神器グラウクス
「勇者? この僕が?」
「はい、ラザレスさまは勇者としてこの地にお産まれになりました」
「この僕が? 何にも出来ないこの僕が勇者?」
「はい! 間違いございません」
「冗談はよしてくれよ。成人したのに魔法の一つも使えないこの僕が勇者のはずが無いだろ」
「それは魔族に見つからないように能力に制限を掛けていた為です」
「能力に制限?」
「勇者様といえば若くして能力を開花させるものですが、幼少の頃に能力を開花させた勇者様は、まだ肉体的に弱い子供の頃に例外なく魔族に狙われて殺されるのが常であります。そこで魔族に感知されないように成人する今まで能力を封印していたのです」
「僕がどんなに剣や魔法を習得しようと頑張っても全く身につけられなかったのはそのせいか」
「はい! その通りです。では早速、能力の開放を行ってみましょう」
少女は目を瞑り何かを念じて手のひらをラザレスに向ける。
少女の手から光が放たれた。
その光はラザレスを照らす。
光を受けたラザレスは何か力が湧き上がってくる気がした。
「はい! 完了です」
「ずいぶんと簡単だな? これだけで能力が開放されたのか?」
「はい、間違いございません」
「よし! 魔法を撃ってみるぞ!」
ラザレスは窓辺に立つと、手のひらを目の前に掲げ庭の木を目掛けて呪文を唱えた。
兄ファルスが魔法を撃つ仕草を真似したラザレス。
「ファイヤ!」
だが魔法は出なかった。
「……でないよ?」
「出ないですね」
「ファイヤ!」
「おかしいですね」
「ファイヤ!」
「うーん……ちょっと待ってくださいよ。手違いで能力が開放されてないのかな? 鑑定してステータス見てみますね」
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名前:ラザレス
性別:男
年齢:13
職業:貴族の息子
レベル:1
EXP:3
HP:1(Max 3)
MP:3(Max 3)
STR:1
DEX:1
AGI:1
INT:1
MND:1
CHR:1
称号:なし
スキル:なし
加護:なし
状態:怪我により治療中
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その数値はグラウクスの近くに居たラザレスとメアリーの頭のなかにも浮かび上がる。
「能力が数値で表せるのか。凄いな」
「ちょっ! 何ですか! この真っ白スキルは!!!」
「そんなに酷いか?」
「酷いも何も全部初期値ですよ。普通は能力を開放した時点で内部に滞留していた経験値で二十位レベルが上がるものなんですが、もしかして今までまともに戦闘とか訓練したこと無いんじゃないですか?」
「今までネズミ一匹とも戦ったことが無いんだが、何でわかった?」
「経験値3と言うのでバレバレです。参りましたね。仕方ありません。このグラウクス、三ヶ月で結果をコミット出来るように勇者様を猛特訓いたします。よろしいですか?」
「手遅れ」
「え?」
「もう手遅れだよ」
「え?」
「三日後にはこの家の後継者を決める試合があって、僕が負けたらこの家から追い出されるんだ」
「なんと!」
「だからもう手遅れなんだ」
「でも、諦めちゃいけないです! 勇者様! このグラウクス、神機の名にかけてやってみますとも! 燃えてきました!」
こうしてラザレスは自らの事を神器と名乗る少女と特訓することになった。