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勇者育成計画22

 メアリーは豊富に得た資金を使ってセムスを強くし勇者化する事を始めた。

 セムスを勇者レベルに強くするだけなら簡単である。

 帽子状態に変形したグラウクスを頭の上に載せて無理やり大量の動画を頭の中に流し込めばいい。

 

 でもそれでは不自然な位に急激に強くなり過ぎてしまう。

 その強さの秘密を探ろうとする者が出てくるかもしれない。

 そうなれば、メアリーとラザレスが真の勇者候補と言うのがバレてしまう事も考えられる。

 セムスの育成は地道に経験を積んだように見せかけて、誰もが納得の行くような経験の積み重ねで育てなければならないと言う結論に達したメアリー。

 

 メアリーは冒険者ギルドのシステムの一つの『指名クエスト』を使い、セムス育てることにした。

 指名クエストとは冒険者を直接指名して発行するクエストだ。

 主にクエスト掲示板には張り出せない訳有の内容のものが多く、失敗が出来ないクエストに対して使われることが多い。

 その殆どは確実にクリア出来る能力を持った冒険者を直接指名して発行される。


 メアリーの作戦はこうだ。

 指名クエストを発行し、人目のつかないところにセムスを呼び出す。

 セムスを睡眠薬か睡眠の魔法で眠らせる。

 帽子状態のグラウクスで、厳選した動画を寝ているセムスに少量だけ視聴させパワーアップさせる。

 目を覚ませた後、形だけの簡単なクエストをクリアさせる。

 

 セムスがクリアするのは指名クエストなのでその内容は冒険者ギルドに伝わることは無い。

 その為、冒険者ギルド側ではあくまでセムスが強くなったのは、クエストで強敵を倒したからだと判断する。

 周りからは経験を積み強くなったように見られるのだ。

 

 メアリーは冒険者ギルドで指名クエストを発行した。

 

 ----------

 指名クエスト(セムス)

  ※注意事項

  クエスト内容は受注場所にて確認の事。

  必ず達成できる自信がある時のみ受注する事。

 依頼主 マリー

 受注場所 宿屋ローズ 二階 201号室

 期限 三日以内

 報酬 五十万ゴルダ

 ----------

 

 クエストの発行手数料十万ゴルダを加えて六十万ゴルダの費用が掛かった。

 最近、冒険者ギルドに入り浸っているセムスは高額報酬に釣られてすぐにやって来た。

 冒険者稼業で疲れ果てているのか、貴族だった頃の覇気は失われてかなり薄汚れた身なりの装備を纏っているのが今のセムスの置かれている状況を示していた。

 

 メアリーはマスクで顔を隠し、フード付きのローブを被り素性を明かさないようにした。

 セムスは最初こそ、顔を隠しているメアリーに警戒感を抱いていたが、食事を振る舞ったことでその警戒感はすぐに消えた。

 

「依頼は簡単なお仕事です。ただこれから依頼する事は受ける受けないに関わらず、他言無用でお願いします。よろしいですか?」

「おう、わかった」

「では、お食事を取りながらゆっくりとクエストの内容についてお話しましょう」

「ま、まじ! マジで飯食えるのか?」

「この宿屋の食事なのでお口にあえばいいんですけどね」

「もう三日も食事らしい食事を食ってないんで食えるなら馬の餌でもかまわねーよ!」

「それはそれは」


 メアリーが呼び鈴を鳴らすとすぐに階下の厨房から食事が運ばれてきた。

 鳥肉のハーブトマト煮とパンだった。


「おまたせ! 出来たてで熱いから気をつけてな!」


 配膳を済ますと、この宿のオーナーは厨房へと戻っていった。

 セムスは食事を目の前にすると我慢が出来ずにメアリーに礼も言わずにいきなり食べ始めた。

 セムスが貴族であった頃は見せた事のない下卑たる振る舞いであった。

 三日間食べ物を口にしていないと言ってたのは嘘ではない様だ。


「うめー! こんな美味しい物久しぶりだ!」

「お気に入ってくれたようですね。お飲み物も用意してありますよ。挽きたてのコーヒーです。いかがですか?」

「コーヒーか! コーヒーなんて久しぶりだな。是非!」

「深炒りでコクが絶品のコーヒーなんですよ」


 メアリーは睡眠薬を仕込んだコーヒーをセムスのカップに注ぐ。

 

「さあ召し上がれ」

「頂きます! いい匂いだ。味は……苦いな。深入りだからか? ミルクでも入れたほうがいいのかな……、ミルク下さい……あ、あれ? なんか目まいが……あれ?」


 セムスはコーヒーを三口程飲むと机に突っ伏した。

 セムスは大いびきをかいて寝始める。

 さすが錬金術ギルドで売っていた即効性の上級睡眠薬だけあって効き目は抜群だ。

 

 メアリーはセムスが寝た事を確認すると、部屋の隅で隠れていたグラウクスに手招きをする。

 

「さ、始めるわよ。まずは鑑定と……スキルは初級中級の剣技中心で魔法はあまり覚えてないみたいね」

「次期当主選抜試合では殆どの初級中級書は読んでたと言ってた筈なんですけどね」

「耐性もかなり少ないわね。思ったよりも習得してるスキルは少ないみたい。まあ、これから覚えさせれば問題ないわ」

「動画を使えば覚えるのはすぐですからね」

「とりあえずステータスやスキルを覚えさせる前にレベルを上げましょうか。今のレベルは20だから40まで一気に上げましょう。グラちゃん、帽子になって経験値が上がる動画を送り込んでちょうだい」

「はい。奥方様」

 

 作業は15分ほどですぐに終わった。

 通常ならば数年は掛かるであろう経験値を一瞬で得たセムス。

 鑑定スキルを持たないセムスはレベルが上がっても『今日は体が軽くて調子がいい』程度にしか感じないだろう。


「今日はここまでにしておきましょう」

「はい。奥方様」



 * * * * *



 セムス気が付くと宿屋の部屋の中だった。

 食べかけの食事の載った皿は既に冷たくなっている。

 婦人の姿は消え、机の上には報酬五十万ゴルダの入った金貨袋と手紙だけが残されている。

 

 手紙には『突然眠られてしまったので報酬を置いておきます。必ずクエストを完了して下さい』とだけ書いてあった。


 クエストの内容は簡単だった。

 ゴブリン討伐一匹とだけ書いてある。

 なぜこの簡単な内容で五十万ゴルダが貰えるのか理解に苦しんだが、依頼主がそう言うのだからそれでいいんだろう。

 

 セムスはゴブリンを一匹倒しに森の中へと潜った。

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