7 “聖”と“魔”
07/23 ヌエの言葉にひらがなが使われていたのをカタカナに修正しました
王宮の地下に2000年前から封印され続けていた魔獣“八岐大蛇”。
その体を縛り付けていたのは、紫色の金属でできた鎖。
そしてその鎖を繋ぎとめているのが、“プレイアデスの7姉妹”の名を持つ2本の短剣
、【ターユゲテーの双剣】。
このことから導き出された事実は、
“プレイアデスの7姉妹”の名を持つ武具は、2000年前から存在する
ということ。
そして、もう一つ……。
俺はこの“紫”も知っている…。
俺がこの世界に来た時に持っていた唯一のモノ。紫色の剣。あの剣の紫と同じ色だ。
鎖は『魔族の王が作り出した“魔”を縛る金属』。
剣は『ヒト族の王が作り出した“聖”を縛る金属』。
対をなすかのようなこの金属は古くから存在していた。俺はますますこれらの武具が作られた目的に興味を持った。
「どうした人間?儂を縛り付ける双剣をジロジロと見て。」
八岐大蛇が巨大な首を傾げながら俺の行動をじっと見ていた。俺は大蛇をチラッと見て、無言で≪異空間倉庫≫から武器を取り出し、床に置いていく。
【アルキュオネーの長槍】
【ステロペーの楽弓】
【メロペーの戦斧】
【エーレクトラーの鋼槌】
八岐大蛇はそれらを見て、赤く光る眼を見開いた。
「貴様!これだけの神殺しの武器をどうやって手に入れた!?」
何だって!?
神殺し!?
おいおい、どういうことだ?何で神殺しをする必要があったんだ?ていうか、そんな武器が、普通に市場の掘り出しもので売られていていいのか?
大蛇の一言で、訳が分からなくなった俺は見せるために取り出したものの、どうしていいかわからず困惑した。
「…その様子だと知らなかったみたいだな。その武器は昔、神に戦いを挑んだ人間どもが作った武具だ。六柱神と創造神に挑むために7本作られたそうだが、実際には挑むことすらできず、全て神に奪われたんだがな。ま…あれもそのうちの一本で、シラビョウシがあそこに刺したんだが…。」
そこまで言って八岐大蛇はじっと俺を見つめた。どうやら俺の心を覗き込んでいるみたいだ。
「貴様…何故シラビョウシの加護を持っている?」
さっきとは打って変わって怒りを滲ませた目をしている。周りに渦巻いている大蛇の魔力も濃くなった。
多分、八岐大蛇をここに封印したのはシラビョウシ様なのだろう。憎っくき神の加護を持つ俺にその怒りをぶつけるのは間違っていると思うんだが。
「勝手なもんですな。知らない間に付与されていたんだよ。…まあ、シラビョウシ様だけじゃないし、竜王様も、ハーランド様も、星神様も、クロウ様も、ロフト様も、ウリエル様も…。勝手に付け足していくもんだから…」
「“人外”になったと。」
そう。それだけじゃないけど、無尽蔵にある魔力に、加護や祝福などを本人の許可なく与え面白がっている神たち。俺から見れば疫病神と言っても過言ではないんだが。
「ハハハ!!疫病神か!こりゃいい!」
…俺の心を読んだのか。
「貴様、変わった“この世ならざる者”じゃな。久々に笑ったわ。」
さっきまでの怒りの感情がなくなっている。魔力も薄まった。
俺はくるりと大蛇に背を向けた。
「ん?どうした?」
「…ひとまず、今日は帰るよ。また来る。次は憑代になるものを持ってくる。」
俺はそう言って、黒の剣と青の腕輪を取り出して床に置いた。
「な!貴様、宿主なのか!?しかも2体も!?」
俺は大蛇の言葉を無視してヘイロンに呼びかけた。
「明日来るから、それまで俺がどんな奴か説明しておいて。お前1人じゃ心配だからフェンリルも置いてくよ。」
「オ、オイ!待テ!コンナ暴力的ナ魔力ヲ浴ビタママドウシロト!?解ケチマウ!オイ!聞イテイルノカ!?黒竜!貴様モ何トカ言エ!」
フェンリル達は騒ぎだすが、ヘイロンは沈黙したままだった。大蛇はその様子に呆気にとられている。俺は軽く手を上げてその場を去った。
「オイ!宿主!宿主様!……。」
俺はサラ達が平伏して待っている場所まで戻ってきた。サラ達の前には仁王立ちしているサラヴィス殿下が居る。その隣にはカイト殿下。そしてその隣で膝を折って控えるライト様とエメルダ様。
一同は俺の姿を見つけると微妙な表情で俺を見た。安堵したような、怯えるような。
「一先ず戻ってきました。明日、もう一度あの魔獣と話をいたします。」
サラヴィス殿下に一礼した後、簡潔に状況を報告した。サラヴィス殿下は俺をじっと見ている。な、なんだよ。
「不思議な男よな。魔獣様相手に、無傷で戻って来るとは。どうなのだ、私から引き剥がすことはできそうなのか?」
「おそらく。その為に新しい憑代を用意する必要があります。硬い金属でできた武具はご用意できますでしょうか。」
俺は憑代を作るためのいい武具がないか質問した。カイト殿下が考え込み、ポンと手を叩く。
「この間、商人から仕入れた魔鉄製の剣があるんだけど、どう?」
「よろしゅうございます。頂けませぬか?」
「ライト君、後で届けてくれ。」
ライト様はハッと短く返事する。
「カイト殿下。そろそろ、全貌をお聞かせいただけませんでしょうか。わからないことだらけで動きづらいです。」
カイト殿下はしばし考えていた。そして何か納得をさせたようで、うんと肯く。
「いいよ、僕の部屋へ行こう。ライト君付いて来て。エメルダさんは兄上と部屋に戻って書類の整理を頼むよ。書類を見れば兄上がいまやっている事が瞭然だから。あ、奴隷たちは話が終わるまでここで待機させてね。わかっていると思うけど、人質だから。」
簡単な指示をだし、一人で先に階段を昇って行くカイト殿下。ヤレヤレという雰囲気で後に続くライト様に相手の顔を見て気まずそうにするエメルダ嬢。そんなエメルダ嬢を見てフッと笑い、「ついて来るがいい」と声を掛けてサラヴィス殿下は階段を昇って行った。
「サラ、お前たちはここで待っていてくれ。必ず迎えに来るから。」
俺はサラ、フォン、エフィ、ベラ、カミラと順番に頬を撫でていき、階段を昇った。
「……サラ?」
途中まで登っていたサラヴィス殿下がサラの名前に反応し、歩みを止めて彼女を見た。だが、直ぐに視線を外し、階段を昇っていった。
俺はカイト殿下の部屋で、計画の全容を聞いた。
事の発端は、王都外縁部を守護する第四師団と、近郊の公爵家との癒着だった。第四師団は高潔の騎士と謳われた副団長が行方不明になってから隊規が乱れ、末端の騎士達と公爵家の領兵団との衝突が発生し、その問題解決のために団幹部と公爵家の要人との話し合いがいつの間にか不正な取引をする場になり、そこに当主が乗っかって悪いことをし始めたため、これを取り締まるべく、第三師団との関係を深めたことにより、王家が独自の武力を手に入れたそうだ。
カイト殿下は、王都に住む若手の貴族達を集め、秘密裡に命令を出して公爵家の身辺調査や、不正のひどい要注意人物の洗い出しを進めてきた。そしてこのままでは王国が滅びるという結論に達し、3大公爵家の追放もしくは断絶を目的とした計画を立てたそうだ。
相手にこの計画を気づかれないようにするために、『奴隷商人との癒着』『第四師団の独断専行行為』『第二王子、第四王子の謀反騒ぎ』などの大小様々な噂を作り出し、いくつかの証拠もばらまいて本当の計画を隠していた。
ここまで聞いて、疑問が残った。
雷獣の話と、妖精族の話がなかった。
「殿下、第四師団が魔獣を手に入れているという噂は耳にされたことはありますか?」
カイト殿下はきょとんとして首を振った。
「では、城下にそれも南部に集中して妖精族がヒト族に姿を隠して潜入していることは?」
カイト殿下は同様に首を振る。
…と言うことは、カイト殿下のあずかり知らぬ事実が俺の手元にあるということだ。
今得た情報で≪情報整理≫が答えを導き出す。
第四師団は暴走し始めている。恐らく公爵家のほうでも把握できていないのではないかと思われる。どこで手に入れたのかわから魔獣を使って何かをしようとしている可能性がある。
次に、カイト殿下には諸外国の動向が見えていない。つまり、妖精族や獣人族が今何をしようとしているのかという情報が不足している。これは他国が現状をどう捉えているか知る必要がある。そう言えば、獣人族の使者が国王陛下に謁見したって言っていたな。
どうするか。今更諸外国の監視をしても意味がない。となると、王家を維持したまま、公爵家を排除する方法を取るしかない。それもできるだけ短期間で。
「殿下、これこれこういうわけで妖精族も獣人族も蠢動していることは間違いなく……」
俺は≪真実の言葉≫を発動しながら説明し、計画の変更を訴えた。
カイト殿下は納得してくれた。
次にサラヴィス殿下の部屋へ行く。サラヴィス殿下はベッドに横たわり、傍でエメルダ嬢が書類を見ながら殿下に報告していた。
「殿下、これこれこう言う訳で……」
サラヴィス殿下も納得してくれた。
≪真実の言葉≫バンザイ!
俺は地下まで奴隷たちを迎えに行き、5人を呼び寄せて、≪空間転移陣≫で宿に移動した。夜も遅く今日はこのまま寝るように指示するとカミラが俺に腕をからませてきた。
「じゃ、主はウチと楽しいコトしましょ?」
楽しげな口調で俺を寝室へとぐいぐいと引っ張って行くカミラ。だが、サラ、フォン、エフィ、ヨーコに腕やら足やら顔を掴まれ引き止められた。
「カミラ、それは反則。」
「妹の分際でまだ早い!」
「乙女の前でハレンチすぎるのよ!」
「ご主人様もどうして断らないのですか?」
…え?俺も悪いの?
カミラはフォンとエフィに説教を受け、俺はサラとヨーコに説教を受けた。ベラは興味なさげにその光景を見ていた。
深夜。
俺は宿の屋根に上り、夜の空を眺めていた。パタパタと音が聞こえ、竜の羽を持つベラが空中を浮遊して俺の所にやってきた。器用に体を捻り俺の隣に着地する。
ベラは俺にべたべたくっつくわけでもなく、俺に取り入ろうという風でもなく、ただ静かな口調で俺に話しかけてきた。
「…あの子、ずいぶん無理をしているようですね。」
俺は小さくため息をつく。
「ベラにもそう見えたか。やっぱりまだ兄がいないことが堪えてるのだろうな。」
俺は≪気配察知≫でベレットの位置を確認した。まだ、雷獣の森にいるようで、依然そこから移動はしていなかった。
「明日、カミラを連れてあの森に行ってみるよ。」
俺は暗闇の向こうにあるはずの森に向かって指を伸ばした。
「雷獣がいると仰っていましたが?」
「うん、だが雷獣の魔力がだんだんと弱まっているだよね。…第四師団の奴らが何をやってるのかも確認するにはちょうどいいかも。」
「…お気を付けください。あの場所は何やら怨の気が立ち上っております。」
ベラとウルチにはスキルリストに現れない特殊な感知能力がある。ベラは感情が視覚的に見えるようで、ウルチは聴覚が異常に発達している。これは種族による特徴なのか個人的な能力なのか、竜人族自体が他にいない為、検証はまだできない。だが重宝しているのは事実だ。
俺はベラの肩を抱き寄せた。ベラは抵抗せずに俺にもたれかかる。
「全く、俺の奴隷たちはいろんなものを抱え込んでるな。」
「ですが、ご主人様はそれら全てを受け入れて下さってます。」
うん、そうなんだ。受け入れなければ始まらないからな。
俺はベラの体温を感じながら物思いにふけっていた。
「カミラ!起きろ!」
早朝、慌ただしく俺は奴隷部屋を訪れ、カミラを叩き起した。ついでに全員を起していく。全員起きたところで指示を出す。
「雷獣のいる森に動きがあった。俺はカミラを連れて森へ行く。カミラ、残念な知らせだがベレットはあの森にはもういない。早朝に何かが起こり、森から脱出したようだ。ただ所在はわからん。」
カミラは無言だった。生きていることはわかったが所在は不明。複雑な気持ちだろう。だが、心配するな。俺が必ず探し出してやる。
「ナヴィス殿、今日はここで待機していてください。もしかしたら王都内で何かが起こるかもしれません。念のためにライト様と連絡を取れるようにしてもらえますか。」
ナヴィス殿は髭を扱きながら返事をした。
「何やら不穏なことになっているようですな。わかりました。」
「サラ、フォン、エフィは待機。フォンは定期的に≪気配察知≫で宿の周囲は確認しろ。サラはエフィが余計なことをしないように見張っとけ。ヨーコはナヴィス殿を護衛してくれ。」
エフィが文句を言いかけたが手刀を食らわして黙らせる。
「ベラ、屋根に上って周囲の警戒。ウルチの能力で周辺の会話を収集しておいてくれ。」
ベラは静かに頭を下げる。ベラは俺が危惧していることを理解しているようだ。
「…聞いてくれ。第四師団が謀反を起こす可能性がある。恐らく森にいる雷獣がカギになりそうだ。あの魔獣が動かなければ、謀反の可能性はなくなる。もし王都内に雷獣が現れた場合はナヴィス殿を連れて王都を脱出しろ。」
サラ達の表情は一辺した。俺の言葉に全員スイッチが切り替わったようだ。俺は肯いてカミラを抱き上げる。
「あ…。」
俺の大胆な行動に体を強張らせ俺の顔を見つめた。
「カミラ、あの森で何があったか確かめよう。ベレットに関する何かがわかるかもしれない。」
カミラは無言で肯く。俺は≪気脈使い≫で窓から飛び出した。
「え----!!!主---!ソラ、空飛んでる----!!!」
抱きかかえられ、空を飛んで移動する俺にカミラは完全に動転したようだった。
暫くするとカミラもようやく落ち着きを取り戻したようで、俺の胸にもたれてあちこちをすりすりと撫で始めた。
「…カミラ、ちょっとくすぐったいな。出来ればおとなしくして欲しいんだが…。」
カミラは俺の声に反応し顔を向けた。
…なんか彼女をようやくじっくりを見た気がする。
薄い青色の肌に真っ白い髪の毛。両肩には幾何学模様でイレズミのようなものがあり、胸は大きい。
…うん、大きい。フォンには負けるけど。
カミラは俺を見つめてニコッと笑った。長い犬歯がチラリと見えた。
…サキュバスってキバを持ってるのか?
「主~…。ウチ、主の奴隷になってよかった~…。」
甘い声で顔を摺り寄せてきた。
いい匂いがする。男を虜にしてしまう独特の匂いだろうか。彼女はどんなスキルを持ってるのだろう?
「カミラ、≪鑑定≫してもいいか?」
その瞬間、カミラの顔は強張った。何度も目を泳がせてから、しぶしぶといった感じで肯く。これは何か持ってるな。
【カミラ】
『属スキル』
≪八百万の性技≫
≪籠絡の香り≫
≪爪斬≫
≪闇魔法.2≫
『固有スキル』
≪吸性≫
≪吸血≫
『呪い』
≪禁忌の魔族≫
…なんとまぁ、楽しげなスキルだこと。
聞きたいことだらけだけど、今のカミラの様子から、後回ししたほうがよさそうだ。
「…カミラ。なかなか楽しそうなスキルを持ってるな。これが終わったら話を聞かせてくれ。」
カミラは黙り込んでいた。
「大丈夫だ。俺は全てを受け入れるから。実はな、他の奴隷たちはお前以上に問題を抱えている子たちばかりなんだ。それも全部きかせてやるよ。」
カミラは視線だけをこっちに向けた。緊張した表情で俺を見る。
「まずは、ベレットに何があったのか調べるぞ。少し飛ばす。しっかりと掴まってくれ。」
カミラは俺に従い、両手を背中に回してギュッとしがみ付いた。
王都の東、湿地帯が広がる平原に周辺の木々をかき集められたようにぽつんと佇む森があった。≪気配察知≫でいくつもの赤い点と大きな紫の点が確認できる。俺はカミラに声を出さないよう指示して≪超隠密行動≫を発動させ、森に侵入する。
肌に纏わり付くような魔力。俺は気持ち悪い感覚を覚え、カミラの方を見た。カミラはただ緊張した面持ちで森の奥を見つめていた。彼女はこの魔力を感じていないようだ。
俺は彼女を抱えたまま森の奥へ進んだ。少し開けたところでカミラを降ろし、木に登って隠れるように指示する。カミラは蝙蝠羽を広げて飛び上がり木の枝に乗って身を隠した。
少し先に紫の点がある。俺は、慎重な足取りで前に進み、様子を伺った。
何本もの丸太が立てられており、その丸太に人間が括りつけられていた。そしてその前には不機嫌そうに寝そべる魔獣が居た。両手両足は紫色の鎖に繋がれ身動きが取れないようだった。
まるで王城の地下に封印された八岐大蛇のようだ。だが、どうやってここへ?あの紫の鎖は一体どこから?
そんなことを考えながら周囲の様子を伺う。周りには何十人もの騎士が丸太に括りつけられた奴隷を監視していた。見た感じ丸太に括りつけられた奴隷達は雷獣の為の食糧のように見える。恐らく魔力を供給しようとしているのだが、雷獣は見向きもしていないようだ。
それにしても…。
兵士達に混じって、何人か背の小さな男たちがウロウロしているな。
……ドワーフか?
何故ドワーフがここにいる?
≪思考並列化≫と≪情報整理≫が活動し始めた。そしてある仮説を導き出す。
(エフィ、聞こえるか?)
(はぇ!?エル?…ゴクン!)
俺は≪念話≫を使い、エフィを呼び出した。エフィは驚きの声を上げ、慌てて何かを飲み込んだようだ。…何か食ってたな?
(サラと一緒に街の東に行って、妖精族の人数を確認してくれ。今すぐだ。)
(はぁ?なんで?)
(エフィ、また俺と一緒に風呂に入るか?)
(い、嫌じゃ!)
(だったら今すぐ街の東へ行け!)
俺はエフィを急がせ、サラを護衛に付けて確認させに行った。その間に、雷獣の様子を確認するため、更に近づいた。
一瞬だけ、雷獣が俺の方を見た。
やばい!見つかった!
だが、雷獣ヌエは目を閉じふてくされたように狸根入りをする。
…俺の存在に気づいているが、無視しているようだ。これは接触できるかもしれない。魔獣相手に≪念話≫ってできるのかな?
(ヌエよ。聞こえるか?)
≪遠隔念話≫で雷獣に語りかけた。猿の顔をしたヌエの耳がピクリと動いた。聞こえている証拠だ。だが、微動だにしない。返事もしない。俺はもう一度声を掛けた。
(ヌエよ、返事をしてほしい。俺はお前を助けたいと思っているのだ。)
ピキッという音が聞こえた気がした。ヌエの額に血管が浮き出ている。
(…ニンゲン如キニ助ケラレルホド俺ハ落チブレテハオラヌ。)
返事をした。だが、かなり怒りを露わにしている。
(失礼した。だがその紫の鎖は厄介なものではないのか?)
ヌエは耳をぴくぴくと動かした。
(ヌエよ。お前を縛り付けたその鎖のどこかに、白金もしくは金色の武器はないか?)
雷獣はのそりと首を擡げる。周りにいた兵士たちがざわつき、一斉に槍を構え臨戦態勢に入った。だが、雷獣は気にもせず首を左右に振って周りを見回す。暫く周りを見た後、また首を元に戻し、目を閉じて寝たふりをした。
(…アルナ。鍔ノ大キイ剣ガアル。)
やはり。
これは王宮の地下で見た状態と全く同じだ。恐らくそこにある剣も“7姉妹の武具”の1つだろう。
同じ仕組みで縛り付けられた魔獣が2匹。1匹は2000年前に縛られ、もう1匹は最近になって縛られている。
これが魔獣を封印する方法だと言うのはわかるが、問題は誰が行ったのか。何故その方法を知っているのか。魔人族のカミラなら何か知ってるかも。
俺はカミラを呼んだ。
(カミラ、カミラ!)
返事がない。…何か聞こえる。
(スー…、スー…。)
ね、寝てるのか!?
もう一度呼びかけるが、やっぱり返事がない。≪気配察知≫にはしっかり赤い点が映っているので問題が起きたわけではない。やはり寝てしまっているようだ。
カミラさん……あんた自由奔放だね。
雷獣は八岐大蛇と同じ方法で縛られていました。7姉妹の武具はいったい何なのでしょうか。そして紫の剣とは?
五章のヒロイン、カミラがようやくヒロインらしく活躍し始めました。そしてほかの奴隷と同じように呪いを持っていました。これはお約束ですね。
次話では主人公の無双です。うまく表現できるか作者は心配です。
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