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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第一章◆ 忌み子の奴隷少女
7/126

4 与えられし名は

02/28 読みやすくするために、文章を見直しました。

03/01 ルビの使い方を覚えました。

04/12 誤字修正

09/26 誤字修正 会話文のインデント修正




 デハイドはじっと俺を見つめている。


「……やっぱりあんたはここから出て行ってくれ。あんたは部外者だ。この村と一緒に犠牲になることはないんだ。この奴隷をあんたに託すから、夜中にこっそりとこの村から逃げ出してくれ。」


 デハイドの言葉は、俺を気遣う内容だった。……ありがたい話だが、正直受け入れられない。誰かを見捨てて自分が助かるなんて行為、金輪際やりたくない。


 俺は、デハイドの言葉を無視することにした。


「あなた方には、その手を血で染めるようなことは絶対にさせません。盗賊団に直接手を下すのは俺がやります。その準備を手伝ってください。」


「お、おい……、俺の話を聞いてなかったのかよ?」


 デハイドが割り込んできたが、睨み返した。


「……聞けない。第一俺が納得できない。俺がここをなんとか抜け出してベルドの町に行くことができたとしても、誰にこの現状を伝えればいいのかわからない。それならこの付近の事情を知る誰かに言ってもらうほうがいいはずだ。そして確実にベルドの町まで行ける方法が俺の中にはある!」


 デハイドは俺の言葉に圧倒されている。ここは一気に攻める。


「ベルドの領兵に知り合いはいるか!?」


 おれは皮鎧の男のほうを見ながら問いかけた。男は自分に聞かれていることを理解したようですぐに言葉を返す。


「……ああ、いるぜ。どうしたらいい?」


 俺は彼に説明した。



 要はこうだ。

 皮鎧の男の名で、手紙を書く。あて先はベルドの領兵のおえらいさんだ。村の現状、盗賊団のおおよその人数、見張りの事、助けを請う内容にする。その手紙は、食料を調達しにベルドの町に行く人に持たせる。村から出れば当然盗賊団に見つかる。ならば見つかっても怪しまれないようにすればいい。村人の話だと食料の備蓄はあまりない。次の収穫まではまだ日数があるため、どうしても町で少し買い込む必要がある、と装って町に行けばいい。どうせ余計なことをしないように町までついて行くだろうから、あとは如何にして手紙を領兵に渡すかを考えればいい。


 ここまで説明をして、村人を見た。誰にこの役をさせればいいのか、俺にはわからない。


「……やるわ、わたし。」


 意を決して、夫を殺された女性が手を挙げた。


「……見つかっても殺されはしないのよね。」


 女性は俺に問いかける。奴らは阿呆の集団ではない。殺さないはずだ。もし殺すとすれば部外者である俺のはずだ。村人を殺せば人が減る。人が減れば搾取できる量が減っていく。そうでなければ前回の時に一人だけ殺して後は生かしておく、という行動の理由がつかなくなる。


「次に盗賊団が来るのはいつなんだ?」


 俺は村長に問いかけた。


「3日後だ。今から出れば、ベルドの騎馬兵だけでも間にあう。」


「では、2日後に出発できるように準備を頼む。」


 俺は、皮鎧の男と女性にそう伝えた。


「お、おい!それじゃ間に合わないじゃないか!」


 デハイドがまたもや割り込む。


「俺は、領兵を当てにして戦う気はない。救援を請うのは俺が盗賊団との戦いで敗れた場合の保険だ。」


 ベルドから何人来てくれるのかわからないのにそれを当てにして作戦を練るのは無謀だ。あくまでも俺が盗賊団を倒す!そんな作戦でいかなければならないんだ。


「俺の作戦を聞いてくれ。」


 俺は、村人たちを集めて作戦を説明した。









 一通り作戦を説明し、必要な準備を村人たちに依頼したあと、俺はサラに近づいて話しかけた。


「サラ、お前はどうしたい?」


「……私は奴隷です。ご主人様の命令であれば何でもします。」


 俺は首を振った。聞きたいのはそういうことじゃない。


「もう一度聞くよ。サラ自身はどうしたい?」


 サラはそう言われて、黙り込んだ。地面を見つめて何か考えていたがやがて顔を上げた。


「私……死にたくありません。」


 デハイドに向かってサラは訴えた。



 ……うん、サラのご主人様はデハイドだもんな。わかってる……わかってるけど、そこは俺に訴えてほしい……。



「デハイド殿。この子の為にも手伝ってくれ。俺とサラを追い出して、ベルドの援軍を当てにするよりも、よっぽど勝算がある。」


 俺はもう一度デハイドに頼んだ。デハイドはうつむいて考え込んでいた。おそらく村長の息子としての葛藤がいろいろとあるのだろう。名前もわからない見ず知らずの男に託してしまっていいのかという思いなのだろう。ずいぶん考え込んでようやく顔を上げた。


「もし……もしこの作戦が失敗した場合はどうなるんだ?……いや、取り繕った言い方ではだめだな。どうすればいいんだ?」


 デハイドはこの作戦が失敗したらどうやって盗賊団に立ち向かえばいいかを聞いてきたのだ。そりゃそうだな。一人で敵を倒すって俺言ってんだもん。失敗すると思うだろうし失敗したらやつらにそれこそ報復されるだろうし。だけどそのための保険がベルドの領兵への依頼なんだよ。


「失敗したら俺とサラが殺されるだけだ。盗賊団がここに報復に来るころにはベルドからの援軍も到着する。俺もただでは殺されんよ。半分ぐらいは道ずれにする覚悟はある。そうなればベルドの援軍と村人たちが団結して立ち向かえるだろうよ。ま、失敗はしなけどな。」


 そう言って俺はサラの頭をポンポンと手のひらでたたいた。



 ……。無意識にやっちまった。サラに触れてみたいという欲望が勝っちまったらしい。俺の思いがけない行動がサラの顔を真っ赤にしてしまった。何やってんだ俺!?デハイドもなんか呆気にとられている。どうにかしてこの場を取り繕わねば。


「サ、サラ。デハイド殿を恨むなよ。まだ希望はあるからな。」


そういって俺はその場から立ち去ろうとした。


「あ、あの……。」


 サラが申し訳なさそうに声を掛けてきた。


「申し訳ありませんが、お名前を……教えて頂けますでしょうか……。」



 ……。なんて答えればいいのだろう?加古川優聖という名前は使えないだろうし……。みんなには記憶がないって言ったもんな。やむを得ない、ここは……。



「……すまない。俺は記憶を失ってるんだ。自分の名前もわからない。」


 そう言ってその場を離れた。離れながら振り向かずに≪仰俯角監視≫で後ろを見たら、サラちゃん本当に申し訳ない表情で俺を見てたよ。






 夜になった。俺は村長の家にお邪魔している。サラは近くの物置小屋に入ってもらっている。盗賊団に見張られている以上、下手な扱いはできないため、手ごろな扱い方として物置小屋に住まわせる、という体でそこに入ってもらっている。


 俺は≪仰俯角監視≫と≪遠視≫と≪気配察知≫を使って、できるだけ広範囲になるよう索敵を行った。索敵範囲はこの村全体だけでなく、その周囲2~3キロメートルぐらいは網羅できている。村の中に36の赤い点。ベルドへ向かう街道沿いに2つ。マイラクトへ向かう街道沿いに2つ。山の中腹に6つ。反対側にある畑の中に4つ。さらに山とマイラクト街道との中間にある丘の上に2つ。村の中の36は村人たちだとして、残りの16は盗賊団の見張りだろう。そうなると盗賊団の総数は単純に考えても倍の32人以上。これを俺一人で倒すのは普通は無理だ。

 だが、アルテイト盗賊団は普通の盗賊団ではない。俺がナンバー2と呼んでいる指揮能力の高い男が全体を統率しており、こいつを無力化できれば、奴らは烏合の衆に成り下がる。そしてそのナンバー2は頭目によって≪隷属≫させられている。≪隷属≫は契約の一種で契約者が隷属者の肉体も精神も意のままに操ることができるという『奴隷』とは異なる強力な強制契約らしい。この情報はサラから教えてもらった情報だ。そして≪隷属≫は契約者が死ねば解放される。つまり頭目さえ倒せば、この盗賊団を瓦解させることができる。できるはず。



 頭目を倒す方法は……。



 俺は左腕を眺めた。昨日この腕には矢が刺さっていた。今はその痕跡すら見当たらない。


「この方法しかないか……。」


 俺は自分のスキルを何度も確認した。なぜか戦闘関連、魔法関連のスキルが1つもないのだ。魔法についてはこの世界には魔法がないかもしれない、と考えられるが、戦闘系がないのは腑に落ちない。唯一見つけたのが≪投擲≫。これで石とかナイフとかを投げて倒すしかできない。昼間使ってみたが、確実に的に当たる距離は10メートルくらいだった。確実にしとめるには相手を油断させておいて近距離から刺すしかない。相手を油断させる方法は……『わざと斬られる』しか思いつかなかった。


 この傷が治る能力をどこまで信用していいのだろうか。


 俺は不安な気持ちを抑え込んで次の作業に取り掛かった。


「そろそろ夕食の時間だ」


 俺はデハイドにそう告げられる。デハイドはパンとスープを持って外に出て行った。俺は静かに事が起きるのを待つ。


「ぐぁああ!!」


「な、なんだ!?」


「逃げたぞ!」




 始まった。俺も急いで外に出た。ちょうどサラが目の前を通り過ぎた。俺は彼女の腕を掴もうと手を伸ばした。だが、ひょいとかわされる。何人かがサラに飛び掛かったが、全て足の捌きや、体、腕のいなしですり抜けた。意外とすばしっこいのか、サラは?

 小屋のほうを見るとデハイドがスープ皿を頭からかぶって尻餅をついていた。情けない格好だ。

 みんな指示通りに動いていた。サラを追いかける者、大声で騒ぎたてる者、たいまつを持って明るく照らす者。みんな役割を演じている。ある理由があって、サラに逃げてもらっている。最後は捕まって牢屋に入れられるストーリーなのだが、あえて大騒ぎをし、たいまつを掲げて周りからよく見えるようにしている。盗賊団の見張りどもはこの一部始終が見えているはずだ。


 サラは村人が捕まえようとするのを全て避けて村の入り口のほうへ走っていく。おいおい、本当に逃げてしまうんじゃないか?誰か捕まえろよ。

 俺は慌てて追いかけ、サラの腕をつかんだ。しかしその瞬間サラは体の向きを変え、に手を振り払って俺の後ろに回り込んだ。なんて素早い動きだ。俺も反転しサラと向かい合った。サラは少し腰を低くし、次の動きに備えている。俺はサラの動きに集中した。≪思考並列化≫と≪情報整理≫のタッグはサラの全身をくまなくチェックし様々な情報を取得して次の動作を予測する。一緒にいろんな情報が俺の頭ン中に入ってくる。そりゃあもうサラの知らないトコはないくらいいろんなことを知っちゃった。


 わずかにサラの左腿の筋肉に力が入った。と同時にサラは右へ飛んだ。だが俺も同じ方向に飛んでいた。サラの着地点で俺は待ち構える格好になり、サラは俺の胸に飛び込んできたところをがっちり捕まえた。


……両腕を背中に回して抱え込んだ。サラの体が俺に密着する。サラの顔が俺の胸に埋まる。息遣いが俺の胸を擽る。……楽しんでる場合じゃない。俺も演じなければ。


「捕まえたぞ!」


 俺は大声を出した。サラは体を左右に振って逃れようとする。俺は逃げられないよう腕に力を込める。そして密着度が増す。もうずっとこのままでいたい。


「誰か!縛るものを持ってきてくれ!」


 大声で叫んでからサラの耳元で、


「いい演技だ。ホントに逃げられるかと思ったよ」


 とささやいた。その声にぴくっと反応して体の動きが止まった。俺はすかさず彼女を持ち上げた。



「きゃっ!」



 かわいらしい悲鳴が聞こえた。もうたまらん。理性が吹っ飛んでしまいそうだ。



 木こりの男が駆け寄ってきた。手にはロープを持っている。男はロープで両手を縛った。申し訳なさそうな顔をしている。ちゃんと演じてくれ。


「檻はあるか!?ないなら作ってくれ!小屋に閉じ込めていてはまた逃げられる!檻ごと奴らに引き渡そう!」


 多少わざとらしいかもしれんが俺は敢えて大声で言った。ようやくデハイドもやってきた。持ってきたロープで両足を縛りつけながら小声で「ホントに逃げられるかと思った」と言ってきた。その言葉はもう俺が言ったぞ。そう思いながら俺は両手両足を縛られたサラを肩に担いだ。ずり落ちないように左手で足首を持ち、右手は太腿の部分を抑えこむ。サラの体がぴくって反応した。……いや、わざとじゃないのよ。


 俺はサラを担いだまま、「おとなしく観念しやがれ!」とか声を張り上げながら、もといた物置小屋まで戻った。「今日はこのまま寝るんだな!」とか言いながら小屋に入り、ぴしゃっと扉を閉めた。俺は担いでいたサラをゆっくり床に降ろした。


「大丈夫か?痛いとこはないか?」


「あ、はい。……ありがとうございます。」


 サラは恥ずかしそうに答える。縛られた格好は恥ずかしかったようだ。俺は急いで縛っているロープをほどく。手首に少しロープの跡があったが傷はないようだ。サラは顔を赤らめている。当然か。男にべたべた触られてるんだもんな。ごめん。


「すまんな、明日からは檻の中で過ごすことになるけど……我慢してくれ。」


「はい。頑張ります!」


 サラはにこやかに答える。笑顔がまぶしい。こんなかわいい子がどうして奴隷に……。でもそこは聞いちゃいけない気がする。いや、そもそもこの世界の奴隷はどういう扱いなんだろうか。俺は弟の本を読んで奴隷という言葉は間違って理解し最初にサラを見たときは浮かれてしまったが、この鉄の太い首輪からはファンタジーな雰囲気は感じられない。この戦いが終わったら、彼女に奴隷について教えてもらおうか。



「少し聞きたいことがあるのだが。」


「はい、なんでしょうか。」


「さっきのあの身のこなし……あれは?」


 俺はサラのあの動きについて質問した。俺が次の動きを読んでようやく捕まえたほどだ。何かカラクリがあるに違いない。


「あ、はい。あれは≪風見(かざみ)の構え≫というスキルです。相手の動きを読んで相手の力を利用して攻撃を受け流す体術スキルです。」


 やはりスキルか。そして戦闘系のスキルだ。そして俺以外でスキルを持っている人間がいた。


「そのスキルはどうやって取得したんだ?」


「はい、奴隷商人(グランマスター)の下で修業して会得しました。自分の身を守るには必要だからって教えられました。」


 サラの回答は俺の興味をそそられた。『スキル』とは修業とかで取得するものなのか?これはいろいろと聞き出すべきだ。


「サラ、スキルについて知っていることを教えてほしい。」


 俺の言葉にサラはきょとんとしたが、すぐに顔をかわいい笑顔バージョンに変え返事をした。


「はい、グランマスターにお教えいただいたことをお話ししますね。」


 サラは軽い身振りを入れながらスキルについて語ってくれた。



 スキルとは、


 ・己のもつ知識や経験、能力を最大限に

  発揮できるよう補助する特殊なチカラ

  である。

 ・ゆえにその知識や経験の違いによって

  効果も異なる。

 ・逆にスキルの熟練度合いによっても

  効果が変わる。

 ・スキルには生まれつき持つスキルと

  修業をして会得するスキルと、祝福を

  受けて得られるものがる。

 ・スキルは取得できる数に限りがある。


 というものらしい。


「サラ、『アビリティ』はどういうものなんだ?」


 俺はあのメニューにある言葉について聞いた。だが意外な答えが返ってきた。


「『あびりてぃ』?……なんでしょうか?」


 知らない?サラは首をかしげている。

 では、


「『メニュー』はわかるか?」


「『めにゅう』?……あ!≪鑑定≫のときに出てくる薄い枠のことですか?」


 サラが指で空中に四角を描く。≪鑑定≫だと?俺のメニューの中にもあるんだがなぜか灰色になってるやつだ。


「サラは≪鑑定≫を使えるのか?」


「はい、ヤグナーンにある太陽神様の教会で祝福を受けて取得いたしました。あ!鑑定があれば、あなた様のお名前がわかります。……使用してもよろしいでしょうか?」


 なに!?≪鑑定≫で人の名前がわかるのか?それはまずい!まずいが≪鑑定≫のスキルを見てみたい気がする。い、いや例えばれても黙っててもらえば大丈夫か。どうしよう?

 俺はしばらく考え込んだが、結局使ってもらうことにした。


「では……≪鑑定≫!」


 サラは、目の前の空間をじっと見つめていた。おそらくそこに『メニュー』が表示されているのだろう。やはり他人には見えないのか。俺のメニューは人にはどう見えているんだ?


「……名前、ありませんね。どうしてなんでしょう?あ!ご主人様すごい!たくさんスキルを持ってらっしゃるのですね!聞いたこともないものばかりです!」








 ……い・ま・な・ん・て・い・っ・た・?








「あ!申し訳ありません!勝手にスキルを拝見してしまいました!」


 サラが慌てて床に頭をこすり付け平伏する。


 ちがう。そこじゃない。


「サラ、今俺のことを何て呼んだ?」


 サラは平伏したままだったが肩がピクリと動いた。自分でも気づいたようだ。


「あ、ああ……。申し訳ありません。間違って……『ご主人様』と……」


 サラは頭を床に押しつけたまま、謝り続けてる。謝らなくていいよ、どんどん呼んでくれ。それにしても、≪鑑定≫でスキルが見えるのか。これは気を付けなくてはならないな。


 俺はサラの肩に手を置いた。サラは全身をビクつかせた。


「サラ、別に怒ってないから。むしろうれしかったし。」


 サラはガバッと体を起こし、真っ赤な顔をして俺を見た。そしてまたすぐに平伏する。

「も、申し訳ありません。お名前がないので何とお呼びしてよいのか……。」


 サラは平伏したままズルズルと後ろに下がっていく。俺の手が肩から離れてしまったではないか。俺はサラの前に座り今度は両手で肩を掴んで彼女の体を起こした。サラは真っ赤な顔のままで、一瞬俺を見たがすぐに視線を外した。


「大丈夫。怒ってないから。それよりも俺のスキルのことは誰にも言わないでおくれ。」


「はい!言いません!絶対言いません!」


 サラはまた頭を床にこすり付けて必死な声で返事をする。この子の中では俺はご主人様であるデハイドより偉い人になってるんじゃないだろうか。まあいい。俺は、またサラの頭をポンポンと叩いて小屋を出て行った。サラは俺が扉を閉めるまで平伏状態だった。





 翌日はサラは一日中小屋の中に閉じ込められたままだった。逃げ出さないように扉の前に見張りを置き、警戒していることが周りにもわかるように行動する。俺はその間に村の女たちから果物ナイフを調達してもらい、家の中で≪投擲≫の練習をしていた。

 戦闘系のスキルがない以上、この≪投擲≫スキルで確実に倒せるようにしなければ。俺は何度も何度も壁に描いた小さな円にナイフを投げ続けた。


 夕方になって、元領兵の男がやってきた。元領兵からは剣と動物の皮をもらった。剣は錆びついておりこのままでは使えないので一緒にもらった動物の皮で錆を落とさなければならない。俺は『背中に隠れる大きさの得物がほしい』と注文したのだが、それに合う大きさの剣はこれしかなかったそうだ。


 俺は皮を剣の刃にこすり付けてみた。ザラザラという感触を受けるが、やったこともない作業なので、これで錆が取れるのかどうかよくわからない。


 ここはスキルだ。


 メニューを開き、それっぽいスキルを探す。



 ≪超振動≫……。



 うん、使ってみよう。



 俺は、スキルを左下枠にセットし使ってみた。右手に動物の皮を巻き、≪超振動≫を使って剣を擦ってみる。俺の右手の細かい振動で剣についた錆を落としていく。これは便利だ。≪超振動≫を使ったまま剣を使うと振動でよく切れるかも知れない。後で実験してみよう。それでもコツをつかむまでは時間がかかり、錆をきれいに落とせたのは日が完全に沈んでからだった。








 その翌日は木こりの男がやってきた。檻が出来上がったらしい。何人かで台車に乗った木で囲われた檻を運んで来た。サラがその檻に入れられる。上から蓋をして金槌で釘を打ちつける。これでこの檻を壊さない限りサラは外に出られない。そしてその状況は見張りをしている盗賊たちにも見えているはず。


 そして領兵の手紙を持った女性が台車を引いてやってきた。結局買った食料を持ち帰るために女性3人でベルドへ向かうことになった。夫を殺された女性が俺の前にやってきた。


「……仇を討ってくれますか?」


 俺は力強く肯いた。女性はそれを見届けて台車のほうに戻りほかの女性と村を出て行った。しばらく≪遠視≫と≪気配察知≫で見守る。川の傍で二人組の男に捕まった。何か言い争った後、1人の男が台車に乗り込み、女性3人はそれを引いて歩き出した。どうやらうまくいったようだ。




 これで準備は整った。





 夜になった。俺はずっとサラの檻の傍にいる。今夜はこのまま朝までここにいるつもりだ。サラは俺に気を使って一緒に起きていたが、うとうととし始めやがて眠ってしまった。……寝顔、可愛い。

 ≪仰俯角監視≫と≪遠視≫と≪気配察知≫で周りの様子を伺った。村の外の赤い点は13。一人は女性3人とベルドに行ったから、あれから2人減ったのか……。あまり変わらないな。俺は周りの監視を続けながら、明日の予定を何度もシミュレーションした。




 日が昇り始めた。奴らがやってくる日になった。デハイドをはじめ何人かの男で台車を村の入り口まで移動させた。そして俺の指示通りに台車から離れて盗賊団が来るのを待った。俺は≪気配察知≫であたりの様子を伺う。お日様2つ分ほど登ったところでいくつかの赤い点が表示された。全部で8つ。……よかった。村人からもらったナイフの数よりも少ない。


「サラ、盗賊団が来たようだ。覚悟はいいか?」


 俺は檻の中にいる彼女に話しかけた。サラは俺の目を見つめて肯く。震えてもいない。


「前に、俺のことを何て呼べばいいか聞いたよな?」


「はい。」


「……サラ。俺に名前を付けてくれないか。」


 サラは困惑した表情を見せる。


「え?私が……ですか!?そんな、恐れ多いです。」


 サラは俺に向かってまた平伏をする。


「俺はサラから名前を貰いたいんだ、頼む。」


 俺は、檻の中で平伏するサラにやさしく手を添えてもう一度言った。


「名前を付けてくれ。」


 サラは体を起こしたが困惑した表情のままだ。だが、俺の真剣な眼差しを見て意を決したようだ。姿勢を正し目を閉じて何やらつぶやき始めた。何かのお祈りをしている。


「わかりました。……あなた様のご武運をお祈りいたします。この村の皆様のため、あなた様のため。」


 サラは両手を胸で交差して俺に頭を下げた。そして頭を上げ俺をじっと見つめた。


「不詳、奴隷のわたくしが、あなた様のお名前を付けさせて頂きます。」


 俺はサラを見つめ小さく肯いた。






「あなた様のお名前は……」






 俺は目を閉じじっと声を待った。







「……エルバード!」




主人公は戦う決心をしました。その準備をあれやこれやとやっていくのですが、その描写が難しく、うまく伝えられたか微妙です。


次回は、主人公の弟が登場します。

戦闘シーンがあるのですがうまく書けるか不安です。

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