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帝国の剣  作者: 0343
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道中

 夜が明ける少し前、野営地の端で剣を振る音が響く。

 エドガーはそれを遠目にみて思う。

 よくわからん男だ……話した感じ奴隷や農民ではない……かといって貴族のような洗練された雰囲気もない。

 教育はきちんと受けているようで、言葉に淀みがないし、何より計算が出来たことは驚きだ。

 槍は素人だが、見た事のない剣と剣術はしっかりと訓練されたもの……弓は引いたことも無いと言っていた……ますますわからん。

 没落貴族の生まれだとしても、武門の家柄なら剣、槍、弓の三種は学ぶだろう。

 それが剣術以外はからっきしときている。

 戦い方もおかしい、殺すのを躊躇していたと思ったら、まるで悪鬼の如く暴れまわる。

 教養の高さといい全体的にちぐはぐな感じがして、見ていて危なっかしい。

 それは俺以外も感じているのだろう、現にマイルズさんもよくわからない男だと零していた。

 性格は良く真面目過ぎるきらいがあるが、なんとなく放って置けない感じがしてついつい色々仕込んでしまいたくなる。

 俺以外のベテランも色々と教えているのを見る。

 素直に言う事を聞き、知識や技術を貧欲に取り込もうとする姿をみて俺と同じくついつい構ってしまうのだろう。

 謎の多い男だが悪人ではないだろう、とりあえずはそれで十分だ。


---


 隘路を抜け、その後は何事も無くウェク村へと着く。

 村に着くとエドガーがシンとウェインを呼びだした。


「ウェイン、この村を出たらシンに斥候のイロハを叩きこめ。シン、ウェインはベテランだしっかり学べよ」


「はい、よろしくお願いします」


 ウェインは四十代半ばであろうか? 白髪混じりの頭髪に顔に刻まれた深い皺が歴戦の猛者の風格をを漂わせる。

 白い歯を見せ、シンの肩を叩きながら笑う。


「まかせてくれ、アンティルに着くまでにいっぱしになる位に鍛えてやらぁ!」


「それじゃ、三日間この村に滞在する。シン、お前は明日荷物番だ。今日と明後日は好きにしていいぞ」


「わかった、流石にヘトヘトなんで今日はゆっくりさせて貰う」


 エドガーは再びシンを任せるとウェインに言うと他にもやることがあるのだろう、指示を飛ばした後足早に立ち去って行った。


---



 ウェク村はアリュー村と同じような辺境の寒村である。

 商人達は村長の家に泊まり、護衛達は宿に泊まる。

 ここもアリュー村と同じように宿屋兼酒場の造りをしていた。

 中に入ると既に護衛達が酒盛りを始めている。


「シン、こっちに来て一杯やらねぇか?」


 この数日でシンは護衛達にすっかり馴染んでおり、シンも気を許していた。


「いや、流石にヘトヘトだ、ひと眠りしてからにするよ」


 そう言って、部屋に向かうと背中から若いのにだらしねぇぞ、などと野次と笑い声が飛んできたが片手をあげて野次に答える。

 部屋に入った瞬間、抗えないような睡魔に襲われベッドに倒れこむようにして睡眠を貪った。


 次の日は荷物番だったが、盗みに来るような愚か者はいない。

 盗みがばれて行商にヘソを曲げられでもしたら村の死活問題になるからだ。

 朝晩の稽古をしていると、村の子供たちが棒切れをもってシンの真似をして棒切れを振り回す。

 シンは子供たちに剣道の基本的な動きを教えながら、自信も経験した実戦を思い出しながら稽古に励んだ。


 何事も無く日は進み、出発の時が来る。

 エドガーが護衛達を集めた後、注意を喚起し気合いを入れさせる。


「よーし、揃ったな。ここからアンティルまで五日程だが気を抜くな! 賊が多い、常に周囲に気を配れ。斥候も十分に注意しろ、俺も早くアンテイルで女を抱きたいが、死んだらアレも役に立たんからな! よし、出発する。配置につけ!」


 冗談を笑い緊張を解た一行はアンティルに向かいゆっくりと歩き出した。



---


 シンはウェインと組んで商隊よりも少し先に進んでいた。


「いいか、シン……油断するなよ。草むら、岩陰、人が隠れられそうな場所は全部調べる。敵は賊だけじゃないぞ、魔獣の類にも十分に注意するんだ」


「わかった、気を付ける」


 ウェインはシンを見て頷く。


「もし賊を見つけたら出来る限り観察しろ、人数は勿論のこと武器の種類、あとは統率された動きかどうか。この前襲われたような農奴崩れの賊は武器が粗末だ、傭兵崩れ共なら武器はしっかりしてるし動きも洗練されている。言っていることがわかるか?」


「うん、つまり敵の装備と動き方でおおよその強さがわかるってことでしょう?」


「その通りだ、ここは辺境で少し前まで賊よりも魔獣に襲われる方が多かったが……あと魔獣なんだが、

賊を食って人の肉の味を覚えちまってるかも知れねぇ。そういった魔獣は積極的に人を襲ってくるから気をつけろ。少人数で動く俺らのような斥候は特に襲われやすいからな」


「わかった、十分に注意する。他には?」


「ここら辺にはワイバーンなどは出ないが、上にも注意はしとけよ。それぐらいだ、よし行くぞ」


 シンは頷くと注意深く辺りを見回しながらゆっくりと歩を進めて行った。


 途中、小型のオオカミで群れを成すが滅多に人を襲わないらしい草原オオカミに遭遇するが、オオカミは遠巻きにこちらを覗うだけで襲ってはこなかった。

 アンティルの周辺は辺境伯の騎士団が定期的に賊を狩ってくれるので、比較的安全だとウェインは言う。

 だからと言って油断するなとも釘をさされたが……

 アンティルまであと二日のところで話に出て来た辺境伯の騎士団に遭遇した。

 馬に乗った騎士の出で立ちは、フルプレートではなく鎖帷子や皮鎧のようなどちらかと言うと軽装よりで従者らしき者たちがおそらく代え馬であろう馬を曳いていた。

 武器は騎士が片手に槍、腰に長剣を履き、従者は槍かハルバードを持ち腰に短剣を履いていた。

 商人やエドガーが騎士たちと情報のやり取りをし、荷物の中から食料と酒を寄進する。


「どうやらこの先は賊に会わずに済みそうだ、だからと言って油断するなよ!」


 エドガーが喝を入れ商隊はゆっくりと街道を歩きだす。

 アンティルまであと少し、シンはやりたいことをあれやこれと考えながら再び斥候の任に就くのであった。

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