9 魔獣十二王
上手く時間が作れず、執筆に時間がかかっておりますが、連続投稿します。
種族の異なる男女間での交配。
過去に例がないわけではないそうだ。
異種族間で生まれた子供は“雑種”と呼ばれ、珍しがられた。
だが、外見は必ず父親の種族になる。…それだけは1つの例外もない。
そして、雑種の子は悲惨な末路を辿っている。
特に見世物目的での、奴隷商による交配が何度かあるが、子が成長するにつれ、嘲笑の的、忌避の目に耐えられず悲惨な結果を生みだし、現在ではどこの国でも禁止事項となっている。俺の様に使役範囲を「全て」とされている奴隷に子ができぬよう、特殊な魔装具で避妊が施されていたり、国ごとに他種族の民に対する取り扱いが細かく規定されていたり、今ではほとんど見られない。
だが、この六ノ島では、魔人族だけでなく、他の種族も同等の国民として扱われ、国益を担っている。
イェレンの話では、幼い頃に何人かの雑種の子と遊んだこともあるそうだ。だが、そういった子供はまともに社会に出ることも叶わず、スラムの子として、無派閥の子として、そして“禁忌の子”として扱われ、やがて自ら命を絶つという…。
「皆、恐れているのだ。純血の子に力がなく一族を率いることができず、雑種の子に一族を凌ぐ力が引き継がれ、全てを奪われることに。」
ガシャル殿はカミラを遠い目で見ながら俺に言った。わかる気がする。前世でも過去の歴史のなかでそういうことがあったと記憶している。この世界でもそうなのだろう。互いの親の能力を引き継ぐのだ。脅威と考えてもおかしくはない。
カミラはずっと俯いていた。俺の服を握りしめて必死に何かを堪えている。そりゃそうだ。ガシャル殿の言葉は、カミラでも父親が誰なのかを容易に想像させる。
「カミラ。世の中知らずにいた方が良い場合もある。今ならそれを選択することもできる。…どうする?」
カミラは俺の腕をギュッと抱きしめた。
「ウチ、知りたい。…知らなければウチみたいな子は……大人になれない。正直、怖い。…でも、でもウチは…主と共に、仲間と共に…歩きたいから。」
カミラは目に涙を浮かべて訴えた。
カミラの言葉は、俺だけでなく、周りにいたガシャルにも響いたようだ。大きく肯き太い眉を何度も上下させていた。
「エルバード…と言ったか。この千年で我ら魔族も魔人族も随分と狭量になったものだな。俺は早々に国から手を引き、密やかに暮らしておったが、それでもこの子が背負うた運命を呪うしかできぬであろう。…俺もいつしか臆病になっておったということか。」
…なんか、ガシャル殿の気持ちが傾いてるぞ。俺にもカミラにもそんなつもりはなかったのだが、この子の境遇が功を奏したのか?
…よし、カミラには辛いかもしれんが乗っかってやる!
「ガシャル殿、六ノ島は変わらなければならない。古の勇者が作り上げた偽りの魔人族の国ではなく…真の魔人族が率いる、真の魔人族の国として。」
ガシャル殿は腕を組み目を閉じた。
「そうかも知れぬ。…だが、この島には魔人族以外の種族もいる。その者たちはどうすればよい?」
確かに、この島には魔人族以外の種族も多く居る。この島が本当に魔人族だけで国を作ってしまえば彼らは居場所を失ってしまうだろう。
「彼らは既に、同じ皇帝を崇める同族ではないのか?ガシャル殿、上に立つつもりであるなら拘りを捨てられよ。」
ガシャル殿は赤い瞳で俺を睨み付ける仕草をしたが、最初よりもその瞳の色は穏やかで、何かを懐かしむように見えた。
「…曾て魔族は、大陸に各々の領地を持ち、これを治めていた。魔族同士は干渉せず、敵対せず、友好せず、独自の規則にて平和を保っていた。魔族が統治する民には、ヒト族も含まれていたと言う。」
俺の背後から声がして、全員が振り向くと……そこには着物美人さんがいつものように立っていた。俺が察知できない気配。流石最上位の魔獣といったところか。
「妖狐殿…いつからここに?いや、今までどこにおられたのですか?」
「…ちと、気になることがあってな。調べておった。」
その口調は今までの着物美人さんとは違う。それに感じる気もなんか違う。
「そう警戒せんでよい。我はお主と敵対するつもりはない。」
俺の違和感に気づいてか、少し笑みを浮かべて妖狐殿は言葉を返した。
「それよりも話の続きをするぞ。…千年前ヒト族は魔族に反旗を翻した。まあ、何が気にくわぬのか独立戦争を起こしたわけじゃが…。」
「いつしか、それは神対神の戦争となった。」
ガシャル殿がその言葉を引き継ぐ。
「ヒト族には勇者が神の加護を受け、魔族には我らの長ルシフェル様が神の加護を受け…庇護する神同士が争うことになった……一族にのみ伝わる伝承だ。」
「吸血の長よ。我ら【魔獣】は世の営みに干渉することはせぬ。だが千年前、多くの【魔獣】がルシフェルに求めに従いその命を落としている。…だから、ルシフェルはそれを悔い、魔族を捨て、大陸を捨て、この地に来た。争うことを避け、勇者の言に従い、この六ノ島に落ち着いた。」
千年前の真実。
俺も含め、誰もが着物美人さんの言葉に耳を傾けていた。
「この地に足を付けた頃の魔人族はまだ気概も持っておったのじゃがな。千年と言う悠久の時が全てを腑抜けにしてもうたか。…いやこれは六ノ島に限ったことではないがの。…そして六ノ島を作り上げた勇者の末裔も然り。あ奴はこの国を私物化しているにすぎぬ。吸血の長ならわかっておろう。」
ガシャル殿は無言であった。
いや、ここに居た全員が無言になった。俺も“この世ならざる者”として、ある程度創造神様から話は聞いている。だが、着物美人さんが言ったことは全体の話ではなく、部分的な事。そして当時のことを知る詳細でもある。
俺は天井を見上げて天を仰いだ。
千年前の出来事は、神と邪神の戦争だと聞いていた。当時を知る者からすればそうではないと言うことか?ますますわからん。神は世界の傷を癒すために人々から記憶を奪い去った。だが、ここに来て“傷を癒す為”と“記憶を奪う”が結びつかなくなった。
何故記憶を奪い去った?
神はどっちを庇護した?邪神はどっちを庇護したのだ?
邪神はどうなった?
真実を隠す理由はなんなんだ?
俺は、今も高みから見ているであろう創造神を睨み付けた。
教えろ良聖。
だが、返事があるわけでもなく、俺はむなしく舌打ちした。
ガシャル殿は留保した。
九尾妖狐の出現により、断りきれなかったようだ。あの方が意思表示をするのを初めて見た。フェルエル殿の話では、1000年前から、のらりくらりと態度を明らかにしなかったらしいが、今回に関して言えば、俺の見方になっている。…そういえば、調べ物をしてたって言っていたが。
「着物美人さん、貴方の態度の変化には何かがあったと推察します。宜しければ俺にも教えて頂けませんか?」
船に戻り、眠そうに欠伸をしながら、憑代である櫛に戻ろうとしていた妖狐を呼び止め、聞いてみた。着物美人さんは訝しげな視線を俺に送って来たが、「…ちょうどよい、貴公にも会わせてやろう。」と言って、俺の腕を掴んだ。
悪寒が走る。
なんかヤバい気がする。
俺は瞬時に判断したが、こっちから声を掛けた手前、後戻りはできなかった。たまたますれ違ったアリアに「ちょっと出かけてくる」とだけ言い、俺はしっかりと腕を掴まれたまま着物美人さんにどこかへ連れて行かれた。……ほんとの意味で『どこか』だったよ。なんか、瞬間移動みたいなので移動して、≪仰俯角監視≫も≪気配察知≫も≪遠視≫も≪空間転移≫も発動できない場所に連れて行かれたんだから。
でもって、俺はそこで思いがけない方々にも会っちゃったし。
事態は、急速に拡大したかと思うと、一転して停滞の装いとなった。
事の発端となった妖精族の宣戦布告は取り消されてはいないが、二ノ島で戦争準備を始めたまま、対外的な動きはなかった。むしろエルフ族が反旗を翻してエウレーンの森に陣取ったことで、妖精族軍を二分割して布陣するはめになり、多少の混乱を見せていた。妖精族軍を支援する形で参加している竜人軍もまた内部で分裂していた。元々、旧灰角竜族派と金竜族派で支援すべき種族が分かれており、棟梁の意向で派閥の多い旧灰角竜族派の支持する事案を元に行動していたが、ここに来て旧灰角竜族派の支持する妖精族が消極的になったことにより、金竜族派が旧灰角竜族派と対立姿勢を見せていた。これにより、竜人族軍も動きを鈍らせている。
事の張本人である獣人族は、交渉に来たヒト族王妃エメルダを軟禁し、大使館襲撃の首謀者を引き渡すよう要請した。これによりヒト族獣人族間では物理的な戦闘は一旦回避され、外交官同士での交渉に収まっている。
半神族軍はそんなヒト族獣人族の交渉の行方を見守る形で、王都周辺で待機している状態だった。
全ては、ラスアルダス公爵の思う通りには進んでいた。だが、彼はこの状況に不安を覚えていた。こんな状況はちょっと軍事に詳しい人間であれば予想が付くはずなのに、三ノ島の連中が率先して戦争状態に持っていったことが気になっている。特に現在の王であるドワーフ王アゼットはこれまでずっと水面下でハグスポーリを使って暗躍していただけだったのに、今回は自ら先頭に立って行動していた。
何故か?
1.ハウグスポーリを暗躍させる必要がなくなった
2.ハウグスポーリが機能しなくなった
2の可能性は低いとカイト・ラスアルダスは考える。エルバードの報告では、そこまであの組織にダメージを与える対応はない。それに四ノ島以降彼らは沈黙している。五ノ島でもドワーフの存在は確認できたが、その程度だ。
結論から言えば、あの組織は今別の仕事をしている。そしてその成果が出たため、ドワーフ王が今回の行動に出てきた……とカイトは推測していた。
「エルバードよ、早く何かしらの情報を掴んでくれ。でないと僕の≪情報整理≫が警報を鳴らし続けてうるさいよ。」
カイトは、遠く六ノ島にいる同郷の男に思考をむけた。
「き、着物美人さん!こ、こ、この状況を説明して…してください!」
俺は、意識を失いそうになっていた。
連れ去られた先は、これでもかと言わんばかりの魔力を浴びせられ、神力を吹き出して抵抗しないと意識が吹っ飛びそうな環境。既に俺の中にいるベヒモスを含めた魔獣たちは完全に委縮して絵的には正座させられている状態。俺も着物美人さんにしがみ付いている状態。
“溶王がニンゲンを連れてくるとは意外だな。今日の食事か?”
うぇぇ…。
“儂らの魔力を過剰供与して太らせればうまいかも…。”
ひぇぇ…。
“こ奴、ニンゲンの癖に神力を纏ってやがる…。さっさと踏み潰してしまおう。”
あぁぁ…。
もう、着物美人さんに必死にしがみつき、渦巻き突き刺さる様な恐怖を必死にこらえたさ。…で、妖狐様、俺をどうしてここに?
“…さて、皆も既に知っての通り、三ノ島にて禁忌が行われておる。”
俺が袖を引っ張るのを無視して着物美人さんは魔力を吹き出す塊に話しかけた。
“我らには関係ないと思うが?捕えられたのは【神獣】であろう?”
え?
“いや、【神】も捕えられておる”
ええ?
“そして、先日【暴王】も捕えられた。”
えええ?
魔力の塊がざわつき、更に突き刺さる様な魔力が周囲で暴れ回った。ちょ、ちょっと死んでしまいます!
“そして我は創造神からの接触を受けた。”
ええええ!?
き、着物美人さん、創造神にあったの!?
“我ら魔獣十二王が神からの干渉を受けるとは…よほどのことか?”
“以前より、このニンゲンのことで干渉は受けていた。その時は「冗談じゃない!」と断ったが…さすがに此度は無視できぬ事態だ。”
どどどどういうこと!?
“かと言ってニンゲン共のクダラナイ争いに手を貸すのは癪だし、神の言いなりになるのももっと癪だ。…生贄を要求する。”
げぇえ!それって俺ぇ?
“ではやはりこ奴を太らせて食うか。”
ちょ、ちょっと!せめて私にも発言権を!
“却下じゃ。”
き、聞いてたの!?
魔獣十二王。
魔獣の中でも最上位に位置する12躯の魔獣のことで、それぞれ「~王」と呼ばれているそうだ。
その筆頭が【竜王バハムート】でこのお方は神に昇格しているのでこの場にはいない。
以前カミラを連れて五ノ島で出会ったお方は【氷王セイレウス】で既に肉体を失っている為、青白い炎の形で揺らめいておられる。
王都の地下に閉じ込められ、俺との交渉で解放を選択された八岐大蛇様は【岩王ヤマタノオロチ】。
普段はのほほんとした着物美人さんは【溶王キュウビノヨウコ】。
その他にいろいろおられるようだけど、もうわかんない。俺は気絶寸前。…もう成り行きを見守りますんで…。
“暴王はニンゲン如きに何故…?”
邪王、八咫烏の黒い嘴がカタカタを音を立てて不快感を現しながら溶王に問いかけた。
“暴王は三ノ島の盟約を守り、ニンゲンに手を下さずにいた。その隙を突かれ、神殺しの魔装具で…。”
“なんじゃと!あの忌々しい武具が!?”
曾てその武具に囚われた経験を持つ八岐大蛇が魔力の嵐を吹きつけて怒りを表現する。既に九尾の妖狐にしがみ付く“この世ならざる者”は抵抗するのを諦めて意識を失っていたが、八岐の首は気にする事無く常人には耐えられない暴威を振るう。
“岩王…実は千年前の神殺しは全てこの男が保有しておる…。それなのに、暴王は神殺しに囚われた…。我はその謎が気になる。”
妖狐は己の腕にぶら下がる男を横目に他の十二王に問題を全員に示した。
“…こ奴、前に会うた時は、儂の魔力に抵抗できていたはずじゃが?”
“フフ、諦めのよい男故、我らと真面に対峙せずに意識を飛ばしおった。”
“軟弱な…。こんなニンゲンなど食う価値もない。”
邪王、八咫烏は興味が失せたとばかりに自分の羽を嘴で繕い始めた。それを見た砂王、カトブレパスが無言で立ち去ろうとした。
“だが、竜王の加護を持っておるぞ。”
妖狐の言葉にカトブレパスは立ち止まる。
“竜王殿も酔狂を…。そもそも我らが暴王を助ける義務はないぞ。だのに創造神が干渉してきた理由は何だ?このニンゲンに手を貸さねばならぬ理由は何だ?”
砂王は牙を剥き出し、怒りを妖狐に向けた。だが妖狐は涼しい顔のまま言葉を続けた。
“こ奴が千年前の過ちを正すことができると思うたからじゃ。”
溶王の声は大きくない。だが、その表情は真剣で十二王は冗談で言っているわけではない事は想像できた。
“そもそも、溶王はこれまで誰にも組したことは無いであろう?何故此度は首を突っ込んでおる?”
同じ火を司る炎王、フェニックスが不機嫌な顔で問いかけた。同調するように雷王、トールが一歩踏み出し溶王を脅すような声をだした。
“まさか、ニンゲン如きに良からぬ感情を抱いたのではないな!?”
雷王の恐ろしげに睨み付けた顔に表情一つ変えず溶王は見返し、小さくため息をついた。
“ふむ。感情か……。そういう意味でいえば、我は悔いておる。”
溶王の意味ありげな回答に、十二王は各々に反応した。
“何故、あの時我は動かなかったのか。何故敢えて盟約を理由に知らぬ顔をしたのか……。”
その言葉は、他の十二王の瞳を暗く沈めるに十分な内容だったのか、皆黙り込んだ。
“知性高きものほど、盟約に拘り、囚われ、誤った選択をしたと考えておる……。我は知性の低い下位の魔獣共が羨ましい。奴らは己の意思に従い、あの争いに足を踏み入れ、そして魂を散らしていった。”
溶王の言葉がよほどのことなのか、岩王も炎王も砂王も雷王も邪王も視線を落とした。
“ヒト族の暴挙を止めなかったのは【神】であり、【神獣】であり、我ら【最上位魔獣】だ。…故に世界は崩壊を始め、時が止まり、この世ならざる者が暗躍し、魔族は滅んだ。ヒト族は無限ともいえるその欲望を膨らませ、他種族を侵略し、滅ぼし、悪用し、その醜さは【神】も呆れるほどであった。だが、邪を司る神共は盟約に従い、ヒト族の信仰に応えて望みを叶え、やがて逆に利用された。”
溶王の言葉に暗く沈んだ空気は、周囲に吹き荒れる魔力の嵐をいつの間にか落ち着かせ、俺は意識を取り戻した。
……俺は聞いてないふりをする。すごいことを着物美人さんは喋ってるけど、俺は知らない。何も聞いてない。てか、ここから早く出たい。これ以上は関わりたくない。…でも着物美人さんの腕に引っかかっている以上、どうにもできず、じっと意識を殺していた。
“…溶王よ。貴様の言いたいことはわかる。…それでも世界に干渉せぬのが我らの運命なのではないか?与えられた種命ではないのか?”
これまでずっと黙って蜷局を巻いていた海王、レヴィアタンはわずかに首をもたげ、言葉を返した。
“そう、我もそう思うていた。だから先ほど口にした感情は、個として押し殺した。【神獣】どもから何を言われようと、隷属されようと、【魔獣】としての種命を貫こうとした。”
“なら…”
“ここにぶら下がってるニンゲンは、そんな我らを個として扱った。”
思い当たる節があるのか、岩王、八岐大蛇の8頭の首が揺らいだ。
“黒竜よ、氷狼よ、天馬よ、貴様らなら我の言うことがわかるであろう?”
呼ばれた魔獣たちは、顕現し十二王に頭を垂れた。一言も喋らないが、その態度は溶王の言葉を肯定していた。なお、雷獣はエルフの奴隷とともに三ノ島にいるため、ここにはいない。海王はそんな彼らを一瞥し、岩王は鼻息を荒くした。
“溶王よ、貴様ニンゲンに近づきすぎたのではないか?やはり雷王の申す通り良からぬ感情が芽生えておるではないか!”
八岐の首が大きく口を開け、牙を剥きだして溶王を威嚇した。しかしその動きはすぐに止まる。
“……だが、その話、分からぬでもない。”
岩王の意外な言葉に、他の十二王は否定的な視線を向けた。暫く沈黙が続いたが、やがてまとめとばかりに金色に輝く魔獣が前に進み出た。
“私は…溶王の感情に乗りましょう。”
金色の魔獣の言葉が意外だったのかまたもや他の十二王が表情を変えて見つめた。
“円王よ、貴公が最も盟約を重んじると思っていたのだが?”
邪王は立ちはだかるように円王の前に進み、その真意を正そうとした。円王は邪王を一瞥すると目を細めて溶王に視線を向けた。
“私も創造神が何をしようとしているのか興味があります。それにこの男…これまでのこの世ならざる者とは異なります。…きっと面白いモノが見れるでしょう。”
にこやかな表情で言うと円王、黄龍は自らの角の欠片を溶王に渡した。
“この男にこれを渡してください。これで私もいつでもこの男の側に顕現できるでしょう。”
この様子に他の十二王がざわついた。
“円王殿が、このニンゲンの僕になるというのか!正気か!?”
邪王が吠えると円王は邪王を睨み付けた。
“口のきき方に気を付けなさい。私は魔獣十二王を纏める者ぞ。”
丁寧だが凄味のある口調に、またもや濃い魔力の嵐が吹き荒れ、俺は再び失いそうになる意識を必死で止め、気配を殺して状況を窺った。
“円王よ、貴女の欠片をお預かりしました。きっと良い憑代を作ってくれるでしょう。”
溶王が欠片を握りしめて笑顔を見せた。十二王に見えない位置から九尾で俺を突いていた。…わかっています、作ります、作りますから。
結局、己の欠片を差し出した十二王は、俺に関わることを嬉しそうにする円王黄龍と、元々「十握剣」を作っていた岩王八岐大蛇、狐櫛を作っていた溶王九尾妖狐だけで、邪王八咫烏、炎王フェニックス、海王レヴィアタン、砂王カトブレパス、翼王ガルーダ、雷王トールは様子見を選んだ。肉体のない氷王セイレウスは自分には選択肢がない事をちょっと嘆いていたようだが、俺的にはもうこれ以上関わらないで傍観してくださいと言いたかった。
ようやく、着物美人さんに解放され、私室でくつろごうとしていたところに、ヨルデが少し慌ててドアをノックした。
「シンヨウ様から念話がありました!」
彼女の言葉に俺は急いでドアを開けた。ようやく来たか。彼女に念話が届いたと言うことは、魔力結界が解けた証拠。試しにヘレイナに念話を掛けて見た。
(はわっ!エ、エエルバード様!!え!?え!?)
ヘレイナは突然の出来事に慌てていたが、俺は念話ができた事だけ確認すると、すぐさま切って次の行動に移った。
「アユム!皇帝陛下に謁見するぞ!」
「はい?」
アユムは変な声で聞き返してきたが、俺はお構いなしにアユムを引きつれ≪空間転移≫を発動させた。瞬間的にカミラが俺の腕を掴んだようで、皇帝陛下の住まう宮殿に俺とカミラとアユムは瞬間移動した。
「エル兄!何でいつもそう突然!?」
アユムは俺に文句を言って来たが、それを無視して跪いた。俺の俺の動作に気づいたアユムが慌てて俺に倣って跪く。見ると既にびっしょり汗を掻いており、明らかにテンパっているようだった。
「フフフ。汝はいつもこうなのか?それでは付き合わされる者はこの童のようになってしまうぞ?」
跪いた先で、豪奢な椅子に座る男が声を掛けてきた。跪き床を見つめていたアユムは肩をビクつかせ、掻く汗が増した。俺はそんなアユムを見てクククと笑った。
「恐れ入ります。私は思い立つと後先を考えずに行動するようで。」
「その割にはなかなかの手腕でここまで来たようじゃな。吸血の長にも会い、この国を変えよと焚きつけるとは。」
やっぱりこのお方は見ておられた。
「さて、取次官の言に従い魔法壁は取り払った。そして汝はどうする?余も少し汝に興味が湧いてきたぞ。」
俺は少しだけ頭を上げる。
「クーデター…。」
「くーでたー…?」
陛下は言葉の意味を知らないようで俺の言ったことを不思議そうに反芻した。
「はい、この国を牛耳る一派を拘束し、新たな勢力が牛耳ることを意味します。」
「…それをガシャルにやらせると言う訳か?」
「それを決めるのは本人です。」
「ふむ。六ノ島のことは六ノ島で…それが汝の姿勢か?良かろう。余は全てを六ノ島人に委ねておる。好きにするが良い。」
興味な下げな言い方だがその視線は真剣に俺を、俺の心の奥底を見透かそうとしていた。俺も負けじと皇帝陛下を見返す。アユムは跪いたままひたすら床を見つめ、何かを呟いていた。俺は皇帝陛下から何を見透かされているのか気になりつつ、魔族の紫の瞳をじっと見つめた。
その時…
俺とアユムは…
次の瞬間、意識を飛ばされた。
気がつくと周回船の船内にいた。
アユムはベッドで眠ったまま…俺もその隣に横たわっていた。
側には着物美人さんがいた。
そして小さな金色の竜を抱えている。
(1000年ぶりに魔族の王と語らいの時を過ごさせて貰いました。)
着物美人さんに抱かれた竜が俺の心に話しかけた。このお方は、【黄龍】…様か。と言うことは俺とアユムはこのお方に意識を飛ばされて、その間に皇帝陛下と楽しいお話をされたってことか。
(そうですね。)
…そして、心を読むんですね。
(貴方のその神力、数多の神の力を感じます。これらが膨大な魔力に変換され、我ら魔獣にとっては心地よい空気を作り出しています。)
…そして、人の話は聞かないようですね。
(私も九尾妖狐と同じく、暫く居候させてもらうこととしました。早くその角の欠片を使い、憑代を作りなさい。)
…そして、身勝手街道まっしぐらなんですね。ぐすん。
きになるよおぅ!皇帝陛下と何お話したの!?
主人公は魔獣界でも噂の人となっているようです。
更に最上位の魔獣がまとわりつくことになりました。
次話では、六ノ島でクーデターが起こります。
が、主人公視点では別の事象が話の中心になります。
更新が遅くて誠に申し訳ありませんが、ゆっくりと投稿致しますので
どうか継続してお読みいただきますようお願いいたします。