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弟が作った世界でハーレム人生   作者: 永遠の28さい
◆第八章◆ 魔族に対するは勇者
125/126

10 命神復活

連続投稿2話目です。

次話も近日中に上げたい・・・むりか。




 獣人族大使館襲撃から4日が経過した。



 エメルダ王妃殿下が獣人族に軟禁され、エウレーン公爵が妖精族に反旗を掲げて以降、目立った動きはない。だが、三ノ島に送り込んだ精霊たちの話では、主要港にトロール族、デュラハーン族、ゴブリン族、コボルド族など、ドワーフ王を推戴する部族が集まっており、軍船もひしめき合っているそうだ。さらに、二ノ島北部にもクー・シー族、ケット・シー族、バンシー族などが集結しており、獣人族、竜人族と野営を張っている。変わってヒト族は王都に守護騎士団、貴族軍が集結しており、独特の雰囲気で色めき立っているが、半神族は一旦四ノ島に引き上げており、王都周辺は野営の後だけが残っている。

 人々はこれから始まるであろう大戦争に慌てているかと思いきや、意外と冷静に状況を見守っているようで、特に暴動も起こらず意外と静かに時が流れていた。



 王宮の地下。



 曾て“八岐大蛇”が縛られていた広い空間。



 そこに六つの集団が一人の男を中心に集まっていた。……正確には1人の男と6人の奴隷少女を中心にして、ヒト族、妖精族、獣人族、魔人族、竜人族、半神族が各々代表を先頭にして集まっており、中心で天井を見上げて何かを窺っている金髪の男、エルバードに注目している。エルバードは見上げた顔を下ろすと、ぐるりと体を一周させて各集団を一瞥した。そして深く一礼する。


「本日は、私の呼びかけにお応えいただき、ここにお集まりいただいた事をまずお礼申し上げます。」


「…この場において、世辞は無用。」


 集団の一つ、獣人族を率いる金色の鬣の男が吐き捨てるように言った。太い腕を胸の前で組んでエルバードを睨み付け、不機嫌な表情を隠そうともせずに鼻息も荒くしていた。側にいた黒獅子の女性が心配そうに男を見上げる。


「俺も堅苦しい挨拶は好きではない。さっさと話を進めよう。」


 獣人族の左隣に陣取る集団、魔人族の先頭に立つ大男が不敵な笑みを浮かべて言葉を発した。吸血族(ヴァンパイア)特有の赤い目を持つ男は漆黒のマントに身を包み、蝮女(エキドナ)族の女性を従え中心の男を睨み付け不敵な笑みを浮かべている。

 エルバードは大男と視線を交わして気まずそうに頭を掻くと、軽く息を吐いて言葉を続けた。


「…わかりました。順に話を進めていきましょう。まずは人質の交換です。公爵閣下、ハグー殿下(・・・・・)をこちらへ。」


 エルバードは、獣人族の対局に坐するヒト族の小柄な若者に声を掛けた。「公爵閣下」と呼ばれた若者は軽く頷くと奥に控える騎士に合図を送り、一人の女性獣人を前へと連れ出した。


「キーナ…」


 金獅子の獣人の横に控えた黒獅子の少女が震えた声をあげた。その様子を見て直ぐに金獅子の獣人が手で制する。


「ロフト陛下、王妃殿下を。」


 エルバードの声に陛下と呼ばれた金鬣の男は肯き、獣人族の集団の奥から、豪奢なドレスを纏った女性を前に進ませた。女性の姿を見て反対側のヒト族から、安堵のどよめきが上がる。

 二人の女性は同時に前へと歩き出し、エルバードの前で交差して、互いの集団へと入った。


「エメルダ、よくぞ生きていた。…礼を言う。」


「キーナ!キーナ!」


 王冠と大剣を持つ男に抱きしめられる女性と、黒獅子に泣きつかれる女性。二人の女性は互いの種族に人質として囚われていたが、ここで双方合意のもと返還が行われた。形式上はヒト族の王妃殿下と獣人族の王女の交換だが、実際はこの金髪の男がハウグスポーリからハグー妃殿下の身代わりとなっていた侍女キーナを奪還し、ラスアルダス公爵閣下に預けていたものだった。


 双方の種族がひとしきりの抱擁が終わらせたところを見計らい、エルバードは両種族に声を掛けた。


「サラヴィス陛下、ロフト陛下、これで双方の面子を保った形にはなったと思います。恐れ入りますが、これで矛をお納め頂けますか。」


 エルバードの声にサラヴィス王が答えた。


「余は元より獣人族にわだかまりはない。」


 ヒト族の王の声に獣人族側がざわついたが、ロフト王が片手でそれを制した。


「正直、儂には多少残っておるが、エルバード卿の顔を立て水に流そう。」


 今度はヒト族側でカチャカチャと件に手を掛ける音が聞こえたが、サラヴィス王はロフト王と同じ仕草で制した。


「…ロフト王よ、寛大な対応に感謝する。」


 一国の王が他国の王に頭を下げた。配下の騎士から悔しそうなうめき声が聞こえたが、王はそれを無視して言葉を続けた。


「だが、我が国との国交はこのまま続けられるよう善処願う。」


 サラヴィス王の言葉にロフト王は黙り込んだ。


「ロフト陛下。」


 小声でエルバードがロフト王に声を掛けた。ロフト王はチラリと視線をエルバードに移したが直ぐにサラヴィス王に視線を戻し、眉間に皺を寄せた。何かを考え込んでいる表情であった。そしてしばらくの沈黙の後ようやく返答する。


「…相わかった。引き続き、大使を派遣し、国交を継続することを約束する。」


 金髪の男はほっと溜息をつき、ロフト王に一礼した。ロフト王は複雑な表情のまま天井に視線を移した。


「では、ここからが本題です。…歴史上初。六か国同盟の締結をお願いしたく…」


「エルバード卿、お待ちを。」


 エルバードは話を遮った老半神の女性に目を向けた。白く輝く翼を背中に持つ戦乙女族(ヴァルキリー)

。年老いやや腰を曲げてたたずむその女性は一国の代表としての強い態度をうかがわせていた。


「ここに集う6種族のうち、2種族、つまり妖精族と魔人族の御方は正式な種族代表ではない。これについてはいかとする?」


 半神族の女性の言葉に、互いに対極に位置していた耳長の屈強な男と、赤眼の屈強な男が目を合わせた。赤眼の男はそこからさらに半神族の女性まで睨み付けた。


「我ら魔人族はこののち、一旦六ノ島へと戻り、国を奪ってくる。…文句はないであろう。」


 鋭い牙をワザと見せつけるように笑い、再び半神族を睨み付けた。白銀の甲冑に身を包んだ女性騎士が二人の間に立ちはだかり剣に手を掛けた。


「ナイチンゲール様に対する無礼、それなりの覚悟がおありのようだな。」


 翼を大きく広げ、威嚇とも取れる格好で女性騎士はナイチンゲールの前に立ち、赤眼の男を睨み付けた。だがすぐにエルバードがこれを制した。


「カーテリーナ殿!御前です!控えて下さい!…ガシャル殿もいちいち相手を挑発する行為はお止め下さい。」


エルバードの声にカーテリーナと呼ばれた女性騎士は金髪の男を睨み返し、ガシャルと呼ばれた吸血族(ヴァンパイア)も不満そうな表情で金髪の男に歩み寄った。


「…俺を引きずり出したのは貴様ぞ。多少楽しませて貰ってもよいであろう?」


 威嚇するかのように文字通り上からエルバードを見下ろす赤眼の男。だがエルバードは動じていなかった。


「ガシャル殿、それは六ノ島を纏めてからお願いします。ここは強調を約束してください。」


 負けじと見返すエルバードにガシャルと呼ばれた赤眼の大男は暫く黙って睨んでいたが、ふっと視線を緩めると踵を返して魔人族の輪に戻った。そして蝮女(エキドナ)族の女性が用意した椅子に座り込み大きく鼻息を鳴らすと微動だにしなくなった。その様子にエルバードは肩でため息をすると話を続けた。


「サラヴィス陛下、ロフト陛下、ナイチンゲール閣下、オルティエンヌ殿、恐れ入りますがエウレーン公爵イズレンディア殿と吸血族(ヴァンパイア)の長ガシャル殿を次代の妖精族、魔人族の代表者としてお認め頂くよう要請いたします。」


 エルバードは4族の長に一礼する。サラヴィス王もロフト王も黙り込み、ナイチンゲールは視線をガシャルの方に向けて小さく息を吐いて目を閉じた。この3人は明らかに魔人族に対して不信を抱いていることが見て取れた。だが、これまでずっと黙って様子を窺っていた竜人族の長がスッと一歩前に進み出た。金竜族の名に恥じぬ綺麗な金色の髪が柔らかくなびき、一同が彼女に注目した。


「…エルバード殿。貴方は無位無官から、種族という垣根を越えて仲間を従え、“クロウの自由騎士”という称号を受け、周回船交易の正使として各国を巡り、アタイ達と向き合って来ました。そんな貴方であれば今のこの現状、何をどう見て…そうしなければならず…どうなるべきか…それを覗いたい。アタイもそうですが、一国の代表が貴方の言に価値があると思い、ここに集っているのです。それを聞かずしてこの“六大群島大同盟”の話には同意できません。」


 凛とした表情で一同を見回し、オルティエンヌはすっと後ろに下がった。動きを合わせるかのように後ろに控える各竜人が姿勢を正した。

 暫く沈黙が続いて各国代表はエルバードを注目していた。それを十分に感じたエルバードは少し照れた笑いを浮かべてから一同に再び一礼した。


「…どうやら私は皆様方に注目される男になってしまったようですね。私はそんなに大した男ではないのですが…。」


「儂やウェイパーと互角にやり合う男が何を言う?」


 初めて敵意のない笑顔をロフト王が見せた。それを見たエウレーン公爵が同じように笑った。


「私も渾身の一撃を受け止められましたよ。」


「フェンダー卿とも互角だったと聞いておるが?」


「陛下、それは誤情報です。私はフェンダー卿と対戦したことありません。」


「おお、フェンダー卿とは、神獣【宝瓶獣】に挑もうとした男だな?サラヴィス王よ儂もあ奴と交えて見たいと思うておった。」


「あ?そんな馬鹿がヒト族にはいるのか?楽しそうだな。俺も混ぜろ。」


 エルバードの何気ない一言が急に場の雰囲気を変え、男どもが強さを比べ合う話で盛り上がり始めた。その様子を最初はむすっとした表情で見ていたナイチンゲールも、やがてクスリと微笑んだ。


「…良いでしょう。私はエウレーン公爵とガシャル卿を次代の代表者であることを容認します。」


 ナイチンゲールの言葉に辺りは静まり返る。エルバードもこの件に関して彼女が難攻不落と考えていたようで、驚いた表情で白翼の女性を見ていた。その様子に今度は金竜族の棟梁が噴き出すように笑った。


「フフフ…エルバード殿、ナイチンゲール殿のお返事がそんなに不満ですか?」


 オルティエンヌ殿の意地悪な質問に暫し固まっていたエルバードがすぐさま反応して否定する


「あ、いえ!不満だなんてとんでもございません!ナイチンゲール様、感謝いたします!」


 慌ててエルバードが頭を下げた。が、その様子を見たナイチンゲールは傍らに控える同じ白翼を持った女性に目を移した。そして少し意地の悪い笑みを浮かべた。


「…ですが条件を追加します。無官の身でありながら我らを意のままに操るのです。それなりの担保を出してもらいましょう。」


 そう言って柔らかい笑顔を見せ、視線を側にいる戦乙女族(ヴァルキリー)に向けた。その仕草は他の種族代表にもその意図がはっきりとわかるほどワザとらしい仕草。そして真っ先に獣人族の王が手を挙げた。


「ナイチンゲール殿、貴殿のその条件、儂も乗ったぞ。」


「俺も!」


 すぐさまガシャル殿が続く。


「では、私も。」


「そうだな、余も乗ろう。」


 続いて、エウレーン公爵、サラヴィス王までもが手を挙げた。あまりにも唐突なことに、エルバードは視線を泳がせるようにあちこちの顔を見まわってた。ナイチンゲールの言わんとしていることを察したヒト族の奴隷が思わず不安そうに見上げている。


「ドワーフ王との決着が付くまで、私にアンネローゼを預けなさい。」


 ここで初めて白翼の女性がガバッと顔を上げた。半神族の代表と目が合い慌てて俯く。表情を隠したつもりだったが同様していることは隠せなかったようだ。体が震えている。


「お待ちください!彼女は奴隷です!主である私から衣食住は提供しないと…」


「一時代役を示すことで問題なかろう。となると、儂はこの海銀狼族の女だな。」


 ロフト王の声に美しい青銀色の少女が尻尾を丸め、エルバードの足にしがみ付いた。


「そうか、では私はそのはぐれエルフか。」


 エウレーン公爵は実の妹であるエフィを嬉しそうに指名し、公爵の見えない位置でエフィが顔を真っ青にした。


「フフフ、では私はウルチですね。…あら髪の色が…私はベラ殿でも構いませんよ」


 オルティエンヌが上品な笑い声で小竜族の少女に声を掛けると、髪の色が紫から黒、黒から紫と交互に変化した。どうやら中でベラとウルチが互いに表を譲り合っているようだった。


「儂はその夢魔族(サキュバス)の少女か。よいぞ、預かっている間たっぷりと魔人族として鍛えてやろう。」


 ガハハと笑うガシャルに完全に怯えた吸精の少女は頭を抱えてその場で土下座していた。


「…では、余はその娘だな。エルバード卿が一押しの聡い娘だと聞いた。丁重にお預かりしよう。」


 彼の一番奴隷である、サラを預かると言われエルバードの表情は一変した。6人の種族代表はその様子をニヤニヤと見ている。6人の奴隷は各々が各々の反応で出された条件に戦慄していた。





「…お前ら絶対、この会合が始まる前から結託してただろぉおお!!」






 彼の心の声がこう聞こえるかのように、返事することもできずワナワナと唇を震わせて6人を見ているエルバードは、この6人にとって眼福であったようだ。











 六ノ島。



 俺は、再びこの島に上陸した。


 目的は、政務議会にて六大群島周回船の寄港及び交易の許可をもらいつつ、クーデターを決行し且つ成功させること。

 既にヴリトラ派、クー・シー派、テング派にはクーデターに同調する意を得ており、後は派閥に属していないヴァンパイア、オーガ、ゴルゴンなどの少数部族がガシャル殿に忠誠を誓っているそうだ。…歴史上稀に見る民主制から君主制への移行の瞬間が迫っていると考えると、俺は口の嘴をつり上げてしまった。


「楽しそうですね。」


 側に控えるアリアが俺の顔を見て不思議そうに呟いた。


「そうだな。ようやく六ノ島が他国に対して門戸を開くのだ。実に興味深い。」


「エルバード殿は、政に興味はないと思っておりましたが。」


「…内緒だぞ。そう言うと俺を危険視する輩が変に蠢動してしまう。」


 アリアは二、三度瞬きをするとくすりと笑った。


「なるほど。内緒にしておきます。」


 そういうとアリアは同じく控えているヨルデと共に、俺を政務委員たちが待つ議会への足を進めた。俺は二人の後に付いて緩んだ表情を引き締めた。

 議会の開催中に、ガシャル達がどう行動するか……慎重に周囲の様子を窺っておく必要があるな。

 俺は≪気配察知≫を発動させ、周囲の状況をつぶさに確認していった。


 政務議会が開催され、俺はまた壇上に立ったが、今回は政務委員を圧倒させる奴隷達はなし、威圧感ゼロで挑んでいた。それでも前回があるので、政務委員の多くは緊張した面持ちで俺に視線を投げかけており、話し合いは緊張感の漂う中で進んでいった。…といっても今日は互いの主張の再確認だけで終わらせる予定で、質疑応答の内容は事前に示し合わせていたので、一部の政務委員が淡々とした表情で議会を進め、特に問題もなく初日の議会は終了した。


「お疲れ様です。」


 そう言って、タオルを差し出したアリアに俺は顰め面を見せて、議会の煩わしさを表現してから受け取ったタオルで顔を拭いた。


「さすがに今日のやり取りは何の意味があるのか私も測りかねます。」


 不満顔で頬を膨らませたアリアに俺はタオルを渡した。


「こういうのを“出来レース”って言うんだ。」


「できれえす?」


 初めて聞く言葉だったようで、アリアは首をかしげた。やはりこの世界では前世の言葉は通じない。アイバ殿やカイトの野郎には通じるんだが…。

 俺はアリアに言った言葉を説明しようとしてどうしたらいいかわからず、黙り込んだ。


「エルバード殿は時々わからないことをおっしゃいますね。…ま、そこが魅力ですけど。」


 ……何の魅力か聞きたい気持ちを抑え、聞こえなかった振りをして俺は先に進んだ。案の定アリアはまた頬を膨らませていた。



 議会二日目。


 今日も事前に示し合わせた通りの段取りで周回船交易の内容を確認していく。既に結論は決まっていて、俺と政務議会の議長はその段取り通りに質疑応答を進めるだけだった。周囲の政務委員も昨日のやり取りで議会進行内容が今まで通りになったことに安堵しているのか、居眠りしているもの居た。俺はそれを横目に見つつ、淡々と進めていた。


 そして、事態は最後の確認事項を読みあわせている最中に急変する。


「大変です!」


 突然、奥の扉が開き、若い魔人族が大声を張り上げた。突然の大声に驚きの表情で若い男を見たが、老年の議員が声を張り上げた。


「何事か、若造!!議会の最中であるぞ!」


 老齢議員の大喝に若手は慄いていたが、直ぐに表情を改め声を張り上げた。


「緊急事態を申し上げます!北地区、南地区の地区政庁が何者かによって襲われました!」


 若造が告げた内容に一同が戦慄のどよめきを上げた。俺も周りに倣い驚きの表情をした。議員たちが互いに何かを言い合い、そのどよめきが次第に大きくなる。議長が眉間に皺を寄せその状況を御しようとした時、もう一人の若い魔人族が走ってきた。


「ダメです!西地区、東地区とも連絡が取れません!」


 その声に何人かの政務委員が立ち上がり、悲壮な表情を浮かべた。何故か次第にその視線は議長から議会の奥に佇む取次役官に移っていった。


 俺は取次役官、バルヴェッタをジロリと睨み付けた。白髭の老人はそれを涼しい顔で受け止め、俺に視線を返した。


(…何をした?)


 バルヴェッタから≪遠隔念話≫が届く。


(それはこちらが言いたい言葉だ。)


 俺は知らん顔で言い返した。老人が目を細めたが俺は気にせず言葉を続ける。


(ご破算にする気か?)


(とんでもない。折角の金の成る木だ。貴様から確約も得ているのにもったいないじゃろ?)


 …何を言ってやがる。単に≪命神の契約≫で俺を縛り付けているだけだろうが。

 そう毒づきたいのを抑えて俺は議長に視線を移した。


「議長!状況を説明してくれ!」


「…俺が説明してやるよ、ヒト族よ。」


 低い声がこだまし、議会の中央に漆黒のマントを羽織った男が現れた。議会は途端に悲鳴が飛び交った。







 北地区の地区政庁、デルハリャル制圧。

 南地区の地区政庁、アバハント制圧。

 西地区の地区政庁、ホーレン音信不通。

 東地区の地区政庁、クァルライト籠城中。




 宿に強制送還された俺にもたらされた情報だった。報告は今やガシャルの秘書的役割を果たしているヘレイナから。議会の終盤で突然現れた吸血族に各政務委員は拘束され、俺達も軟禁された。だが、肝心のバルヴェッタが行方を眩ましてしまい、街は戒厳令が敷かれた状態になった。

 俺はバルヴェッタが消息不明になった旨をガシャル殿から連絡を受け、≪気配察知≫をフル稼働させた。魔力の深度を高め、街中を探索する。そして検索できない場所を洗い出した。


 1つは皇帝陛下の住まう宮殿。

 もう1つは俺が曾てバルヴェッタと密約を交わした四隅に光彩棒が置かれた部屋。

 恐らく、バルヴェッタはここに隠れたに違いない。俺はあの部屋に続く通路を確認した。案の定、どういう仕組みかわからんが、前に俺が通った通路は壁で塞がれたようになっている。



(ガシャル殿、バルヴェッタの居場所を突き止めたぞ。多分ここに居る…が、どうする?)


 俺は≪遠隔念話≫で吸血の長に話しかけた。暫くしてつまらなさそうな声で返答があった。


(…お前に任せるよ。俺はあの勇者の末裔には興味はない。)



 クーデターの筋書は単純だった。これまで裏で全政務庁を取り仕切っていたバルヴェッタを始末し、その後釜として吸血族の長、ガシャル殿が皇帝陛下より拝命されることで、各派閥の長を従属させる。議会は即日解散し、各派閥は部族院と名を変えた新たな議会に招集し、六ノ島の国家代表をガシャルとして承認させる。ガシャルは皇帝陛下、部族院の両方から承認された新たな国家代表として六ノ島に宣言する。


 必要なのはバルヴェッタの死。


 それは別にガシャル殿の手で行われなくともよい。その死の事実と共にルシフェル陛下に奏上するだけだった。




 俺はバルヴェッタに≪念話≫を送った。だが、返答はなかった。しょうがない、こっちから出向くか。俺はヘレイナに出かけてくると言って、≪空間転移≫した。このスキルは、≪空間転移陣≫と違って、移動距離はかなり狭いが、壁を超えて自由に移動ができる。俺はこれを使って、通路を塞いだ部屋へと移動した。




 その部屋にバルヴェッタは居た。



 突然現れた俺に驚愕の表情を見せたが、次第にその顔が変化し、虚ろな笑みを浮かべた。


「そうか!やはり貴様が仕組んだのか!」


 老人の呼びかけには反応せず、部屋を確認する。四隅には光彩棒が輝いている以外、前と変わらず誰もいなかった。


「なんだ?お前ひとりなのか?」


 老人は俺の声に怯えるように強く杖を握りしめ後ずさった。




 俺は≪メニュー≫を開き、スキルをセットし直した。


 ≪思考並列化≫

 ≪情報整理≫

 ≪気配察知≫

 ≪超振動≫

 ≪傷治療≫

 ≪鑑定≫

 ≪光彩≫

 ≪骨砕き≫

 ≪竜鱗皮≫

 ≪地縛≫

 ≪空間転移陣≫

 ≪命魔法.3≫

 ≪魔力操作≫

 ≪魔力吸収≫

 ≪軌道予測≫

 ≪瞬身≫

 ≪夜目≫


 俺は思いつく限りスキルをセットし、バルヴェッタを睨み付けた。


「…何故お前ひとりここに隠れ…」


 髭の男はカン!と杖を突いて俺の言葉を遮った。


「貴様にはここで死んでもらう。」


「…何故?」


「貴様は1000年続いた六ノ島の理を破壊する…悪しき輩じゃ!」


「六ノ島の理とは?」


「フン、魔族との戦の後、我が祖先は部族間の争いを抑えるため、“派閥均衡”の仕組みを作り上げて代々これを実践してきた。我が一族がずっとこの魔人族を収めてきたのだ。…それを貴様は、壊そうとしている。」


 …この爺さん、わかってるじゃない?でもその“派閥の均衡”の真の目的までは知ってるのかい?


「俺ごときがその1000年続いた仕組みを簡単に壊せるわけ…」


 カン!とまたも俺の言葉を杖で遮るバルヴェッタ。ちょっとイラッときたぞ。


「貴様の出現に各派閥は動揺しておる!現にいくつかの派閥が儂に隠れて貴様に接触していたであろう!」


 はい、確かに。


「あ奴らは貴様を利用して、現状を変えることができるかもしれぬと思い始めたのじゃ!それがどれだけ儂にとって危険な思想か!」


 おっしゃる通り。


「何よりも貴様は1000年もの間国政に関わることのなかった吸血族をはじめとした古部族をここに引き入れた!」


 うん、そうだね。指揮はしてないけど。


「なるほど…この各政庁への襲撃は俺の仕業と言う訳だ。…だが俺にはそんなチカラなどないよ。」


 老人は杖を強く握りしめた。表情にも力が篭っていた。


「貴様が儂の息子、カルタにうり二つじゃからだ!カルタに付き従うと考えれば、この襲撃合点がいく!貴様と吸血族に繋がりがあってもおかしくはない!」


「なるほど…。それほど俺はそのカルタという者に似ているのか…。だが、アンタは俺のコトはカルタではないと確信しているな。…どうしてだ?」


「本物のカルタであれば、命神の加護を持ち、呪いを持っている!じゃが貴様にはそれがない!」


 残念…持ってるよ。隠してるだけだけどね。でもこれで俺の前の人間は“カルタ”であることがこの男によって完全確定されたわ。これは重要。


「よって貴様はここでこの“命神を封ぜし杖”の力でもって、命を奪い去る!」


 バルヴェッタはまたもカン!と杖を鳴らし、俺にその杖を向けて吠えた。俺は≪メニュー≫を開いてスローモーションに切り替えた。案の定、杖の先に着いた青い宝石が光り、何かが俺の方に向かて来ていた。それは手のような形で俺に向かって来ており、それは魔力ではなく、神力で構成されていた。

 俺は≪命魔法≫を発動させ魔力を増幅させ、それを≪魔力操作≫で元の神力に戻して≪軌道予測≫で光る手のようなものが襲う位置を特定して、≪超振動≫を使ってその光る手にぶつけた

 神力と神力のぶつかり合いで爆発が起きるかと思ったが、互いの神力が相殺され蜘蛛の子を散らすような感じで青い光が霧散した。


 バルヴェッタは青い光が俺を襲わずに消えてしまった光景を目に、口をあんぐりと開けていた。


「ば、馬鹿な!この杖は命神の神力を封じた杖ぞ!その力を中和するって…。」


 愕然とするバルヴェッタに俺は余裕の表情で笑って見せた。


「バルヴェッタよ。俺からも教えてやろう。」


「何を!?」


「確かに俺は貴様の息子カルタではない。…だが、“ヘゼラサート様の加護”を持っているのだ!貴様の杖に頼る紛い物の命神の力なぞ、俺の本物の加護には足元にも及ばん!」


 バルヴェッタは俺の言葉を聞いて、杖を落とした。杖が床に落ちる音で我に返り、慌ててそれを拾ったが、その手は震えていた。


「聞くが良い、六ノ島を統べし者よ!我は、ヘゼラサート様が属神より遣わされし者!千年の長きに渡り我が主を封ぜしその力…大人しく返すが良い!でなければ貴様に更なる禍が及ぼされよう!」


 俺はちょっと調子に乗ってそれっぽく語ってみた。バルヴェッタは再び杖を落とした。何故か。それは俺の言葉に合わせて、俺の背後に本物のヘゼラサート様が顕現されたからだった。




 …命神様、アナタこのタイミング、狙ってたでしょ?


ようやく命神ヘゼラサート様が復活の刻を迎えました。

六柱神のうち5柱目の神が復活します。

世界が大きく動き出します。・・・そのはずです。

物語の進行を遅らせるエフィもベラもアンナも主人公の側にはいません。

・・・進むはずです。


次話では魔人族も捲込んだ六大群島大戦の序章に突入します。

でも、主人公視点なんで大半はナレーションで終るかもしれません。ご了承を。


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