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帝国の剣  作者: 0343
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スードニア戦役 終結

評価ありがとうございます、励みになります。

 草木も眠る丑三つ時、静かに東門に近付いた突入部隊はゆっくりと開いて行く城門へと次々に飲み込まれていく。

 突入部隊はブナーゲル男爵指揮下の兵に案内されて、城内の要所を制圧するために城の方々へと散って行く。

 まず制圧するのは各城門、そして指揮官である貴族たちが居る居住区である。

 これらの制圧の後、各城門を僅かに開けて置き敵兵に逃げ道があることを示して死兵とならぬようにしながら掃討していく。

 最初の目標である各城門の制圧は味方の巡回の振りをしながら近づくことで、然したる障害も無く成功した。

 城内の要所に詰めている見張りの兵達も酔いつぶれて寝ている者までおり、突入部隊は敵軍の士気が弛みきっている様に驚きを隠せなかった。

 城内のあちこちで甲高い女性の悲鳴が多数上がってきて初めて、反乱軍は異常に気付く。

 貴族たちの大半は、酒宴の後で遊女などを寝所に連れ込み情事に耽っているところを強襲され、裸のまま抵抗する間も無く斬殺されていく。

 レオナの父であるルードビッヒ男爵もその例に漏れず、複数の女性と同衾しているところを襲われ、女性を盾にして逃れようとするが女性もろとも剣で串刺しにされ敢え無い最後を遂げた。

 城内あちらこちらから響く怒号と悲鳴、剣戟の交わる音は僅かで暗闇の中城兵たちは早々に抵抗を諦め、持ち場と武器を捨てて逃げ惑う。


 僅かな供廻りを率いながら、正門へと向かうオルナップ男爵の前にこれまた僅かな兵を率いたブナーゲル男爵が現れた。

 オルナップは夜着のまま剣のみを携えており、供廻りの者も平服のままで鎧を着こんでいる者はただの一人も居なかった。

 その様子を見てブナーゲルは内心でほくそ笑む。


「おお、ブナーゲル男爵、無事であったか! これはどういうことか、敵襲なのかそれとも兵達が乱痴気騒ぎを起こしているだけなのか? 卿は何か知っておられるか?」


 ブナーゲルは抜き身の剣を鞘に納めようとせずにオルナップに近づくが、味方だと信じているオルナップもその供廻りの者もその行動に疑問を抱くことは無かった。


「実は……オルナップ男爵、お耳を……」


 ブナーゲルは自分の後ろとオルナップの背後に目配せをし、如何にも兵には聞かせたくないと言ったような体を表してオルナップに近付いて行く。

 オルナップもその行動に疑問を抱くが、ブナーゲルのもったいぶりかたに焦れて足早に近づいて行く。

 松明の明かりに照らされた両者の影が交わり、オルナップが首を僅かに捻り耳を向けた瞬間、ブナーゲルの剣がオルナップの胸を貫き剣先が背へと突き抜けた。


「帝国に仇を成す姦夫めが、地獄の裁きを受けるがよい!」


 オルナップは自分の胸に刺さる剣とブナーゲルの顔を交互に数度見ると、何事が起きているのかわからないといった表情を浮かべ、口の端から血を流し白目を剥いて絶命する。

 それを合図にブナーゲルの後ろに控えていた兵が、オルナップの供廻りに襲い掛かり次々と血祭りに上げて行く。

 城兵たちは不意を打たれたうえに指揮系統を断たれ、戦意は完全に失せて逃げ惑う。

 武器を捨て降伏を申し出る者も居たが、帝国軍はそれを許さず容赦なく首を刎ねていく。

 城内の床には血の川が流れ、時間が経つにつれて咽かえるような血臭で覆われていく。

 ワザと少しだけ開けていた城門から逃げ出した兵たちも、外で待ち構えていた帝国軍に次々と討ち取られていき、掃討作戦も成功を収めていた。


「どうやら上手く行ったようだな……さて、これからまた忙しくなるな。戦後処理で反旗を翻す者も出ないとは限らんから完全には軍を解散しないが、傭兵団ヤタガラスは解散させる。よいな?」


 帝国軍本陣にて夜明けの太陽を背にした皇帝とシンは、未だ悲鳴の上がるフュルステン城を見つめながら馬上で余人を交えずに話しあう。


「ああ、元々はスードニアの丘での奇襲の為だけに結成された部隊だ。だが二つ約束して欲しい。一つは傭兵団ヤタガラスに所属した者たちに褒美を弾むこと、二つ目は傭兵団ヤタガラスの解散式をさせてほしい」


 視線をフュルステン城から動かす事無く皇帝は頷き了承の意を示した。


「よかろう、解散式は宮殿の中庭で行う。当然余も立ち会うぞ、構わんな?」


「ああ、皆も喜ぶだろう。感謝する」



---


 こうして後世に於いて、スードニア戦役と呼ばれる戦いは終わりを告げた。


 スードニアの丘に展開した帝国軍の数は凡そ五万、対するルーアルト王国軍は凡そ十五万。

 戦いは帝国軍の圧勝と言ってよく、ルーアルト王国軍は壊滅的打撃を受け帝国領から完全に駆逐された。

 帝国軍の死者は三千人に対し、ルーアルト王国軍の死者は十万から十二万にも及んだ。

 大半はエームス川に追い落とされての溺死であり、その下流では溺死した兵で川が一部堰き止められるほどであった。


 この戦いでシンが傭兵団ヤタガラスを率いて行った奇襲は、中入りと言われ日本の戦国時代で度々使われた戦法である。

 中入りとは味方本隊と敵本隊が睨み合いや戦っている最中に、敵を迂回して重要拠点や敵本陣などを奇襲する策で、羽柴秀吉と柴田勝家が雌雄を決して戦った賤ヶ岳の戦いで、柴田勝家旗下の佐久間盛政が行ったことが特に有名である。

 当然シンは地球の日本で佐竹真一で在った頃にこの事を本で呼んで知っており、今回の戦に応用したのだ。


 ルーアルト王国軍の内訳はルーアルト王国軍正規軍は凡そ一万五千ないし二万と言わており、後は全てハーベイ連合が遣わした傭兵部隊であった。

 ルーアルト王国軍正規軍でルーアルト王国に戻れたものは僅か二千余り。

 ハーベイ連合の遣わした傭兵でハーベイ連合に帰還した者は二万とも三万とも言われている。


 この歴史的な大敗によりルーアルト、ハーベイの両国は国力を落とし衰退へと向かい始めて行く。


 ルーアルト王国軍に呼応して反乱を起こした帝国貴族軍の数は二万から三万人。

 ルーアルト王国軍が破れた後も離散せずに、堅城であるフュルステン城に立て籠もった。

 それを包囲する帝国軍は凡そ十万人。

 それぞれの戦死者は帝国軍二万二千人、反乱軍一万八千人余り。


 帝国軍で戦死したのはルーアルト王国との戦いに参加せずに、日和見を貫いていて戦いの趨勢が決してから参陣してきた者達が殆どで、その者達を嫌った皇帝は表向きは戦功を稼がせるため、実際には処分するために堅城であるフュルステン城を正面から力責めするよう命令し多数の戦死者を出すこととなった。

 後世の一部の歴史学者などはこの戦いをフュルステンの公開処刑と呼んでいる。


 ガラント帝国、ルーアルト王国、ハーベイ連合の三国共に此度の戦では手痛いダメージを受けた。

 ルーアルト王国の国王ラーハルト二世は戦場から逃げ帰った後、後宮に籠り政務はおろか表にすら出て来なくなっていた。

 ハーベイ連合は賊や魔物から街道を守る傭兵たちを大量に失い、流通量の低下を招き国力を大きく落とす結果となった。

 三国の中で唯一、ガラント帝国だけは復活の兆しが見え始めている。

 先の逆臣ゲルデルン成敗に続いて、帝国内の不穏分子の掃討に成功し、皇帝の元に権力が戻り強固な統治体制が築かれようとしていた。

 


---


 フュルステン城に兵力の一部を残し、帝国軍は帝都に向けて帰還の途につく。

 一頭の早馬が帝国軍本隊に到着し、その報を聞いた皇帝は飛び上がらんばかりに喜んだ。


「産れたぞ! 息子が産れたわ。マルガよ、でかした! 余もついに父親か……名は予てより決めていたアルベルトと致す」


 皇帝に男児が産れたとの報は、瞬く間に帝国内を駆け巡りその吉報に国中が湧きあがった。 

 


 


暫定的というか……後で時間があるときにこの話はちょこっとだけ手直ししようと思っています。

疲れからか風邪を引いてしまい、体調不十分な状態で書いたので色々おかしなところがあると思います。

ストーリー展開はこのままなのでその点はご安心下さい。


作品が百話を越える事が出来たのも読者の皆さんのおかげです。

本当にありがとうございます。

来年も頑張りますのでどうかよろしくお願いいたします。


では、皆さまよいお年をお迎えください。



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