護衛の護衛
投降遅れて申し訳ありません。
季節の変わり目で体調を崩し、持病のぜんそくの発作もありまして……今はだいぶ治まったので直り次第、普段のペースに戻して行こうと思っております。
ブックマーク感謝です、今回のは特に嬉しかったです!
「そもそも竜種というのは幾つもの系統を無理やりまとめてそう称したり、分類しておるに過ぎぬ。竜馬も竜種であると言えるし、ほれレオナの着ている革鎧の素材となった飛竜も竜種じゃ。亜人の一種族である竜人もそうじゃな」
「師匠が倒した地竜も竜種ですよね?」
カイルの問いかけにゾルターンは、うむと頷く。
馬車の中で暇つぶしを兼ねて開かれた勉強会、教師は老エルフのゾルターンで生徒はカイル一人だけである。
エリーは御者台で手綱を御しているのでそれに加わることは出来ず、シンとレオナは竜馬に騎乗して前後を固めている。
「左様、あれも竜種じゃ。ただ、一つだけ竜でありながら竜種に分類するのを憚られる存在というものがあっての……」
「竜なのに竜じゃない? 何です、その謎かけのようなものは?」
「それはな、古代竜じゃよ。儂も文献でしか知らぬが、古代竜の強さたるもの神に匹敵するとまで言われておってのぅ。数十年に一度くらいの割合で、優雅に飛んでいるところを目撃されはするが、その強さを知る者は皆無じゃ。もし迂闊に手出しをしたならば、その愚かさの代償を支払うことになる。つまり、戦いを挑んで生き残った者はおらぬという事じゃな」
「じゃあ、どうして神に等しい強さだとわかるのですか?」
良い質問じゃな、そう言ってゾルターンは片目を閉じウインクをする。
カイルはゾルターンのウインクを軽く流しつつ、話の先を促した。
「コホン、どうしてその強さがわかるのかと言うと、これまた古い文献によるものだが、過去にある国が古代竜を欲に駆られて討伐しようとしたのじゃ。カイルも知っての通り、竜の素材は余すところなく使え、その希少さから大変高価でもある。その国の国王は、古代竜の素材欲しさに軍を討伐に向けたが、返り討ちにあって軍は全滅。古代竜の怒りを買ったその国は、古代竜の吐くブレスによって灰燼に帰したと言われておる。まぁ、相手は嘘か真かは知らぬが数千年生きておると言われた巨大な竜。人間ごときが手を出して良い存在ではないのじゃろうて」
「国を滅ぼしてしまうなんて……神に匹敵する強さと言われるのも頷けますね」
カイルの飲み込みの良さに気を良くしたゾルターンは、その後も様々な知識を披露していった。
現在、冒険者パーティ碧き焔は力信教の総本山目指して歩を進めているが、一直線にではなく方々に寄り道をし、冒険者ギルドで請け負った依頼をこなしながらゆっくりと進んでいた。
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「シン、お主は何者かに監視されておる」
力信教の総本山に、何時でも行ける準備が整ったことを伝えに宮殿を訪れたシンは、皇帝にそう告げられ心当たりのありかを問われたが、身に覚えがあり過ぎて特定は出来そうになかった。
シンを恨んでいる者は数多くいるだろう。ルーアルト王国を初めとして、ゲルデルン公爵の係累や、スードニア戦役での造反貴族たちの係累やディーツ侯爵の係累など、思い返せば王族、貴族にばかり恨まれている気がする。
「もし仮にその監視者が、ルーアルトの手の者だとする。力信教の総本山で神託を見せれば、次は星導教の総本山に来るのではないかと勘繰られる可能性がある。ルーアルトの大敵とも言えるお主の入国を事前に拒否されてしまっては、計画が水泡に帰する。余としては、早く帝国とルーアルトとの間に取り決めをして、正式な文書を交わしたいのだが、こちらから交渉を急かす訳にはいかぬのでな……あくまでもこちら側が主導権を握っている振りをせねばならぬゆえ。このままお主を送り出したとして、一路総本山を目指し早々に真の目的が察知されるのは何としても防ぎたいのだ。せめて、ルーアルトとの交渉が済むまでは……だが、時間も惜しいのは事実。どうしたものか……かと言って監視者の正体のわからぬ内は排除もままならぬ。無暗に藪を突いて蛇を出したのでは意味が無いからな」
「俺、監視されていたのか! 全然気が付かなかったぜ」
「余の手の者が普段から、お主やその身の回りの者に危害が及ばぬよう密かに護ってはおるが、暗殺の恐れもあるので今後は注意はしておいてくれ」
シンの武名は、竜殺しの件やスードニア戦役で鳴り響いており、それだけに正々堂々と敵討ちに来るものはいないであろう。
暗殺と聞き、シンは自身よりも仲間の命の心配をする。それにしても、今までずっと密かに護ってくれていたのかと、目の前いる皇帝に感謝の言葉もない。
「どうするか……そうだ! 冒険者として依頼を受けながら寄り道をしつつ、行けば上手く誤魔化すことは出来ないかな?」
なるほどと、皇帝は手を打って妙案であると頷いた。
「ならば、こちらで仕事を手配しよう。仕事の内容はそうだな……手紙や物を運ぶ者たちの護衛、これならば怪しまれる可能性は低いうえに、余も手の者を配達員に扮させてお主を守ることが出来る」
「護衛している俺が、実は守られているってわけか……」
「そうだ。監視者の身元が割れ、ルーアルトに関係無い者であった場合と、お主の身に危害を加えようとする者であった場合は速やかに排除する。身元が割れぬうちは、すまぬがこのまま泳がせるが良いか?」
「ああ、構わない。今までずっと、俺のことを護ってくれていたんだな。ありがとう」
その言葉を受けた皇帝は、口元を綻ばせながら頭を振った。
「シン、余はお主に何度助けられたことか……それに今回も助けてもらっている最中である。お主に足りぬところは余が補う、余に足りないところがあればお主が補ってくれ」
「人は一人にして完全ならずか……」
こうしてシン達、冒険者パーティ碧き焔は皇帝が用意した表向きは手紙と小包の配達馬車の護衛、その実は護衛される側という依頼を受けて、帝都を出発したのである。
この世界で手紙や小包などは、定期便の乗り合い馬車と一緒に配達されるのが主であるが、定期便の乗り合い馬車などは主要都市にしかなく、最寄りの主要都市に運ばれた手紙や小包を自分で取りに行くか、さらにそこから金を払って届けてもらうかしなければならない。
シン達が今回請け負ったのは、主要都市から村々へ運ぶ配達馬車の護衛である。
届けられる手紙や小包は疑われぬよう本物が用意され、きちんと届けて行かねばならない。
受けた依頼の失敗は、名声の高い者ほど痛手を被るものであり、名の知られているシンのパーティ碧き焔はこのような簡単な任務を失敗するわけにはいかないのである。
なぜ、シン程の者がこのような簡単な依頼を受けるのかと疑問に思う者も多かったが、それに対してもぬかりなく理由を作っていた。
とある村で過去に世話になった人が、村から不遇に扱われているので自らその村に足を運んで、出来れば帝都に招きたいというものであり、そのついでに小遣い稼ぎにということにしている。
過去に世話になった人とは誰かと聞かれると、もう解散してしまった冒険者パーティ暁の先駆者のリーダーであるハンクであると答える。
だがシンは、皇帝から聞くまで暁の先駆者が、パーティを解散していたことを知らなかった。
そのことを皇帝より聞かされたシンは、依頼に関わらずハンクたちに会って詳しい事情を聞かねばと思い一も二も無くその案を飲んだのである。
なぜ皇帝がそのことを知っていたのかと言うと、シンに竜の角を託されてハンクたちは一度だけ皇帝に面会したことがあることに加え、シンに近しい者達はトラブルに巻き込まれる可能性も考慮して、徹底的に調べていたためであった。
なぜ暁の先駆者が解散したのかまでは、皇帝にもわからないと言われ、シンは過去に世話になった恩人たちに一体何があったのか、直接会って話を聞くことに決めた。




