表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
帝国の剣  作者: 0343
127/461

ウォルズ村解放作戦始動

 

「よし、今日はここまで。全員集合せよ!」


 今日も長距離走で身体を苛め抜かれた生徒達は、息を荒げながら号令通りに集合し、整列していく。


「よし、試験の時より大分マシになったな。自分自身でも成長を実感できるだろう。さて、俺は暫く帝都を留守にする。何事も無ければ二ヶ月以内に戻って来るが、その間も体操と股割り、持久走を欠かさないように。戻って来た時に成長が見られないときには、遅れを取り戻す為に容赦なく鍛えなおすことにする。以上だ、解散!」


 うんざりした表情で、生徒達は校舎に戻って行く。

 肩を落として歩く生徒達の後ろ姿を見送った後、シンは学校を出て帝都中央区に位置する創生教の帝都支部に向かう。


 創生教の教団帝都支部は、大聖堂と言っても過言では無い程に広く、扉や柱、壁や天井に至るまで装飾や宗教画の類で飾り立てられており、教団の権威の強さを表していた。

 開け放たれていた大きな扉を潜り、中をもの珍しそうに見回しているとその姿を見た司祭の一人が駆け寄ってきて声を掛けて来た。


「これはこれは聖戦士殿、何かご用でしょうか? ああ、失礼。ここでは何ですので、奥へどうぞ。ささ、こちらへ」


 若い司祭に促されるままにシンは教団支部の奥へと進んでいく。

 案内をする司祭の顔には見覚えがあった。


「先の戦では御助力感謝しております。おかげで多くの命が救われました、本当にありがとうございました」


 シンにそう言われた司祭は、先の戦に参加しており後方で怪我人の治療をしていた一人だった。

 覚えて貰えていたことが嬉しかったのか、若い司祭は顔を赤らめながら微笑んだ。


「さぁ、こちらへ。直ぐに大司教を呼んで参りますので、お座りになってお待ちください」


 貴族の応接室にも引けを取らないような、広く豪奢な部屋に通されたシンは、言われた通りにソファーに腰を掛けて待つことにした。

 程なくして、フレルク大司教が先程の若い司祭ともう一人年配の司祭を引き連れて入室してきた。

 

「おお、聖戦士! 近衛騎士養成学校の落成式以来ですな。学校は順調ですかな?」


 フレルク大司教は人の良さそうな笑みを浮かべているが、目は笑っていない。

 やはり油断は出来ぬと、表情に出さないように注意しつつ警戒を強める。

 若い司祭が、席に着いたシンと大司祭の前にお茶を配る。


「大司教殿、先日はわざわざ学校まで足を運んでい頂き、感謝しております。大司教殿にお清めして頂いたおかげで、未だ怪我人も出ておらず万事順調であります」


 シンが頭を下げると、大司教はうんうんと頷き、テーブルの上に置かれたお茶を薦める。

 薦められるがままにお茶を口に含む。

 濃厚な香りとまろやかな喉ごし、お茶に疎いシンでも高級茶であるとわかる。

 ――――エルが飲んでいる物より数段上なんだろうな。あいつは無駄な贅沢を嫌うからなぁ……


「さて、本日はどういった御用件かな?」


「はい、実は本日は一介の冒険者として大司教殿のお力添えをお願いしたく……」


 一介の冒険者として、と聞いた大司教の目がすぅと細まる。


「ほぅ、さてどのような? 聖戦士殿の頼みとあっては創生教は全力を持って協力させて頂きましょう」


「大司教殿、創生教の皆様にお心遣いに感謝します。実は……」


 ウォルズ村に巣食うアンデッドの浄化、及び土地のお清めの件を話す。


「なるほど……彷徨える亡者に安らぎあらんことを……」


 大司教が祈りを捧げると、背後に控える二人の司祭も同じように祈りの言葉を捧げる。


「アンデッド退治は我々、碧き焔が担当します。土地を清めるのに協力を仰ぎたいのです」


「協力する事はやぶさかではないのですが、先程お聞きした話だと二度も騎士団を追い返す程の怪物。聖戦士殿たちだけでは些か戦力が足りぬように思われるが……」


「その点はご心配なく。我がパーティにはウォルズ村の出身者がおりますので、村の地理地形は把握しております。また我がパーティは迷宮にて無限にスケルトンを産み出す強力な魔物との戦闘経験があり、それを打ち破っておりますので、アンデッド退治には多少の自信があるのです」


 大司教は相も変わらずニコニコと笑みを浮かべているが、後ろに控える司祭たちは迷宮での話を聞いて驚きの表情を浮かべていた。


「……わかりました、聖戦士殿の実力は重々承知しております。ご希望通り司祭を一人遣わしましょう」


「大司教殿、感謝します。公平を期するために、星導教と力信教からも司祭を派遣して頂こうと思っておりましたが、やはり最初に創生教を訪れて正解でしたな」


 星導教と力信教という言葉がシンの口から洩れると、フレルク大司教の眉が微かに跳ね上がる。

 最初に訪れたと言う事が、大司教の自尊心を満足させるであろうことは疑いようも無い。

 ――――わかりやすいな……最初に訪れたと言う事は、創生教を一番と見ていると思うだろう。俺にとって宗教なんてどれも等しく価値を見いだせないのだがな……そう言えば日本に居た頃から宗教的行事にもあまり関心は無かったな。


 その後は報酬や出発時期など話を詰めて行き、しばらく世間話をしてから創生教の帝都支部を後にする。


「はぁ……これをあと二回やらなきゃいけないのか……はぁ……」


 深い溜息をつき、次の星導教の帝都支部に向かう。

 星導教の帝都支部は、創生教に比べ庶民的で派手な装飾などは無い。

 だが中は広く、講堂のようになっていた。


 先程と同じように支部に入った途端、司祭に話しかけられ奥へと通される。

 この司祭も戦に参加していたようで、これまた先程と同じように礼を述べる。

 ――――なんだかなぁ……イレギュラーな対応されるよりはやり易くていいか……


 質素だが清掃が行き届いている清潔感のある部屋に通され、薦められた椅子に座りカスパル大司教を待つ。

 カスパル大司教がシンを案内してくれた司祭を伴って、部屋に入って来る。


「ようこそ聖戦士殿、学校の落成式以来ですな。学校で辣腕を振るわれて多忙を極めていると聞き及んでおります」


「その節は大変お世話になりました。おかげさまで生徒も教師も恙なく学園生活を送れております。これもカスパル大司教のお力添えのおかげ、感謝の念に堪えませぬ」


 開いているのか疑わしい眠たげな目をしたカスパル大司教は、微笑むと司祭が用意したお茶を薦めて来る。

 シンは礼を述べ薦められるままにお茶を口に含む。

 自宅で出て来るような、庶民が慣れ親しんだ安心感のある風味が、シンの疲れた身体と心に沁みわたって行く。

 ――――これこれ、俺は高級茶よりこっちの方がいいわ。

 シンの顔に僅かだが安らぎを見てとったカスパル大司教は、自身もお茶を口に含み顔を綻ばせた。


「して、本日は何用でしょうか? 星導教は聖戦士殿に対し、助力を惜しみませんぞ」


「先の戦といい学校の事といい、星導教の皆様には本当に感謝しております。本日お伺いしたのは、冒険者として星導教のお力をお借し頂きたく……」


 先程と同じようにウォルズ村の件を話す。

 話を聞き終えたカスパル大司教は、顎に手を当てて暫しの間思案する。


「わかりました、ウチからも司祭を一人派遣しましょう」


「よ、よろしいのですか? 大司教様、お伺いしたお話だと数名で行かれるとの事ですが……」


 傍に控えていた司祭が最後まで言う前に、大司教は手を上げて制した。


「聖戦士殿はお若いが、戦いに及んでは百戦錬磨。全てをお任せ致しましょう」


「かたじけない。感謝します」


 シンが頭を下げると、大司教はいやいやと笑いながら手を振った。

 報酬や準備などの話の後は、和やかに世間話を交わす。


「おっと、聖戦士殿のお話が面白くて、つい時間を忘れてしまった。この後も他の教団を御回りになるのでしょう? だとすればこれ以上御引止めするのはご迷惑になりましょうな。聖戦士殿、星導教は常に民とともにありますれば、今後ともお見捨てなきよう……」


「はい、既に創生教には了解を取り付けております。学校の帰りに寄らせてもらったので、近い所から順に……私も平民ですから、星導教は身近に感じております。本日は御助力頂き、本当にありがとうございます。では、これにて失礼させていただきます」


 先に創生教の支部に行ったのは、単に学校からの距離の問題で他意は無いことを強調しておく。

 カスパル大司教はその言葉に満足したのか、支部の入口まで自らシンを見送りに出た。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ