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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第二章◆ 失声の銀狼少女
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10 エイミーの決断

 俺が、フォンの背中を気持ちよくなでている間に、大きな動きがあった。

 ラツェルについて、病気療養ということでヴァルドナ主席副官を解任することが発表された。新たな主席副官は、カビルという元傭兵だ。これは完全にナヴィス派の人間を領主の側に送り込んだことになる。

 そもそも今の領主自体、まともに統治できる能力があるかどうか疑わしい。体裁を繕っていて、領地を崩壊させられるより、手綱のとっておけるようにしておいた方がまだまし、というナヴィス殿とその方針を後押しした領代のヘリヤによって人事も全て決定した。

 俺は人々が安心して暮らせるのであればどういう人事であっても別にいいので、気にはしなかった。

 気になったのはラツェルの処遇である。


 彼は、街はずれの収容所にひっそりと移動させられることになった。麻酔を掛けられおとなしくなったところを麻袋に詰められ、荷物扱いで、馬車に乗せられる。誰にも気づかれることなく、収容所に運ばれ、地下牢へと放り込まれた。


 ここで、死ぬまで暮らすことになるらしい。


 ラツェルの精神は歪んでいた。元はどうだったか知らないし、何が原因かもわからないが、自分が上に立てないことで、相手を憎み、蔑み、陥れる。

 そうして今の地位を築いて来たのだろうか。だがそんなやり方では、精神は蝕まれる。今はその行為が完全に表に現れている状態で、誰が話しかけても、まっとうな会話にならなった。相手を憎むことしかできない人間は当然主君を敬うことはなく、ましてや今の主君はあの愚鈍な青年だ。その憎しみも一入(ひとしお)なのか、主君の事については暴言しか出てこない状況だった。


 俺の部屋を訪れたヘリヤによってその情報を貰った。

 ヘリヤの勘は鋭い。人事については別に俺に言う必要はない。だが、ラツェルに関する情報を俺に聞かせることによってどういう反応を示すかあえて見るために、わざわざ俺の部屋を訪ねているのだ。

 俺の方としても、ラツェルのその後は気になっていたが、奴が世に出てこられない状態になったのであれば、特に問題はない。

 これ以上、俺もラツェルに関わる必要もないため、一旦奴のことは忘れることにした。


 ヘリヤは俺が期待していた反応が得られなかったのか、話題を変えた。

 俺は【宝瓶獣】について、いろいろと質問を受けた。姿かたちの話から、声、表情、雰囲気といった細かい話を聞いてきた。どうやら純粋に興味があるらしい。


 「私も昔に【金牛獣】にお会いしたことがあってな。あの時は、恐怖よりもその神々しさに目を奪われてしまった…。【宝瓶獣】もさぞ美しいのだろうなぁ。」


 ヘリヤは遠くを見るように思いに耽っている。


 「…何か言いたそうだな、エルバード。」


 不意に俺を睨み付け、喧嘩を吹っかけてきた。ホントに鋭いね、この人。


 「いえ、何も。ヘリヤ様が興味を惹かれるのはわかりますので。」


 「そうじゃろ、そうじゃろ。実は三ノ島には【処女獣】様がおわす森があるそうで…」


 突然、俺の≪気配察知≫に今まで見たことのない点が現れた。



 索敵範囲の端に黄色い点。



 赤い点は人間だった。青い点は神獣だった。だが黄色い点は?

 俺はヘリヤが喋っている内容を全く無視し、窓に走り寄り、外を見る。黄色い点は領主館の方角から街の外れの方に向かっている。


 「お、おい、エルバード。一体どうした?」


 俺はヘリヤの事を完全に無視して窓から外に飛び出し、黄色い点を追いかけた。



 確かめなければいけない!



 ≪気配察知≫に移った黄色い点は、街の外れに移動した。俺は急いで黄色い点の場所に移動する。そこは、収容所だった。…ラツェルが幽閉されている場所。


 俺は胸騒ぎを覚え、奴の部屋へと向かった。


 収容所の壁を越え、屋上から中に入り、階段を下りていく。そして地下の監禁牢のある場所へとたどり着いた。


 黄色い点はその奥にあるラツェルの部屋の辺りにある。俺はラツェルの部屋を覗いた。



 …!



 ラツェルが幽閉されている部屋には、一人の少女が立っていた。剣を手に持ち、床に横たわるラツェルを眺めている。剣には血がべっとりとついていた。


 俺は思わず部屋の扉をこじ開ける。大きな音をたてて扉は壊れた。


 待っていたかの様に少女は振り返り、俺を見た。


 「やっと来たか。アンタが新しい(・・・)創造神様の僕(・・・・・・)ね?」


 俺は少女の言っている意味が分からなかった。


 少女は俺を見つめている。敵意はないようだ。黒髪に黒い目。おれがかつての世界で見慣れた顔つき。日本人だと思ってもおかしくない顔だ。


 「だ、誰だ!」


 「誰でもいいじゃない。忠告しておくわ。『この世ならざる者』ならば、余り目立つことはしない方がいいわよ。」


 そう言って剣を振って血を飛ばし鞘に納めた。


 「縁があれば、また会うかもね。同じ職業(・・・・)だし。」


 少女はニコッと微笑むと、一瞬にしてその場から消え去った。



 …しゅ、瞬間移動?



 辺りは静寂に包まれる。しかしすぐに上の階から足音が聞こえてきた。俺が扉を壊した音で気づかれてしまったようだ。

 俺は急いで部屋を出て≪超隠密行動≫を使って隠れる。ラツェルの部屋に走って行く兵士達とすれ違って、階段を昇り、そのまま収容所を出た。

 収容所内では、大騒ぎになっていたが俺はそんなことに目もくれず、≪気配察知≫を使って黄色い点を探す。黄色い点は俺が索敵できる範囲にはいなかった。



 “縁があれば、また会うかもね。同じ職業(・・・・)だし。”



 俺は少女が最後に言った言葉を思い出した。


 …多分、フラグがたったんだろうなぁ。


 どうせラツェルのことは忘れるつもりだったし、そのうちフラグ回収が行われることになるでしょう、と楽観して宿に戻った。




 宿には、爆発十秒前のヘリヤ様が俺を待っており、俺の身代わりにサラとフォンが正座させられていた。








 結局その夜は、ヘリヤ様のありがたいお言葉を深夜まで聞かされたため、翌朝はみんな仲良く寝坊していた。

 最初に目が覚めた俺は寝転んだまま窓の外を見る。既にお日様4つ分ほど登っており、結構なお時間だった。


 でも…。


 俺の右にはサラが、俺の左にはフォンが、気持ちよさそうに寝ている。

 フォンが俺の奴隷になってからは、サラとフォンは毛布を渡し床で寝る様にさせていたのだが、さすがに昨日は精神的にも凹んでいたので、3人で川の字で寝たのだった。朝起きたら二人はそれぞれ俺の腕に抱き付いていた。


 サラ、ごめんよ。


 心の中でそう言って、フォンのほうにすり寄る。 フォンは俺が寄ってきたのに気が付き、そのまま俺の背中に抱き付いて来た。



 これを待っていたんだ。



 俺は背中の心地よい感触を楽しむ。





 楽しむ。






 楽しむ。






 「ご主人様?」





 サラが起きて、俺の様子を見ていた。口をへの字に曲げ、眉間に皺を寄せて睨んでる。


 「ご主人様、一体何を…もごっ!」


 サラが何か言いかけたので、伝家の宝刀を抜く。



 ええい!秘儀、唇塞ぎ!




 塞がれた方は否応なしに黙り込むのだ。やがてサラは俺の唇の感触を楽しみ始めた。よし!乗り切ったぞ!俺も安心してサラの感触を楽しむ。



 唇。…うん、柔らかい。



 背中。…うん、柔らかい。



 唇。…うん、気持ちいい。



 背中。…うん、とても気持ちいい。



 トントン。…うん、とんとん。




 …トントン?



 俺は音のした方を見た。部屋の扉のようだ。誰か来たのか?無粋な。この朝の素晴らしい時間を邪魔するとは、無粋すぎる。


 俺はベッドから起き上がり、寝室を出て、部屋の扉までのそのそと歩いた。



 ガチャ



 扉を開けると、そこにはエイミーがいた。


 「エイミーじゃないか?どうした?」


 エイミーは俺の顔を見て、下を向いた。相変わらず表情は無かった。そして下を向いたまま黙り込んでいる。


 「…どうした?」



 「…ご主人様が…。」


 普段のエイミーからは考えられないような弱々しい声を出す。


 「マグナールのことか?」


 エイミーは表情をほとんど変えず肯き、言葉を続ける。


 「ご主人様が、廃業をお決めになりました。」


 やはり、ナヴィス殿の言った通りか。片腕だけでは傭兵稼業は続けられない。残念だが引退するしかないのだろう。


 「ご主人様は、私を“解放”するといわれました…。」


 苦しそうに話を続ける。声がおかしい。顔も何かを思いつめている表情に変わっている。

 一筋の涙が彼女の頬を伝わり始めた。


 「…私は、……私はまだご主人様と仕事を続けたいのです。」


 エイミーは涙を流しながら俺に訴えた。普段表情をほとんど見せないエイミーの涙。それだけで彼女の本心が伝わってくる。


 「エルバード様!どうか…どうかご主人様が再び武器を手にできるようにしてもらえないでしょうか!お礼ならば何でもします!私の体でよければ差し上げます!どうか、どうか!」


 エイミーは俺にしがみ付き、堰を切ったように泣き声をあげる。

 エイミーの涙声は俺の胸を強く打った。


 だが、俺はヘリヤの言葉を思い出す。


 “解放という制度があってもほとんど利用されないのはお前も知っているだろう?”


 彼女はどっちなんだ?


 次にあの謎の少女の言葉を思い出す。


 “『この世ならざる者』ならば、余り目立つことはしない方がいいわよ。”


 おそらく俺のスキルを使えば、欠損部位の復活ができるだろう。だが、それは俺の能力を知らしめることにもなる。


 「エイミー、君のお願い事はどういうことかわかっているかい?」


 エイミーはぼろぼろと止まらない涙を拭きもせず、くしゃくしゃになった顔で俺を見つめる。


 「わかっています。…失った腕が復元されるような強力な治癒が存在することを知らしめてしまいます。エルバード様にご迷惑をお掛けしてしまいます。…けれど。けれど私の…私のご主人様への思いは止められませんでした!どうすることもできずにここへ来てしまいました!」


 エイミーはちゃんと理解していた。そのうえでどうすることもできず、ここを訪れた。

 エイミーの気持ちはご主人様を助けることに一身だった。


 「…助けてください!ご主人様を、助けてください!」


 何度も何度も俺にお願いをするエイミーをやさしく抱き寄せて俺は部屋の中に引き入れる。


 「サラ!フォン!彼女のを居間に連れて!暖かい飲み物を出してあげて。」


 サラとフォンは寝室から飛び出しパタパタと用意を始める。エイミーは部屋の奥へと連れて行かれた。


 「エイミー。君はここで待っていなさい。サラ、フォン。エイミーの事を頼む。」


 俺は、二人に指示を出して部屋を出た。マグナールは二階の部屋にいるはずだ。俺はマグナールの部屋へと向かった。



 ガチャ



 「エイミーか。どこに行ってた?朝飯ならもう無理して作る必要はねぇって言ったはず……。」


 部屋に入ってきた俺を見て、マグナールは会話を途中で止めた。居心地悪そうな表情をしてベッドから起き上がる。


 「…座れよ。」


 マグナールはソファに俺を勧めた。俺は勧められるままソファに座る。


 「マグナール。」


 「何も言うな。もう決めたことなんだ。」


 マグナールは首を横に振って決意の固さを俺に示した。だが、俺が言いたいことはそうではない。


 「俺の新しい奴隷を見たことあるだろう?」


 違う話題を切り出した俺に訝しげな顔をマグナールは見せる。


 「あの獣人の子か。なかなかかわいい子じゃねぇか。」


 「彼女は、人間爆弾から助け出したときは、顔に人には見せられないほどのひどい傷を負っていた。…まぶたもなく、鼻は削げ落ちており、唇もない状態だった。身を守るために、自分で焼いたらしい。」


 マグナールは目を見開く。


 「バカな!あの子の顔のどこにそんな傷が!?」


 「…俺が直した。」


 「な!?…どうやって!?」


 マグナールは思わず立ち上がる。


 「…俺は≪ヘゼラサートの加護≫を持っている。」


 俺の一言でマグナールは理解したようだ。それは単に傷を癒すスキルを持っているということではなく、スキルを隠しているということに。


 「バカな…≪鑑定≫ではそんなスキルは…!」


 「今は何も聞かないでくれ。エイミーはあの獣人の傷を治したとき、その場にいたんだ。だから俺のところにやってきた。」


 マグナールは何も言わずにじっと俺を見つめている。


 「あのエイミーが、泣いて頼んできた。…助けてほしいと。」


 マグナールは失った右手を見ていた。俺の言わんとすることはわかっているみたいだった。


 「俺にはお前の右腕を元に戻せる。」


 マグナールはベッドに座り直した。静かに目を閉じ、考え込んでいる。しばらく黙って目を閉じていたが、目を開いて俺をじっと見た。


 「エルバード、俺の傷を治せばどうなることになるのかわかっているのか。」


 わかっている。それは回復系のスキルを持っていることを知らしめるだけでなく、スキルを隠す能力があることまでばれてしまう。


 「ナヴィス殿に知恵を借りる。」


 思いがけない人物の名を聞いて、驚きを隠せないようだ。


 「ナヴィス殿は知っているのか!?」


 「ああ、その場にナヴィス殿もいたからな。」


 マグナールはまた黙り込んだ。俺は話を続ける。


 「俺はエイミーの気持ちに応えたいのだ。」


 マグナールは黙ったままじっと考え込んだ。しばらく部屋は静まり返り、マグナールの荒い鼻息だけが聞こえる。やがてマグナールは、眼は閉じたままで俺に問いかけをしてきた。


 「…エルバードはいいのか?」


 「お前とエイミーが元気になるのなら構わない。」


 「奴隷たちも迷惑をこうむることになるぞ。」


 「あの子たちは全てを受け入れている。」


 「ナヴィス殿にも迷惑をかけることになるぞ。」


 「俺が土下座をして謝る。」


 マグナールは何を聞いても直ぐに返してくる俺に呆れた様子だった。


 「俺はこの先、お前に頭が上がらなくなるのが一番嫌なことなんだがな。」


 「そんなことは些細なことだ。」


 俺とマグナールは笑みをこぼす。


 「…エルバード殿。頼む、俺は傭兵を続けたい。」


 マグナールは俺に頭を下げた。






 俺はマグナールをベッドに寝かせると、窓に近づきカーテンを引きちぎった。それを更に縦に裂いて紐状にする。俺の行動を理解できず、呆然と見ているマグナールを余所目に俺は紐状にしたカーテンをマグナールの体に巻きつけでベッドに縛り付ける。


 「お、おい。何をしてるんだ?」


 不安そうにするマグナールを無視して次々とマグナールの体を縛り付け、ベッドから動けないようにした。そして、マグナールを見てニヤッと笑う。


 「言い忘れてたんだが、治癒のスキルを使うとな、受けた方はとんでもない激痛に襲われるそうだ。」


 マグナールの顔色が変わる。



 「顔の火傷を直すのに、フォンはのたうち回っていたが…。腕一本生やすのは果たしてどれくらいだろうな?」



 俺は意地の悪い顔でマグナールに微笑みかけた。



エイミーはマグナールのことをどう思っているのでしょうか。

主人公の目立たない活躍はまだ続きます。


次話はフォンの話です。実は二章の中核の話です。


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