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帝国の剣  作者: 0343
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二次試験開始

感想、ブックマークありがとうございます。

特に感想は嬉しいです。至らない点を指摘下さり感謝の念に堪えません。本当にありがとうございます。


「へぇ、由緒正しい兜だったんだな。おっ、似合ってるぞ」


 カイルとクラウスが目を輝かせながら兜を自分たちの頭に被せる。

 国宝と知り、エリーまでもが自分の頭に乗せているのを見たシンは、堪えきれずにくぐもった笑いを漏らしてしまう。

 エリーの次に自分も被って見ようとしていたレオナは、腹を押さえ笑いを必死に堪えようとしているシンの姿を見て、伸ばしかけてた手を慌てて戻した。


「そういやクラウス、試験、明後日だが準備できているか?」


「も、勿論!」


 胸を突きだすようにして返事をするが、虚勢を張っているのが一目でわかるほどにクラウスの視線が宙を当所もなく彷徨っていた。


「はぁ~、どれ……庭に出ろ。大丈夫かどうか見てやるから」


 実の所、クラウスよりシンの方が心配していたのだ。

 試験は受かるだろう。だが、その後は? 学校生活に慣れることが出来るだろうか? 平民だけでなく貴族とも折り合いをつけて接することができるだろうか? 授業について行けるだろうか? 心配し始めればきりがない。

 当のクラウスはシンに今までの成果を見てもらう機会だと、意気込んでいる。

 

「カイル、エリー、レオナ、お前たちも付き合え。皆でやる訓練はこれが最後になるかも知れないからな」


 シンの言葉に一同が静まり返る。カイルもエリーも心なしか俯き加減で視線は下を向いている。

 そんな中、レオナが手を叩いて発破を掛ける。


「ならば、徹底的に行いましょう。今日の事が忘れられないくらいに」


 レオナの声に皆が一斉に頷く。

 それを遠巻きに見ていた護衛の三人は、冒険者パーティ碧き焔の強さの一端を垣間見た気がした。


---



 雲一つない晴天、近衛騎士養成学校の広いグラウンドで一次試験の筆記と戦闘実技を突破した四百四十三名が今より二次試験に臨まんとしていた。

 グラウンドは広く、事前に草は全て刈り取られており、一周五百メートルとなるように地面に僅かな溝が掘ってある。

 そのトラックの中央に天幕が張られ、中に治癒士が待機し不測の事態に備えていた。

 校舎の前の縁台の前に受験者が整列し終わると、まず校長のハーゼ伯爵が壇上に上がり挨拶をする。


「校長のハーゼである。諸君、まずは一次試験突破おめでとうと言わせてもらおう。だが、まだ君たちは騎士見習いの資格すら得てはいない。これより行われる二次試験を見事に突破して初めて、騎士見習いの資格を得ることが出来るのだ。資格を得て終わりでは無い、そこからが始まりであり、更に厳しい選別が諸君に襲い掛かるであろう。それらを乗り越えてやっと新米近衛騎士となることが出来るのだ。願わくば一人でも多く試験に受かり、のちに近衛騎士になるよう、諸君の健闘努力に期待するものである」


 次に皇帝が壇上に上がると、受験生たちはどよめき、落ち着きを失う。


「鎮まれい!」


 皇帝の背後からハーゼが、齢七十を越えるとは思えぬ大声で受験生を叱りつけるが、受験生よりも皇帝が驚き、後ろに振り返ってバツの悪そうな顔でハーゼを睨む。

 そんな皇帝のことなどどこ吹く風と言ったように、大きく咳払いをしてゆっくりと目を閉じた。

 

「……ハーゼ校長の申した通り、これは始まりではない。見習いとなってからも厳しい試練が諸君を待ち受けている。見事それを乗り越えた者のみが、近衛として帝国を支えて行くのだ。また近衛騎士は帝国の、いや騎士という騎士の模範であらねばならない。諸君らの中には知っておる者もいるだろうが、余は先日、近衛騎士団を解隊した。解隊した前近衛騎士団は風紀が乱れ、堕落し、騎士としての体を成さぬ不埒者の集まりに過ぎなかったためだ。諸君ら心して聞け、騎士とは難事、難敵に対し率先して立ち向かい民と国を守るべき存在である。それをせぬと言うのであれば、騎士など要らぬ。そして肝に銘ぜよ、騎士の誇りとは特権を振りかざす物では無いということを。願わくばこの学校の卒業者が本物の騎士にならんことを、余は期待するものである……」


 長い演説を終え皇帝に変わり次に前に出て来たのはシン。

 シンは皇帝とすれ違う際に、長い演説をする者は生徒達に嫌われるぞと耳打ちする。

 それを聞いた皇帝はシンをキッと睨むが、シンはクククと含み笑いをしてやり過ごした。

 シンは受験生を一通り見回した後、獲物を狙う猛獣のような笑みを浮かべ、口を開いた。


「二次試験を担当するシンだ。全員に、首から掛ける事が出来る紐の付いた番号札が渡せれているはずだ。全員持っているか、また自分の番号は幾つか確認しろ…………よし、確認したな、持ってない奴は前に出ろ…………いないようだな。では、先ずは合格の成否についてだが、この場では行わない。後日、合格者には陛下の署名入りの合格通知書がそれぞれ受付で申請した場所に届けられることになる。また、グラウンドの端に掲示板を建てそこでも確認出来るようにする。不合格者には不合格通知が送られる。合格、不合格の通知は試験終了後、十日以内に送られる。十日以内に届かなかった者は、直接学校に来て合否を確認せよ。では、お待ちかねの試験を始めるとしようか。試験は簡単だ、俺の後に続いて走るだけ、ただそれだけだ。では番号順に案内人に従い整列せよ」


 シンが壇上からチラリとクラウスの様子を覗うと、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。

 人の悪い邪悪な笑みを浮かべ、檀上から降りると十六番の札を首から下げたクラウスの元へと歩み寄り、肩に背負うことが出来るように紐の付いたラウンドシールドとロングソードを手渡す。


「十六番、お前はハンデとしてそれらを持って走れ」


 そう述べると踵を返し、ランニングの開始地点へと足早に向かって行く。

 剣と盾を渡されたクラウスは素早くそれらを見に着け、頬を両手で叩いて気合いを入れた。


「お、おい……何でお前だけそんなの持たされてるんだ?」


 周囲に居た受験生の一人が、気合いの入ったクラウスに気圧されながらも聞いて来る。


「師匠……じゃなかった試験官がハンデって言ってただろう。……そうだな、ひとつだけ忠告してやる。諦めずに走れ、無理だと思っても走れ」


 クラウスの声を聴いた者たちは、何を言っているのかと訝しげな顔をするが、後でその意味を嫌と言うほど思い知ることとなった。


---

 

 雲一つない晴天に、小鳥たちが囀りながら飛び回って長閑な雰囲気を醸し出す。

 だがこの後に起こるのは地獄、それを知るのはシンとクラウスのみ。


 受験生たちを番号順に整列させた後、シンはもう一度試験の内容を言う。


「試験の内容を今一度確認するぞ。俺に続いて走る、ただそれだけだ。質問は一切受け付けない。では、いくぞ」


 そう言って走り出すシンの後を、受験生たちは渋々と言った感じで着いて行く。

 走り出して直ぐに、あちこちから話し声が聞こえて来る。


 これが試験なのか? まさか、これは準備運動だろう。

 なぁシンってあの竜殺しのシンかな? いや、違うだろう本物はもっとかっこいいはずだ。あれは名前が一緒なだけのまがい物さ。

 もっとかっこいい人が試験官だったらいいのに、なんだかぱっとしないわねぇ。

 面倒くせぇ、これに何の意味があるんだよ。

 何故、貴族である私が平民と共に走しらねばならぬのか!


 それら声を聞いたシンは、再び邪悪と言う他に表現のしようのない笑みを浮かべ、己の頭と心の内から情けというものを全て外へと放り投げた。

 ――――好き放題言ってられるのも今のうちだけだぞ、話なんかしている余裕がどこまで続くかな?


 シン達がグラウンドを走っているのを、トラックの中央の天幕の前に椅子を置いて座っている皇帝と校長はぼんやりと眺めている。

 傍から見れば物々しい武装兵に囲まれたその一角は、異質さを感じずにはいられない。


「ハーゼよ、これが試験なのか? まぁ内容は聞いていたが実際の所、卿はどう思う?」


「はっ、某も前にシンに尋ねた事がありまして……これはシンが冒険者で仲間を集める際に行ったやり方で、巷では竜殺しの死走デス・ランと呼ばれております。某もただの体力測定かと思いましたが、聞くとどうやら違うようで、迷宮、戦争に限らず戦いというのは一種の極限状態に置かれることがままあると。その極限状態の中で諦めてしまった者から命を失っていくことが多く、シンはその体験を活かし、自分についてこれなくても良いから、諦めない気概があるかを見ると。某もそれを聞いて得心致しました」


「成程な。しかしそれを事前に教えてやらぬとは、シンも存外意地が悪い」


「事前に教えてはその者の持つ地が出て来ぬと、そう申しておりました」


「本当にそうか? あれは楽しんでいるのではないか? 心配になってきたぞ……」


 ハーゼはそれに答えることなく、顎鬚を手で扱き、穏やかな微笑を浮かべるだけであった。

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