メアリーの家宝
「でも、メアリー。僕が試合で本当に勝てると思うか?」
「………………………………、勝てます! 勝たなくちゃダメです!」
「なんだよ、その最初のすごい間は」
「な、何のことでしょうか?」
視線を反らすメアリー。
目は動揺を隠しきれずおもいっきり泳いでいるのがラザレスにも解る。
「お前も本当は勝てないと思ってるんだろ?」
「…………、はい」
「正直だな。僕も勝てるとは思ってないよ」
一瞬で幸福から不幸のどん底に突き落とされた様な雰囲気になってしまう二人。
静寂が五分ぐらい続いた後、何かを思い出したのか、突然メアリーが立ち上がった。
「そうだ!」
メアリーは何かを思い出したのか、猛ダッシュで部屋を飛び出していった。
普段から振る舞いには気をつけているメアリーにしては、はしたない行動であった。
そしてメアリーはすぐに戻って来た。
「はーはーはー、取ってきました」
息を切らしながら戻ってきたメアリーが持ってきたのはネックレスである。
それはアメジストの様な色をした宝石が付いているとても綺麗なネックレスだった。
「なんだそれは?」
「私の家の家宝だったネックレスなんです。私がこの家に来る時にこれをお母さんから貰ったんです。すっかり忘れてましたよ。『本当に困ったことが有ったらこの宝石を割ってみなさい』ってお母さんが言ってたんです」
「割るとどうなるんだ?」
「『きっとあなたの手助けになる物が手に入るはず』と言ってました」
「手助けになる物か。どんな物なんだろうな?」
「さー? お母さんはそれしか言ってなかったので何が起こるか解りません。でもきっと何か起こるはずです」
「なにか魔法でも使えるようになるのかな?」
「かもしれません。やってみましょう」
そう言うとメアリーはペンダントを床の上に力強く叩きつけた。
すると、宝石が割れ中から煙が出てきた。
煙は一瞬で部屋を満たし、息が出来ない程だ。
「けほっけほっ!」
「ごほごほ、すごい煙だな」
メアリーが窓を開けて部屋の中に充満した煙を追い出すと、そこには可愛らしいゴスロリ服を着た少女が居た。
歳は六歳ぐらい。
ちょうどメアリーがこの屋敷にやって来た頃と同じぐらいの歳である。
「この子があの宝石から出て来たのかな?」
「その様ですね」
ラザレスが少女の頭に触れようとした瞬間、飛び跳ねる様に少女が動き出した。
「く、くぽー!」
少女は鳥の様な声で一鳴きした後、深々とお辞儀をする。
「神器グラウクスです。よろしくです。勇者様!」
少女は舌足らずな口調で挨拶をした。