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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第八章◆ 魔族に対するは勇者
126/126

11 舞台は整った

中々執筆が進みませんが、何とか書き上げましたので投稿できました。

八章のクライマックスです。





 ………。




 結論。


 神様は恐ろしい。



 【命神の杖】を落として怯えるバルヴェッタを問答無用でその手で握りしめ、断末魔をあげる(いとま)さえ与えず握りつぶした。

 ブジュッという気味の悪い音と共にバルヴェッタの血肉が周辺に飛散し、俺も少なからずこれを浴びてしまった。

 俺はなすすべなく、その光景をただ体を震わせて眺めてるだけ。声をあげる事さえできなかった。


 俺は恐る恐る後ろを振り返った。




 最終判断。


 神様'sは末恐ろしい。



 振り返ると、命神様の眷族にあたる神々が、次々と顕現し、その姿に頭を垂れていた。中には四ノ島でお会いした男神クレイオス様もおられた。そして跪く神々が肩を震わして命神様の復活を喜んでおられる。……喜んでおられるのはいいのだけれど、神力が豪快にだだ洩れしていてそれを浴びた俺は失神しそうになった。

 小さな入り口の無い小部屋に、神様が5柱。俺はその場にへたり込んだ。


「う…あ…。」


 言葉にならない声をあげ、俺は神様'sの中心に坐する青い髪の全裸の神を見上げた。


「我が加護を受けし僕よ。貴公の働きにより我が魂は復活した。誇るがよい。」


 高圧的な態度で俺に語りかける神。星神様に匹敵するその威圧感はハンパなく、身体が震え冷や汗が止まらない。


「本来は別人の持つその加護、特別に貴公にそのまま授けよう。ありがたく頂戴するが良い。」


 そして、上から目線での『第1回誰の力が一番強いかコンテスト!ドンドン!パフパフ!』参加宣言におれは腰砕けだ。…まあ命神様の加護にあるスキルは重宝してるからありがたいんだけど・・・。うわ!クレイオス様が俺を見てる!もう嫌な予感しかしない!


「・・・“この世ならざる者”よ。先の巨神族(ティターン)の子を守りし時の礼もまだじゃったな。」


 俺はふるふると首を振る。男神様がずいっと寄って来た。それどころか他の四柱(戦神ヴァルキリー、酒神ケンタウリア、神教護軍長ウリエル(ホシガミノクソギンチャク))もずずずいっと俺に近寄った。ちょ、ちょっと待って!ウリエル様は既に貰ってるでしょ!二個目は反則!イエローカードだってば!




【アビリティ】

 ≪全知全能≫

 ≪神算鬼謀≫

 ≪ヘゼラサートの加護≫

 ≪アマトナスの僕≫

 ≪暗殺術の極意≫

 ≪五穀豊穣≫

 ≪竜王の加護≫

 ≪森羅万象≫

 ≪伝説の執事≫

 ≪一騎当千≫

 ≪格物致知≫

 ≪破邪顕正≫

 ≪国士無双≫

 ≪白拍子の加護≫

 ≪無音殺人の極≫

 ≪アルザラートの加護≫

 ≪天網恢恢≫

 ≪力神の加護≫

 ≪疾風迅雷≫

 ≪勇者の加護≫ ←アユム専用じゃないの!?

 ≪忠勇無双≫  ←New!




 …………。


 新しいアビリティはしょうがない。


 勇者○トみたいな神様の能力は、あれ、アユム専用だと思ってたのに…。


 神様'sがワイワイ言いながら部屋を出て行った後も、俺は開いたメニューを呆然と眺めてこの入り口の無い部屋に佇んでいた。









 六ノ島からの友軍到着の報がサラヴィスの下に届けられた。伝令兵と共にやって来たのは蝮女(エキドナ)族の女性。王の周囲にいた騎士たちは、その魔物じみた外見に慄き、思わず槍を構えてしまった。


「魔人族の国からの使者だ。貴様らの行為は礼を欠くぞ!」


 すぐさま王からの叱責を浴び、周囲の騎士達は慌てて槍を引き使者の女性に頭を下げる。蝮女(エキドナ)族の女性は一瞥すると、これに触れることなく、六ノ島の新たな代表者からの口上を読み上げた。


「我ら魔人族の勇も此度の妖精族の行い許すまじき。よってヒト族に加勢致す。」


 女性は抑揚のある声で主からの言伝を口上した。その言葉に王は力強く肯く。


「相わかった。六ノ島の心意気に感謝する。ハーランディア島のヴァルダナ子爵に合力し、彼の地で待機されたし。」


 王の言葉に蝮女(エキドナ)族の女性は深く頭を下げ、玉座を辞した。

 千年もの間、他国と交流して来なかった六ノ島の突然の参戦。サラヴィスス王とその実弟であるラスアルダス公爵以外はその突然の変化に自分の思考がついていかずに困惑した表情を浮かべていた。

 サラヴィス王はその様子を確認すると、玉座の後ろで目立たないように立つ少女に声を掛けた。


「地下室でも彼女を見たが、これまでほとんど接触する機会の無かった魔人族の外見を受け入れるのは時間がかかるかもしれぬな。」


「……。」


 少女は黙っていた。彼女の首には目立たないように隠してはいるが、首輪がされている。つまり奴隷である。普通であればこのような場に奴隷を侍らせているのは王家としては忌避すべきこと。だが、そんなことは気にせず、意見まで求めていた。


「サラちゃん、喋ってもいいんだよ。」


 現在、彼女の主人代行を行っているラスアルダス公爵が彼女に声を掛けるとサラと呼ばれた少女は玉座の王にだけ聴こえるような声で答えた。


「…恐らくこの島では奴隷ではない魔人族を見かけたことがない事が起因しています。まずは“魔人族は奴隷”という誤った認識を正すことが近道かと。」


 少女の言葉に顎に手を当てて聞き返した。


「参考までに聞こう。どうすればよい?」


 王の質問に少女は暫く俯いていたが、やがて言葉を返した。


「…活躍させ、それを褒めることで、周囲の目は大きく変わると思います。」


「…なるほど。上に立つ者が彼らを人間として認めることで変わってゆくか。」


 王は独り言のように呟くと、立ち上がって静かに且つよく通る声で全員に言い放った。


「舞台は整った!これより我らは進軍する!四ノ島に合力するよう伝令を!」


 その声に騎士たちが一斉に声をあげ、槍を高く掲げた。





 一ノ島最南の群島ハーランディア。その西端にあるバッグ駐屯所。その浜辺に、10隻の黒い船が停泊していた。

 船には血の様に赤い盾に黒い目と牙の紋様が描かれた旗が立てられている。駐屯所の一室ではその船団を長と思しき長身の男が、私設傭兵団団長フェンダーと対峙していた。長身の男の側には、鼻高の女性と、青い肌白髪の少女が控えている。フェンダーはそのうちの1人、白髪の少女を軽く見やった。どうやら見覚えのある顔のようで、いつどこでこの少女を見たのか必死に思い出そうとしていた。それを知ってか知らずか、長身の男は赤い目を細めてニヤついている。


「この女はエルバード卿の奴隷だ。訳あって俺が魔人族としての教育を施している。」


 赤眼の男の言葉で、フェンダー卿は得心して笑みを浮かべた。少女は臆した表情を見せず、静かにそれでいて周囲に常に視線を向けて立っている。


「そうか。道理で見た顔と思うたわ。だが、以前見た時は雰囲気が違うようだが。」


「…魔人族をなめるなよ。貴様らと違って少し鍛えればヒト族には及ばぬ賢者となりえるのだ。」


「ヒト族は劣等と言いたげだな、異様の人種よ。」


 お互いの言葉は、同時に殺気が込められ、部屋は異様な雰囲気に包まれた。だが、すぐに鼻高の女性が長身の男を窘めた。


「閣下。ここへは喧嘩しに来られたのではありますまい。もっと協力的な姿勢をお見せ下さりませ。」


 鼻高の女性の言葉に長身の男は苦々しげな表情をして頭を掻いた。


「ふん……。」


 一方フェンダーの隣に控える副団長のラッドが兄である団長に注意をした。


「兄上、じきに王都からの使者が、魔人族との共闘の命を持ってくるはずです。お願いですから余計なことはしないでください。」


 弟に注意を受け、子供のようなふくれっ面で兄はそっぽを向いた。


 これ以降、二人の男は一言も会話せず、話し合いは鼻高の女性、テング族のヨルデと副団長のラッド卿で行われた。この二人の組合せは最悪なのでは?と周囲の騎士達は不安な表情を浮かべていた。


 それからしばらくして、王都に向かっていた伝令が戻り、私設傭兵団200騎と10隻の黒船はマイラクトの港町に向かっていった。






 二ノ島西の玄関口『ゼルデン』。

 一ノ島に近い港町であることから、交易の街として栄え、二ノ島の有力貴族ゼルデン公爵領の領都でもあるこの街に獣人族五千、竜人族千五百の兵が駐屯していた。彼らはここから北部に展開している妖精族軍を討つべく進軍の準備を進めていた。



「陛下!三ノ島に潜伏させている闇狐族からの密書です!」


 慌てた様子で狼顔の兵士が豪奢なテントに現れ、敬礼と共に大きな声をあげた。


「見せろ。」


 低く野太い声が聞こえると、その声に反応した黒髪の獅子族の少女が兵士に駆け寄り、手に持つ紙をひったくって声を発した男に渡した。男は紙を見るなり、唸り声をあげ、隣に座る金髪の竜人女性に渡した。


「…なんという……。」


 紙に書かれた文章を見た竜人女性は悲しげな表情で、側に控える海銀狼族の少女と小竜族の少女を見やった。


「やはりあのドワーフ王はクソ野郎だ。おのれ…この日の為にコソコソと各島で奴隷を集めてやがったのか!!」


 金獅子の男は怒りを露わに机を叩いた。その音に周囲の兵士たちが肩をすぼめた。不安そうに父親を見つめる黒獅子の少女を見かねて、金髪の竜人女性は紙を渡した。少女はそこにかかれた文章をみて目を見開いた。思わず渡された紙をくしゃくしゃに握りしめる。少女の綺麗な顔にも大きく皺が寄っていた。


 紙には“種族混在の奴隷が三千、三ノ島の港に集結部隊は二手に分かれ、一方はエウレーンの森へ、もう一方は二ノ島へ向かいたり。”と書かれていた。


「父上…。」


「陛下と呼べ。」


「へ、陛下、奴隷を兵士として使うのは普段でもあります…が、この報告では、彼らは兵士ではないのではありませぬか?」


「…だから何だ?」


「これから、妖精族軍と戦うのに、実際に剣を向ける先には戦闘経験があるのかわからぬ奴隷達というのは…」


「だから何だ?戦わぬと言うのか?」


「いえ…」


「ならば黙っておれ。どう戦うかは俺が責任を持って決める。責任の持てぬお前の意見など不要。」


 父王の強烈な言葉に少女は黙ってしまった。それを見ていた金髪の竜人はやはり見かねて助け舟を出した。


「ロフト王よ。その責任、アタイも共に背負わせてもらいます。…もちろん彼女にも。奴隷に対しては奴隷商人に相談すべきでしょう。彼らはこの分野に長けた者たち。バジル商を中心とした奴隷商人の隊をつくり、彼女に率いさせてはいかがです?」


「オルティエンヌ棟梁、奴隷商に何をさせるつもりです?」


 怒りを抑えつつ、できるだけ丁寧な言葉で獣人王は聞き返した。


「彼らは奴隷達の“グランマスター”です。如何に主に非業な命令を受けている奴隷でも、彼らの声には耳を傾けると思います。また、彼らは職業柄奴隷達を一時的に無効化する術を知っているのではないでしょうか。」


 棟梁と呼ばれた女性の言葉にロフト王は表情を変えた。俯いて何事か呟いた後、直ぐに肯く。


「棟梁の言、試す価値はあるか。バジル商にもこれまでの恩を一気に返してもらおう。」


 王は軽く手を振ると、兵士の1人が一礼してテントを出て行った。それを無言で見送ると金獅子の王は二人の奴隷に視線を送った。


「…ふん、あ奴と関わってから、奴隷に対する見方が変わったわ。それは俺だけではない。俺の娘も奴隷に対して情を持っておる。……これもあ奴の…いや、よいわ。今は戦に集中する。海銀狼族の少女よ、ハグーに従い二ノ島北部へ向かえ。」


 王の言葉に青銀色の髪の少女は綺麗なお辞儀をした。


「では、ウルチ、貴方もフォンさんと共にハグーさんの指示に従いなさい。」


 オルティエンヌ棟梁の優しい声に紫色の髪の少女は笑顔で返事した。


「はい、姉御。」


 二人の美少女奴隷を伴って黒獅子ハグーが退出する。それを見送っていたロフト王は小声でオルティエンヌに話しかけた。


「あの二人をハグーに預けて大丈夫か?一応エルバードから預かっている身ではあるぞ?」


 オルティエンヌは澄ました表情で二人を見送りながら返答した。


「大丈夫です。あの方もエルバード殿との旅を通じて命の尊さを学んでいるようです。…恋することもまなんだようですが。」


「…ふん、あんな奴には娘はやらん。」


 不意に父親の顔になったロフトを見て、オルティエンヌはクスリと笑った。ロフトは彼女を睨み付けたが照れ隠しであることは瞭然であった。







 四ノ島では、グーパの街に集まった兵が大船団を組んで当に港を出港したところだった。先頭は半人半馬族(ケンタウルス)のウェイント率いる五百の馬人兵。右翼に主天使族(ドミニオン)のクェルが率いる天使兵五百が宙空を覆っている。左翼は新たに族長代理を務めるローレンシアが率いた五百の戦乙女族(ヴァルキリー)

 そして後列には巨神族(ティターン)の五百とグーパ領主ウェイパーの私兵五百が乗り込む10隻の船団。船団長は子供ながら王者の風格を漂わす巨神族(ティターン)族長エルティスケース。騒然二千五百の大軍が王都シャナオウの港を目指していた。


 ひと際大きな船に乗り込んでいるエルティスケース。彼の側には一人の戦乙女族(ヴァルキリー)が控えていた。彼女は、船団長の側に居ながら、一度も彼を直視せず、ただひたすら正面を睨み続けている。その表情に周辺の兵下たちは近寄りがたき、と恐れて近よ寄ろうとはしなかった。また彼女が“奴隷”であることも忌避されている一因でもある。

 そんな周りの様子を見てエルティスケースは苦笑していた。


「アンネローゼ卿、少しはマシな表情で控えてくれないか。」


 エルティスケースに「卿」と呼ばれてむず痒そうにさらにアンナは顔をしかめた。エルティスケースは深くため息をつくことになった。


「…正直に言おう。私は、人格封印をされている間の記憶は一切ない。」


 エルティスケースの言葉にアンナは表情を変えた。だが、若すぎる族長に振り向くことはせず、ただ前を見据えて耳を傾けている。


「だから、貴女にどれほど愛されていたかを全く覚えていない。」


 アンナは表情だけでなく、全身を強張らせた。


「…だが、周囲から貴女のことはしっかりと聞いている。…奴隷であることを卑下する者もいるのだが……それでもアンネローゼという女性がどれほど幼いエルティスケースに尽くして来たかを聞いている。」


 アンナは静かに目を閉じた。開けていれば涙があふれてくるからだろうか、過ぎ去りし思い出を思い出そうとしているのか、兜をかぶり直し、周囲に表情をうかがい知れないようにした。


「私は、思い出すことは出来ぬだろうが…決して忘れることは無いだろう。」


 アンナは肩を震わせていた。


「この戦、アンネローゼ卿の活躍を期待している。貴殿は何処の部隊にも所属させない。貴殿の主の声を聞き、主の命に従い、戦場を駆け巡るがよい。」


 アンナは振り向き跪いた。顔を見られないよう下を向き口上を述べた。


「このアンネローゼ!奴隷の身ながら閣下のご期待を賜ること、至上の喜びとせん!ついてはその厚き期待に応えるべく西へひが…ぎゃぱっ!」


 熱い声で口上するアンナの頭に槍を叩きつけ、一瞬にしてその意識を奪い取った者が倒れ込むアンナの後ろから現れた。その姿を見たエルティスケースはニッと笑う。


「申し訳ございません、族長閣下。こ奴は只今口上禁止中でして。」


 声の主はエルティスケースにとって退屈な船上を吹き飛ばすほどの人物であり、彼は満面の笑みを浮かべた。一方突然現れたこの男に周囲の兵士は大慌てになっていた。右往左往し出した兵士たちを片腕を振って静止させ、男に向かって身を乗り出した。


「貴公が来たと言うことは六ノ島も滞りなく参戦できる準備が整ったと言うことか?」


「はい、只今一ノ島南部の施設傭兵団と合流して二ノ島に向っております。」


 金髪の偉丈夫は片膝を付いて一礼し言葉を続けた。


「既に三ノ島で交戦が始まっております。敵は不当に集めた奴隷を集めて肉の盾を創りだし、エウレーンの森に襲い掛かりました。私もすぐにエウレーン公爵の助勢に向かいます。」


 男の言葉はエルティスケースにとって不快な内容であった。巨神族にとって、戦とは力対力のぶつかり合いの場。強者同士の命のやり取りと考えている。そんな場に弱者を無慈悲に投入し、相手の戦意と攻撃力をそぎ落とすような行為…族長でなくても何も思わぬ者はいない。周囲の表情はこの男の言葉で引き締められた。むしろ怒りの火まで灯っている。


「皆もその怒り、私も同じ気持ちだ。既に我ら半神族は奴隷のあり方を見直し始めている。その中でこの所業を見逃していては悪しき習慣の犠牲者に報いることはできん。」


 曾て四ノ島での奴隷と言えば犯罪奴隷のみであった。その扱いは惨く、過酷で、人権などはありはしなかった。内戦を経てその考え方は改められ、少しずつ法整備を進めている。その中での妖精族軍の所業は彼らにも怒りを与えてしまったようだった。


「エルバード卿、我らへの挨拶はこれ以上無用。早急に三ノ島へ向かわれるが良い。何なら、アンネローゼ卿も連れて行かれるが良いぞ。」


 エルティスケースの好意に金髪の偉丈夫、エルバードは首を横に振った。


「大丈夫です、策がございます。それに……強者とは、遅れて登場するものですよ。」


 エルティスケースは大笑いした。

 我らは強者か。われらは遅れて登場することで活躍すると言うことか。初めての戦であるエルティスケースはエルバードの言葉に巨神族として胸を躍らせた。







 三ノ島の西に位置するエウレーンの森。ここは、曾てエルフの初代族長フリーシアの三女が治めた森。長女、次女が治めた森は既に荒廃してしまっていたが、この森は過去のエルフの隆盛を思い出させるようにエルフ族にとって住みやすい聖地であった。

 その森は今血肉にまみれ、死臭が漂う戦場と化している。いや、戦場と言っていいかもわからない、森に陣を構えるエルフ族軍に対し、妖精族軍は奴隷達を肉の壁として最前列に配備し、敵陣に侵入してきたのだった。前線の指揮官はその威容に身を震わせながらも、敵の侵入を防ぐために槍衾での応戦を命じた。そしてそれが悪手であったことをすぐに思い知らされた。応戦した槍兵たちは無抵抗で迫りくる奴隷に槍を突き立てて押し返したが、戦場に残った無数の老若男女を見て戦意を挫き、エルフ族軍も前線を後退せざるを得ない状態となった。

 土魔法で森を一望できる丘を作り、そこを本陣としているエルフ族が、初戦の後味の悪さを罵っていた。特に眉目秀麗の美丈夫である族長エウレーン公爵イズレンディアは髪をかき乱し椅子を叩き壊すほどの怒髪天であった。


「どこまで自部族至上主義なんだ奴は!!」


 砂埃を巻き上げ、怒りを露わに暴れる公爵の傍らには鉄仮面を被るエルフの少女がいた。彼女は暴れる公爵を一瞥して、視線を最前線に向けて眺めている。周囲の将軍たちは怒り狂う族長どうしたものかわからず、オロオロとしていた。控える将軍たちはこの鉄仮面の少女の正体を知ってはいたが、知らぬふりをこれまでしていた。だが、この場面になって彼らは兄を宥めて欲しいという視線を彼女に敢えて向けたのだが、鉄仮面の少女は気にする事無く遠くを眺めていた。

 ふと何かに気づいたようで何もない宙空を見上げた。そして重い鉄仮面を縦に振るとトコトコと歩き出した。


「待て、エフィ…はぐれエルフよ!どこへ行く!?」


 族長の言葉に少女は足を止め振り向いた。


「…前線。」


 仮面で表情を隠した少女は短く答え、また歩き出した。


「ま、待て!今前線は妖精族軍の死体が…哀れな奴隷達の無残な死体が転がっている状況だ!お前が見るべきものじゃない!」


「妾は死体を見に行くのではない。…これ以上無意味な死体を出さぬ為に行くのじゃ。」


「お前に何ができる!戻れ!ここに居るんだ!」


 族長の必死の大声に少女は再び足を止め、振り返った。


「い・や・じゃ!」


 奴隷のはぐれエルフとは思えぬ受け答え。その言葉に公爵も将軍も言葉を失い、呆然と見返した。あるいは彼女の固有のスキルが発動して何も言えなくなったと言ってもいいかもしれない。とにかく少女の言葉で全員が黙り込んでしまった。


「妾が土魔法と樹魔法で奴隷達を足止めする。ザックウォート商(グランマスター)がその能力で奴隷達を無力化する。…エルがこの作戦を妾に伝えてきた。妾はこれを実行する。…エルがこの地に来るのじゃ。妾が行かずして何とする!」


 雷に打たれたかのように口をポカンと開けて少女を見返していた公爵だったが、やがて正気を取戻しにやりと笑った。乱れた髪を手櫛で直し、伝令兵を呼んだ。


「奴隷商人を呼べ!鉄仮面のはぐれエルフと共に前線へ送る!護衛には鬼神族に依頼しろ!我らは少数精鋭で別動隊を組織し、敵陣の側面を突く!」


 一気に指示を出すと、再び鉄仮面の少女を見やった。仮面の奥の瞳をじっと見つめる。


「…死ぬなよ。」


 公爵の言葉に少女はニィと笑った。









 俺は三ノ島に到着した。…と言っても≪空間転移陣≫を使ってエフィの側に移動しただけだが。そしてそのエフィは俺に何も言わず定位置である俺の頭の上座っている。マイラクトの砦で見つけた鉄仮面を被って死臭漂う前線を見つめていた。余りにもシュールだったので「何で仮面被ってんの?」て聞いたら「ここでは妾の顔は有名すぎるから」と答えられて悲しいくらいに納得してしまった。

 俺がここに来たのはエフィの補助のため。2~3日すれば各国が三ノ島に上陸し、包囲網が完成するが、それまでは最前線として敵を引きつける必要があった。そしてそれには、この先にいる不当に集められた奴隷達をどうにかする必要があった。


「エフィ、作戦はわかっているな。ありったけの樹魔法や土魔法で無抵抗な奴隷達の進軍を止めろ。後はナヴィス殿達奴隷商人が何とかしてくれる。…これ以上無意味な死人は出すな。」


 肩の上でエフィは遠くを見つめている。


「聞いてる?」


「聞いてるわよ。妾はエルの奴隷よ。」


 エフィはパシンと俺の頭を叩いた。


「エルの苦しみを妾がわからないと思ってるの?全力で止めて見せるわ。…それよりもサラ姉は大丈夫なの?」


「…あ、ああ。アイツ、サラヴィス王の側で参謀紛いのことをやってた。」


 突然サラの話に変えられ、俺はたどたどしい返事をしたが、俺の答えにエフィもブフォと吹き出していた。確かに生まれた時から奴隷だった少女が王の側で助言しているなど、今までではありえない。


「大丈夫なの?」


「サラなら大丈夫だ。アイツの持つ≪察言観色≫は人の本質を見抜くのに有効なスキルだ。沈着冷静でいれば、権謀渦巻くサラヴィス陛下の側では役に立つ。近いうちにヒト族軍と共にここへ来るはずだ。」


 エフィは俺の言葉を聞くと、フンと鼻を鳴らしてまた敵陣を見つめた。


「…エフィ、俺は物見台じゃねえぞ。」


「知ってるわよ。」


「なら、降りろ。」


「いやじゃ!」


 残念だ。俺には貴様の≪3拍子のそろった姫≫は聞かぬ。俺は肩から無理矢理エフィを降ろし、後方で準備しているナヴィス殿のもとへ向かった。いち早くベスタさんが俺を見つけ、綺麗なお辞儀をしてくれた。その様子を見たナヴィス殿が俺に手を振る。


「全く、儂らのような老骨にまで鞭打つ作戦を立てるとは!」


 会ってすぐに文句を言われる老人。まあしょうがないので俺は笑ってごまかした。


「エルバードよ。この戦争で奴隷に対する扱いが変わる。儂らが戦の中でどう奴隷を遇したか記録され、それが全島に知れ渡り、それが人々の奴隷に対する見方を変える…。きっとそうなる。」


 ナヴィス殿は皺のはいった手を握りしめた。俺も大きく肯く。


「期待しています。でも無理はしないでください。貴方を死なせてしまうと貴方を慕う多くの奴隷から怨まれます。」


 老人はうむと肯くと再び準備を始めた。彼の側には大量の首輪が用意されていた。ベスタさんが一所懸命その首輪を袋に詰めて運んでいた。






 サラヴィス陛下が言った。


「舞台は整った。」


 俺もそう思っている。同時に妖精族軍もそう思っているはず。戦争は誰もが予想突く通りに動き、六大群島大同盟VSドワーフ族軍の構成が出来上がった。ここまでは両軍が想定する通りの流れだ。魔人族が加わったのは想定外だろうが、それ以外はドワーフ王が考えたシナリオ通りのはずだ。

 わからないのは、ここからどうやって戦うのか。圧倒的に不利な戦局のはずなのに、わざとそう仕向けている理由。…ヒントは黄龍様、着物美人さんから聞いた【神】【神獣】【魔獣】…。

 妖精族軍は本土決戦で逆転を狙っている。いや、最初からそのつもりで動いている。何を狙っているのか、それを探るには、全軍で三ノ島に上陸するしかないか。


 俺は二ノ島に向った。


 もう一つの最前線、二ノ島北部の平原。ここも、無抵抗な奴隷を盾に進軍しており、更には灰角竜族系の竜人達が妖精族軍に加わっている。できればウルチには戦わせたくない。ならば俺が出張る必要があるな。



 俺はウルチと一緒に行動しているフォンの下に転移した。


 突然現れた俺を見たフォンは、



 無言で大柄な俺を抱え上げ、



 いそいそと茂みに連れ込み服を脱ぎだしたので、



 ≪意識剥奪拳≫で優しく眠らせてあげました。







………何考えてんだ、フォンは?


相変わらずフォンは、主人公と致すことしか考えてないようです。

今話では、エフィが大きく成長している風を見せましたが、次話では、カミラが大活躍します。

まるで生まれ変わったかのように大きく変貌します。

いつ?・・・・・・はい、頑張ってできるだけ早く投稿します。


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