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異世界建国物語  作者: aki
第2章
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第6話 真価

「例の男たちの内の一人に今回の戦いで、深刻な手傷を与えました」

一匹の魔物が、男に報告する。

その醜い顔は、興奮にそまっている。

「…そうか。ご苦労」

「はっ!」

(そろそろ、攻め込んでも大丈夫か)

男はそう判断すると、魔物の軍を街へと向かわせた。


                        ●


「ボクに任せてください」

少女は、唖然としている湊とリーファに再びそういった。

少女の金髪からは狐の耳がのぞいている。

無邪気な顔立ちには、何か意図が感じられる。

「いや…急にそんなことを言われても…」

「そうですね、まだこっちに来たばっかりであなたのことも詳しく知りませんし…」

二人のけげんな表情に対し、少女は胸を張る。

「それじゃあ、改めて。妖狐とヒューマンのハーフのシリルです。元軍師ですのでご安心ください」

大陸の周囲に浮かぶ無数の孤島には、それぞれ多くの種族がすみついている。

妖狐はもともとは獣人族に属していたが、その中でも低位だったため島に移り渡ったらしい。

島では大陸に比べ、ハーフへの風当たりが弱いため、能力のあるものはどんどん登用される。

「優秀は、優秀なのか…」

湊はそう言うが、表情には迷いがある。

すぐに任せるのは、不安なのだろう。

湊とリーファが判断に迷っていると、集会場の扉が勢いよく開かれる。

「魔物が攻めてきたぞ!」

その声に、集会所は騒然とする。

湊、リーファ、シリルは急いで外へと向かった。


                       ●

外では、回復を終えた兵士がすでに集まっていた。

しかし、その士気は低い。

直前の敗戦だけではく、サリオンの不在も大きいのだろう。

「じゃあ、早速で悪いが今回の指揮を執ってくれないか?」

湊は、シリルに提案する。

サリオンが動けない今、選択肢はほかにない。

「わかりました。任せてください」

シリルは、集まった兵士の前に出る。

「今回の戦はボクが指揮する。心配する者もいるだろうが、ボクについてきてくれ」

シリルは、そういって頭を下げる。

皆困惑している様子を見かねてリーファが口を開く。

初対面のシリルには、難しい仕事だ。

「安心してください。今回は湊さんも参加しますから」

シリルを助けるように、リーファは伝える。

それにあわせて、皆が高揚し士気が上がる。

「すごい信頼ですね」

シリルは、驚きその耳を立たせている。

「ええ、湊さんですから!」 

リーファは嬉しそうに肯定する。

「それじゃあ、戦略を考えてもらえる?」

「わかりました。では、この街の戦力を教えてください」

シリルは、情報を把握するとすぐに作戦の発表へと移った。


                       ●


動くことのできる40ほどの兵士たちに加え、街に住むものの多くが戦いに参加していた。

だが、そこに湊とリーファの姿はない。

街の周囲に張られている柵のおかげで、魔物を足止めできていた。

そのため、矢や魔法といった攻撃で魔物にダメージを与えられる。

そして、それは非戦闘員である者でも可能な行為であるため、200近い魔物に退治していてもなんとか劣勢にならずに済んでいた。

「いつまでやればいいんだよ!」

戦っているもののうちの一人が叫ぶ。

その額には、汗を浮かべ弓に矢をつがえる手は震えている。

「もうそろそろだと思いますので、頑張ってください」

シリルは、それだけ言うとかまわず双眼鏡をのぞき魔物たちの後方遠くを注視する。

魔物の住処の方向から、一匹の足の速い魔物が魔物たちの中に入っていくのを見るとシリルは合図を出す。

その合図と同時に魔物たちの動きが変わり、街の人間の表情は明るくなる。

突如、魔物は攻撃の手をやめ、撤退を開始する。

「計画通りですね」

シリルは、笑みを浮かべ自信満々に腕を組む。

魔物たちは、矢と魔法の追撃によって生まれた死体の列を残しながらあえなく遠ざかっていく。

「もういいですよ」

人々は、獲物を下し地面に座り込む。

その肩からは、明らかに力が抜け、表情も柔らかくなっていた。

「大成功です」

シリルは、頭についた耳をピンとたて、尻尾を隠した服は左右に大きく揺れていた。


                       ●


戦闘終了後、街に戻ってきた湊とリーファはその被害の少なさに驚かされる。

柵の一部は壊れかけているが、侵入を許せるような場所はなかった。

奮闘の具合がうかがえる。

「無事に済んだみたいですね」

リーファは湊にそう言うが、少し頬を膨らませている。

そこへ、シリルがやってきた。

「どうですか?ボクの完璧な作戦は」

シリルは腕を組み、鼻息を荒げる。

その目は大きく開かれ、体は少し反っている。

「いや、ステータスを見せてもらった時は驚きましたよ。こんな化け物みたいな人がいるだなんて、思ってもみませんでしたよ」

「だからと言って、湊さんにあんな危険な役回りをさせないで下さいよ!」

リーファは声を荒げ、細めた目をシリルに向ける。

「いいよ、リーファ。魔物の住処に突っ込むなんて前にもやったことあるしね」

湊とリーファは、街の防衛の最中に魔物の住処に攻撃を仕掛けていた。

攻めてきた魔物の数から、シリルは魔物の住処は手薄になっていると判断し、あえてそこを攻撃させた。

100匹程度の魔物ならば、湊ほどのステータスを持っていれば相手に十分な被害を与えられる。

本拠地が窮地に追い込まれれば、すぐさま街へ出動させていた部隊を撤退させるに決まっている。

だが、それはもちろん危険を伴うためリーファは反対し、結局同行するころになったのだ。

「ほら、本人も言ってるじゃないですか」

シリルは、悪びれずいう。

それに呼応して、リーファの顔つきは険しくなっていく。

「ほらほら、取りあえずもどろっか」

湊はあやすようにリーファの頭を撫でる。

「…はい」

リーファの表情は、少し柔らかくなったがすぐに元に戻ることになった。

湊とリーファがアムロド宅に戻ろうとすると、シリルも離れずついてきている。

「まだ、何かあんのか?」

湊が尋ねる。

「いえ、まだ宿まるところがないんで泊めてもらおうと思いまして」

湊は隣から不穏な空気を感じる。

「いや、ほかをあたったほうがいいんじゃないかな?」

湊が慌てて返すもシリルは聞く耳を持たない。

どこか現状を楽しんでいるようで、瞳にはいたずらな少女の意図がうかがえる。

「いいじゃないですか一日ぐらい」

シリルはそう言うと、湊の隣に来てその腕にしがみついた。

それを見たリーファも負けじと湊にくっつく。

湊は両側からすさまじい圧力でつぶされる。

「歩きにくいから離れようか」

湊の言葉は、二人にはもう届いていないようで、湊を挟んでずっとにらみ合っていた。




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