぜ」


「……同感だ」


 ハンクとハーベイが、鎧の残骸に開いた無数の穴に指を突っ込みながら言う。

 

「精神集中させるのに時間が掛かるし、その間に肉薄されちまったらやっぱり使えない。まだまだ、改良の余地がたくさん残っているよ」


 このバルカンと名付けられた魔法は、カイルはそのままの形で受け継ぎ、ゾルターンはそれに一捻り加えて氷の弾を撃ちだすことに成功し、レオナはこのバルカンの魔法をヒントにして、自身の十八番おはこであるエアバーストの魔法を連続で撃ち出すことに成功する。

 それを見たシンは、レオナに更なるアドバイスを与えた。


「エアバーストをそのまま連射するのではなく、こう角度を変えて撃ち出せないか? 例えば最初は鼻面に次は顎先に、次は側頭部を狙ったりすれば、頭蓋骨の中で脳みそが揺すられて感覚を狂わせたり、下手をすれば失神したりさせられるんじゃないか?」


 後にシンのアドバイス通りに、レオナは連続エアバーストの魔法に改良を加えた結果、相手は一体何をされたかわからぬうちにダウンしたり、失神したりして無力化させられてしまうようになる。

 また愛剣の月光の付与魔法の幻惑とこの魔法を巧みに使い分け、常勝を欲しい侭として高まった眩惑剣のレオナの名は女剣士たちの憧れとして語り継がれていくようになっていく。



ブックマーク、評価ありがとうございます!


休み明けですが、早速病院のお世話になってしまいました。

昨日から右肘が痛み、今日朝その痛みで起こされて肘を見て見ると、赤黒くぼっこりと腫れ上がっていて触るとぶよぶよした感触と激しい痛みに襲われ、仕方なく病院へ行きました。

検査の結果、身体に取り込まれた雑菌が肘で悪さをしているのだろうとの事で、解熱剤兼抗炎症剤のロキソニンと抗生物質と胃薬を処方されて帰ってきました。

因みに原因は不明です。


休み明けで病院、めっちゃ混んでました。

明日の更新は熱が下がらなかったらお休みします。御免なさい

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