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帝国の剣  作者: 0343
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狂気の惑星

 

 真一は食事の後もハルから色々と情報を聞き出した。

 自分の身体の事、この惑星のこと、あの時の事故のこと……ついでにクラスメートの事も一応聞いておいた。


 与えられた部屋に戻り中央にあるベッドに腰をかけて情報の整理を始める。

 まず自分の身体だが、元々の身体……オリジナルボディは損傷が激しく、元の身体に戻るために生体移行手術を再び行うことは不可能と言われた。もし行えば即座に死ぬとも。

 身体の感覚の微妙なズレについては、明日からトレーニングを開始することになった。

 自分の身体が全くの別人に変わったことについて困惑はしていたが、冷凍保存されていた元の身体を見せられた時に不本意ではあるが、この身体で生きていくことを覚悟せざるをえなかった。

 それほどまでに元の身体は無残に破壊されていたのだ。


 この惑星のことを聞いた時に真一は、底の知れない恐怖と狂気の一端を感じることとなった。

 古代地球のファンタジーに傾倒していたある科学者グループが、この惑星を地球型にテラフォーミングをするところから正気の沙汰ではなかった。

 衛星の月があり、地球に良く似た環境が再現可能な星を無数の星の中から見つけ出し……ここまでならまだ理解出来る。

 テラフォーミングが終わってからの行動が酷い……まさに狂った所業であった。


 まずは真一の今のボディを作るように自我を持った普人種(地球型ヒューマノイドタイプ)を大量生産し、偽りの記憶を転写手術で与え、ある程度都市などを整備したこの惑星に放った。

 転写手術の中に、自分達科学者を神と認識させ都合の良いように操ったと聞いた時にはその傲慢さに怒り、呆れた。

 次に亜人を同じような方法で作り放した。

 亜人とは魔法に長けたエルフ族や、鉱山などの劣悪な環境に耐える頑強な体のドワーフ、獣とのハイブリットの獣人、ファンタジーでお馴染みのゴブリンやオークなどである。


 人類を放つとともに野生動物や様々な植物をも次々と惑星に放った。

 しかしそれだけでは飽き足らず、真一が草原で見た翼竜のワイバーンなどの空想生物や真一を襲ったハゲワシ熊……これはバルチャーベアと言うらしい……あのような合成生物達を放ったのだ。


 人類達はそれらの化け物にやがて押され始める。

 それを見て科学者達は、テーマーパークとして開園する前に人類が滅びる危険性を考え対抗出来る潜在能力を持った人類種を送り込み、バランスを取った。


 流石にいくら科学が進もうともこんな暴挙が社会的に許されるはずもなく、当時の銀河連邦政府はこの計画を凍結し銀河連邦大審院に判決を委ねた。

 これが今から四千九百年程前のことである。

 この惑星の管理AIのハルは銀河連邦大審院の判決が出るまでは活動を認められており、科学者のプログラム通りに星を適度に発展、化け物と人類との戦力バランスが拮抗するように努めた。


 だが、いつまで経っても判決結果が出ない、四千八百七十三年前からこの星と他星との通信や物流は途絶えた。

 その後も新たな命令が無いためにプログラム通りに動き続けたが、補修部品などは途絶えたために段々と動作可能な施設の数は減り、現在分かる範囲ではこの中央管理施設のみが辛うじて作動しているが、このままだと長くとも三百年後には完全に動作を停止するらしい。


 あの事故の真相は、補修されずに放置されていたあの黒い大きな建築物の瞬間転移装置の暴走により真一はこの世界に強制転移させられたのであった。

 惑星と惑星を繋いでいたあのワープ装置はこの惑星にはあれ一基しか無く、修理することは出来ないので地球に戻る術は無かった。

 さらにもし戻れたとしても普通に使用した場合、タイムスリップなど起きようも無く現在の地球……つまり2016年の地球では無く約1万8千年後の地球に転移するため、結局のところ戻ることは出来ない。


 最後にクラスメートのことを聞いて見たが、この施設の半径二十キロ……これが現在のハルの最大索敵範囲……には人影を発見することが出来ないとのことであった。

 真一がバスを離れて三日、さらにバルチャーベアに襲われ生体移行手術を受け目覚めるまで2週間経過している。

 前にハルが説明した話ではこの惑星特有の大気に含まれるマナが地球人の肺には対応出来ずに、体に蓄積すれば身体を蝕まれ死に至る。

 死に至るまでの猶予期間は大体十日前後、日数的にも生存はもう絶望的だった。


 あの時バスを一人去ったことについて、真一は後悔は感じていない。

 もう取り返しのつかないことであるし、真一の中では今回の話を聞いて過ぎ去った出来事の一つとして心の中で無理矢理完結させていた。


---


 次の日から真一は大きな体育館のような場所で、ハルの指示通りに体を動かしていた。

 午前中は走る、飛ぶ、投げる、様々な運動をし、午後からはマナの扱い方を学ぶ。

 三食は当然のようにあの不味いPOPで飲み物はPOWしか与えられず、その事だけは不満であったが

今の身体に慣れるために黙々と与えられたトレーニングメニューをこなす。


 その様な日々が一ヶ月ほど続くと、体と意識のズレはほぼ無くなりマナも自由に操れるようになる。

 真一はハルに、武器を使った訓練をしたいと申し出る。

 何れ施設を去る時が来る、バルチャーベアの様な怪物達と遭遇した時のために対抗手段を手に入れる必要性を強く感じていたのだ。


「どの様なタイプの武器をご所望でしょうか?ただしプログラムによって銃器の類は製造が出来ないようになっておりますが……」


 真一は少し考えた後、ダメ元で聞いて見る。


「刀……日本刀はこの施設に無いかな? 前に施設を案内して貰った時に、サンプルルームに剣や斧なんかが展示してあっただろう? あそこに日本刀とかは置いていないのかな?」


「少々お待ちください…………日本刀…………古代地球日本の冷兵器の一つ……検索完了。申し訳ございません現在は当施設にはございませんが、御作りする事は可能です。ただし完全再現は致しかねます、柄糸など一部の素材が当星にはございませんので代用品を宛がう事になります。それでも宜しければ直ちに制作に入りますが、如何いたしましょう?」


「是非に、お願いします!」


「銘は何とお入れいたしましょうか? 調べましたところ、日本刀には銘を入れるとありますが……」


 真一は一瞬きょとんとするとすぐに真顔に戻り、顎に手を添えて考え出す。


「銘か……う~ん、何だろう何かいい銘は…………ん~パライゾ……横文字はないよな……パライゾってたしかポルトガル語だったな……」


 ハルが真一の言葉に補足を加える。


「シンイチ様の仰る通り、古代地球の古典文字の一つポルトガル語でございます。同じく古典文字の日本語に例えますとパライゾとは天国を意味する言葉でございます」


「パライゾ……天国……天国丸……そうだこの惑星の名を取って天国丸と名付けよう!」


「了解致しました、銘を天国丸とします。明日の朝にはお届けしますので少々お待ちくださいませ」


「えっ? そんなに早く出来るの?!」


「自動生成装置を使えばそれ程時間はかかりませんが、日本刀に関する情報をもっと精査してから制作に取り掛かりたいと思いますので、お時間が掛かることをお許しくださいませ」


---


 その日の夜、真一はこれからの事を考えていた。

 ハルが言うには特殊な例なので術後の経過観察に半年程時間を貰いたいと言われていた。

 今日で一ヶ月、後五ヶ月……食事以外に不満は無い。

 あと五ヶ月でこの惑星の化け物達と渡り合えるだけの力を備えることが出来るか? 明日からより一層真剣に訓練に取り組もうと誓い、疲れた体を休めるのであった。







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