プロローグ3
02/28 読みやすくする為の文章の見直しを行いました。
03/01 ルビの使い方を覚えました
09/26 誤字修正
柔らかな声は、弟が神になれた理由を響かせた。
(あの魂は、女王アリとオスの羽アリを繁殖させ、いくつもの巨大なアリのコロニーを生み出しました。億単位の生命の繋ぎを手助けしています。)
……それ、反則技じゃねえの?
それを言うんだったら、交配させて生産している職業のひと、すごいじゃん。養蜂とか、養殖とか交配業?の人たちは汚れなき魂じゃん。あれ、人工的に生み出しているんだよね?
宗教的にセーフ?宗教は関係ないのか。地球的にはグッドな行為ってことなのか?いやまて、突っ込むところが多分ずれてる。
「神になったというのは?神はあなたではないのですか?」
(神は一人ではありません。たくさん存在しますが、それぞれ役目が異なります。その中で、あなたが弟と呼ぶ魂は、世界を創造し管理する神、つまり私と同じ役目の神を選択しました。そして新たな世界を創造し管理しています。)
……弟は存在する。
生きてるって言っていいのかわからんが、会えるかもしれない。
俺は直感的にそう思った。
「弟に会うことはできないのでしょうか。来世でも構いません。」
そう言葉にした。
すると目の前にあったウィンドウが反応し、枠内にあった大量の文字が入れ替わった。
リスト数21。
……これは?
俺はウィンドウを見つめた。顎に手を当てて考え込んだ。
……検索して、絞り込んだのか?
確かに何億行からの選択なんてできやしない。キーワードでもって絞込みができないと最初の数行からの適当選択になってしまう。俺はもう一度絞り込まれたリストを見た。そして見つけた。
「来世はこれでお願いします」
俺は光に向かって答えた。
俺は『別世界に転移し創造神の僕として管理活動を行う』を選択したのだ。
神はしばらく黙っていたがやがて声を響かせた。
(それは少し特殊な転生ですね。別の神が管理する世界に転移し、神の仕事の代行を行うものですよ。神とは違い無限の精神を持たない普通の魂が神の代行を行うのですから、必ず心が壊れます。普通に命を全うすることよりも難しい生命になるのですよ。)
おれが選んだのは、心が壊れるほどの過酷な命。だがこれで、弟が作った世界で弟の仕事を代行するという目的で会えるかもしれない……。
「これで、弟が作った世界に行けますか?」
俺は意を決して問いかけた。
光がさらに輝きを増した。ゆらゆらと声に合わせて波打っていた光は弾けるように輝いて一つの塊となった。
女性の姿に戻っていた。女神、と呼んでいいのだろうか?
女神は俺が手を伸ばせば届くくらいの距離まで音もなく近づき、微笑んだ。
「加古川優聖という魂よ」
女神の声は心には響かず、直接耳に入ってきた。
「あなたが選んだ次の生命に求めるものは……魂の循環です」
難しい言葉がやってきた。
俺は弟に会いたいだけなのに……。こっちの世界の魂とあっちの世界の魂を入れ替える、てことかな?
「そうです。」
声に出してないことに答えられたよ。
「世界間で魂の浄化度合いが異なると、均衡が崩れ破滅を招きます。そこで定期的に世界間で魂を入れ替えて循環させることで均衡を保たせるのです。」
それはわかったが、向こうの世界で何をやれば循環できるんだ?
声に出してないけど、伝わってるだろう?
「伝わっています。……ですが横着しましたね。私と会話はしたくないようですね。」
微笑んでいた女神の顔が目をやや細め、俺を睨みつけるような視線を投げる。その瞬間に全身が凍りつくような感覚を受けた。
「そ、そんなことはありません!ただ便利だったのでつい……」
俺の体温は一気に上昇したよ。まさかそんな返しが来るとは。ただただやってくる魂相手に能面的に作業しているのかと思ってたから。
まずい、考えてることは伝わってしまうんだった。他のことを考えよう、他のこと。
「大丈夫です。ちゃんと伝わってます。」
……大丈夫じゃない。
「大丈夫です。」
……もう好きにして。嫌われよう。
「嫌いにはなりませんよ。むしろ好意的に思っていますよ、童貞のお父さん。」
そう言ってにっこりとほほ笑む。
……。
好意的な言い回しか?早く終わらせてよ。弟に会いたいし。
「では、早く終わらせましょう。」
女神はにっこりと笑ったままさらに俺に近づき、両手を背中に回した。そして、やさしく唇を重ねた。
俺の中で時間が止まってしまった。
キス!ファーストキスだよ!奪われた!?
違う!死んで魂になってるからノーカンか?
違う違う!また突っ込み所をずらしてる!女神はなんでそんなことを?
俺が初めての状況に頭が混乱している間も唇は重なっている。やがて柔らかな感触に強弱を感じる。俺は女神の唇に全神経を集中する。
……やばい、気持ちいい。
キスって相手の唇を吸い寄せるんだ。
俺もやったほうがいいのか?
俺の唇は女神の柔らかな唇に引力→斥力→引力→斥力を繰り返されている。
……だめだ。なんも考えられん。ボーとしてきた。
不意に唇から感触が失われた。女性の姿をした神は俺から離れていく。
「あなたに私の力の一部を与えました。この力を使い、新たなる世界で魂の循環を行ってください。」
……へ?
ちから?
女性はまたまばゆい光に覆われ、今度は俺自身も包み込んだ。
転移する!
感覚的にわかった。
待ってくれ。もうちょっとあなたの唇を……い、いやもうちょっと説明を!
光が大きく弾けた。
その瞬間。
「……にいちゃん。」
聞きなれた声が聞こえた。
一瞬だが、弟の顔が見えた。
だが次の瞬間、暗転した。
3話目です。
ひとまず連続投稿です。
女神さまは旅立つ主人公に≪ちから≫を与えました。それがなんだったのかはもう少し後になってわかるのですが、これから主人公の新たな人生が始まります。
それは、他人から見れば『ハーレム人生』と呼ばれる羨ましい限りの人生ですが本人は自らの目的と彼女たちの希望となるため、必死に生きていきます。
ようやく、次回から本編です。