横浜駅脱出②
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「っくそぉぉぉ!!!!」
俺の手が少女に向かって伸びる。
少女も俺の方へ手を伸ばす。
ミノタウロスの拳が下降を始める。
少女と俺の手が結ばれる。
少女を思いっきり俺の方へ引っ張る。
ミノタウロスの拳は少女の右靴だけを掠め、吹き飛ばし、床を砕いた。
「…………っ!!!」
ギロリとミノタウロスが俺と少女を見る。
体を屈め、前傾姿勢になり、突進の体勢に入る。
「―――君!!こっちだ!!!」
俺の名前を呼ぶ士流の声に気付く。考えるよりも先に、士流のいる東横線の改札の向こう。ホームへの下り階段へと少女を抱えて走り出す。
1拍遅れてミノタウロスが突進を開始した。
背後に迫る走行音。揺れる大地。圧倒的な圧力が背後からやってくる。
「お お お お お お お お あぁ!!!」
紙一重の所で下り階段に入る。突進は軌道を変えられず、壁を砕き、破片が俺達に降り注ぐ。
「早く!!ホームに降りるんだ!!」
士流に促されるまま、俺は少女を抱えミノタウロスから逃げ出した。
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「ハァ、ハァ、ハァ…」
俺と士流の荒い息遣いだけが当たりに響く。ミノタウロスが追ってくる気配はない。一先ず撒けたようだ。
「おにーちゃん、ありがと」
少女がたどたどしい口調で俺に礼を言った。
「あ、あぁ…どういたしまして。怪我はない?」
「うん。でも、おにーちゃんが…」
「俺?」
「背中…」
見ると背中の1部が抉れて出血している。突進を避けきれなかったのだろう。
「大丈夫、かすり傷だよ」
少女を心配させまいと、咄嗟に嘘をついた。出血は止まらないし、痛みも増してきている。
「取り合えず、応急処置だけはしておこう」
俺の考えを悟ってくれたのか、士流がタオルを取りだし、傷口に当てる。
「っ!……ありがとな」
「いいよ、これくらい」
少女に聞こえないよう、小声で礼を言う。
「あれ?そういえば、士流さっき俺の名前…」
『ピーンポーンパーンポーン♪』
突然放送がなった。忘れもしない、ミノタウロスが出現したときに流れた時と同じものだ。
『今から2体目のミノタウロスを放ちます。場所は横浜市営地下鉄ブルーライン改札です。皆さん、お気をつけください』
「なっ…2体目だと!?」
「今回はペースが早いな…まずいぞ…」
「さっきの話が途中だったな…ここを出るにはどうすればいいんだ?それに、ミノタウロスは何体出てくるんだ?」
「4体だ」
「4体も…!?」
「この閉ざされた空間から出るには、空間を開く扉と、扉を開く鍵を見つけなければならないんだ」
「その手がかりは?」
「そう、その手がかりがわかるまでには、最低4体のミノタウロスが出現するまで耐えなければならないんだ」
「なんで4体なんだ?」
「それは…ま、そのうちわかるさ。今は安全に隠れられる場所を探そう」
「あ、あぁ…」
俺と士流は少女を連れて東横線ホームを後にした。
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赤い水滴がぽつり、ぽつりと落ちている。
水滴の道標は奥へ、奥へと続いてる。
ミノタウロスの足音も、奥へ、奥へと続いてる。
ニヤリ、とミノタウロスが笑った気がした。
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