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異世界の書

「三日後に試合って事は今夜と明日と明後日で仕上げないとダメなんですね。ずいぶんと短いですが……お任せください! この神器グラウクス、まずは勇者様が特訓に入る前にステータスを上げる書を用意しました」

「書だろ? 読むのに一年ぐらい掛からないのか?」

「大丈夫です! これは特別な書です。わたくしが特別に取り寄せたこの世で一番簡単な入門書の魔導書なのです。まずはこれを覚えてもらいましょう。産まれたばかりの子供でも読める程簡単な書ですから一冊十分(じゅっぷん)も有れば読めるはずです」


 グラウクスはどこからか、かなり小ぶりなサイズの本を何冊か取り出した。


「それは凄いな! そんな本が有ったのか! さすが神器だけはあるな」

「えへへ! そこまで勇者様に褒められると照れちゃいます。ここだけの話ですけど、この書はこの世のものじゃないので決して無くしたりしないでくださいね」

「神の世界の本てことか?」

「神の世界では無いのですが、これは異世界から取り寄せた本です」

「異世界か! それは凄い! それにイラストが多くて凄く読みやすそうだな」

「異世界で『絵本』と呼ばれているものです」

「『絵本』か。これは良さそうだ」

「それでは一時間で全部読んでくださいね。わたくしは次のステップの準備をしてきますから、それまでに必ず読んでおいてくださいよ」


 そう言うと少女は丸っこい鳥の様な形に変形すると、窓から飛び立っていった。


「鳥になっちゃいましたね」

「だな」

「ふくろうですかね?」

「ふくろうだな」


 グラウクスが少女からふくろうに変形したことで唖然としてしまう二人。

 ラザレスは気を取り直して、本を読み始めることにした。


「まずはこの本か」

 

 イラストから察するに、それは勇者の冒険譚である様だ。

 

 勇者が村から旅立つ。

 山の様な大きなゴブリンらしき敵に襲われていた巨人族の娘を助けようとする。

 邪魔をされた事に怒ったゴブリンが勇者をとらえる。

 反撃むなしく勇者は食べられてしまう。

 だが、勇者は諦めずに飲み込まれたモンスターの腹の中から攻撃をする。

 すると、モンスターは痛さのあまりに悲鳴を上げ、勇者を腹の中から吐き出し、そして逃げた。

 巨人族の娘に感謝されると思いきや、娘に何故か襲われて負ける。

 負けた筈なのになぜかその娘を妻にめとる。

 

 異世界の魔導書だけあって、かなりカオスな内容の本であった。

 

「モンスターに襲われている巨人族の娘を助けるまでは理解出来る。でも何で勇者が助けた娘にハンマーで襲われないといけないんだ? しかもその娘に負けてるし。そんなに強い娘なら最初から娘が戦えばいいと思うんだが、ほんと訳わからないな、この話。メアリーこの本読めるか?」

「私にも良くわかりませんが、ここに書いてある記号が呪文みたいなもので、何か意味が有るのかと思います」

「呪文か」


 秘技書や魔導書と同じ様な複雑な魔導言語で書かれているのは間違いない。

 非常に読むのが困難で、とてもじゃないけどこの一冊を一時間やそこらでは読めるような代物ではなかった。

 

「参ったな」

「困りましたね」


 二人で絵本を前に悩んでいるとあっという間に時間が過ぎた。

 グラウクスが戻って来て窓辺に止まると、少女へと姿を変えた。


「勇者様、タダイマです。全部の書を読めましたか?」

「いや一冊も読めてない」

「なんと!」

「これ無理だよ。読むの。話の意味がさっぱり解らないし、この字が全く読めない」

「参りましたね……じゃあその本をわたくしにお渡しください。わたくしが読み聞かせします」


 そう言うとグラウクスは絵本を手に取った。

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